short story
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「どの時の五条先生が一番怖かったか、って?」
伏黒と釘崎との他愛ない会話。
俺は空になったコーラの空き缶をくずかごに放り入れながら首を捻った。
「そ。私は……先生が買ってきてたドーナツを勝手に食べちゃった時かしら…」
「…………俺は初対面の時だな。」
甘党の五条先生による食べ物の恨みは中々に根深いらしい。釘崎は真顔になりながらそっと答えた。
伏黒の場合は――まぁ、確かに家の前で突然サングラスかけた若い兄ちゃんに話しかけられたら、怖いかもしれない。
「アンタはどうなのよ。」
釘崎がレモンティーのペットボトル片手に尋ねてくる。
……今までで一番怖かった五条先生か…。
「あ。」
ある。
正直、ちょっとチビりそうになったヤツが。
***
それは、俺がまだ高専に来たばかりの事だった。
五条先生に高専の寮を案内してもらっている時、名無しに会ったんだ。
『わ。先生、女の子だ。あの子も生徒?』
『あはは、違うよ。あの子は卒業生さ。可愛いでしょ。
今から案内する、君の寮の寮母をしてくれてるんだ。あと――』
『こんにちはーーー!』
箒で落葉を集め、寮の前の掃除をしていた名無し。
一つ目の落ち度は……先生の言葉を最後まで聞かなかったことだな、うん。
『?、こんにちは…あれ。五条先生。何してるんですか。』
『新入生の案内さ。彼は虎杖悠仁クン。』
『虎杖悠仁っス!よろしくお願いしまっす!』
『よろしくね、虎杖くん。
私はななし名無し。一応、寮の管理を任してもらってます。何か困ったことがあったらいつでも相談して下さいね』
『はい!』
小柄で、ほっそりしてて……卒業生ってことは、俺より歳上だよな?
年齢不詳の寮母さんに対して、俺はただただ心の中で首を傾げた。
反射的に握手をしようと手を出した。
ここでの最大の落ち度は……アイツの存在をすっかり忘れていたことだった。
薄い、しかし働き者の手を握った瞬間、手のひらに何か違和感を感じた。
名無しもこれには驚いたらしく、握手をした途端肩を大きく跳ねさせた。
《久しい呪力の気配だ!おい女!お前、八百比丘尼か!》
俺の手のひらが勝手に喋る。
――正しくは、俺の中にいる宿儺が。
いや、勝手に出てくる体質なのはもう諦めたけど、握手してる時に出てくるなよ!
《相変わらず美味そうだ。舐めるだけでは飽き足らぬ、喰わせ》
ろ。
ぱちん。
宿儺の目と口を叩いて黙らせる。
っていうか、舐めたのか。お前。
初対面の、女の子の、手のひらを。
(俺、ヤバいヤツじゃん!!!!!!)
いや、特級呪物食ってる時点でヤバいヤツ扱いされるんだろうけどさ。
噛むとかなら、まぁ。呪霊だし。
舐めるって。舐めるってお前。
…………変態じゃんか!
あーーーだから手のひら抑えて真っ赤になってるのか!ごめん、ごめんなななし名無しさん!
今度美味しいアイス…ほら……えっと、ほら………ガリガリ君奢るから!
「悠仁。」
「五条せん……せ。」
「今度、宿儺に『よろしくね』って伝えといて。」
よろしくって、何。
何をよろしくするの。
先生、笑顔が無茶苦茶怖いって。
ねぇ、宿儺のヤツに言ってんだよね!?俺じゃないよね!?
