short story
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「あのさ。」
前触れなく口を開いたのは虎杖だった。
「俺ら名無しに朝飯とか晩飯とか、お世話になってるじゃん?」
「そうね。」
「そうだな。」
出てきたのは寮の管理人兼呪術師のである彼女の名前。
理由を尋ねたことがある。
『ほら、まだ一年生ならお給金も少ないし、貯蓄もあまりないじゃない。まだまだ成長期だし、ご飯はしっかり食べてもらいたいなぁ、って思って。』
そう言って食費すら受け取ってもらえない。
去年の一年生――真希達もそのような感じだったらしい。
諸先輩方に尋ねたところ『もう開き直った』『しゃけしゃけ』と返事が返ってきたのは記憶に新しい。
だからか時折、夕飯を一年・二年生で頂いたりする。
――余談だが、五条が高専にいる時は朝食・夕飯毎回当たり前のようにいるのは、もう全員慣れてしまった。
「……俺昨日ご飯三杯おかわりしたの、ウザッて思われてないかな、って。」
「あれは食いすぎだったな。」
「ぐっ…!………だって、ハンバーグ…美味かったんだよ…」
伏黒の呆れた声音に対して、虎杖はバツが悪そうに言い訳を零す。
そして何故か釘崎も小さく頭を抱えていた。
「………………私、この間『朝ごはんにパンケーキ食べてみた〜い!』っておねだりしちゃった…」
「あぁ、次の日パンケーキ出てきたな。名無しの任務明けの日に。」
「あぁぁぁぁ〜〜〜…」
根が善良かつ気遣い上手の釘崎がのたうち回りながら後悔の念を吐き出す。
名無しだって常にのほほんと寮の管理人をしているわけではない。
呪術師という界隈は常に人手不足が叫ばれている。
教師の職についている五条がしょっちゅう『出張』に出ているのもその為だ。
特級呪物扱いかつ、一級呪術師であるななし名無しも決してヒマではない。
それでも未来ある若人に、時間をぬってはしっかりとした食事を出そうと腕を奮っている。
そんな『寮母』たる彼女の迷惑になっていないか。名無しの本音が気になって仕方がなかった。
「気になってるならさ、聞いてあげよっか?」
教室にて三人で話をしていた、はず。
教壇に頬杖をつきながら問うてきたのは、いつの間にかそこにいた五条だった。
「いい方法があるよ?」
イタズラを思いついた子供のように笑いながら、彼はスマートフォンをぷらりと取り出した。
***
「やァ、名無し。」
「五条さん。どうされたんです?」
「お、今日の夕飯?」
「はい。茄子とピーマンの肉味噌炒めです。」
夕飯の支度をしていた名無しを後ろから覗き込めば、手際よくピーマンの種をとっているところだった。
豚バラ肉と、茄子とピーマン。ニンジン。そして生姜。
味噌の甘みの中にピリリとした生姜のアクセントがたまらない逸品だ。
五条も以前ご馳走になったが、かなり気に入っている。
「夜から仕事じゃなかった?」
「はい。だから今のうちに作って、夜は温めて食べてもらおうかな、と。」
「今更だけどさぁ、大変じゃない?」
名無しの頭に顎を乗せながら、五条が問いかける。
「?、何がです?」
「んー?寮の管理もあるし、任務もあるじゃん。恵達だってお金貰ってないわけじゃないし、自分達で飯くらいどうにでもするでしょ。
タダ飯なのもどうなのかねぇ、と思って。」
そう。それが普通なのだ。
けれど彼女は世話を焼きたがる。
見返りもなく、ただ純粋な善意で。
「だって五条さんも昔、私を養ってたじゃないですか。」
「まぁね。」
「その時かかったお金も未だに受け取ってもらえてないし」
「あーゆーのはチャラでいいの。」
「って言うと思って。だから私もそうすることにしたんです」
にへらっと笑いながら名無しは五条を見上げる。
