short story
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名無しに、変な暗示が掛かった。
一時的な呪術の影響らしいが……。
「まぁ害はないし、一日程で治るだろう。」
満更でもなさそうな表情で家入は笑う。
理由は明確。そして単純だ。
「硝子さん、硝子さん。もう一回、」
「ん?はいはい。」
名前を呼ばれ、頬を差し出す家入。
ぎゅっと首元に腕を回し、硝子の頬にキスを贈るのはふにゃふにゃと笑う名無しだ。
酒に酔っているならまだマシだったろうに。
残念ながら呪術による暗示なので解呪が難儀だ。
「一応手は尽くしたけどね」と小さく笑う家入は……何故かあまり深刻そうな顔をしていなかった。
「これ悟が見たら発狂するんじゃね?」
「ありえそう…」
「しゃけ。」
「オーイ、名無し。お前ちょっと部屋に閉じこもってろ。」
真希。乙骨。狗巻。パンダ。
実習から帰ってきた4人は呆れた顔で保健医と寮母を眺めていた。
その中でも付き合いの長いパンダが名無しを家入から剥がし、ひょいと肩に担いだ。
が。
「あ、パーンダ。」
語尾にハートが付きそうなくらい、ご機嫌な声。
もふもふとした身体にぎゅっと抱きつき、白いフワフワの頬に『ちゅぅ』と音を立ててキスをした。
これにはパンダも驚き、ついうっかり手を離してしまった。
暗示にかかっていても身軽さは変わらないらしい。
トンと軽やかに床に降り立ち、フリーズした一年達を見遣る名無し。
真っ先に目が合ったのは、
「真希ちゃん!」
「う、わっ!」
ぴょい、と抱きつき、にこにこと満面の笑顔を浮かべる名無し。
一見同い年くらいの女子二人の仲睦まじい…いや百合に見紛う光景だが、残念ながら16歳が24歳に襲われているという、色々な意味で事案案件だ。
真希も真希で振り払うに振り払えない。
一瞬の判断が命取りだったようで、真希の柔らかい頬にも名無しから口付けが贈られた。
そう。実害という実害はない。
名無しが『キス魔』になったという、本人が素面に戻ったら泣いて土下座しそうな呪いという点以外は。
誠実が服を着て歩いているような彼女が、まさかこんなことになるとは。
呪いの恐ろしさを改めて目の当たりにする乙骨だった。
「次は〜……」
乙骨と、狗巻に視線が向けられる。
……逃げ切れられるのか?あの一級呪術師から。
動揺した思考で判断が鈍ってしまったようで、彼女の動きに反応が遅れてしまう。
真希を離し、トンと名無しが足を床に着けた。
その瞬間だった。
「全く、何やってんの〜?名無し。」
猫の首根っこを掴むように、ひょいと小脇に抱える五条。
名無しが特別小柄というわけではないのだが、190cm超えの五条が抱えるとなるとスケールの感覚が狂ってしまいそうになる。
「あ、五条さん。」
「うわ、ホントだ。硝子から連絡貰った通りじゃん…。珍しいねぇ、呪いを貰っちゃうなんて。」
花の咲くような笑顔を浮かべる名無し。
普段ならそんな顔を見た瞬間デレデレしそうな五条も、あまりにタチの悪い呪いを目の当たりにして口元を珍しく歪めていた。
「で?預かってくれる?」
「そりゃね。」
家入が問うと二つ返事で頷く五条。
……五条が高専に戻ってきてなかったら誰に預けるつもりだったのだろう。
人によっては役得なのかもしれないが、その後の五条の怒りを想像したら……考えたくもない。死人が出る。
「五条さん、五条さん。ちゃんと抱っこしてください。」
「あ〜…もう、呪いでこんな甘えっ子になってるのは何か複雑だなぁ…」
小脇に抱えていた名無しを抱き直し、正面から子供を抱き上げるように持ち上げる。
名無しも名無しで五条の首周りに腕を回し、至極嬉しそうに肩へ頬をすりよせた。まるで猫である。
