葉王を拾ってしまいました
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彼女は、不思議な女の子だと思った。
(警戒心があるのかないのか、よく分からない子だな)
恐らくこれを口にしたら『恩人に向かって失礼ですね!』と頬を膨らませるのだろう。
調べれば調べるほど、この世界は俺のいた世界とは全くの別物のようで、似ていた。
文化も食も住まいも違う。
しかし、たまたま彼女の――名無しの住まう国、日本は戦争をしていないだけで。
戦争がこの世からなくならないのは、どの世界でも共通らしい。
しかし、なんというか。
(俺の周りにはいなかったタイプだな)
戦う術もなく、少数部族でもなく。
一人で自立し、衣食住を賄う彼女。
どうやら俺のいた世界よりも女性が自立しやすい環境らしい。いい事だ。
しかしそれより何より。
「あっ、痛!」
紙の端で指を切った名無しが声を上げる。
白い指先に珠のような血がぷくりと膨らんだ。
「大丈夫か?血が出てるな」
「あー…これ地味に痛いんですよねぇ…。絆創膏…バンソーコーっと…」
「ん。」
「へ。」
細く白い指を咥え、傷口に舌を這わせる。
これくらいの傷なら舐めてしまえば治るだろう。
「う、うわぁぁあ!」
「うお!?」
真っ赤な顔で声を張り上げる名無し。
…いいのか?『アパート…あー、集合住宅なので静かにしなきゃいけないんです』と昨日言っていたばかりじゃないか。
「な、ななな、何するんですか!」
「いや、これくらいの傷なら舐めれば治るだろうと思ってな。」
「そうかもしれませんが!自分でしますから!」
えっち!スケベ!と怒りながらも、朱を散らした頬は隠せていない。
そう。
照れ屋で恥ずかしがり屋で、それ以上に俺に対してプリプリ怒る彼女は、周りにはいなかったタイプだ。
もっと分かりやすく言うなら、これで簡単に大抵の女性は『落とせていた』。
勿論、例外の女性は幾人もいたが、少なくとも現地妻ができる程度にはモテていた自覚はある。
性的な――もっと言えば肉体的な意味で女性に困ったことはほぼないと言っても過言ではない。
それがどうだ。
目の前の名無しは慌てふためきながらも怒ってくるではないか。
さながら必死に牙を剥く小動物のように。
「シンドバッドさんの世界では、治療と言いながら人様の指を舐めるのが普通なんですか!?」
「いや?名無しが喜ぶかと思ったんだが。」
「私をどんな性癖を持っている人間だと思ってるんですか!?」
訂正しよう。
『名無し』が、というより今まで落としてきた女性なら喜ぶかと思ったんだ。
まぁ…名無しにとっては逆効果だったようだが。
「消毒液と絆創膏がありますから。そんな原始的な治療……は、しなくもないですけど、自分でしますからやって頂かなくて結構です。」
「そんな便利なものがあるのか。魔法とかではなくて?」
「こっちの世界では物語の中くらいでしか魔法なんてものはないですよ。」
変な人。
そう言って、小さく笑う名無し。
ころころと喜怒哀楽の表情を変え、呆れ、怒り、照れながらも俺を突き放さない。
『王よ!』
『あぁ、シンドバッド王よ!』
――そうか。
彼女は、『シンドリア王国の王』『シンドリア商会会長』というフィルターなしで俺を見ているのか。
見返りも期待も、思惑もない。
嫉妬も怨恨も、羨望もない。
ただひとり。異世界に紛れ込んでしまった、ただの男として。
それは今までの人生で一度も味わったことのないもので。
思わず口元が柔らかく緩む。
――ワクワクする。心が弾む。
ここには、俺の知らないものが沢山溢れていることに。
「何ニヤニヤしてるんですか…気持ち悪い…」
「きも…っ!?…女性に言われるのは初めてだが…存外傷つく言葉だな…」
「すみません。なんかイタズラ思いついた子供みたいに笑っていたので、つい。」
そんな変な顔をしていたのだろうか。
初めて投げつけられた悪意のない罵倒に、思わず両頬を手で覆ってしまった。
「冗談ですよ。カッコイイですよ、シンドバッドさん」
慰めるようにくしゃりと撫でられる髪。
柔らかく弧を描く目元と、無邪気に笑う名無しの顔。
まるで落ち込んだ子供を励ますような仕草で、彼女は屈託なく笑うのだった。
恋に、落ちる音がした。
心臓の鼓動が、煩い。