後ろに立つ彼の胸板に、ぽすりと頭を軽く預けて。
「私が五条さんにしてもらった分、少しでも可愛い後輩達に返せたらいいな、って思って。」
人から受け取った善意を、次の誰かへ。
彼女らしい考えだ。
しかし、そんな名無しだから好きになったのも事実。
頑張り屋で、一途で、眩しくて。
五条は心臓を鷲掴みにされたような気分になって、たまらなくなった。
――が、ここは我慢だ。
可愛い生徒のお願いを『今』は優先しなければ。頑張れ五条悟。
「………………あ。もしかして『不味い』とか『外で食う飯の方がいい』とかクレーム来てます!?」
「いやいや。逆だよ。まぁ彼らも休みの日はそれなりに外食楽しんでるし。」
「そう、ならよかった。美味しいお店あったらまた教えてもらおっと。」
あっけらかんと笑う彼女の笑顔は、まさに『寮母』のそれだった。
高専寮母のモニタリング
「聖母だわ……」
「もう俺一生名無しについてく…」
五条先生がポケットの中のスマホの通話を流しっぱなしにして、こっそり聞いた『実態調査』。
それは迷惑の『め』の字もなく。
ただ純粋な善意と、受け取った恩を誰かに分けたいという優しすぎるエゴが答えだった。
釘崎と虎杖はスマホを目の前にして手を合わせている。……なんかの宗教か?
やれやれと息をつきながら、俺はスマホの通話終了ボタンを押そうとした時だった。
『名無しはさ、悠仁のことどう思う?』
五条先生の、突然の質問。
そんなことを聞いてくれ…なんて依頼は特にしていない。
虎杖も突然名前が出てきて、オロオロしながら俺と釘崎の顔を見ている。
そこはかとなく表情が不安そうなのは……気の所為じゃないだろう。
『ん?可愛い弟みたいで好きですよ。ご飯も沢山食べる姿もいいですね。あと…シンパシー感じないと言えば嘘になります。でも、頑張ってる姿見るとなんか元気が出ますよ』
スラスラと出てきた、褒め殺しの回答。
不安そうだった表情は何処へやら。
ぱっと笑顔を華やげて、黙って小躍りしてる。…ちょっと鬱陶しい。
『恵は?』
……………………って、俺も聞くのかよ!
『グレてた時から知ってますから、そうですね…。いい友達が出来て楽しそうで、本当によかったって思います。ふとした時に笑った顔とか、好きですね。』
まさかの。
……いや、これは…うん。
クスクスと笑いながら答える名無しの言葉は裏表がない。
恥ずかしいやら照れくさいやらで、俺は思わず口元を手で覆い隠した。
『野薔薇は?』
『ふふっ、妹みたいで可愛いです。あ、でも可愛い女友達でもありますかね。ワクワクきらきらしてて、すごく好きです。』
待ってました!と言わんばかりに釘崎も小躍りしだした。
打ち合わせしたのかと錯覚するほど息がぴったりで、手を挙げた虎杖とハイタッチしている。
『突然なんです?これ。』
『ん〜?実態調査。』
『なんですかー、それ。』
電話の向こうで五条先生と名無しの笑い声が聞こえる。
いや、確かに実態調査だ。ちょっと騙し討ちのような気もするが。
きっと名無しの回答も全て予測済みの上、あえて俺達にこの会話を聞かせているのだろう。本当に五条先生はいい性格をしてる。
もう通話を終えていいだろう、と今度こそ通話終了ボタンを押そうとした時だった。
『で、僕は?』
『はい?』
『僕のことはどう思ってる?』
大人気ない、突然の質問。
出たでた、あぁいうとこがあの人の悪い癖だ。
俺は呆れながらスマホを手に取ろうとしたが、それを虎杖と釘崎が間髪入れずに取り押さえてくる。
…………………え。聞くの?マジでか。
『どう、って。』
『え〜、悠仁達のはあんなにスラスラ出てきたのに。ね、僕は?』
駄々を捏ねる子供のようだ。
回答に困っている名無しにまとわりつきながら問いかけている姿が目に浮かぶ。
『…………す、好きですよ?』
