追憶の星
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「おや。黒崎名無しくん。珍しいね、今日はひとりかい?」
ふらりと現れる、この男。
ここまで爽やかに挨拶できるのだから、彼の面の厚さは牛革より分厚いのだろう。羨ましいことだ。
「あら、大根役者が何の御用ですかね?」
嫌味を込めてせせら笑えば、硝子越しの瞳が愉しそうに細められたのであった。
追憶の星#23
「すまないね、気が変わったんだよ。」
「本当に迷惑極まりないです。お陰でこっちは帰る方法探すために頭を悩ませているんですから」
人気のない、流魂街集落のはずれ。
木々がざわめく音だけが辺りに響き、いつもなら囀っているはずの鳥すら見当たらない。
藍染が落ち葉を足先で踏み、大変愉快そうに口元を歪めた。
「君が、王鍵の代わりになるとは思ってもみなかったよ。」
全く、どこで監視をしているのやら。
『そんな暇があれば真面目に副官の仕事をしたらどうです?』なんて嫌味を言ってやりたいが、どうやらそういうわけにはいかないらしい。
そもそも藍染が未来にて空座町を襲撃した理由が『王鍵』を創り出すことだった。
全ては、彼が『あんなもの』と罵る、霊王を超える神になろうとしたため。
面倒な手順を踏まなくても、目の前の小娘を使えば霊王宮へのパスが手に入るのだ。
蛇でなくとも舌なめずりするだろう。
「使ったところで正真正銘の化物が控えているだけなので、やめておいた方が身のためですよ」
「なんだい?心配してくれているのか。」
「忠告ですよ。きっと神様になったところで、貴方の中の『渇き』が癒えることなんてないでしょうし。」
「黙れ。」
目にも止まらぬ速さで、斬魄刀の切っ先を突きつけられる。
それと同時に藍染の首元に薄皮一枚隔てて、刃を添えるのは――
「駄目っスよ、藍染副隊長。女のコに刀を向けるなんて。優しくて紳士的な『藍染惣右介』の化けの皮が剥がれてますよ」
霊圧遮断の外套を羽織った浦原が笑う。
ほんの少し鬼道を練り込むだけで姿すら景色に紛れさせる外套は、刻志が盗んだものだった。
もっとも、盗んだ張本人は悲しいかな、目の前の『副隊長』の手よって、骸へなれ果ててしまったのだが。
「浦原喜助。」
「のこのこ一人で出歩くわけないじゃないですか。刻志暗殺の犯人も、『顔が割れている』っていうのに。」
おかげで山本と夜一に『視えている』ことを気付かれないよう、説明するには苦労した。
まさか尸魂界の死神全員が、既に藍染の『完全催眠』にかかっているとは思ってもないだろう。
(映像見た時は、腸が煮えくりかえるかと思ったけど。)
何が気が変わったんだよ、だ。
悪びれなくしゃあしゃあと言い放つその姿は、後ろめたさの欠片もなかった。
「そうか、キミは『鏡花水月』が効かないのか。」
「えぇ。というか、浦原さんがこっそり『悪戯』するなら、完全に証拠を消すでしょうし。」
あんな犯行映像、わざと残しているに決まっている。
少なくとも未来の浦原なら、足跡どころかチリひとつ残さずこなしてしまう筈だから。
「浦原さんに似せるには、あまりにも理解が足りなかったようですね」
彼の所作のクセなら、一通り覚えている。
注意深く見てしまえば、例え完全催眠にかかっていたとしても見破れる自信があった。
浦原の紅姫を首筋に当てられているにも関わらず、藍染は心底可笑しそうにクツクツと笑いを零す。
「理解がたりないのはキミもだろう?名無し君。キミは、私を殺せない。歴史が変わってしまうからね」
「そうですね。でもこれ以上、状況悪化は防ぎたいところなんですよね」
ふむ、と腕を組み、名無しが唸る。
彼女も鏡花水月の切先が目の前にあるというのに、随分と余裕そうに笑みを浮かべた。
「そもそも手出しをしないなんて私らしくなかったな、と思いまして。
面倒なヤツがいるなら闇討ちでもして、半殺しで動けなくしておけばよかったんですよ。記憶なら記憶置換で上書きしてしまえば問題ありませんし。
つまるところ、貴方の言葉をお借りするなら『気が変わった』ってところですかね」
後手後手に回るのは、もうやめだ。
言っても聞かないのなら締め上げてしまうしかない。
特に、この手の輩は。
「やだ…名無しサン物騒…」
「いいんですよ。この人はそれくらいしても堪えたりするわけないんですから。」
殺しても死ななさそうな男だ。
肉片にするくらいの気概で挑んで、丁度いいくらいだろう。
「面白い。キミが、私と殺し合うというのかね?」
「そうですね。でも『殺すなら全力で』がモットーなので、正々堂々だなんて綺麗事言いませんよ」
何せ台所に出たゴキブリにさえ容赦しない名無しだ。
手段は選ばない。
優等生のような御託も並べない。
袋叩きもリンチも厭わない。
何せこれは『試合』ではなく『殺し合い』なのだから。まさに勝てば官軍だ。
