追憶の星
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この状況は、なんだろう。
名無しが間借りしている部屋に、名無しと、藍染と、浦原と浦原がいる。
ちなみに藍染はというと、未来から来た浦原によって、最低限の治療をされた後『念の為』縛道で雁字搦めにされていた。
それでも文句一つ言わない藍染は、きっとこの状況を楽しんでいるのだろう。
「さて、どこから説明しましょっか」
ちゃっかり名無しの隣を占領する未来の浦原が、髪を掻き毟り小さく笑った。
追憶の星#26
――あの後。
刻志が浦原を襲撃し、名無しも巻き込まれて過去に跳んだあと。
刻志が残した霊力の残滓を解析し、どうにか二人を現代に引き戻すよう調べた。
幸いなことに、今までの死神のようにすぐ死ぬことはなかった。
それは過去で名無しが浦原暗殺を阻止した結果だ。
そこで殺されていれば、今の浦原も未来の浦原も、ここに存在していない。
「涅隊長にお願いして検査してもらったところ、二人分の霊力の反応がボクの魂魄の中にあったンっス。なんとか分離できないか、あれやこれやと調べていたところ、二回変化がありまして。」
身振り手振りで説明する浦原。
ここにホワイトボードでもあれば、きっともっと分かりやすく解説してくれるのであろう。
「一度目は名無しサンの霊力の反応が一瞬揺れたこと。パスが繋がる、と言ったら一番分かりやすいっスかね?
名無しサン、刻志サンの斬魄刀で斬られました?」
「少しだけですけどね。」
「そう。それで上手いこと過去に遡るための術は、まぁ出来たんっス。道ができたと言えばいいですかね」
同じ斬魄刀で斬られた為、現在の浦原と過去に跳んだ名無しとの《航路》が出来た。
しかし事態はそう簡単には完結しない。
「でもそれだけじゃ足りなかった。時代の座標を特定するには、あまりにもボクは長生きだったんで。」
そもそも現在名無しがいる時間を正確に特定しなければ、連れて帰ることなんて不可能だ。
時間とは常に絶え間なく流れる川のようなもの。
長い長い川から、小さな小舟をすくい上げるには正確な場所に辿り着く必要がある。
「……名無しサンの卍解で霊圧が上がって、現在いる時間軸が特定出来たってトコっスかね。」
「流石アタシ。ご明察。」
跳ね上がった霊圧は、現在地を知らせる狼煙のようなものだ。
時間が分かればあとは簡単。
タイミングを合わせ、過去に跳んでしまえばいい。
――まぁ、簡単とは言うが、それは浦原とマユリが技術の粋を結集させたからこそ為せる離れ業だ。
一般の死神には理解はできても実行は不可能だろう。
「……そんなこと、ペラペラ喋っていいんですか?後々面倒なことになるんじゃ…」
「大丈夫っスよ。ボクらが退去すれば、ボクらに関する記憶は、ぜーんぶ消えるンっスから。」
両手を大きく広げ、浦原があっけらかんと話す。
思わず未来の浦原と、現在の浦原、そして黙って話を聞いていた藍染の顔を見比べた。
名無しのその様子から『理解が追いついていない』と察した浦原が、淡々と事実を述べる。
「言葉通りっスよ。ここの世界はあくまでボクの過去です。ボクらが現代に戻れば全て元通りっス。ズレた歴史は剪定される。
だから、目の前の彼らは泡沫の夢、実態のない影法師ってトコっスかね。」
全部、元通り。
そう。それは名無しも望んでいたことだ。
しかし『ズレた時間から再スタート』となれば、今目の前にいる彼らはどうなるのだろう。
過去とは、記憶の連続だ。
イレギュラーに外れてしまった道は、圧倒的な時間に呑まれて消えてしまう。
それこそ水面に浮かぶ泡のように、いとも簡単に。呆気なく。
もっと単純に説明するとすれば、彼らは『消える』のだ。
名無しと刻志が来た時間に振り戻されるだけなのだが、今この時、呼吸をし、瞬きをしているこの時間。
尸魂界に生きる全ての存在が、一旦リセットされてしまう。
ボタンひとつでやり直しできる、チープなゲームのように。
「だから何を言っても――」
「やめましょう。それでも、私は覚えてます。忘れません。何も無かったことにはならない。
……そんな風に、言うのはやめてください。」
