short story
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「なぁーぉ」
寮の入口を箒がけしていたら、一匹の猫が擦り寄ってきた。
白いふわふわの毛。
珠のようなブルーの瞳はガラス細工のようだ。
「う、わ…可愛い…」
しかも、人懐っこい。
足元にするりと身を寄せてくれば、綿毛のような毛並みがふくらはぎを撫でる。
人の足に匂い付けしていると分かっていても、ついつい頬を緩ませてしまうのは不可抗力だ。
箒を地面に置き、ほわほわの猫毛に指先を埋めれば、それはもう至高とも言える感触だった。
「おー、いたいた。」
建物の曲がり角から顔を出したのは真希だ。
鍛錬でもしていたのだろうか。ポケットに手を入れたままジャージ姿で闊歩する様は、女子高生であるにも関わらず、妙に貫禄があった。
「真希ちゃん。…あれ?この子、真希ちゃんとこの猫ちゃん?」
ゴロゴロと喉を鳴らし頭を擦り寄せる猫から視線を上げるものの、名無しは撫でる手を止めない。
細い指先が首の下を撫でるのが心地いいのか、やけに雰囲気のある猫はゴロリと腹を仰向けに晒した。
所謂、服従のポーズである。
出会って間もないにも関わらず、白猫を文字通り『猫可愛がり』する名無しと、気持ちよさそうに好き勝手撫でられている猫。
その周りだけ花が咲きそうな雰囲気だったのだが、真希の一言でそれは静かに凍りついた。
「それ、五条だぞ。」
ピクリ。
猫を撫でる手を一旦止めるが、すぐにモフモフの魔力に魅入られる。
名無しはデレデレになった表情を隠すことなく、笑いながら真希を見上げた。
「またまた~、ご冗談を…」
「んなぁお。」
「…………冗談だよね?」
沈黙する真希。
肯定も否定もしないが、複雑そうな表情は何ともいない色を浮かべている。
そして、妙にタイミングのいい猫の相槌が決め手となった。
「えっ、何で猫!?」
「なんか変な術式食らってこうなったらしい」
「え、えぇぇ……」
マシュマロを浮かべたココアよりも甘い表情を浮かべていた名無しだが、相手が猫になってしまった五条となると話は別だ。
全国の呪詛師が敵視している、特級呪術師『五条悟』が猫になってしまっただなんて。
呪術界隈でその話が広がれば、下手すると日本は終わりだ。
笑えない冗談だが、残念なことにこの男の影響力はそれ程までに大きいのが現実である。
「こんなに可愛いのに…本当に五条さんなの?」
「名無し、それ五条が聞いたら泣くぞ。」
にわかに信じられない名無しは猫と真希を見比べるが、残念ながら目の前の光景は変わらない。変わるわけがない。
「んなぅ」
「ぐぅぅ…可愛い…可愛い…!緊急事態なのは分かっているけど可愛い…ずるい…」
事の重大さは分かっているが、この緊張感の欠片もない猫の甘えっぷりを目の当たりにすれば、名無しは頭を抱えるしかなかった。
最上級の毛玉の魅力には抗えない。
「猫になっても美人さんなのズルくない…?」
「そうか?猫は猫だろ。」
「いやいや。見てよこれ。人間の顔面偏差値をそのまま持ってきちゃった美人猫よ。」
耳の後ろや首周りをかいてやれば、とろんとしたブルーの目元が気持ちよさそうに細められるではないか。
キャットフードのパッケージに採用されそうな気品の高そうな見た目。
五条自体が『モデルです』と自称しても、十人中十人が納得しそうな顔立ちをしているというのに、猫になってもこれとは。
生物の種族を超えても顔がいいとは、全く非常にけしからん。
そして、極めつけはこの甘えっぷり。
陥落するなと言う方が無理がある。
「あああ…ふわふわ…あったかい…可愛らしさ特級だよ…」
「んなぁー」
「どうしたんですか、五条さん。ここですか?ここのマッサージをご所望ですか?」
五条が猫になった、という事実から目を逸らしたいのか。
名無しはムツゴロウさんのように猫を撫で回しながら、ふわふわの毛並みで現実逃避をし始めた。
