追憶の星
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「ははぁ。未来から。
…で?過去に飛ぶことが出来る死神……えーと、刻志サンでしたっけ?ボクを逆恨みで殺そうとした、と。」
「そういうことです。私は浦原さんの過去に遡る際、うっかり巻き込まれた被害者、というわけですね。
貴方の味方です。敵意はありません。なんなら暗殺を阻止しようとした、健気な死神の平隊員です。」
捲し立てるように言葉を紡ぎながら、名無しは青筋を立てていた。
何故なら――
「だから手錠と!牢屋はやめてくれませんか!?」
「不法侵入っスからぁ。ま、規則なんで。」
「私は無実だと言っているでしょう!」
ジャラリ、と鎖の鳴る音が、粗末な牢屋へ反響して消えた。
追想の星#03
「……全く、活きのいい罪人が来たと聞いておるが…こんな小娘とはのぅ」
鉄格子越しの再会とは…なんとも皮肉である。
暖簾に腕押し、糠に釘、馬の耳に念仏。
浦原に訴えても何も響かない・何の意味もないと察した名無しは、『四楓院夜一と山本元柳斎を呼んでくれ』と懇々と頼み込んだ。
三日三晩、頼み込んだ成果がこれだ。
未来では霊王護神大戦にて死している山本の姿を目に映した瞬間、名無しは熱い何かが溢れそうになるが…歯を食いしばってそれを堪えた。
今は、喜んでいる場合でも、悲しんでいる場合でもない。
「この度はお目通り頂き、ありがとうございます。山本元柳斎総隊長、四楓院夜一隊長。
…このような牢獄に入れられ、切迫した状況でなければ諸手を挙げて再会を喜びたいところですが…。
御身の貴重なお時間を頂戴している為、手短にお話させて頂ければと思います。」
***
「……作り話にしては些か出来すぎておるようじゃが。どう思う、四楓院」
「確かに浦原三席は…まぁ恨みを買っておる役職ではございますが。
この少女が嘘を述べているようにも見えませぬ」
夜一が思案するように口元に手を当てる。
伏せがちの瞼を縁取る睫毛は相変わらず美しい。
ここに砕蜂がいたら、さぞかし大喜びで網膜に焼きつけるだろうに。
「しかし、信用する決定的証拠も、ない。」
「左様。――黒崎名無し、と申したな。」
「はい。」
……名前を聞かれ咄嗟に出た名字は、かの青年のもの。
ここで浦原の姓を馬鹿正直に名乗るのは、色々面倒だと思ったからだ。
山本に慣れない名字で呼ばれ、名無しは俯き加減だった顔をそっと上げた。
「お主を信用たる人物だと決定づけるものがない。この話は戯言だと切り捨てることもできるが。」
山本の淡々とした声が、牢屋へ冷徹に響く。
――それもそうだ。
身分を証明できるものなんて、斬魄刀と死覇装くらいなものだ。
かといって、未来のことを…しかも数百年後の、山本が『死ぬ』結果になる未来を、ここで話してもいいものか。
それこそ無礼な妄言だと、刀の錆になる可能性の方が高い。
ならば信用を得るにはどうするか。
……腹を、括るしかなかった。
「証明出来るものは、この身ひとつでございます。
――枷を、外すことは正直容易です。しかしこれを外すことによって、貴方様方の信用を得ることは出来ぬと判断し、投獄に甘んじておることも事実です。」
こうなれば、一か八かだ。
利用させてもらえるなら、利用させてもらおうじゃないか。
「この牢屋、盗聴などは?」
「出来ぬようになっておるが。」
「そうですか。なら良かった。」
「――この身には、霊王様の肉体の欠片…『魄睡』を賜ってございます。また、お預けしております斬魄刀には霊王様の『右足』と魂魄が少々。」
夜一は『霊王の欠片』と言っても、ピンと来ないのだろう。不思議そうに首を傾げるばかりだ。