『い、虎杖くん、気にしなくていいからね!?ほら、うん、こう、呪霊が出てくる時もあるよね!』
多分普通はないと思います。
そして一生懸命フォローする名無しさんを無理矢理連れていく五条先生。
いやいやいや、怖い。怖すぎるから。
校舎を曲がった向こうにある水飲み場の向こう側で、暫くして『びゃっ』という悲鳴が聞こえた気がしたが……俺には確かめる勇気はなかった。
***
「……っていう話なんだ。」
「え、怖。アンタそれMVPじゃん」
ドン引きする釘崎と、頭を抱える伏黒。
この三人の中で比較的良識人の彼は、どこからどう突っ込むべきか悩んでいた。
(1、五条先生がしれっと可愛いとか惚気けてるとこ。2、宿儺に目をつけられた名無しが哀れすぎる。3、五条先生の嫉妬深さ。4、水飲み場……に消えた後の悲鳴は、まぁ、そっとしてとくか……)
虎杖の、下手なホラーよりも恐ろしい話を聞き、伏黒恵は哀れみに満ちた溜息をそっと吐き出すのであった。
Handshake&Poltergeist
余談。
『五条先生、五条先生!……五条さんってば!』
『ほら、早く洗おう。あーあーあー、もう油断してた。絶対祓お。』
『いや、まぁ、洗いますけど。』
備え付けのネット入り石鹸で、念入りに手を洗わされる。
ネットがゴリゴリ手のひらに擦れて痛いくらいだ。
『あんな笑顔で圧をかけたら虎杖くん可哀想じゃないですか。』
『……じゃあ僕のこのモヤモヤはどうしたらいいのさ。』
『どうしたら、って。』
かと言って勝手に呪霊が体の表面に出てくるのはどうしようもないのでは。
つくづく《あぁいう副作用がない分、人魚の肉はまだマシか》と思ってしまう。
さっきまで笑顔で怒っていたのに、今や拗ねた子供のようだ。
口先をへの字に曲げ、完全に臍を曲げてしまっていた。
『そうだ。僕も舐めよっと。』
『そうですね……って、はい?』
手を取られ、上に掲げさせられる。
長身の五条が腰を曲げ、名無しの手を口元に寄せ――
れろっ。
『びゃっ』
思わず、変な声が出た。
視界に飛び込んできた発禁モノの光景と、ヌメリとした柔らかい舌の感触。
ぞくりと背筋を走った妙な感覚に、地面から1センチほど飛び上がってしまいそうになった。
『……足りないから、続きは今晩ね。』
ちゅっ、と可愛らしいリップ音を鳴らし、ほんの少し機嫌をなおした五条が背筋を伸ばす。
いつもと変わらない歩調で虎杖の元へ戻って行った彼の背中を見送りながら、名無しがポツリと呟いた。
『…………………私、とばっちりじゃない?これ。』
伏黒と釘崎との他愛ない会話。
俺は空になったコーラの空き缶をくずかごに放り入れながら首を捻った。
「そ。私は……先生が買ってきてたドーナツを勝手に食べちゃった時かしら…」
「…………俺は初対面の時だな。」
甘党の五条先生による食べ物の恨みは中々に根深いらしい。釘崎は真顔になりながらそっと答えた。
伏黒の場合は――まぁ、確かに家の前で突然サングラスかけた若い兄ちゃんに話しかけられたら、怖いかもしれない。
「アンタはどうなのよ。」
釘崎がレモンティーのペットボトル片手に尋ねてくる。
……今までで一番怖かった五条先生か…。
「あ。」
ある。
正直、ちょっとチビりそうになったヤツが。
***
それは、俺がまだ高専に来たばかりの事だった。
五条先生に高専の寮を案内してもらっている時、名無しに会ったんだ。
『わ。先生、女の子だ。あの子も生徒?』
『あはは、違うよ。あの子は卒業生さ。可愛いでしょ。
今から案内する、君の寮の寮母をしてくれてるんだ。あと――』
『こんにちはーーー!』
箒で落葉を集め、寮の前の掃除をしていた名無し。
一つ目の落ち度は……先生の言葉を最後まで聞かなかったことだな、うん。
『?、こんにちは…あれ。五条先生。何してるんですか。』
『新入生の案内さ。彼は虎杖悠仁クン。』
『虎杖悠仁っス!よろしくお願いしまっす!』
『よろしくね、虎杖くん。
私はななし名無し。一応、寮の管理を任してもらってます。何か困ったことがあったらいつでも相談して下さいね』
『はい!』
小柄で、ほっそりしてて……卒業生ってことは、俺より歳上だよな?
