追憶の星
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雪辱を、晴らせ。
追憶の星#24
名無しが大きく足を踏み鳴らせば、吹き抜ける突風と共に世界が一転する。
鬱蒼とした森の中は、花と、綺羅星が覆い尽くす景色に早変わりした。
「ここなら好き勝手できますからね。『藍染副隊長に謀反とは何事だ』なーんて外野が水を差すようなこともないでしょうし。」
「おや。私がそんな卑怯な手を使うとでも?」
「むしろ得意でしょう?」
そもそも人を騙すことに関しては一級品だろうに。
呆れたように藍染を見遣れば、腹の中が読まれていることがそんなに嬉しいのか、口角を大きく吊り上げた。
「浦原さんは基本的に手出し無用でお願いします。下手に手を出したら、完全催眠で私が背中からバッサリ斬られそうですし。」
「勝てるんっスか?相手は得体の知れない副隊長ですよ」
「勝つんですよ。――今度こそ。三度目の正直ってやつです」
一度目は完敗だった。
二度目は言葉も届かなかった。
だから、今度こそ。
「卍解、遠来瞬け『蒼星天狼』」
解号と同時に隙を与えず、斬りかかってくる藍染。
どうやらあちらも手加減はしないようだ。
「卑怯だと思わないのかい?私は斬魄刀の能力を封じられてるも同然なんだぞ?」
「あら。ハンデだ、って笑わないんですか?らしくない」
「――いや。君を相手取るには丁度いいさ。」
鍔迫り合いを弾けば、両者大きく間合いが開く。
指を掲げた藍染の霊圧が形になり、眼前を覆い尽くすような黒に変わる。
「破道の九十『黒棺』」
「破道の九十『黒棺』!」
重力の塊である漆黒の筺。
ぶつかり、弾け、砕け合う。
全てを圧し潰す影は轟音と共に爆散する。
しかしそれを顔色ひとつ変えず、藍染は小さく口元に弧を描いた。
「なるほど、反鬼相殺か」
「得意じゃないんですけどね。『格下』に合わせるのって、疲れちゃうじゃないですか」
挑発には、挑発を。
目元を細め肩を竦める名無し。
完全なる崩玉を取り込んでいない藍染になら、鬼道での戦いなら引けを取らないだろう。
むしろこちらは無尽蔵とも言える霊力を擁する。
その点は大きなアドバンテージなのだが――
単純に力比べとなれば話は別だ。
「ならば剣術でお相手しよう」
スラリと抜かれた斬魄刀の刃渡りに、昼見紛う程に眩い星空を映し込む。
薄ら浮かべていた笑みをしまい込み、名無しは天狼を構え大きく息を吸い込んだ。
***
(圧されてる)
それは火を見るより明らかだった。
体格差、筋力、剣を握ってからの年数。
どれをとっても名無しが藍染に敵う要素は、何一つなかった。
刀傷が増えていくのは名無しの方ばかりだ。
生白い頬には緋が伝い、辛うじて躱したとしても揺れる髪の毛先を、鏡花水月の鋒が撫でていく。
そう。
誰がどう見ても形勢は一方的。
詠唱破棄できるなら鬼道で間合いを作ることもできるだろうに、それすらしない。
それなのに、どうして。
――笑ってる?
「どうした、先程までの威勢がなくなってきたな。剣術は苦手かね?」
「煩いですね、ここから形勢逆転するんですよ」
「強がりかい?そんなところも好ましいけどね。――手酷く手折るには、丁度いい。」
僅かにできた間合いすら、一気に詰められる。
凶刃が振り下ろされる瞬間、
「名無しサン!」
堪らず、名前を呼ぶ。
絶対的なピンチだというのに、やはり彼女は――笑っていた。
「焼き焦がせ『星火燎原』。」
藍染の鼻先。
立ち上る火柱。
柔らかな花の群れから突然吹き出した蒼炎に、これには誰もが面食らった。
反応が僅かに遅れていれば、間違いなく焼死体が出来上がっていただろう。
「さぁ、反撃開始だ。」
頬の傷を手の甲で乱雑に拭い、彼女は不敵な笑みを浮かべるのであった。
***
それはまるで流星のようだった。
地面に落ちた血や髪の毛先を核にして、トラップのように噴き出す蒼い炎。
目にも鮮やかな瑠璃色は、見た目の美しさに反して凶悪な焔だ。
かといってそれを避けるには、地面に落ちた僅かな血痕にすら意識を向けなければならない。
刃を避けきれなかったのではない。
あえて『避けなかった』のだ。
罠を気取られないよう、撒くために。
生き残る為の術として、『逃げる』技術をいの一番に叩き込まれた。
流麗すぎる剣術ほど、見極めるのは容易だ。
「この程度の炎で、焼かれると思ったか!」
「これで丸焦げになってくれたのなら、少しは可愛げがあったんですけどね」
霊子を糧に燃える炎は消えることを知らない。
それでも藍染は火柱の間をぬって刃を振るってくる。
耳障りな剣戟が辺りに響く。
「仕方ない。一気にカタをつけてしまいましょう。」
受身を取りながら後退した名無しが、斬魄刀を持って『舞』のように刃を振るう。
蒼鈍色の刃が宙を踊ると同時に、霊子によって形作られた無数の『刃』が藍染を正確に狙っていた。
――いや。これは刃というより、矢と言った方が適切かもしれない。
キリキリと弦が軋む音。
