short story
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「無責任だと承知の上で、頼みが…あるんだが」
ぼそぼそと。
最近懐いてくれた後輩になる予定の男の子が、いつもより声を抑えたトーンで話し掛けてくる。
後ろ手に隠しているのは、ダンボール箱。
既に赤子のような鳴き声がか細く聞こえてきている。
「伏黒くんが頼みなんて珍しいね?」
「……五条、先生に頼むのは、なんか癪だった。」
「あー、うん。分からなくもないけど」
伏黒が(身元引受け人とはいえ)五条を苦手としているのは知っている。
名無しはそっと苦笑いを浮かべつつ、持っていた箒の手を止め、気負わないようになるべく軽い口調で問うた。
「どれ。事の次第によるけど。言ってごらんなさいな。」
「……実は、」
***
「で?猫を預かったって?」
「里親見つかるまでの間ですよ。」
猫用ミルクと柔らかくしたフードをたんと食べ、今や膝の上で丸まって寝ている子猫を見下ろしながら五条が不満げに呟いた。
「はー、なんで恵ったら僕に頼むの嫌がるのかなー」
「『恵が猫拾ってきたってぇ?ぷぷっ、似合わな〜い!』って馬鹿にするでしょう?五条さんなら。」
「シナイヨ?」
「嘘ですね。」
分かりやすく明後日を見ながら口先を尖らせる元・担任に、名無しは呆れたように小さく肩を竦めた。
経緯はこうだ。
伏黒が、アパートの近くでダンボールに入れられた捨て猫を見つけたらしい。
捨て猫を見つけたからには無視することも出来ず、困り果てた結果名無しを頼ってきた…というわけだ。
伏黒が住んでいるアパートは、ペットを飼うことが禁止されている。
次の春から高専の寮に入寮するとはいえ、それまでこっそり飼うことは無理だと悟ったのだろう。
根が真面目な彼らしいといえば彼らしい。
もしかしたら捨てられた猫と自分を重ねてしまったのかもしれないが、それは余計な詮索だろう。
名無しの膝の上でくうくうと眠る、ふわふわとした毛並みの子猫。
羽毛のような触り心地で、撫でているだけでほっこり頬が緩んでしまうのは最早条件反射だ。
まぁ、名無しがそうだからといって、ご機嫌を損ねているこの大男もそうとは限らないのだが。
「だからって、なんで名無しなのさ。」
「まぁまぁ。いい傾向ですよ。あぁいうタイプは人に頼るのが苦手でしょうし、少しは肩の力を抜く練習になるんじゃないですか?」
「ははーん。自分にそっくりだからよく分かっちゃうわけね。」
「……そういうトコが思春期の男の子に敬遠される原因なんじゃないですかね?」
五条のデリカシーに欠ける発言に、本日二度目の溜息を吐き出す。
五条のこういった言動は、繊細な伏黒の地雷を時々踏むらしく、恩はあれど尊敬されているかと問われたら――どうだろう。
「しかし、猫ねぇ?」
「まぁ寮の規定には動物に関して特に書かれていませんし、いいじゃないですか。」
「……だからって」
五条がチラリと猫を見下ろし、不服そうに口先を尖らせる。
「名無しの膝を取られるのは、不本意なんだけど?僕。」
「いいじゃないですか。たまには譲ってあげても。」
「よくない。ぜーんぜん、よくない。」
まるで駄々を捏ねる子供のようだ。
名無しの背中に覆いかぶさり、おんぶお化けのように抱きついてくる五条。
例えるなら……『構え構え』と強請る三歳児か、もしくは躾のなっていない大型犬か。そんなところだ。
「五条さん、重いです……」
「愛が?」
「物理的な話をしてるんですってば。」
愛も重たいといえば重たいのだが、苦ではないので黙っておいた。
「僕も猫になったら構ってくれるの?」
「……一応釘を刺しておきますけど、お知り合いに『猫に化かすことが出来る呪術師』がいても絶対にダメですよ?」
「………………………………ちぇっ」
しばし間をおいて残念そうに呟く五条。
名無しは内心呆れ返る一方で、『そんな人いるんだな』と感心した。
名無しの頭に顎を乗せ、ぶーぶーとブーイングをする五条。
ずっとそうしているつもりなのか。それはそれで困る。
事実、せっかくの休みだというのに五条へ構えない後ろめたさもある。
どうにか機嫌を直してもらいたいのだが――。
「――五条さん、」
「んー…?」
顔を無遠慮に上げれば、目隠しもサングラスも取り払った瞳と視線が絡む。
化粧したのかと疑ってしまう程に滑らかな頬に手を添えて、あたたかい頬にそろりとキスを贈った。
「……こ、これで、もう少し我慢してもらえますか?」
ワガママなしろねこさん
「逆に無理。」
「え。」
「ムラムラしてきた。」
「ね、猫ちゃんいる間はダメですよ!?」
「じゃあ早く里親探しちゃお。憂太達にも手伝って貰おう、そうしよう。」
「そういう事に生徒を使うのはどうかと思います…。里親は伏黒くんが探してくれるみたいなのでそれまで、」
「無理。」
「……我慢してください。」
「む〜り〜。僕も猫になる〜。名無しとイチャイチャする〜」
「誰ですか、この我儘な白猫の飼い主は!」