『もっとあるでしょ?』
名無しの恥ずかしそうな声音。
それに対して足りないと言わんばかりに催促する五条先生。
『……意地が悪いですけど、優しいと、思います。ちょっとアレなところも、勿論あるんですけど。あとは、その………撫でてくれる、手とか、好きです』
しどろもどろになりながら答える声。
一生懸命、当たり障りのない回答を絞り出している……というより、本当に恥ずかしいのだろう。
それもそうだ。どうして本人を目の前にして褒めちぎらなければいけないのか。
一種の羞恥プレイだろう。……しかも生徒に聞かせているし。
『ほらほら、もっと。』
『な、なんですか、もう。ご飯作るのに忙しいんですってば』
『え〜、もっと聞きたい。ね、僕のどこが好き?』
顔を見なくても分かる。絶対ニヤニヤしている。
五条先生、ホントこういうとこある。
催促する先生の声の向こうで、名無しの『あー』とか『うー』とか唸る声が僅かに聞こえてきた。
数秒の沈黙の後、か細い――しかし、ばっちり聞こえる声がハンズフリーのスマホから流れる。
『い…言わなくても、知ってるくせに……』
俺達が聞いた事ないような、恥ずかしそうで、困った声音。
きっと世界探せど五条先生くらいしか聞いたことがないような――それはそれは心臓を鷲掴みにされそうな声だった。
名無しを恋愛対象として見てない俺でも『くそ可愛いな』と思ってしまう程だ。
虎杖に至ってはなぜか頬を赤らめ、釘崎は最高の恋バナを聞いた後の女子みたいになっている。……いや、女子だったな…。
ぷつん。
ツー…ツー…ツー…。
突然切れた通話。
虚しく鳴る無機質な電子音。
虎杖と釘崎は「あーーー!先生切ったー!」と声を上げている。
どうせ電話の向こうで五条先生も辛抱たまらなくなって、聞かせられないようなことでも囁いてるのだろう。
俺はくしゃりと髪をかいた後、今日の夕飯に想いを馳せた。
前触れなく口を開いたのは虎杖だった。
「俺ら名無しに朝飯とか晩飯とか、お世話になってるじゃん?」
「そうね。」
「そうだな。」
出てきたのは寮の管理人兼呪術師のである彼女の名前。
理由を尋ねたことがある。
『ほら、まだ一年生ならお給金も少ないし、貯蓄もあまりないじゃない。まだまだ成長期だし、ご飯はしっかり食べてもらいたいなぁ、って思って。』
そう言って食費すら受け取ってもらえない。
去年の一年生――真希達もそのような感じだったらしい。
諸先輩方に尋ねたところ『もう開き直った』『しゃけしゃけ』と返事が返ってきたのは記憶に新しい。
だからか時折、夕飯を一年・二年生で頂いたりする。
――余談だが、五条が高専にいる時は朝食・夕飯毎回当たり前のようにいるのは、もう全員慣れてしまった。
「……俺昨日ご飯三杯おかわりしたの、ウザッて思われてないかな、って。」
「あれは食いすぎだったな。」
「ぐっ…!………だって、ハンバーグ…美味かったんだよ…」
伏黒の呆れた声音に対して、虎杖はバツが悪そうに言い訳を零す。
そして何故か釘崎も小さく頭を抱えていた。
「………………私、この間『朝ごはんにパンケーキ食べてみた〜い!』っておねだりしちゃった…」
「あぁ、次の日パンケーキ出てきたな。名無しの任務明けの日に。」
「あぁぁぁぁ〜〜〜…」
根が善良かつ気遣い上手の釘崎がのたうち回りながら後悔の念を吐き出す。
名無しだって常にのほほんと寮の管理人をしているわけではない。
呪術師という界隈は常に人手不足が叫ばれている。
教師の職についている五条がしょっちゅう『出張』に出ているのもその為だ。
特級呪物扱いかつ、一級呪術師であるななし名無しも決してヒマではない。
それでも未来ある若人に、時間をぬってはしっかりとした食事を出そうと腕を奮っている。
そんな『寮母』たる彼女の迷惑になっていないか。名無しの本音が気になって仕方がなかった。
