Howard Link Report
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「どうして、貴女はエクソシストになろうと思ったんですか?」
Howard Link Report#04
長い長い、シベリア鉄道。
モスクワを出発し、ウラジオストックへ向かう車窓の景色は一面の雪景色だ。
…初夏ならば若葉色の草原が瑞々しく広がっているのだろうが。
ベロア生地の座席に浅く腰を掛け、私は彼女に問うた。
特に何をするわけでもなく、ぼんやり外を眺めていた彼女は視線をゆっくりこちらへ向ける。
「……突然どうしたんですか?」
「貴女は元々別の世界に住んでいたのでしょう?こっちの世界の事情に無理に付き合う必要はなかったのでは?」
報告書には目を通している。
彼女の住んでいた世界へ繋がる、僅かな歪み。
以前からそこへアクマが紛れてこんでいたこと。
イノセンス──『福音の瞳』も、その歪みへ落ちていたこと。
その歪みへ、任務中の神田ユウも巻き込まれたこと。
そして、彼女が『適合者』だったということ。
「元帥に連れてこられたからエクソシストになったのですか?」
「違いますよ。」
「ではなぜ?」
「だってイノセンスだけ持って帰られちゃったら失明しちゃうじゃないですか。それは困るからこっちに来ただけですよ。」
スラスラと並べられるもっともらしい理由。
普通ならそれで納得するだろうが、私は違和感しか感じなかった。
なぜなら、
「『死んだらイノセンスを回収してくれる人間を付けてくれ』なんて言うあなたがですか?適当にはぐらかさないでください。」
『手を貸してほしい』とも、ましてや『守ってくれ』でもない。
ただ万が一死亡した場合、『教団が困るだろうから』という理由だけで《お目付け役》をつけるよう長官に申し出た。
そんな彼女が自分の身可愛さでここへ来たとは、到底考えられない。
「……中々お節介な人ですね。」
「ウォーカーにも言われましたよ。」
「理由、任務に必要です?」
表情ひとつ変えず、彼女は小さく首を傾げる。
それは遠回しな『拒絶』だった。
──それでも。
「……必要ありませんが、私が納得出来ていないのです。住んでいた世界を捨ててまで、ここに来た理由はなんですか?」
一般人なら、住み慣れた土地を離れるということは身を切るような思いのはず。
それをまるで旅人のように、なんの躊躇いもなく切り捨てられる理由を純粋に知りたかった。
彼女は一体『何者』なのか。
人間であり、エクソシストであるのとは変わりないはずなのだが、『元・一般人』と枠に嵌めるにはどうしても違和感があった。
私の双眸をじっと見つめてくる瞳は、丹念に磨かれた黒曜石のようだ。
鏡のように艶やかな角膜に、困惑した表情の私の顔が映り込んでいた。
しばしの沈黙を経て、そっと溜息をつく彼女。
根負けしたように、ポツリと呟くように声を漏らした。
「私の命の価値を、証明するためです。」
静かな声は、少女のものとは思えなかった。
「……証明?」
「もういいじゃないですか。答えたんですから。」
視線を逸らし、再び流れる景色を眺める彼女。
これ以上語ることはないと言わんばかりに、窓の縁で頬杖をついた。
「……あぁ、でもひとつだけ。」
思い出したように、発される言葉。
「私が、この世界で生きるのを選んだんです。強要なんてされてませんし、むしろ……あの人は、ちょっと困っていたくらいですから。」
「困っていた?」
「連れて来るのも、目だけ回収するのも。」
『あの人』が誰か、なんて。
聞くのは無粋だろう。
その時の彼の様子を思い出したのか、少しだけ口元をそっと緩めたのを、私は見逃さなかった。
「全部、自分が選んだ結果ですから。だから逃げません。やるべきことを、やるだけです。」
Howard Link Report#04
長い長い、シベリア鉄道。
モスクワを出発し、ウラジオストックへ向かう車窓の景色は一面の雪景色だ。
…初夏ならば若葉色の草原が瑞々しく広がっているのだろうが。
ベロア生地の座席に浅く腰を掛け、私は彼女に問うた。
特に何をするわけでもなく、ぼんやり外を眺めていた彼女は視線をゆっくりこちらへ向ける。
「……突然どうしたんですか?」
「貴女は元々別の世界に住んでいたのでしょう?こっちの世界の事情に無理に付き合う必要はなかったのでは?」
報告書には目を通している。
彼女の住んでいた世界へ繋がる、僅かな歪み。
以前からそこへアクマが紛れてこんでいたこと。
イノセンス──『福音の瞳』も、その歪みへ落ちていたこと。
その歪みへ、任務中の神田ユウも巻き込まれたこと。
そして、彼女が『適合者』だったということ。
「元帥に連れてこられたからエクソシストになったのですか?」
「違いますよ。」
「ではなぜ?」
「だってイノセンスだけ持って帰られちゃったら失明しちゃうじゃないですか。それは困るからこっちに来ただけですよ。」
スラスラと並べられるもっともらしい理由。
普通ならそれで納得するだろうが、私は違和感しか感じなかった。
なぜなら、
「『死んだらイノセンスを回収してくれる人間を付けてくれ』なんて言うあなたがですか?適当にはぐらかさないでください。」
『手を貸してほしい』とも、ましてや『守ってくれ』でもない。
ただ万が一死亡した場合、『教団が困るだろうから』という理由だけで《お目付け役》をつけるよう長官に申し出た。
そんな彼女が自分の身可愛さでここへ来たとは、到底考えられない。
「……中々お節介な人ですね。」
「ウォーカーにも言われましたよ。」
「理由、任務に必要です?」
表情ひとつ変えず、彼女は小さく首を傾げる。
それは遠回しな『拒絶』だった。
──それでも。
「……必要ありませんが、私が納得出来ていないのです。住んでいた世界を捨ててまで、ここに来た理由はなんですか?」
一般人なら、住み慣れた土地を離れるということは身を切るような思いのはず。
それをまるで旅人のように、なんの躊躇いもなく切り捨てられる理由を純粋に知りたかった。
彼女は一体『何者』なのか。
人間であり、エクソシストであるのとは変わりないはずなのだが、『元・一般人』と枠に嵌めるにはどうしても違和感があった。
私の双眸をじっと見つめてくる瞳は、丹念に磨かれた黒曜石のようだ。
鏡のように艶やかな角膜に、困惑した表情の私の顔が映り込んでいた。
しばしの沈黙を経て、そっと溜息をつく彼女。
根負けしたように、ポツリと呟くように声を漏らした。
「私の命の価値を、証明するためです。」
静かな声は、少女のものとは思えなかった。
「……証明?」
「もういいじゃないですか。答えたんですから。」
視線を逸らし、再び流れる景色を眺める彼女。
これ以上語ることはないと言わんばかりに、窓の縁で頬杖をついた。
「……あぁ、でもひとつだけ。」
思い出したように、発される言葉。
「私が、この世界で生きるのを選んだんです。強要なんてされてませんし、むしろ……あの人は、ちょっと困っていたくらいですから。」
「困っていた?」
「連れて来るのも、目だけ回収するのも。」
『あの人』が誰か、なんて。
聞くのは無粋だろう。
その時の彼の様子を思い出したのか、少しだけ口元をそっと緩めたのを、私は見逃さなかった。
「全部、自分が選んだ結果ですから。だから逃げません。やるべきことを、やるだけです。」