Re:set//short story
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『あと一時間で今年も終わってしまいますね〜!』
テレビの画面から聞こえてくる、やたらとテンションの高いアナウンサーの声。
お世辞にも大きいとは言えない炬燵に足を入れ、俺はぼんやりと欠伸を噛み締めた。
眠気を振りほどきながらも、起きているのは理由がある。
「神田さん、どうぞ。年越しそばですよ」
『もう少し待ってください』と言われ、大人しく待っていると、名無しから出されたものは一杯の蕎麦。
海老天とネギが添えられた蕎麦からはふわりと出汁の香りが立ち上り、やわらかい湯気が鼻先を擽った。
「……年越しそば?」
「はい。験担ぎで食べる風習があるんですけど…イギリスではそういうのはないんですか?」
聞きなれない単語をオウムのように聞き返せば、自然と会話のキャッチボールが続けられる。
『口数が少ない』だとか『没交渉』だとか散々言われていた俺だが、不思議と名無しとの会話は不快感なく交わすことが出来た。
「新年だからといって、特別祝う風習はねぇな。」
「そうなんですか…。あ、ヨーロッパ圏はクリスマスの方が盛り上がりますもんね」
確かにそうかもしれない。
といっても、そんなイベント事を積極的に参加したことがない為、何処か他人事のような記憶を辿る。
はしゃぐような気分でもなかったし、何より騒がしいのは好きではない。
アクマとノアと殺し合いの最中、クリスマスに現を抜かすことが浅ましくも愚かしく思ったのも事実だ。
「こっちの『年越しそば』の方がよっぽどいい。」
それは、事実だ。
好物を食べる機会が与えられている。
目が眩むような眩さはない。
何より一番、騒がしくない。
慎ましく一年の厄祓いをする、儀式めいたこの行事の方がよっぽどしょうに合っていた。
「いただきます。」と手を合わせ、名無しが茹でた蕎麦を啜る。
ジェリーが作った蕎麦より些か茹ですぎなような気もするが、素人が用意したにしては十分美味い。
暖かい炬燵に温かい蕎麦。身体の芯からあたたまる組み合わせに、俺は思わず感嘆の息を吐いてしまった。
「験担ぎって、なんかあるのか?」
添えられていた海老天を嚥下し問えば、ちゅるちゅると蕎麦を啜っていた名無しが思い出すように首を傾げる。
「えっと……確か、寿命を延ばすとか、一年間の苦労を持ち越さないように噛み切るとか、色々あったはず…」
寿命を伸ばすだなんて、今の俺に一番必要で不要な験担ぎである。
──正確には、『不可能』な願い事であるのだが。
呪符は破綻しかけている。
第二使徒として調整されたこの肉体は、もうすぐ寿命を終えるだろう。
幾ら験担ぎとはいえ、壊れてしまうモノを繋ぐことなんて、それこそ過ぎたる願いに違いない。
だというのに、今こうして年越しそばを啜っている。
皮肉なものだと内心笑いながら、蕎麦独特の喉越しを味わった。
「ほら。神田さん、こっちに来ちゃったりで災難でしたから。しっかり厄祓いしちゃいましょう」
悪気もなく、悪意もなく。
善意100%の笑顔で名無しは屈託なく笑う。
「あぁ。」と返事を返し、透き通る出汁を口に含めば、昆布と鰹の風味が優しく後を引いた。
「美味いな。」
世辞はなく、本心で。
そう答えれば照れ臭そうに彼女は笑い、「お口にあって何よりです」とはにかんだのであった。
末永く、キミのそばに
それからおおよそ一年後、寿命が文字通り『延びる』ことになるとは、神田は知る由もない。
テレビの画面から聞こえてくる、やたらとテンションの高いアナウンサーの声。
お世辞にも大きいとは言えない炬燵に足を入れ、俺はぼんやりと欠伸を噛み締めた。
眠気を振りほどきながらも、起きているのは理由がある。
「神田さん、どうぞ。年越しそばですよ」
『もう少し待ってください』と言われ、大人しく待っていると、名無しから出されたものは一杯の蕎麦。
海老天とネギが添えられた蕎麦からはふわりと出汁の香りが立ち上り、やわらかい湯気が鼻先を擽った。
「……年越しそば?」
「はい。験担ぎで食べる風習があるんですけど…イギリスではそういうのはないんですか?」
聞きなれない単語をオウムのように聞き返せば、自然と会話のキャッチボールが続けられる。
『口数が少ない』だとか『没交渉』だとか散々言われていた俺だが、不思議と名無しとの会話は不快感なく交わすことが出来た。
「新年だからといって、特別祝う風習はねぇな。」
「そうなんですか…。あ、ヨーロッパ圏はクリスマスの方が盛り上がりますもんね」
確かにそうかもしれない。
といっても、そんなイベント事を積極的に参加したことがない為、何処か他人事のような記憶を辿る。
はしゃぐような気分でもなかったし、何より騒がしいのは好きではない。
アクマとノアと殺し合いの最中、クリスマスに現を抜かすことが浅ましくも愚かしく思ったのも事実だ。
「こっちの『年越しそば』の方がよっぽどいい。」
それは、事実だ。
好物を食べる機会が与えられている。
目が眩むような眩さはない。
何より一番、騒がしくない。
慎ましく一年の厄祓いをする、儀式めいたこの行事の方がよっぽどしょうに合っていた。
「いただきます。」と手を合わせ、名無しが茹でた蕎麦を啜る。
ジェリーが作った蕎麦より些か茹ですぎなような気もするが、素人が用意したにしては十分美味い。
暖かい炬燵に温かい蕎麦。身体の芯からあたたまる組み合わせに、俺は思わず感嘆の息を吐いてしまった。
「験担ぎって、なんかあるのか?」
添えられていた海老天を嚥下し問えば、ちゅるちゅると蕎麦を啜っていた名無しが思い出すように首を傾げる。
「えっと……確か、寿命を延ばすとか、一年間の苦労を持ち越さないように噛み切るとか、色々あったはず…」
寿命を伸ばすだなんて、今の俺に一番必要で不要な験担ぎである。
──正確には、『不可能』な願い事であるのだが。
呪符は破綻しかけている。
第二使徒として調整されたこの肉体は、もうすぐ寿命を終えるだろう。
幾ら験担ぎとはいえ、壊れてしまうモノを繋ぐことなんて、それこそ過ぎたる願いに違いない。
だというのに、今こうして年越しそばを啜っている。
皮肉なものだと内心笑いながら、蕎麦独特の喉越しを味わった。
「ほら。神田さん、こっちに来ちゃったりで災難でしたから。しっかり厄祓いしちゃいましょう」
悪気もなく、悪意もなく。
善意100%の笑顔で名無しは屈託なく笑う。
「あぁ。」と返事を返し、透き通る出汁を口に含めば、昆布と鰹の風味が優しく後を引いた。
「美味いな。」
世辞はなく、本心で。
そう答えれば照れ臭そうに彼女は笑い、「お口にあって何よりです」とはにかんだのであった。
末永く、キミのそばに
それからおおよそ一年後、寿命が文字通り『延びる』ことになるとは、神田は知る由もない。
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