まるでそれは死刑宣告のようだ。
その結果に異を唱えるつもりはないが、それでももっと言い方はあっただろう。
…結果が決まっているならば、黙っている方が残酷なのか、それとも真実をありのままに話すことが優しさなのか。
名無しは答えが出ず、浦原の言葉を遮るしかなかった。
それを分かっているからこそ浦原は小さく息をついて肩を竦める。
まだ、青い。
甘い。生ぬるい。弱い。
そんなことは名無し自身も自覚しているし、浦原も分かっている。
今は死神といえども、まだ人間として生活していた時間が圧倒的に長い。
そしてその捨てきれない『甘さ』に浦原は何度も救われた。
自分がいつかなくしてしまった、人間らしいやさしさ。
他人の痛みにやたら過敏なところは彼女の弱点であると同時に、浦原にとって『捨てて欲しくない弱い部分』だった。
だから名無しの子供じみた遮りに対して、否定も肯定もしない。
――正しい選択なんて、きっと誰にも出来ない。出来るはずなんてないのだから。
「そうっスね。ちょっと薄情でした」と言いながら浦原が目深に帽子を被り直す。
「過去のアタシと藍染サンは動揺されていないようで何よりっス。」
「予想はしてましたから。」
現在の浦原の言葉通りなのだろう。
藍染も黙ったまま……ということは、恐らく同意の意ということだ。
「まぁしかし、結果オーライとはいえ……過去のアタシ、名無しサンに怪我させるとは何事っスかねぇ。過去の藍染サンも相変わらずちょっかい出してるし、ホント手に負えない。」
帽子の影からじとりと浦原を見遣る。
その刺すような視線に身動ぎひとつせず、それこそ侮蔑の色を浮かべて現在の浦原が反論した。
「そういうボクこそ人の事言えないっスよ。名無しサンを大泣きさせる原因を作ったのはそもそもムグッ」
「う、わーわーわー!」
火に油だ。
同族嫌悪というには生温い。
過去の自分と未来の自分なんて、それこそ何も起こらないはずがないのだが、何故かこの二人は相性が悪い――気がする。
新たな『戦争』を回避するため、名無しが慌てて現在の浦原の口を手で塞ぐが……一呼吸遅かったようだ。
「なんだね、私には泣き顔ひとつ見せなかったというのに。」
「藍染さんは黙っててください。頭かち割りますよ」
胃が痛い。
どうしようもない現実も酷いが、目の前で殺気をビリビリ放っているW浦原も酷い。
こんな状況で呑気なことを言える藍染が羨ましいと同時に、ついつい殺意が湧いてしまう。
なにせ状況や名無しの心情を掻き乱した主な原因は、間違いなくこの藍染惣右介なのだから。
「やっぱり昔のアタシ、性格最悪っスね。」
「未来のボクも大して進歩してないじゃないっスか。」
本人達は気づいているのだろうか。
つまるところその罵りは、
「言っておきますけど、二人共全部ブーメランですからね。」
……帰ったら胃薬を飲むことにしよう。
名無しが間借りしている部屋に、名無しと、藍染と、浦原と浦原がいる。
ちなみに藍染はというと、未来から来た浦原によって、最低限の治療をされた後『念の為』縛道で雁字搦めにされていた。
それでも文句一つ言わない藍染は、きっとこの状況を楽しんでいるのだろう。
「さて、どこから説明しましょっか」
ちゃっかり名無しの隣を占領する未来の浦原が、髪を掻き毟り小さく笑った。
追憶の星#26
――あの後。
刻志が浦原を襲撃し、名無しも巻き込まれて過去に跳んだあと。
刻志が残した霊力の残滓を解析し、どうにか二人を現代に引き戻すよう調べた。
幸いなことに、今までの死神のようにすぐ死ぬことはなかった。
それは過去で名無しが浦原暗殺を阻止した結果だ。
そこで殺されていれば、今の浦原も未来の浦原も、ここに存在していない。
「涅隊長にお願いして検査してもらったところ、二人分の霊力の反応がボクの魂魄の中にあったンっス。なんとか分離できないか、あれやこれやと調べていたところ、二回変化がありまして。」
身振り手振りで説明する浦原。
ここにホワイトボードでもあれば、きっともっと分かりやすく解説してくれるのであろう。
「一度目は名無しサンの霊力の反応が一瞬揺れたこと。パスが繋がる、と言ったら一番分かりやすいっスかね?
