short story
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その日は、祝日でもなんでもない。
しかし恋する女の子は一段と気合いが入り、モテない男子は悲鳴を上げ、
とびきり甘党の彼はいつもより食い意地を張る。
寮の管理人室のドアを開けたら、見慣れた男物の靴。
合鍵で勝手に入ったのだろう。
合鍵を渡してある以上、それは当たり前のことだし珍しいことでも何でもない。
しかし。
しかし、だ。
ローテーブルの上の惨状を見て、名無しはついつい眉を顰めた。
開けられた箱。
10粒入だったチョコレートは半分程なくなり、代わりにクタクタに蕩けた男が約一名。
箱のパッケージには見覚えがあった。
家入が『少し早いけどバレンタインだよ』と渡してくれたチョコレートだ。
かなり強い洋酒が入ったチョコなので、一人で酒のあてにでもしながら食べようか、と考えていたものだった。
美味しいものは皆でシェアしてしまう性分の名無しだが、これには理由がある。
それは勿論、原因は目の前の男。
このチョコレート泥棒がとんでもなく下戸だからだ。
買ったものが入った紙袋をラグの上に置き、名無しはゆるゆるとした長袖Tシャツを着こなす五条の身体を小さく揺すった。
「五条さん、五条さん。」
「んんー…名無し…?」
「勝手に戸棚を漁るのはいいですけど、アルコール入ってるかどうかくらい確認してください。」
部屋にあるおやつを食べるなとは言わない。
それを咎める程、彼とは隔たりのある間柄ではないから。
だがつまみ食いして体調を崩すのは如何なものか。
箱の裏にはきちんと『洋酒使用』と書かれているではないか!
「甘いものがぁ、食べたかったんだもーん…」
「可愛く言えばいいってもんじゃありませんよ。水、飲んでください。」
酔っ払った五条を見るのはこれが初めてではない。
今までのへべれけシーンを思い返せば、『うっかり』『間違えて』『今日ならイける気がする!』なんて許すべきか咎めるべきかよく分からなくなってくる言い訳を思い出した。
そして、大抵周りが被害を被る。
主に名無しが。
「名無し、甘い匂いがする……」
「気のせいですよ。それより早く水を、」
コップを取り出そうと安易に五条へ背を向けたのが今回の敗因と言えるだろう。
立ち上がろうと中腰になった途端、思い切り後ろから抱き寄せられ無様に尻もちをついてしまった。
名無しは、焦った。
ビクともしない腕。
いつもより体温の高い五条の胸板。
吐息がかかる程に近い彼の鼻先。
オフタートルのニットを無遠慮に引っ張られ、露になったうなじへ落とされる唇。
言うまでもないが、触れるだけで終わるわけがない。
薄い皮膚を強く吸い上げ、白い肌へ舌を這わせ、細い肩へ歯を立てる。
濃いものから淡いものまで、大小様々なキスマークを付けながら、酒気を纏った息を五条はそっと吐き出した。
「う、あッ……っご、五条さん!ストップ、ストップ!」
「やだ。だって名無し、甘い匂いがするんだもん〜」
いつも言っても聞かないが、酔っ払っている時はなおタチが悪い。
首筋だけでなく耳を口に含まれた瞬間、背筋に電撃が走ったように大きく身体が揺れた。
「ご、じょ、さん!これ!これの匂いじゃないですかね!?」
ラグの上に置いていた紙袋を掴み、背後から好き勝手する五条へ押し付ける。
きちんと角が立った高級そうな紙袋の中にはラッピングされた箱。
リボンを解いて蓋を開ければ、中には行儀よく並んだチョコレートが並んでいた。
「バレンタインのチョコレートを買いに行っていたんです…!ちょ、チョコレート売り場の匂いが移ったんじゃないですか!?」
チョコレートの匂いが移ることなんてあるのだろうか。
頭の隅でそんな考えが浮かんだが、とりあえずこの酔っぱらいから逃れられるならなんでもいい。
名無しはつい語気を荒らげて抗議してしまった。
五条はじっと箱の中身を眺め、そっと蓋を閉める。
満足そうににっこり笑っているので解放される…と思った。
まぁ、現実はチョコレートのように甘くない。
チョコレートはデザートのあとで
「チョコは後〜。今は名無しを食べる番。」
「食べなくて結構で…っひぇ!?」
「チョコの匂いがつくわけないでしょ?」