青白く煌々と輝くそれは、滅却師が用いる霊子の矢に酷似していた。
「光よ穿て、『星旄電戟』」
追憶の星#24
名無しが大きく足を踏み鳴らせば、吹き抜ける突風と共に世界が一転する。
鬱蒼とした森の中は、花と、綺羅星が覆い尽くす景色に早変わりした。
「ここなら好き勝手できますからね。『藍染副隊長に謀反とは何事だ』なーんて外野が水を差すようなこともないでしょうし。」
「おや。私がそんな卑怯な手を使うとでも?」
「むしろ得意でしょう?」
そもそも人を騙すことに関しては一級品だろうに。
呆れたように藍染を見遣れば、腹の中が読まれていることがそんなに嬉しいのか、口角を大きく吊り上げた。
「浦原さんは基本的に手出し無用でお願いします。下手に手を出したら、完全催眠で私が背中からバッサリ斬られそうですし。」
「勝てるんっスか?相手は得体の知れない副隊長ですよ」
「勝つんですよ。――今度こそ。三度目の正直ってやつです」
一度目は完敗だった。
二度目は言葉も届かなかった。
だから、今度こそ。
「卍解、遠来瞬け『蒼星天狼』」
解号と同時に隙を与えず、斬りかかってくる藍染。
どうやらあちらも手加減はしないようだ。
「卑怯だと思わないのかい?私は斬魄刀の能力を封じられてるも同然なんだぞ?」
「あら。ハンデだ、って笑わないんですか?らしくない」
「――いや。君を相手取るには丁度いいさ。」
鍔迫り合いを弾けば、両者大きく間合いが開く。
指を掲げた藍染の霊圧が形になり、眼前を覆い尽くすような黒に変わる。
「破道の九十『黒棺』」
「破道の九十『黒棺』!」
重力の塊である漆黒の筺。
ぶつかり、弾け、砕け合う。
全てを圧し潰す影は轟音と共に爆散する。
しかしそれを顔色ひとつ変えず、藍染は小さく口元に弧を描いた。
「なるほど、反鬼相殺か」
「得意じゃないんですけどね。『格下』に合わせるのって、疲れちゃうじゃないですか」
挑発には、挑発を。
目元を細め肩を竦める名無し。
完全なる崩玉を取り込んでいない藍染になら、鬼道での戦いなら引けを取らないだろう。
むしろこちらは無尽蔵とも言える霊力を擁する。
その点は大きなアドバンテージなのだが――
単純に力比べとなれば話は別だ。
「ならば剣術でお相手しよう」
スラリと抜かれた斬魄刀の刃渡りに、昼見紛う程に眩い星空を映し込む。
薄ら浮かべていた笑みをしまい込み、名無しは天狼を構え大きく息を吸い込んだ。
***
(圧されてる)
それは火を見るより明らかだった。
体格差、筋力、剣を握ってからの年数。
どれをとっても名無しが藍染に敵う要素は、何一つなかった。
刀傷が増えていくのは名無しの方ばかりだ。
生白い頬には緋が伝い、辛うじて躱したとしても揺れる髪の毛先を、鏡花水月の鋒が撫でていく。
そう。
誰がどう見ても形勢は一方的。
詠唱破棄できるなら鬼道で間合いを作ることもできるだろうに、それすらしない。
それなのに、どうして。
――笑ってる?
「どうした、先程までの威勢がなくなってきたな。剣術は苦手かね?」
「煩いですね、ここから形勢逆転するんですよ」
「強がりかい?そんなところも好ましいけどね。――手酷く手折るには、丁度いい。」
僅かにできた間合いすら、一気に詰められる。
凶刃が振り下ろされる瞬間、
「名無しサン!」
堪らず、名前を呼ぶ。
絶対的なピンチだというのに、やはり彼女は――笑っていた。
「焼き焦がせ『星火燎原』。」
藍染の鼻先。
立ち上る火柱。
柔らかな花の群れから突然吹き出した蒼炎に、これには誰もが面食らった。
反応が僅かに遅れていれば、間違いなく焼死体が出来上がっていただろう。
「さぁ、反撃開始だ。」
頬の傷を手の甲で乱雑に拭い、彼女は不敵な笑みを浮かべるのであった。
***
それはまるで流星のようだった。
地面に落ちた血や髪の毛先を核にして、トラップのように噴き出す蒼い炎。
目にも鮮やかな瑠璃色は、見た目の美しさに反して凶悪な焔だ。
かといってそれを避けるには、地面に落ちた僅かな血痕にすら意識を向けなければならない。
刃を避けきれなかったのではない。
あえて『避けなかった』のだ。
罠を気取られないよう、撒くために。
生き残る為の術として、『逃げる』技術をいの一番に叩き込まれた。
流麗すぎる剣術ほど、見極めるのは容易だ。
「この程度の炎で、焼かれると思ったか!」
「これで丸焦げになってくれたのなら、少しは可愛げがあったんですけどね」
霊子を糧に燃える炎は消えることを知らない。
それでも藍染は火柱の間をぬって刃を振るってくる。
耳障りな剣戟が辺りに響く。
「仕方ない。一気にカタをつけてしまいましょう。」
受身を取りながら後退した名無しが、斬魄刀を持って『舞』のように刃を振るう。
蒼鈍色の刃が宙を踊ると同時に、霊子によって形作られた無数の『刃』が藍染を正確に狙っていた。
――いや。これは刃というより、矢と言った方が適切かもしれない。
キリキリと弦が軋む音。
青白く煌々と輝くそれは、滅却師が用いる霊子の矢に酷似していた。
「光よ穿て、『星旄電戟』」