「ふーん…名無しは猫派だったのか?」
「犬も猫も小動物も可愛かったらなんでもいい…ふわふわは正義……」
「いやいや、そこは『悟派♡』って答えなきゃ。だって僕、可愛いでしょ?」
「………………あれ?」
「にゃーお」
頭上から降ってきた声。
無遠慮に見上げれば、目元を覆った五条悟――の、人間の姿がそこ意地悪そうな笑みを浮かべて見下ろしてきているではないか。
「いや、本当に信じるとは思わなくて。悪いな、名無し」
相変わらず複雑そうな表情――ではなく、真希は真希で辛うじて真顔を貼り付けてはいるが、笑いを必死にこらえていた。
あの何ともいない表情は、どうやら吹き出しそうになるのを我慢していたらしい。なんてことだ。
「高菜!」
「だ〜いせいこう〜!」
五条の背後から元気よく飛び出てきたのは狗巻とパンダだ。
手には『ドッキリ大成功』と書かれている、バラエティでよく見る手持ち看板。
「待ってください。えっ、ドッキリ?なんで?」
「名無し。今日はエイプリルフールだぞ〜?」
ニチャニチャと笑うパンダを見て、目を白黒させる名無し。
パンダなだけに……という訳では、勿論ない。
「……は、はぁぁ!?」
名無しの心底呆れ返った声が4月1日――穏やかなエイプリルフールの昼下がり。高専の敷地内に響き渡った。
五猫にご注意!
「見て見て真希〜。猫にデレデレしちゃう名無し〜。チョー可愛くない?」
「悟、協力してやったんだからその写真寄越せ。」
「仕方ないな…一枚だけだよ?」
「んだよ、ケチくせぇな。」
「あっ、そうだ。七海と硝子にも自慢し〜よおっと!」
「人の恥ずかしい写真をビラのように拡散するのやめてもらえませんか!?」
後日――
「随分猫に懐かれてましたね」
と、顔を合わせた七海から一言。
名無しが頭を抱えたのは言うまでもない。
……余談だが、海外出張に行ってしまった乙骨にも写真を送ったらしく。
「ドウシタ、乙骨。」
「……ただのホームシックだよ…ミゲル…」
スマホを片手に憂鬱そうな表情を浮かべる乙骨憂太が、いたとかいなかったとか。
寮の入口を箒がけしていたら、一匹の猫が擦り寄ってきた。
白いふわふわの毛。
珠のようなブルーの瞳はガラス細工のようだ。
「う、わ…可愛い…」
しかも、人懐っこい。
足元にするりと身を寄せてくれば、綿毛のような毛並みがふくらはぎを撫でる。
人の足に匂い付けしていると分かっていても、ついつい頬を緩ませてしまうのは不可抗力だ。
箒を地面に置き、ほわほわの猫毛に指先を埋めれば、それはもう至高とも言える感触だった。
「おー、いたいた。」
建物の曲がり角から顔を出したのは真希だ。
鍛錬でもしていたのだろうか。ポケットに手を入れたままジャージ姿で闊歩する様は、女子高生であるにも関わらず、妙に貫禄があった。
「真希ちゃん。…あれ?この子、真希ちゃんとこの猫ちゃん?」
ゴロゴロと喉を鳴らし頭を擦り寄せる猫から視線を上げるものの、名無しは撫でる手を止めない。
細い指先が首の下を撫でるのが心地いいのか、やけに雰囲気のある猫はゴロリと腹を仰向けに晒した。
所謂、服従のポーズである。
出会って間もないにも関わらず、白猫を文字通り『猫可愛がり』する名無しと、気持ちよさそうに好き勝手撫でられている猫。
その周りだけ花が咲きそうな雰囲気だったのだが、真希の一言でそれは静かに凍りついた。
「それ、五条だぞ。」
ピクリ。
猫を撫でる手を一旦止めるが、すぐにモフモフの魔力に魅入られる。
名無しはデレデレになった表情を隠すことなく、笑いながら真希を見上げた。
「またまた~、ご冗談を…」
「んなぁお。」
「…………冗談だよね?」
沈黙する真希。
肯定も否定もしないが、複雑そうな表情は何ともいない色を浮かべている。
そして、妙にタイミングのいい猫の相槌が決め手となった。
「えっ、何で猫!?」
「なんか変な術式食らってこうなったらしい」
「え、えぇぇ……」
