short story
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それに気がついたのは『たまたま』だった。
掠めるよう、不意に塞がれる唇。
驚きのあまり目を閉じることも忘れてしまえば、宝石のような青と視線が絡む。
二度目。つい先程のこと。
部屋で寛いでいたら、見ていたB級映画に飽きた五条が啄むようなキスの雨を降らせてきた。
反射的に目を閉じてしまったものの、恐る恐る目を開ければ、それはそれは嬉しそうに目を細めた男が映るではないか。
そこで、思った。
いや。気がついてしまったというのが正しいかもしれない。
「……なんでキスするとき、目を閉じないんですか?」
ぽそりと問えば、とてもとても意外そうに五条は目を見開いた。
「だってチューしてる時の名無しの顔、見たいじゃん。」
「普通、目を、閉じませんか?」
息を吐くように吐き出された甘い台詞に対してしどろもどろになりつつ、名無しは静かに抗議した。
普通の何たるかは知らないが、少なくともドラマや映画ではあんな風に人の顔をまじまじ見ながらキスするシーンなんて見たことない。
「分かってないなぁ、名無しは。」
「何がですか。」
「キスでいっぱいいっぱいで震える睫毛とか、唇離した時に蕩けたような表情とか一部始終見れるんだよ?最高じゃない?」
「悪趣味としか言い様がありません…!」
恥ずかしくなるような解説を頂き、ついつい声音が荒ぶってしまう。
……落ち着け、落ち着け。ここはそう、深呼吸だ。
ドッドッと脈打つ鼓動を鎮まらせるため、一度、二度、三度。
酸素を大きく吸い込み、二酸化炭素をゆっくり吐き出した。
「名無しも目を開いておけばいいじゃないの。」
「…は、はい?」
「良さが分かるかもよ?それにほら。おあいこだし」
別に『おあいこ』を求めているわけでも、痛み分けをしたいわけでもないのだが。
それを訴えたところで五条悟という男は引き下がることも納得することもないし、この恥ずかしい行為をやめることもないだろう。
目には目を歯には歯を。
ハンムラビ法典を作った人は、さぞかしギャフンと言わせたい相手がいたのだろう。
「……どんだけ恥ずかしいのか五条さんも分かればいいんだ…」
「へぇ。恥ずかしいの?」
「恥ずかしいです。」
B級映画の続きは見る気がないのだろう。
チープな演技に、陳腐な特殊メイク。
パニック物の使い古されたネタだからか、飽きてしまったらしい。
映画をそっちのけで名無しの頬に手を添える五条。
「目、閉じたらダメだからね?」と念を押し、いつも通り唇を重ねた。
やわらかく、微睡むようなキス。
いつもと違うのは――触れて、溶け合ってしまいそうな近さの青い双眸。
時折瞬きをする瞼には化粧品CMのような睫毛がするりと伸びている。
毛穴ひとつない肌も透き通るような色も、あまりに現実離れしすぎていて『実はこの人は妖精か何かではないのか』と他人事のように考えてしまった。
触れては、離れ。
離れては、触れて。
触れるだけの口付け。そのはずだった。
何度目かの接吻。
ニヤリと愉しそうに細められる目元。
後頭部に手を添えられ、引き寄せられ、啄むようなキスは突然飲み込む様な深いものに変わった。
「ん、んんッ!?」
抗議の声は唇によってやわらかく塞がれ、抵抗しようと腕を動かす前に呆気なく捕まってしまう。
角度を変え、歯列を割ってぬるりと口内へ侵入してくる舌に目眩がする。
座っていたはずなのに、いつの間にやら五条の後ろに天井が見える。
押し倒されたことにも気づかないくらい、溺れるような深いキスでいっぱいいっぱいだった。
熱を帯びた、青。
ふわふわゾクゾクするような感覚と、思考を鈍らせる口付けで、目を閉じるとか開けるとか
――もうそれどころじゃなかった。
目一杯の、愛を
曇りひとつない黒い瞳に、自分が映り込む。
恥じらいと熱で震える瞼を見るのも乙なものだが、吸い込まれそうな黒を覗き込むのも筆舌に尽くし難い。
最初は『絶対に目を逸らすものか』とこちらを見上げてきていた視線も、何度も何度もキスを落とせばゆるゆるとほどけてく。
優越感と、加虐心と、それ以上にたまらなく愛しくて。
ついつい戯れだったはずの軽いキスは、貪るような深いキスになってしまった。
それでも閉じられない双眸。
息苦しさで涙目になろうとも、宣言通り僕を見てくる その目が好きだ。
特別な目じゃない。
けれど、ありのままの『五条悟』を見てくれる、普通で、僕にとって特別な目が、
「好きだよ、名無し。」
一瞬唇を離し、今持ち合わせるだけの貧相な語彙を総動員して贈る囁き。
夜の水面よりも艶やかな瞳も、
不器用にはにかむ笑顔も、
