short story
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「君らさぁ、さくらんぼのヘタって結べる?」
山形からの出張土産に買ってきたのは、大量のさくらんぼ。
甘党の五条らしいチョイスといえばチョイスだ。
彼が現在受け持っている生徒三人と、硝子による定期検診帰りの名無しは、さくらんぼを黙々と咀嚼しながら五条へ視線を向けた。
「えー、それって手で?」
「いんや?舌で。」
虎杖が指先でくるりと巻いたさくらんぼのヘタを五条に見せる。
その五条はというと『手本を見せてやる』と言わんばかりにさくらんぼのヘタを口の中に放り込んだ。
もそり、もそり。
ガムを噛んでいるかのように動かされる口元。
数秒後、「べ。」と出された肉色の舌上には、器用に結ばれたさくらんぼのヘタが披露されることとなった。
「おお!」
「さぁて、出来るかな?若人達よ!」
唯一素直に感動した虎杖が、真っ先にさくらんぼのヘタを口の中に放り込む。
もぐ、もぐ、…もそ…むぐ…もぐ……………
「へんへぇ!れきた!」
「おー、やるじゃん悠仁。」
パチパチと拍手をする五条と、さくらんぼのヘタを結べてご満悦の虎杖。
それをちらりと横目で見て、伏黒は黙ってヘタを口に含んだ。
「私はやらないわよ。行儀悪いじゃない。」
ティッシュでさくらんぼの種を包みながら釘崎が肩を竦める。
乗り気にならない紅一点の生徒を焚き付けるため、五条は態とらしく声を上げた。
「えー。野薔薇、これ都会のオンナは出来て当たり前なのに?」
「?、何でよ。」
「それはね……」
野薔薇の耳元でコソコソと囁く五条。
一言、二言。
魔法の言葉でも贈ったのか、内緒話が終わった途端「やるわ!やってやろうじゃないの!」と釘崎のヤル気はアクセル全開になった。
そんないたいけな若人を弄ぶ恋人を眺めながら、名無しは呆れたようにさくらんぼを黙々と咀嚼する。
瑞々しい朱色の薄皮。甘酸っぱい果肉は『流石山形県産』と絶賛したくなる程の美味しさだった。
「ね、名無しはもうチャレンジしないの?」
ニタニタと笑いながら五条が顔を覗き込んで来る。
宝石のような目元は、薄布一枚隔てて楽しそうに細められているに違いない。
「ぜっっっっったいしません。」
何個目かのさくらんぼを口に入れる彼女を見ながら、五条悟は「それは残念。」と笑うのであった。
***
記憶を遡り、それは付き合いたての頃。
同じように山形へ五条が出張へ行き、土産にさくらんぼを買ってきたことがあった。
『ね。名無しはさくらんぼのヘタ、口の中で結べる?』
同じような口上を浮かべ、いとも簡単に口内で結んださくらんぼのヘタを披露する五条。
その意味を理解していなかった名無しは、特に何も疑問に思うことなく言われるがままチャレンジした。
が、結果は惨敗。
くたくたに草臥れた、可愛そうなさくらんぼのヘタばかりがティッシュの上に散乱した。
『難しいですよ、これ…』
『デショ。』
『これって何かのゲームですか?』
『ん?……意味、知りたい?』
勿体ぶるように問い返してくる五条。
特に深く考えず首を一度縦に振ったことを、あの時ほど後にも先にも後悔したことはないだろう。
五条の自室だからか、既に取り払われていた目隠し。
高級なとんぼ玉のように美しい瞳を弓なりに細め、まるで内緒話のようにコソコソと耳元で囁かれた。
『さくらんぼのヘタを口の中で結べたらね、キスが上手なんだよ。』
無駄に色気を乗せて。
いつもより少し低い声で、吐息と共に吐き出された言葉。
擽ったいやらゾクゾクするやらで、名無しは反射的に耳元を手で押えた。
が、時すでに遅し。
『さくらんぼのヘタが結べるように、手取り足取り舌取り教えてあげよっか。』
――その後、散々口内を犯され、色々な意味で歯止めがきかなくなったのは言うまでもないだろう。
さくらんぼの楽しみ方
「っしゃあ!出来たわよ!」
「おぉ!やるな、釘崎!な、伏黒はまだ出来ないのか?」
「…ふふはい。」
何度目かのチャレンジの末、口の中でヘタを結べるようになった釘崎。
『都会の女』に憧れる彼女からすれば、これは勲章ものだろう。
一方、本当の意味を理解していない伏黒は眉を顰めながらさくらんぼのヘタと未だに格闘していた。
『さて、いつ本当の意味を純粋無垢な男子高生に暴露してやろうか』とニヤつく、底意地の悪い担任に見守られながら。
名無しは憐れむような視線を伏黒に向けた後、最後の一個を啄むように咀嚼した。