「名無しだにゃ〜」
「………………アラサーの語尾で『にゃー』は、やめませんか?」
ぼそぼそと。
最近懐いてくれた後輩になる予定の男の子が、いつもより声を抑えたトーンで話し掛けてくる。
後ろ手に隠しているのは、ダンボール箱。
既に赤子のような鳴き声がか細く聞こえてきている。
「伏黒くんが頼みなんて珍しいね?」
「……五条、先生に頼むのは、なんか癪だった。」
「あー、うん。分からなくもないけど」
伏黒が(身元引受け人とはいえ)五条を苦手としているのは知っている。
名無しはそっと苦笑いを浮かべつつ、持っていた箒の手を止め、気負わないようになるべく軽い口調で問うた。
「どれ。事の次第によるけど。言ってごらんなさいな。」
「……実は、」
***
「で?猫を預かったって?」
「里親見つかるまでの間ですよ。」
猫用ミルクと柔らかくしたフードをたんと食べ、今や膝の上で丸まって寝ている子猫を見下ろしながら五条が不満げに呟いた。
「はー、なんで恵ったら僕に頼むの嫌がるのかなー」
「『恵が猫拾ってきたってぇ?ぷぷっ、似合わな〜い!』って馬鹿にするでしょう?五条さんなら。」
「シナイヨ?」
「嘘ですね。」
分かりやすく明後日を見ながら口先を尖らせる元・担任に、名無しは呆れたように小さく肩を竦めた。
経緯はこうだ。
伏黒が、アパートの近くでダンボールに入れられた捨て猫を見つけたらしい。
捨て猫を見つけたからには無視することも出来ず、困り果てた結果名無しを頼ってきた…というわけだ。
伏黒が住んでいるアパートは、ペットを飼うことが禁止されている。
次の春から高専の寮に入寮するとはいえ、それまでこっそり飼うことは無理だと悟ったのだろう。
根が真面目な彼らしいといえば彼らしい。
もしかしたら捨てられた猫と自分を重ねてしまったのかもしれないが、それは余計な詮索だろう。
名無しの膝の上でくうくうと眠る、ふわふわとした毛並みの子猫。
羽毛のような触り心地で、撫でているだけでほっこり頬が緩んでしまうのは最早条件反射だ。
まぁ、名無しがそうだからといって、ご機嫌を損ねているこの大男もそうとは限らないのだが。
「だからって、なんで名無しなのさ。」
「まぁまぁ。いい傾向ですよ。あぁいうタイプは人に頼るのが苦手でしょうし、少しは肩の力を抜く練習になるんじゃないですか?」
「ははーん。自分にそっくりだからよく分かっちゃうわけね。」
「……そういうトコが思春期の男の子に敬遠される原因なんじゃないですかね?」
五条のデリカシーに欠ける発言に、本日二度目の溜息を吐き出す。
五条のこういった言動は、繊細な伏黒の地雷を時々踏むらしく、恩はあれど尊敬されているかと問われたら――どうだろう。
「しかし、猫ねぇ?」
「まぁ寮の規定には動物に関して特に書かれていませんし、いいじゃないですか。」
「……だからって」
五条がチラリと猫を見下ろし、不服そうに口先を尖らせる。
「名無しの膝を取られるのは、不本意なんだけど?僕。」
「いいじゃないですか。たまには譲ってあげても。」
「よくない。ぜーんぜん、よくない。」
まるで駄々を捏ねる子供のようだ。
名無しの背中に覆いかぶさり、おんぶお化けのように抱きついてくる五条。
例えるなら……『構え構え』と強請る三歳児か、もしくは躾のなっていない大型犬か。そんなところだ。
「五条さん、重いです……」
「愛が?」
「物理的な話をしてるんですってば。」
愛も重たいといえば重たいのだが、苦ではないので黙っておいた。
「僕も猫になったら構ってくれるの?」
「……一応釘を刺しておきますけど、お知り合いに『猫に化かすことが出来る呪術師』がいても絶対にダメですよ?」
「………………………………ちぇっ」
しばし間をおいて残念そうに呟く五条。
名無しは内心呆れ返る一方で、『そんな人いるんだな』と感心した。
名無しの頭に顎を乗せ、ぶーぶーとブーイングをする五条。
ずっとそうしているつもりなのか。それはそれで困る。
事実、せっかくの休みだというのに五条へ構えない後ろめたさもある。
どうにか機嫌を直してもらいたいのだが――。
「――五条さん、」
「んー…?」
顔を無遠慮に上げれば、目隠しもサングラスも取り払った瞳と視線が絡む。
化粧したのかと疑ってしまう程に滑らかな頬に手を添えて、あたたかい頬にそろりとキスを贈った。
「……こ、これで、もう少し我慢してもらえますか?」
ワガママなしろねこさん
「逆に無理。」
「え。」
「ムラムラしてきた。」
「ね、猫ちゃんいる間はダメですよ!?」
「じゃあ早く里親探しちゃお。憂太達にも手伝って貰おう、そうしよう。」
「そういう事に生徒を使うのはどうかと思います…。里親は伏黒くんが探してくれるみたいなのでそれまで、」
「無理。」
「……我慢してください。」
「む〜り〜。僕も猫になる〜。名無しとイチャイチャする〜」
「誰ですか、この我儘な白猫の飼い主は!」
「名無しだにゃ〜」
「………………アラサーの語尾で『にゃー』は、やめませんか?」