年齢不詳の寮母さんに対して、俺はただただ心の中で首を傾げた。
反射的に握手をしようと手を出した。
ここでの最大の落ち度は……アイツの存在をすっかり忘れていたことだった。
薄い、しかし働き者の手を握った瞬間、手のひらに何か違和感を感じた。
名無しもこれには驚いたらしく、握手をした途端肩を大きく跳ねさせた。
《久しい呪力の気配だ!おい女!お前、八百比丘尼か!》
俺の手のひらが勝手に喋る。
――正しくは、俺の中にいる宿儺が。
いや、勝手に出てくる体質なのはもう諦めたけど、握手してる時に出てくるなよ!
《相変わらず美味そうだ。舐めるだけでは飽き足らぬ、喰わせ》
ろ。
ぱちん。
宿儺の目と口を叩いて黙らせる。
っていうか、舐めたのか。お前。
初対面の、女の子の、手のひらを。
(俺、ヤバいヤツじゃん!!!!!!)
いや、特級呪物食ってる時点でヤバいヤツ扱いされるんだろうけどさ。
噛むとかなら、まぁ。呪霊だし。
舐めるって。舐めるってお前。
…………変態じゃんか!
あーーーだから手のひら抑えて真っ赤になってるのか!ごめん、ごめんなななし名無しさん!
今度美味しいアイス…ほら……えっと、ほら………ガリガリ君奢るから!
「悠仁。」
「五条せん……せ。」
「今度、宿儺に『よろしくね』って伝えといて。」
よろしくって、何。
何をよろしくするの。
先生、笑顔が無茶苦茶怖いって。
ねぇ、宿儺のヤツに言ってんだよね!?俺じゃないよね!?
『い、虎杖くん、気にしなくていいからね!?ほら、うん、こう、呪霊が出てくる時もあるよね!』
多分普通はないと思います。
そして一生懸命フォローする名無しさんを無理矢理連れていく五条先生。
いやいやいや、怖い。怖すぎるから。
校舎を曲がった向こうにある水飲み場の向こう側で、暫くして『びゃっ』という悲鳴が聞こえた気がしたが……俺には確かめる勇気はなかった。
***
「……っていう話なんだ。」
「え、怖。アンタそれMVPじゃん」
ドン引きする釘崎と、頭を抱える伏黒。
この三人の中で比較的良識人の彼は、どこからどう突っ込むべきか悩んでいた。
(1、五条先生がしれっと可愛いとか惚気けてるとこ。2、宿儺に目をつけられた名無しが哀れすぎる。3、五条先生の嫉妬深さ。4、水飲み場……に消えた後の悲鳴は、まぁ、そっとしてとくか……)
虎杖の、下手なホラーよりも恐ろしい話を聞き、伏黒恵は哀れみに満ちた溜息をそっと吐き出すのであった。
Handshake&Poltergeist
余談。
『五条先生、五条先生!……五条さんってば!』
『ほら、早く洗おう。あーあーあー、もう油断してた。絶対祓お。』
『いや、まぁ、洗いますけど。』
備え付けのネット入り石鹸で、念入りに手を洗わされる。
ネットがゴリゴリ手のひらに擦れて痛いくらいだ。
『あんな笑顔で圧をかけたら虎杖くん可哀想じゃないですか。』
『……じゃあ僕のこのモヤモヤはどうしたらいいのさ。』
『どうしたら、って。』
かと言って勝手に呪霊が体の表面に出てくるのはどうしようもないのでは。
つくづく《あぁいう副作用がない分、人魚の肉はまだマシか》と思ってしまう。
さっきまで笑顔で怒っていたのに、今や拗ねた子供のようだ。
口先をへの字に曲げ、完全に臍を曲げてしまっていた。
『そうだ。僕も舐めよっと。』
『そうですね……って、はい?』
手を取られ、上に掲げさせられる。
長身の五条が腰を曲げ、名無しの手を口元に寄せ――
れろっ。
『びゃっ』
思わず、変な声が出た。
視界に飛び込んできた発禁モノの光景と、ヌメリとした柔らかい舌の感触。
ぞくりと背筋を走った妙な感覚に、地面から1センチほど飛び上がってしまいそうになった。
『……足りないから、続きは今晩ね。』
ちゅっ、と可愛らしいリップ音を鳴らし、ほんの少し機嫌をなおした五条が背筋を伸ばす。
いつもと変わらない歩調で虎杖の元へ戻って行った彼の背中を見送りながら、名無しがポツリと呟いた。
『…………………私、とばっちりじゃない?これ。』