真実を告げられた伏黒恵が真っ赤な顔で激怒するまで、残り5分と32秒。
山形からの出張土産に買ってきたのは、大量のさくらんぼ。
甘党の五条らしいチョイスといえばチョイスだ。
彼が現在受け持っている生徒三人と、硝子による定期検診帰りの名無しは、さくらんぼを黙々と咀嚼しながら五条へ視線を向けた。
「えー、それって手で?」
「いんや?舌で。」
虎杖が指先でくるりと巻いたさくらんぼのヘタを五条に見せる。
その五条はというと『手本を見せてやる』と言わんばかりにさくらんぼのヘタを口の中に放り込んだ。
もそり、もそり。
ガムを噛んでいるかのように動かされる口元。
数秒後、「べ。」と出された肉色の舌上には、器用に結ばれたさくらんぼのヘタが披露されることとなった。
「おお!」
「さぁて、出来るかな?若人達よ!」
唯一素直に感動した虎杖が、真っ先にさくらんぼのヘタを口の中に放り込む。
もぐ、もぐ、…もそ…むぐ…もぐ……………
「へんへぇ!れきた!」
「おー、やるじゃん悠仁。」
パチパチと拍手をする五条と、さくらんぼのヘタを結べてご満悦の虎杖。
それをちらりと横目で見て、伏黒は黙ってヘタを口に含んだ。
「私はやらないわよ。行儀悪いじゃない。」
ティッシュでさくらんぼの種を包みながら釘崎が肩を竦める。
乗り気にならない紅一点の生徒を焚き付けるため、五条は態とらしく声を上げた。
「えー。野薔薇、これ都会のオンナは出来て当たり前なのに?」
「?、何でよ。」
「それはね……」
野薔薇の耳元でコソコソと囁く五条。
一言、二言。
魔法の言葉でも贈ったのか、内緒話が終わった途端「やるわ!やってやろうじゃないの!」と釘崎のヤル気はアクセル全開になった。
そんないたいけな若人を弄ぶ恋人を眺めながら、名無しは呆れたようにさくらんぼを黙々と咀嚼する。
瑞々しい朱色の薄皮。甘酸っぱい果肉は『流石山形県産』と絶賛したくなる程の美味しさだった。
「ね、名無しはもうチャレンジしないの?」
ニタニタと笑いながら五条が顔を覗き込んで来る。
宝石のような目元は、薄布一枚隔てて楽しそうに細められているに違いない。
「ぜっっっっったいしません。」
何個目かのさくらんぼを口に入れる彼女を見ながら、五条悟は「それは残念。」と笑うのであった。
***
記憶を遡り、それは付き合いたての頃。
同じように山形へ五条が出張へ行き、土産にさくらんぼを買ってきたことがあった。
『ね。名無しはさくらんぼのヘタ、口の中で結べる?』
同じような口上を浮かべ、いとも簡単に口内で結んださくらんぼのヘタを披露する五条。
その意味を理解していなかった名無しは、特に何も疑問に思うことなく言われるがままチャレンジした。
が、結果は惨敗。
くたくたに草臥れた、可愛そうなさくらんぼのヘタばかりがティッシュの上に散乱した。
『難しいですよ、これ…』
『デショ。』
『これって何かのゲームですか?』
『ん?……意味、知りたい?』
勿体ぶるように問い返してくる五条。
特に深く考えず首を一度縦に振ったことを、あの時ほど後にも先にも後悔したことはないだろう。
五条の自室だからか、既に取り払われていた目隠し。
高級なとんぼ玉のように美しい瞳を弓なりに細め、まるで内緒話のようにコソコソと耳元で囁かれた。
『さくらんぼのヘタを口の中で結べたらね、キスが上手なんだよ。』
無駄に色気を乗せて。
いつもより少し低い声で、吐息と共に吐き出された言葉。
擽ったいやらゾクゾクするやらで、名無しは反射的に耳元を手で押えた。
が、時すでに遅し。
『さくらんぼのヘタが結べるように、手取り足取り舌取り教えてあげよっか。』
――その後、散々口内を犯され、色々な意味で歯止めがきかなくなったのは言うまでもないだろう。
さくらんぼの楽しみ方
「っしゃあ!出来たわよ!」
「おぉ!やるな、釘崎!な、伏黒はまだ出来ないのか?」
「…ふふはい。」
何度目かのチャレンジの末、口の中でヘタを結べるようになった釘崎。
『都会の女』に憧れる彼女からすれば、これは勲章ものだろう。
一方、本当の意味を理解していない伏黒は眉を顰めながらさくらんぼのヘタと未だに格闘していた。
『さて、いつ本当の意味を純粋無垢な男子高生に暴露してやろうか』とニヤつく、底意地の悪い担任に見守られながら。
名無しは憐れむような視線を伏黒に向けた後、最後の一個を啄むように咀嚼した。
真実を告げられた伏黒恵が真っ赤な顔で激怒するまで、残り5分と32秒。