「よ、酔っぱらいにマジレスされるほど腹立つものはないんですけど!?」
しかし恋する女の子は一段と気合いが入り、モテない男子は悲鳴を上げ、
とびきり甘党の彼はいつもより食い意地を張る。
寮の管理人室のドアを開けたら、見慣れた男物の靴。
合鍵で勝手に入ったのだろう。
合鍵を渡してある以上、それは当たり前のことだし珍しいことでも何でもない。
しかし。
しかし、だ。
ローテーブルの上の惨状を見て、名無しはついつい眉を顰めた。
開けられた箱。
10粒入だったチョコレートは半分程なくなり、代わりにクタクタに蕩けた男が約一名。
箱のパッケージには見覚えがあった。
家入が『少し早いけどバレンタインだよ』と渡してくれたチョコレートだ。
かなり強い洋酒が入ったチョコなので、一人で酒のあてにでもしながら食べようか、と考えていたものだった。
美味しいものは皆でシェアしてしまう性分の名無しだが、これには理由がある。
それは勿論、原因は目の前の男。
このチョコレート泥棒がとんでもなく下戸だからだ。
買ったものが入った紙袋をラグの上に置き、名無しはゆるゆるとした長袖Tシャツを着こなす五条の身体を小さく揺すった。
「五条さん、五条さん。」
「んんー…名無し…?」
「勝手に戸棚を漁るのはいいですけど、アルコール入ってるかどうかくらい確認してください。」
部屋にあるおやつを食べるなとは言わない。
それを咎める程、彼とは隔たりのある間柄ではないから。
だがつまみ食いして体調を崩すのは如何なものか。
箱の裏にはきちんと『洋酒使用』と書かれているではないか!
「甘いものがぁ、食べたかったんだもーん…」
「可愛く言えばいいってもんじゃありませんよ。水、飲んでください。」
酔っ払った五条を見るのはこれが初めてではない。
今までのへべれけシーンを思い返せば、『うっかり』『間違えて』『今日ならイける気がする!』なんて許すべきか咎めるべきかよく分からなくなってくる言い訳を思い出した。
そして、大抵周りが被害を被る。
主に名無しが。
「名無し、甘い匂いがする……」
「気のせいですよ。それより早く水を、」
コップを取り出そうと安易に五条へ背を向けたのが今回の敗因と言えるだろう。
立ち上がろうと中腰になった途端、思い切り後ろから抱き寄せられ無様に尻もちをついてしまった。
名無しは、焦った。
ビクともしない腕。
いつもより体温の高い五条の胸板。
吐息がかかる程に近い彼の鼻先。
オフタートルのニットを無遠慮に引っ張られ、露になったうなじへ落とされる唇。
言うまでもないが、触れるだけで終わるわけがない。
薄い皮膚を強く吸い上げ、白い肌へ舌を這わせ、細い肩へ歯を立てる。
濃いものから淡いものまで、大小様々なキスマークを付けながら、酒気を纏った息を五条はそっと吐き出した。
「う、あッ……っご、五条さん!ストップ、ストップ!」
「やだ。だって名無し、甘い匂いがするんだもん〜」
いつも言っても聞かないが、酔っ払っている時はなおタチが悪い。
首筋だけでなく耳を口に含まれた瞬間、背筋に電撃が走ったように大きく身体が揺れた。
「ご、じょ、さん!これ!これの匂いじゃないですかね!?」
ラグの上に置いていた紙袋を掴み、背後から好き勝手する五条へ押し付ける。
きちんと角が立った高級そうな紙袋の中にはラッピングされた箱。
リボンを解いて蓋を開ければ、中には行儀よく並んだチョコレートが並んでいた。
「バレンタインのチョコレートを買いに行っていたんです…!ちょ、チョコレート売り場の匂いが移ったんじゃないですか!?」
チョコレートの匂いが移ることなんてあるのだろうか。
頭の隅でそんな考えが浮かんだが、とりあえずこの酔っぱらいから逃れられるならなんでもいい。
名無しはつい語気を荒らげて抗議してしまった。
五条はじっと箱の中身を眺め、そっと蓋を閉める。
満足そうににっこり笑っているので解放される…と思った。
まぁ、現実はチョコレートのように甘くない。
チョコレートはデザートのあとで
「チョコは後〜。今は名無しを食べる番。」
「食べなくて結構で…っひぇ!?」
「チョコの匂いがつくわけないでしょ?」
「よ、酔っぱらいにマジレスされるほど腹立つものはないんですけど!?」