「気になってるならさ、聞いてあげよっか?」
教室にて三人で話をしていた、はず。
教壇に頬杖をつきながら問うてきたのは、いつの間にかそこにいた五条だった。
「いい方法があるよ?」
イタズラを思いついた子供のように笑いながら、彼はスマートフォンをぷらりと取り出した。
***
「やァ、名無し。」
「五条さん。どうされたんです?」
「お、今日の夕飯?」
「はい。茄子とピーマンの肉味噌炒めです。」
夕飯の支度をしていた名無しを後ろから覗き込めば、手際よくピーマンの種をとっているところだった。
豚バラ肉と、茄子とピーマン。ニンジン。そして生姜。
味噌の甘みの中にピリリとした生姜のアクセントがたまらない逸品だ。
五条も以前ご馳走になったが、かなり気に入っている。
「夜から仕事じゃなかった?」
「はい。だから今のうちに作って、夜は温めて食べてもらおうかな、と。」
「今更だけどさぁ、大変じゃない?」
名無しの頭に顎を乗せながら、五条が問いかける。
「?、何がです?」
「んー?寮の管理もあるし、任務もあるじゃん。恵達だってお金貰ってないわけじゃないし、自分達で飯くらいどうにでもするでしょ。
タダ飯なのもどうなのかねぇ、と思って。」
そう。それが普通なのだ。
けれど彼女は世話を焼きたがる。
見返りもなく、ただ純粋な善意で。
「だって五条さんも昔、私を養ってたじゃないですか。」
「まぁね。」
「その時かかったお金も未だに受け取ってもらえてないし」
「あーゆーのはチャラでいいの。」
「って言うと思って。だから私もそうすることにしたんです」
にへらっと笑いながら名無しは五条を見上げる。
後ろに立つ彼の胸板に、ぽすりと頭を軽く預けて。
「私が五条さんにしてもらった分、少しでも可愛い後輩達に返せたらいいな、って思って。」
人から受け取った善意を、次の誰かへ。
彼女らしい考えだ。
しかし、そんな名無しだから好きになったのも事実。
頑張り屋で、一途で、眩しくて。
五条は心臓を鷲掴みにされたような気分になって、たまらなくなった。
――が、ここは我慢だ。
可愛い生徒のお願いを『今』は優先しなければ。頑張れ五条悟。
「………………あ。もしかして『不味い』とか『外で食う飯の方がいい』とかクレーム来てます!?」
「いやいや。逆だよ。まぁ彼らも休みの日はそれなりに外食楽しんでるし。」
「そう、ならよかった。美味しいお店あったらまた教えてもらおっと。」
あっけらかんと笑う彼女の笑顔は、まさに『寮母』のそれだった。
高専寮母のモニタリング
「聖母だわ……」
「もう俺一生名無しについてく…」
五条先生がポケットの中のスマホの通話を流しっぱなしにして、こっそり聞いた『実態調査』。
それは迷惑の『め』の字もなく。
ただ純粋な善意と、受け取った恩を誰かに分けたいという優しすぎるエゴが答えだった。
釘崎と虎杖はスマホを目の前にして手を合わせている。……なんかの宗教か?
やれやれと息をつきながら、俺はスマホの通話終了ボタンを押そうとした時だった。
『名無しはさ、悠仁のことどう思う?』
五条先生の、突然の質問。
そんなことを聞いてくれ…なんて依頼は特にしていない。
虎杖も突然名前が出てきて、オロオロしながら俺と釘崎の顔を見ている。
そこはかとなく表情が不安そうなのは……気の所為じゃないだろう。
『ん?可愛い弟みたいで好きですよ。ご飯も沢山食べる姿もいいですね。あと…シンパシー感じないと言えば嘘になります。でも、頑張ってる姿見るとなんか元気が出ますよ』
スラスラと出てきた、褒め殺しの回答。
不安そうだった表情は何処へやら。
ぱっと笑顔を華やげて、黙って小躍りしてる。…ちょっと鬱陶しい。
『恵は?』
……………………って、俺も聞くのかよ!