――しかし、山本には効果覿面だったらしい。
薄く開いていた目元は大きく見開かれ、杖代わりに携えている斬魄刀を持つ指先は、ピクリと揺れた。
「他にも霊王様の成り立ち。零番隊。…お話させて頂いても、差し支えなさそうなことはこれくらいでしょうか。
…未来の護廷十三隊が、これ程の機密を握っている状態の『ならず者』を野放しにしているわけがございません。
…信用を得るためなら手段を選びません。ここで死んでは元も子もありませんから。この機密事項、ここでお話させて頂くことも出来ますが、如何でしょう?」
「――四楓院隊長。」
「はっ。」
「…客人じゃ。しかと丁重に、この娘の事情を聞いておくがよい。
部下の生死に関わることなら、尚更の。」
「かしこまりました。」
事情を恐らくあまり詳しく知らない夜一の前で、霊王の成り立ちを話すのは半ば脅しに近かったが……どうやら聞き入れて貰えたようだ。
名無しはほっと胸をなで下ろした。
「あぁ、よかったです。
――あと余談で二つ程進言させていただければ。
ひとつ。この手枷、もっと殺気石の配合を高くした方が安全かと。霊力がそこそこ高い死神ならば、壊そうと思えば壊せます」
「ほら、」と声を掛けながら霊圧をぐっと込めれば、劈くような音を立てて砕ける手枷。
やっと自由になった手首は思った以上に開放的だった。
山本と夜一が軽く目を見開くが、驚くほどではないだろう。
この二人ならこの程度の拘束をあっさり解くことは容易のはずだ。
「ふたつめ。この手枷の改良なら『盗み聞き』している二番隊三席殿が得意でしょう。檻理隊業務ついでにお願いしたら如何です?」
床の板張りの、ほんの僅かな隙間。
爪で根気よく取り出した小さな機械は、明らかな人工物――盗聴器だ。
こんなものを仕掛けている人物に心当たりは、ひとつしかない。
(少しはキツく叱られちゃえばいいんだ。)
手荒い歓迎を受けたお礼だ。
このくらいの仕返し、可愛いものだろう。
…で?過去に飛ぶことが出来る死神……えーと、刻志サンでしたっけ?ボクを逆恨みで殺そうとした、と。」
「そういうことです。私は浦原さんの過去に遡る際、うっかり巻き込まれた被害者、というわけですね。
貴方の味方です。敵意はありません。なんなら暗殺を阻止しようとした、健気な死神の平隊員です。」
捲し立てるように言葉を紡ぎながら、名無しは青筋を立てていた。
何故なら――
「だから手錠と!牢屋はやめてくれませんか!?」
「不法侵入っスからぁ。ま、規則なんで。」
「私は無実だと言っているでしょう!」
ジャラリ、と鎖の鳴る音が、粗末な牢屋へ反響して消えた。
追想の星#03
「……全く、活きのいい罪人が来たと聞いておるが…こんな小娘とはのぅ」
鉄格子越しの再会とは…なんとも皮肉である。
暖簾に腕押し、糠に釘、馬の耳に念仏。
浦原に訴えても何も響かない・何の意味もないと察した名無しは、『四楓院夜一と山本元柳斎を呼んでくれ』と懇々と頼み込んだ。
三日三晩、頼み込んだ成果がこれだ。
未来では霊王護神大戦にて死している山本の姿を目に映した瞬間、名無しは熱い何かが溢れそうになるが…歯を食いしばってそれを堪えた。
今は、喜んでいる場合でも、悲しんでいる場合でもない。
「この度はお目通り頂き、ありがとうございます。山本元柳斎総隊長、四楓院夜一隊長。
…このような牢獄に入れられ、切迫した状況でなければ諸手を挙げて再会を喜びたいところですが…。
御身の貴重なお時間を頂戴している為、手短にお話させて頂ければと思います。」
***
「……作り話にしては些か出来すぎておるようじゃが。どう思う、四楓院」
「確かに浦原三席は…まぁ恨みを買っておる役職ではございますが。
この少女が嘘を述べているようにも見えませぬ」