「キミのそういう所、私は嫌いじゃないよ」
「残念です。私は貴方のこと大嫌いなので。」
ふらりと現れる、この男。
ここまで爽やかに挨拶できるのだから、彼の面の厚さは牛革より分厚いのだろう。羨ましいことだ。
「あら、大根役者が何の御用ですかね?」
嫌味を込めてせせら笑えば、硝子越しの瞳が愉しそうに細められたのであった。
追憶の星#23
「すまないね、気が変わったんだよ。」
「本当に迷惑極まりないです。お陰でこっちは帰る方法探すために頭を悩ませているんですから」
人気のない、流魂街集落のはずれ。
木々がざわめく音だけが辺りに響き、いつもなら囀っているはずの鳥すら見当たらない。
藍染が落ち葉を足先で踏み、大変愉快そうに口元を歪めた。
「君が、王鍵の代わりになるとは思ってもみなかったよ。」
全く、どこで監視をしているのやら。
『そんな暇があれば真面目に副官の仕事をしたらどうです?』なんて嫌味を言ってやりたいが、どうやらそういうわけにはいかないらしい。
そもそも藍染が未来にて空座町を襲撃した理由が『王鍵』を創り出すことだった。
全ては、彼が『あんなもの』と罵る、霊王を超える神になろうとしたため。
面倒な手順を踏まなくても、目の前の小娘を使えば霊王宮へのパスが手に入るのだ。
蛇でなくとも舌なめずりするだろう。
「使ったところで正真正銘の化物が控えているだけなので、やめておいた方が身のためですよ」
「なんだい?心配してくれているのか。」
「忠告ですよ。きっと神様になったところで、貴方の中の『渇き』が癒えることなんてないでしょうし。」
「黙れ。」
目にも止まらぬ速さで、斬魄刀の切っ先を突きつけられる。
それと同時に藍染の首元に薄皮一枚隔てて、刃を添えるのは――
「駄目っスよ、藍染副隊長。女のコに刀を向けるなんて。優しくて紳士的な『藍染惣右介』の化けの皮が剥がれてますよ」
霊圧遮断の外套を羽織った浦原が笑う。
ほんの少し鬼道を練り込むだけで姿すら景色に紛れさせる外套は、刻志が盗んだものだった。
もっとも、盗んだ張本人は悲しいかな、目の前の『副隊長』の手よって、骸へなれ果ててしまったのだが。
「浦原喜助。」
「のこのこ一人で出歩くわけないじゃないですか。刻志暗殺の犯人も、『顔が割れている』っていうのに。」
おかげで山本と夜一に『視えている』ことを気付かれないよう、説明するには苦労した。
まさか尸魂界の死神全員が、既に藍染の『完全催眠』にかかっているとは思ってもないだろう。
(映像見た時は、腸が煮えくりかえるかと思ったけど。)
何が気が変わったんだよ、だ。
悪びれなくしゃあしゃあと言い放つその姿は、後ろめたさの欠片もなかった。
「そうか、キミは『鏡花水月』が効かないのか。」
「えぇ。というか、浦原さんがこっそり『悪戯』するなら、完全に証拠を消すでしょうし。」
あんな犯行映像、わざと残しているに決まっている。
少なくとも未来の浦原なら、足跡どころかチリひとつ残さずこなしてしまう筈だから。
「浦原さんに似せるには、あまりにも理解が足りなかったようですね」
彼の所作のクセなら、一通り覚えている。
注意深く見てしまえば、例え完全催眠にかかっていたとしても見破れる自信があった。
浦原の紅姫を首筋に当てられているにも関わらず、藍染は心底可笑しそうにクツクツと笑いを零す。
「理解がたりないのはキミもだろう?名無し君。キミは、私を殺せない。歴史が変わってしまうからね」
「そうですね。でもこれ以上、状況悪化は防ぎたいところなんですよね」
ふむ、と腕を組み、名無しが唸る。
彼女も鏡花水月の切先が目の前にあるというのに、随分と余裕そうに笑みを浮かべた。
「そもそも手出しをしないなんて私らしくなかったな、と思いまして。
面倒なヤツがいるなら闇討ちでもして、半殺しで動けなくしておけばよかったんですよ。記憶なら記憶置換で上書きしてしまえば問題ありませんし。
つまるところ、貴方の言葉をお借りするなら『気が変わった』ってところですかね」
後手後手に回るのは、もうやめだ。
言っても聞かないのなら締め上げてしまうしかない。
特に、この手の輩は。
「やだ…名無しサン物騒…」
「いいんですよ。この人はそれくらいしても堪えたりするわけないんですから。」
殺しても死ななさそうな男だ。
肉片にするくらいの気概で挑んで、丁度いいくらいだろう。
「面白い。キミが、私と殺し合うというのかね?」
「そうですね。でも『殺すなら全力で』がモットーなので、正々堂々だなんて綺麗事言いませんよ」
何せ台所に出たゴキブリにさえ容赦しない名無しだ。
手段は選ばない。
優等生のような御託も並べない。
袋叩きもリンチも厭わない。
何せこれは『試合』ではなく『殺し合い』なのだから。まさに勝てば官軍だ。
「キミのそういう所、私は嫌いじゃないよ」
「残念です。私は貴方のこと大嫌いなので。」