「あ。五条さん、」
「ん?」
五条の頬を両手で挟み、無防備だった唇へ桜色の唇を躊躇なく重ねる。
それは先程まで家入や可愛い後輩達にしていた頬への可愛らしいキスではなく、確実に『本命』だと分かるもので。
何度か『ちゅ、ちゅぅ』と音を立てて重ね直し、顔を傾けて唇を深く食んだ。
忘れてしまいそうになるが、家入を始め乙骨達も見ている。
色々スレてしまった家入はともかく、まだまだ青春真っ盛りの高校生達にこの光景は刺激的過ぎて。
乙骨は固まり、狗巻は咄嗟に目を塞ぎ、真希は手で塞いでいるものの指の間から見ている。
パンダは「あーあ…これ正気に戻ったら名無し恥ずかしさで死ぬんじゃないか」と呆れていた。
――言うまでもないが五条は五条で満更でもない顔をしている。
包帯による目隠しで表情が分かりにくいにも関わらず、キスしている口元だけで察せられる程だ。
名無しの後頭部を掴み、あえて呼吸が出来ない程に深く口付けていた。
生徒の目の前ですよ、五条先生。
「ぷは、」と解放された唇。
仕掛けたのは名無しからだというのに、真っ赤な顔でクタクタになったのは彼女の方だった。
五条はというと『ごちそうさま』と言わんばかりに唇をぺろりと舐め、満足そうに口角を上げている。
「じゃ、名無しも大人しくなったし連れて帰るね〜」と呑気な――いや、僅かに弾んだ声で別れを告げて。
「……僕らは一体何を見せられたの…」
「考えるな、憂太。悟はあぁいう大人だからな。」
「……それより素面に戻ったあとの名無しが心配だな。」
「すじこ…」
乙骨が真っ赤な顔で呟き、パンダが肩を叩く。
憐れみを込めた視線を真希は送り、狗巻は同情するような声でおにぎりの具をそっと口にした。
Kiss shot!
――次の日。
真っ赤な顔で土下座をする名無しが高専で見られたとか。
「ま、私は名無しにキスされて悪い気はしなかったけどね。」
「やめてよ、硝子。名無しは僕のなんだけど?」
一時的な呪術の影響らしいが……。
「まぁ害はないし、一日程で治るだろう。」
満更でもなさそうな表情で家入は笑う。
理由は明確。そして単純だ。
「硝子さん、硝子さん。もう一回、」
「ん?はいはい。」
名前を呼ばれ、頬を差し出す家入。
ぎゅっと首元に腕を回し、硝子の頬にキスを贈るのはふにゃふにゃと笑う名無しだ。
酒に酔っているならまだマシだったろうに。
残念ながら呪術による暗示なので解呪が難儀だ。
「一応手は尽くしたけどね」と小さく笑う家入は……何故かあまり深刻そうな顔をしていなかった。
「これ悟が見たら発狂するんじゃね?」
「ありえそう…」
「しゃけ。」
「オーイ、名無し。お前ちょっと部屋に閉じこもってろ。」
真希。乙骨。狗巻。パンダ。
実習から帰ってきた4人は呆れた顔で保健医と寮母を眺めていた。
その中でも付き合いの長いパンダが名無しを家入から剥がし、ひょいと肩に担いだ。
が。
「あ、パーンダ。」
語尾にハートが付きそうなくらい、ご機嫌な声。
もふもふとした身体にぎゅっと抱きつき、白いフワフワの頬に『ちゅぅ』と音を立ててキスをした。
これにはパンダも驚き、ついうっかり手を離してしまった。
暗示にかかっていても身軽さは変わらないらしい。
トンと軽やかに床に降り立ち、フリーズした一年達を見遣る名無し。
真っ先に目が合ったのは、
「真希ちゃん!」
「う、わっ!」
ぴょい、と抱きつき、にこにこと満面の笑顔を浮かべる名無し。
一見同い年くらいの女子二人の仲睦まじい…いや百合に見紛う光景だが、残念ながら16歳が24歳に襲われているという、色々な意味で事案案件だ。
真希も真希で振り払うに振り払えない。
一瞬の判断が命取りだったようで、真希の柔らかい頬にも名無しから口付けが贈られた。