夜一が思案するように口元に手を当てる。
伏せがちの瞼を縁取る睫毛は相変わらず美しい。
ここに砕蜂がいたら、さぞかし大喜びで網膜に焼きつけるだろうに。
「しかし、信用する決定的証拠も、ない。」
「左様。――黒崎名無し、と申したな。」
「はい。」
……名前を聞かれ咄嗟に出た名字は、かの青年のもの。
ここで浦原の姓を馬鹿正直に名乗るのは、色々面倒だと思ったからだ。
山本に慣れない名字で呼ばれ、名無しは俯き加減だった顔をそっと上げた。
「お主を信用たる人物だと決定づけるものがない。この話は戯言だと切り捨てることもできるが。」
山本の淡々とした声が、牢屋へ冷徹に響く。
――それもそうだ。
身分を証明できるものなんて、斬魄刀と死覇装くらいなものだ。
かといって、未来のことを…しかも数百年後の、山本が『死ぬ』結果になる未来を、ここで話してもいいものか。
それこそ無礼な妄言だと、刀の錆になる可能性の方が高い。
ならば信用を得るにはどうするか。
……腹を、括るしかなかった。
「証明出来るものは、この身ひとつでございます。
――枷を、外すことは正直容易です。しかしこれを外すことによって、貴方様方の信用を得ることは出来ぬと判断し、投獄に甘んじておることも事実です。」
こうなれば、一か八かだ。
利用させてもらえるなら、利用させてもらおうじゃないか。
「この牢屋、盗聴などは?」
「出来ぬようになっておるが。」
「そうですか。なら良かった。」
「――この身には、霊王様の肉体の欠片…『魄睡』を賜ってございます。また、お預けしております斬魄刀には霊王様の『右足』と魂魄が少々。」
夜一は『霊王の欠片』と言っても、ピンと来ないのだろう。不思議そうに首を傾げるばかりだ。
――しかし、山本には効果覿面だったらしい。
薄く開いていた目元は大きく見開かれ、杖代わりに携えている斬魄刀を持つ指先は、ピクリと揺れた。
「他にも霊王様の成り立ち。零番隊。…お話させて頂いても、差し支えなさそうなことはこれくらいでしょうか。
…未来の護廷十三隊が、これ程の機密を握っている状態の『ならず者』を野放しにしているわけがございません。
…信用を得るためなら手段を選びません。ここで死んでは元も子もありませんから。この機密事項、ここでお話させて頂くことも出来ますが、如何でしょう?」
「――四楓院隊長。」
「はっ。」
「…客人じゃ。しかと丁重に、この娘の事情を聞いておくがよい。
部下の生死に関わることなら、尚更の。」
「かしこまりました。」
事情を恐らくあまり詳しく知らない夜一の前で、霊王の成り立ちを話すのは半ば脅しに近かったが……どうやら聞き入れて貰えたようだ。
名無しはほっと胸をなで下ろした。
「あぁ、よかったです。
――あと余談で二つ程進言させていただければ。
ひとつ。この手枷、もっと殺気石の配合を高くした方が安全かと。霊力がそこそこ高い死神ならば、壊そうと思えば壊せます」
「ほら、」と声を掛けながら霊圧をぐっと込めれば、劈くような音を立てて砕ける手枷。
やっと自由になった手首は思った以上に開放的だった。
山本と夜一が軽く目を見開くが、驚くほどではないだろう。
この二人ならこの程度の拘束をあっさり解くことは容易のはずだ。
「ふたつめ。この手枷の改良なら『盗み聞き』している二番隊三席殿が得意でしょう。檻理隊業務ついでにお願いしたら如何です?」
床の板張りの、ほんの僅かな隙間。
爪で根気よく取り出した小さな機械は、明らかな人工物――盗聴器だ。
こんなものを仕掛けている人物に心当たりは、ひとつしかない。
(少しはキツく叱られちゃえばいいんだ。)
手荒い歓迎を受けたお礼だ。
このくらいの仕返し、可愛いものだろう。