『グレてた時から知ってますから、そうですね…。いい友達が出来て楽しそうで、本当によかったって思います。ふとした時に笑った顔とか、好きですね。』
まさかの。
……いや、これは…うん。
クスクスと笑いながら答える名無しの言葉は裏表がない。
恥ずかしいやら照れくさいやらで、俺は思わず口元を手で覆い隠した。
『野薔薇は?』
『ふふっ、妹みたいで可愛いです。あ、でも可愛い女友達でもありますかね。ワクワクきらきらしてて、すごく好きです。』
待ってました!と言わんばかりに釘崎も小躍りしだした。
打ち合わせしたのかと錯覚するほど息がぴったりで、手を挙げた虎杖とハイタッチしている。
『突然なんです?これ。』
『ん〜?実態調査。』
『なんですかー、それ。』
電話の向こうで五条先生と名無しの笑い声が聞こえる。
いや、確かに実態調査だ。ちょっと騙し討ちのような気もするが。
きっと名無しの回答も全て予測済みの上、あえて俺達にこの会話を聞かせているのだろう。本当に五条先生はいい性格をしてる。
もう通話を終えていいだろう、と今度こそ通話終了ボタンを押そうとした時だった。
『で、僕は?』
『はい?』
『僕のことはどう思ってる?』
大人気ない、突然の質問。
出たでた、あぁいうとこがあの人の悪い癖だ。
俺は呆れながらスマホを手に取ろうとしたが、それを虎杖と釘崎が間髪入れずに取り押さえてくる。
…………………え。聞くの?マジでか。
『どう、って。』
『え〜、悠仁達のはあんなにスラスラ出てきたのに。ね、僕は?』
駄々を捏ねる子供のようだ。
回答に困っている名無しにまとわりつきながら問いかけている姿が目に浮かぶ。
『…………す、好きですよ?』
『もっとあるでしょ?』
名無しの恥ずかしそうな声音。
それに対して足りないと言わんばかりに催促する五条先生。
『……意地が悪いですけど、優しいと、思います。ちょっとアレなところも、勿論あるんですけど。あとは、その………撫でてくれる、手とか、好きです』
しどろもどろになりながら答える声。
一生懸命、当たり障りのない回答を絞り出している……というより、本当に恥ずかしいのだろう。
それもそうだ。どうして本人を目の前にして褒めちぎらなければいけないのか。
一種の羞恥プレイだろう。……しかも生徒に聞かせているし。
『ほらほら、もっと。』
『な、なんですか、もう。ご飯作るのに忙しいんですってば』
『え〜、もっと聞きたい。ね、僕のどこが好き?』
顔を見なくても分かる。絶対ニヤニヤしている。
五条先生、ホントこういうとこある。
催促する先生の声の向こうで、名無しの『あー』とか『うー』とか唸る声が僅かに聞こえてきた。
数秒の沈黙の後、か細い――しかし、ばっちり聞こえる声がハンズフリーのスマホから流れる。
『い…言わなくても、知ってるくせに……』
俺達が聞いた事ないような、恥ずかしそうで、困った声音。
きっと世界探せど五条先生くらいしか聞いたことがないような――それはそれは心臓を鷲掴みにされそうな声だった。
名無しを恋愛対象として見てない俺でも『くそ可愛いな』と思ってしまう程だ。
虎杖に至ってはなぜか頬を赤らめ、釘崎は最高の恋バナを聞いた後の女子みたいになっている。……いや、女子だったな…。
ぷつん。
ツー…ツー…ツー…。
突然切れた通話。
虚しく鳴る無機質な電子音。
虎杖と釘崎は「あーーー!先生切ったー!」と声を上げている。
どうせ電話の向こうで五条先生も辛抱たまらなくなって、聞かせられないようなことでも囁いてるのだろう。
俺はくしゃりと髪をかいた後、今日の夕飯に想いを馳せた。