マシュマロを浮かべたココアよりも甘い表情を浮かべていた名無しだが、相手が猫になってしまった五条となると話は別だ。
全国の呪詛師が敵視している、特級呪術師『五条悟』が猫になってしまっただなんて。
呪術界隈でその話が広がれば、下手すると日本は終わりだ。
笑えない冗談だが、残念なことにこの男の影響力はそれ程までに大きいのが現実である。
「こんなに可愛いのに…本当に五条さんなの?」
「名無し、それ五条が聞いたら泣くぞ。」
にわかに信じられない名無しは猫と真希を見比べるが、残念ながら目の前の光景は変わらない。変わるわけがない。
「んなぅ」
「ぐぅぅ…可愛い…可愛い…!緊急事態なのは分かっているけど可愛い…ずるい…」
事の重大さは分かっているが、この緊張感の欠片もない猫の甘えっぷりを目の当たりにすれば、名無しは頭を抱えるしかなかった。
最上級の毛玉の魅力には抗えない。
「猫になっても美人さんなのズルくない…?」
「そうか?猫は猫だろ。」
「いやいや。見てよこれ。人間の顔面偏差値をそのまま持ってきちゃった美人猫よ。」
耳の後ろや首周りをかいてやれば、とろんとしたブルーの目元が気持ちよさそうに細められるではないか。
キャットフードのパッケージに採用されそうな気品の高そうな見た目。
五条自体が『モデルです』と自称しても、十人中十人が納得しそうな顔立ちをしているというのに、猫になってもこれとは。
生物の種族を超えても顔がいいとは、全く非常にけしからん。
そして、極めつけはこの甘えっぷり。
陥落するなと言う方が無理がある。
「あああ…ふわふわ…あったかい…可愛らしさ特級だよ…」
「んなぁー」
「どうしたんですか、五条さん。ここですか?ここのマッサージをご所望ですか?」
五条が猫になった、という事実から目を逸らしたいのか。
名無しはムツゴロウさんのように猫を撫で回しながら、ふわふわの毛並みで現実逃避をし始めた。
「ふーん…名無しは猫派だったのか?」
「犬も猫も小動物も可愛かったらなんでもいい…ふわふわは正義……」
「いやいや、そこは『悟派♡』って答えなきゃ。だって僕、可愛いでしょ?」
「………………あれ?」
「にゃーお」
頭上から降ってきた声。
無遠慮に見上げれば、目元を覆った五条悟――の、人間の姿がそこ意地悪そうな笑みを浮かべて見下ろしてきているではないか。
「いや、本当に信じるとは思わなくて。悪いな、名無し」
相変わらず複雑そうな表情――ではなく、真希は真希で辛うじて真顔を貼り付けてはいるが、笑いを必死にこらえていた。
あの何ともいない表情は、どうやら吹き出しそうになるのを我慢していたらしい。なんてことだ。
「高菜!」
「だ〜いせいこう〜!」
五条の背後から元気よく飛び出てきたのは狗巻とパンダだ。
手には『ドッキリ大成功』と書かれている、バラエティでよく見る手持ち看板。
「待ってください。えっ、ドッキリ?なんで?」
「名無し。今日はエイプリルフールだぞ〜?」
ニチャニチャと笑うパンダを見て、目を白黒させる名無し。
パンダなだけに……という訳では、勿論ない。
「……は、はぁぁ!?」
名無しの心底呆れ返った声が4月1日――穏やかなエイプリルフールの昼下がり。高専の敷地内に響き渡った。
五猫にご注意!
「見て見て真希〜。猫にデレデレしちゃう名無し〜。チョー可愛くない?」
「悟、協力してやったんだからその写真寄越せ。」
「仕方ないな…一枚だけだよ?」
「んだよ、ケチくせぇな。」
「あっ、そうだ。七海と硝子にも自慢し〜よおっと!」
「人の恥ずかしい写真をビラのように拡散するのやめてもらえませんか!?」
後日――
「随分猫に懐かれてましたね」
と、顔を合わせた七海から一言。
名無しが頭を抱えたのは言うまでもない。
……余談だが、海外出張に行ってしまった乙骨にも写真を送ったらしく。
「ドウシタ、乙骨。」
「……ただのホームシックだよ…ミゲル…」
スマホを片手に憂鬱そうな表情を浮かべる乙骨憂太が、いたとかいなかったとか。