そう。実害という実害はない。
名無しが『キス魔』になったという、本人が素面に戻ったら泣いて土下座しそうな呪いという点以外は。
誠実が服を着て歩いているような彼女が、まさかこんなことになるとは。
呪いの恐ろしさを改めて目の当たりにする乙骨だった。
「次は〜……」
乙骨と、狗巻に視線が向けられる。
……逃げ切れられるのか?あの一級呪術師から。
動揺した思考で判断が鈍ってしまったようで、彼女の動きに反応が遅れてしまう。
真希を離し、トンと名無しが足を床に着けた。
その瞬間だった。
「全く、何やってんの〜?名無し。」
猫の首根っこを掴むように、ひょいと小脇に抱える五条。
名無しが特別小柄というわけではないのだが、190cm超えの五条が抱えるとなるとスケールの感覚が狂ってしまいそうになる。
「あ、五条さん。」
「うわ、ホントだ。硝子から連絡貰った通りじゃん…。珍しいねぇ、呪いを貰っちゃうなんて。」
花の咲くような笑顔を浮かべる名無し。
普段ならそんな顔を見た瞬間デレデレしそうな五条も、あまりにタチの悪い呪いを目の当たりにして口元を珍しく歪めていた。
「で?預かってくれる?」
「そりゃね。」
家入が問うと二つ返事で頷く五条。
……五条が高専に戻ってきてなかったら誰に預けるつもりだったのだろう。
人によっては役得なのかもしれないが、その後の五条の怒りを想像したら……考えたくもない。死人が出る。
「五条さん、五条さん。ちゃんと抱っこしてください。」
「あ〜…もう、呪いでこんな甘えっ子になってるのは何か複雑だなぁ…」
小脇に抱えていた名無しを抱き直し、正面から子供を抱き上げるように持ち上げる。
名無しも名無しで五条の首周りに腕を回し、至極嬉しそうに肩へ頬をすりよせた。まるで猫である。
「あ。五条さん、」
「ん?」
五条の頬を両手で挟み、無防備だった唇へ桜色の唇を躊躇なく重ねる。
それは先程まで家入や可愛い後輩達にしていた頬への可愛らしいキスではなく、確実に『本命』だと分かるもので。
何度か『ちゅ、ちゅぅ』と音を立てて重ね直し、顔を傾けて唇を深く食んだ。
忘れてしまいそうになるが、家入を始め乙骨達も見ている。
色々スレてしまった家入はともかく、まだまだ青春真っ盛りの高校生達にこの光景は刺激的過ぎて。
乙骨は固まり、狗巻は咄嗟に目を塞ぎ、真希は手で塞いでいるものの指の間から見ている。
パンダは「あーあ…これ正気に戻ったら名無し恥ずかしさで死ぬんじゃないか」と呆れていた。
――言うまでもないが五条は五条で満更でもない顔をしている。
包帯による目隠しで表情が分かりにくいにも関わらず、キスしている口元だけで察せられる程だ。
名無しの後頭部を掴み、あえて呼吸が出来ない程に深く口付けていた。
生徒の目の前ですよ、五条先生。
「ぷは、」と解放された唇。
仕掛けたのは名無しからだというのに、真っ赤な顔でクタクタになったのは彼女の方だった。
五条はというと『ごちそうさま』と言わんばかりに唇をぺろりと舐め、満足そうに口角を上げている。
「じゃ、名無しも大人しくなったし連れて帰るね〜」と呑気な――いや、僅かに弾んだ声で別れを告げて。
「……僕らは一体何を見せられたの…」
「考えるな、憂太。悟はあぁいう大人だからな。」
「……それより素面に戻ったあとの名無しが心配だな。」
「すじこ…」
乙骨が真っ赤な顔で呟き、パンダが肩を叩く。
憐れみを込めた視線を真希は送り、狗巻は同情するような声でおにぎりの具をそっと口にした。
Kiss shot!
――次の日。
真っ赤な顔で土下座をする名無しが高専で見られたとか。
「ま、私は名無しにキスされて悪い気はしなかったけどね。」
「やめてよ、硝子。名無しは僕のなんだけど?」