頭を撫でられた手の感触が未だ忘れられない。
(嘘だろ)
落とすつもりが、落とされてしまうなんて。
(警戒心があるのかないのか、よく分からない子だな)
恐らくこれを口にしたら『恩人に向かって失礼ですね!』と頬を膨らませるのだろう。
調べれば調べるほど、この世界は俺のいた世界とは全くの別物のようで、似ていた。
文化も食も住まいも違う。
しかし、たまたま彼女の――名無しの住まう国、日本は戦争をしていないだけで。
戦争がこの世からなくならないのは、どの世界でも共通らしい。
しかし、なんというか。
(俺の周りにはいなかったタイプだな)
戦う術もなく、少数部族でもなく。
一人で自立し、衣食住を賄う彼女。
どうやら俺のいた世界よりも女性が自立しやすい環境らしい。いい事だ。
しかしそれより何より。
「あっ、痛!」
紙の端で指を切った名無しが声を上げる。
白い指先に珠のような血がぷくりと膨らんだ。
「大丈夫か?血が出てるな」
「あー…これ地味に痛いんですよねぇ…。絆創膏…バンソーコーっと…」
「ん。」
「へ。」
細く白い指を咥え、傷口に舌を這わせる。
これくらいの傷なら舐めてしまえば治るだろう。
「う、うわぁぁあ!」
「うお!?」
真っ赤な顔で声を張り上げる名無し。
…いいのか?『アパート…あー、集合住宅なので静かにしなきゃいけないんです』と昨日言っていたばかりじゃないか。
「な、ななな、何するんですか!」
「いや、これくらいの傷なら舐めれば治るだろうと思ってな。」
「そうかもしれませんが!自分でしますから!」
えっち!スケベ!と怒りながらも、朱を散らした頬は隠せていない。
そう。
照れ屋で恥ずかしがり屋で、それ以上に俺に対してプリプリ怒る彼女は、周りにはいなかったタイプだ。
もっと分かりやすく言うなら、これで簡単に大抵の女性は『落とせていた』。
勿論、例外の女性は幾人もいたが、少なくとも現地妻ができる程度にはモテていた自覚はある。
性的な――もっと言えば肉体的な意味で女性に困ったことはほぼないと言っても過言ではない。
それがどうだ。
目の前の名無しは慌てふためきながらも怒ってくるではないか。
さながら必死に牙を剥く小動物のように。
「シンドバッドさんの世界では、治療と言いながら人様の指を舐めるのが普通なんですか!?」
「いや?名無しが喜ぶかと思ったんだが。」
「私をどんな性癖を持っている人間だと思ってるんですか!?」
訂正しよう。
『名無し』が、というより今まで落としてきた女性なら喜ぶかと思ったんだ。
まぁ…名無しにとっては逆効果だったようだが。
「消毒液と絆創膏がありますから。そんな原始的な治療……は、しなくもないですけど、自分でしますからやって頂かなくて結構です。」
「そんな便利なものがあるのか。魔法とかではなくて?」
「こっちの世界では物語の中くらいでしか魔法なんてものはないですよ。」
変な人。
そう言って、小さく笑う名無し。
ころころと喜怒哀楽の表情を変え、呆れ、怒り、照れながらも俺を突き放さない。
『王よ!』
『あぁ、シンドバッド王よ!』
――そうか。
彼女は、『シンドリア王国の王』『シンドリア商会会長』というフィルターなしで俺を見ているのか。
見返りも期待も、思惑もない。
嫉妬も怨恨も、羨望もない。
ただひとり。異世界に紛れ込んでしまった、ただの男として。
それは今までの人生で一度も味わったことのないもので。
思わず口元が柔らかく緩む。
――ワクワクする。心が弾む。
ここには、俺の知らないものが沢山溢れていることに。
「何ニヤニヤしてるんですか…気持ち悪い…」
「きも…っ!?…女性に言われるのは初めてだが…存外傷つく言葉だな…」
「すみません。なんかイタズラ思いついた子供みたいに笑っていたので、つい。」
そんな変な顔をしていたのだろうか。
初めて投げつけられた悪意のない罵倒に、思わず両頬を手で覆ってしまった。
「冗談ですよ。カッコイイですよ、シンドバッドさん」
慰めるようにくしゃりと撫でられる髪。
柔らかく弧を描く目元と、無邪気に笑う名無しの顔。
まるで落ち込んだ子供を励ますような仕草で、彼女は屈託なく笑うのだった。
恋に、落ちる音がした。
心臓の鼓動が、煩い。
頭を撫でられた手の感触が未だ忘れられない。
(嘘だろ)
落とすつもりが、落とされてしまうなんて。