その傷だらけの気高い心も、
全部全部。
(ああ。ずっと見てたいくらい、好き)
掠めるよう、不意に塞がれる唇。
驚きのあまり目を閉じることも忘れてしまえば、宝石のような青と視線が絡む。
二度目。つい先程のこと。
部屋で寛いでいたら、見ていたB級映画に飽きた五条が啄むようなキスの雨を降らせてきた。
反射的に目を閉じてしまったものの、恐る恐る目を開ければ、それはそれは嬉しそうに目を細めた男が映るではないか。
そこで、思った。
いや。気がついてしまったというのが正しいかもしれない。
「……なんでキスするとき、目を閉じないんですか?」
ぽそりと問えば、とてもとても意外そうに五条は目を見開いた。
「だってチューしてる時の名無しの顔、見たいじゃん。」
「普通、目を、閉じませんか?」
息を吐くように吐き出された甘い台詞に対してしどろもどろになりつつ、名無しは静かに抗議した。
普通の何たるかは知らないが、少なくともドラマや映画ではあんな風に人の顔をまじまじ見ながらキスするシーンなんて見たことない。
「分かってないなぁ、名無しは。」
「何がですか。」
「キスでいっぱいいっぱいで震える睫毛とか、唇離した時に蕩けたような表情とか一部始終見れるんだよ?最高じゃない?」
「悪趣味としか言い様がありません…!」
恥ずかしくなるような解説を頂き、ついつい声音が荒ぶってしまう。
……落ち着け、落ち着け。ここはそう、深呼吸だ。
ドッドッと脈打つ鼓動を鎮まらせるため、一度、二度、三度。
酸素を大きく吸い込み、二酸化炭素をゆっくり吐き出した。
「名無しも目を開いておけばいいじゃないの。」
「…は、はい?」
「良さが分かるかもよ?それにほら。おあいこだし」
別に『おあいこ』を求めているわけでも、痛み分けをしたいわけでもないのだが。
それを訴えたところで五条悟という男は引き下がることも納得することもないし、この恥ずかしい行為をやめることもないだろう。
目には目を歯には歯を。
ハンムラビ法典を作った人は、さぞかしギャフンと言わせたい相手がいたのだろう。
「……どんだけ恥ずかしいのか五条さんも分かればいいんだ…」
「へぇ。恥ずかしいの?」
「恥ずかしいです。」
B級映画の続きは見る気がないのだろう。
チープな演技に、陳腐な特殊メイク。
パニック物の使い古されたネタだからか、飽きてしまったらしい。
映画をそっちのけで名無しの頬に手を添える五条。
「目、閉じたらダメだからね?」と念を押し、いつも通り唇を重ねた。
やわらかく、微睡むようなキス。
いつもと違うのは――触れて、溶け合ってしまいそうな近さの青い双眸。
時折瞬きをする瞼には化粧品CMのような睫毛がするりと伸びている。
毛穴ひとつない肌も透き通るような色も、あまりに現実離れしすぎていて『実はこの人は妖精か何かではないのか』と他人事のように考えてしまった。
触れては、離れ。
離れては、触れて。
触れるだけの口付け。そのはずだった。
何度目かの接吻。
ニヤリと愉しそうに細められる目元。
後頭部に手を添えられ、引き寄せられ、啄むようなキスは突然飲み込む様な深いものに変わった。
「ん、んんッ!?」
抗議の声は唇によってやわらかく塞がれ、抵抗しようと腕を動かす前に呆気なく捕まってしまう。
角度を変え、歯列を割ってぬるりと口内へ侵入してくる舌に目眩がする。
座っていたはずなのに、いつの間にやら五条の後ろに天井が見える。
押し倒されたことにも気づかないくらい、溺れるような深いキスでいっぱいいっぱいだった。
熱を帯びた、青。
ふわふわゾクゾクするような感覚と、思考を鈍らせる口付けで、目を閉じるとか開けるとか
――もうそれどころじゃなかった。
目一杯の、愛を
曇りひとつない黒い瞳に、自分が映り込む。
恥じらいと熱で震える瞼を見るのも乙なものだが、吸い込まれそうな黒を覗き込むのも筆舌に尽くし難い。
最初は『絶対に目を逸らすものか』とこちらを見上げてきていた視線も、何度も何度もキスを落とせばゆるゆるとほどけてく。
優越感と、加虐心と、それ以上にたまらなく愛しくて。
ついつい戯れだったはずの軽いキスは、貪るような深いキスになってしまった。
それでも閉じられない双眸。
息苦しさで涙目になろうとも、宣言通り僕を見てくる その目が好きだ。
特別な目じゃない。
けれど、ありのままの『五条悟』を見てくれる、普通で、僕にとって特別な目が、
「好きだよ、名無し。」
一瞬唇を離し、今持ち合わせるだけの貧相な語彙を総動員して贈る囁き。
夜の水面よりも艶やかな瞳も、
不器用にはにかむ笑顔も、
その傷だらけの気高い心も、
全部全部。
(ああ。ずっと見てたいくらい、好き)