名無しサン、刻志サンの斬魄刀で斬られました?」
「少しだけですけどね。」
「そう。それで上手いこと過去に遡るための術は、まぁ出来たんっス。道ができたと言えばいいですかね」
同じ斬魄刀で斬られた為、現在の浦原と過去に跳んだ名無しとの《航路》が出来た。
しかし事態はそう簡単には完結しない。
「でもそれだけじゃ足りなかった。時代の座標を特定するには、あまりにもボクは長生きだったんで。」
そもそも現在名無しがいる時間を正確に特定しなければ、連れて帰ることなんて不可能だ。
時間とは常に絶え間なく流れる川のようなもの。
長い長い川から、小さな小舟をすくい上げるには正確な場所に辿り着く必要がある。
「……名無しサンの卍解で霊圧が上がって、現在いる時間軸が特定出来たってトコっスかね。」
「流石アタシ。ご明察。」
跳ね上がった霊圧は、現在地を知らせる狼煙のようなものだ。
時間が分かればあとは簡単。
タイミングを合わせ、過去に跳んでしまえばいい。
――まぁ、簡単とは言うが、それは浦原とマユリが技術の粋を結集させたからこそ為せる離れ業だ。
一般の死神には理解はできても実行は不可能だろう。
「……そんなこと、ペラペラ喋っていいんですか?後々面倒なことになるんじゃ…」
「大丈夫っスよ。ボクらが退去すれば、ボクらに関する記憶は、ぜーんぶ消えるンっスから。」
両手を大きく広げ、浦原があっけらかんと話す。
思わず未来の浦原と、現在の浦原、そして黙って話を聞いていた藍染の顔を見比べた。
名無しのその様子から『理解が追いついていない』と察した浦原が、淡々と事実を述べる。
「言葉通りっスよ。ここの世界はあくまでボクの過去です。ボクらが現代に戻れば全て元通りっス。ズレた歴史は剪定される。
だから、目の前の彼らは泡沫の夢、実態のない影法師ってトコっスかね。」
全部、元通り。
そう。それは名無しも望んでいたことだ。
しかし『ズレた時間から再スタート』となれば、今目の前にいる彼らはどうなるのだろう。
過去とは、記憶の連続だ。
イレギュラーに外れてしまった道は、圧倒的な時間に呑まれて消えてしまう。
それこそ水面に浮かぶ泡のように、いとも簡単に。呆気なく。
もっと単純に説明するとすれば、彼らは『消える』のだ。
名無しと刻志が来た時間に振り戻されるだけなのだが、今この時、呼吸をし、瞬きをしているこの時間。
尸魂界に生きる全ての存在が、一旦リセットされてしまう。
ボタンひとつでやり直しできる、チープなゲームのように。
「だから何を言っても――」
「やめましょう。それでも、私は覚えてます。忘れません。何も無かったことにはならない。
……そんな風に、言うのはやめてください。」
まるでそれは死刑宣告のようだ。
その結果に異を唱えるつもりはないが、それでももっと言い方はあっただろう。
…結果が決まっているならば、黙っている方が残酷なのか、それとも真実をありのままに話すことが優しさなのか。
名無しは答えが出ず、浦原の言葉を遮るしかなかった。
それを分かっているからこそ浦原は小さく息をついて肩を竦める。
まだ、青い。
甘い。生ぬるい。弱い。
そんなことは名無し自身も自覚しているし、浦原も分かっている。
今は死神といえども、まだ人間として生活していた時間が圧倒的に長い。
そしてその捨てきれない『甘さ』に浦原は何度も救われた。
自分がいつかなくしてしまった、人間らしいやさしさ。
他人の痛みにやたら過敏なところは彼女の弱点であると同時に、浦原にとって『捨てて欲しくない弱い部分』だった。
だから名無しの子供じみた遮りに対して、否定も肯定もしない。
――正しい選択なんて、きっと誰にも出来ない。出来るはずなんてないのだから。
「そうっスね。ちょっと薄情でした」と言いながら浦原が目深に帽子を被り直す。
「過去のアタシと藍染サンは動揺されていないようで何よりっス。」
「予想はしてましたから。」
現在の浦原の言葉通りなのだろう。
藍染も黙ったまま……ということは、恐らく同意の意ということだ。
「まぁしかし、結果オーライとはいえ……過去のアタシ、名無しサンに怪我させるとは何事っスかねぇ。過去の藍染サンも相変わらずちょっかい出してるし、ホント手に負えない。」
帽子の影からじとりと浦原を見遣る。
その刺すような視線に身動ぎひとつせず、それこそ侮蔑の色を浮かべて現在の浦原が反論した。
「そういうボクこそ人の事言えないっスよ。名無しサンを大泣きさせる原因を作ったのはそもそもムグッ」
「う、わーわーわー!」
火に油だ。
同族嫌悪というには生温い。
過去の自分と未来の自分なんて、それこそ何も起こらないはずがないのだが、何故かこの二人は相性が悪い――気がする。
新たな『戦争』を回避するため、名無しが慌てて現在の浦原の口を手で塞ぐが……一呼吸遅かったようだ。
「なんだね、私には泣き顔ひとつ見せなかったというのに。」
「藍染さんは黙っててください。頭かち割りますよ」
胃が痛い。
どうしようもない現実も酷いが、目の前で殺気をビリビリ放っているW浦原も酷い。
こんな状況で呑気なことを言える藍染が羨ましいと同時に、ついつい殺意が湧いてしまう。
なにせ状況や名無しの心情を掻き乱した主な原因は、間違いなくこの藍染惣右介なのだから。
「やっぱり昔のアタシ、性格最悪っスね。」
「未来のボクも大して進歩してないじゃないっスか。」
本人達は気づいているのだろうか。
つまるところその罵りは、
「言っておきますけど、二人共全部ブーメランですからね。」
……帰ったら胃薬を飲むことにしよう。