追憶の星
名前変換
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スン、と鼻を鳴らしながら、ちり紙で鼻をかむ。
こんなに大泣きしたのは何時ぶりだろう。
思い返せば『こっちの世界』に来てから、声を上げて泣くことなんてなかったかもしれない。
刻志によって無茶苦茶にされたため、浦原の部屋は斜め向かいの空き部屋に移動していた。
まだ使い慣れていなさそうなベッドや備え付けの家具は、あまり生活感が感じられない雰囲気だ。
「落ち着きました?」
「……すみません、みっともない所をお見せしました。」
ゴミ箱へくしゃくしゃになったちり紙を入れ、まだ赤みのとれない鼻を一度啜った。
部屋の主はというと椅子の背もたれに顎を乗せ、行儀悪く反対向きに座っている。
「……大失態です。未来の浦原さんにもこんなカッコ悪いの見せたことないのに…」
「ってことはボクが初めてっスか?」
『初めて』というワードに、心做しか嬉しそうなのは――気のせいではないのだろう。
人がこんなにも草臥れているというのに、本当にこの人はマイペースそのものだ。呆れを通り越して感心してしまう。
「嬉しそうにしないでください…性格悪いですよ…」
「いやぁ、不謹慎っスけど泣き顔も可愛いな〜って思っちゃったんで。」
「全然褒められてる気がしません。性悪を通り越して鬼畜じゃないですか」
瞼が浮腫んでぽかぽかする。
『そうか、泣いたらこうなるんだった』とどこか他人事のように考えられるなら、とりあえず気持ちの上ではは大丈夫だろう。
「ところでご相談なんっスけど、」
「なんですか?」
「ボクもお名前、呼んでもいいっスか?」
また今更な相談だ。
別に呼んではいけないと言った覚えなどないのだが――
「どうされたんですか?」
「いやぁ。だってボクが『名無しサン』って呼んだら、未来のボクのことばかり思い出すかな、と思って。」
…ないとは言いきれないが、それは考えすぎだろう。
「否定はしませんが、そこまで四六時中、未来の浦原さんのこと考えてませんよ。」
「それはそれで未来のボク可哀想っスね…」
オヨヨ…と態とらしく同情するフリをしているが、口元が笑っている。
まぁ浦原喜助という男が、色んな意味で『いい性格』というのは、名無しもよく知っている。今更驚くこともない。
「別の呼び方で呼ぶのはどうっスか?」
「例えば?」
「黒崎サン。」
勝手に名字を借りてしまった、オレンジ頭の青年を思い出す。
それは率直に変な気分だ。そもそも無断で借りてしまった手前、罪悪感の方が増しそうだ。
「すいません、名字はちょっと。」
「うーん」
椅子からトン、と立ち上がり、ウロウロ歩き出す浦原。
妙な渾名で呼ばれなければ、好きに呼べばいいだろうに。何やら真剣に考えているのが、少しだけ滑稽だった。
「名無しチャン。」
「あ、すみません。寒イボたったのでやめましょう。」
「酷いっス!んーんーんー…名無し殿?」
「なんで目上扱いなんですか。」
「じゃあ名無しぴょん。」
「言ってて恥ずかしくないですか?」
うろうろ、うろうろ。
顎に手を当てウンウン唸っていた浦原だが、何かを思いついたらしい。
それはもう、底意地の悪い笑みを浮べた。
内緒話をするように、名無しの耳元に口元を近づけ――
「名無し。」
不意に呼ばれた、呼び捨ての名前。
初歩的な発想だが、今までなかった呼び方だ。
悪意のある不意打ちと、色気たっぷりの低い声で名前を呼ばれ、反射的に浦原から離れてしまった。
まるで耳を愛撫された後かのように、真っ赤に染った耳を押さえ、口をぱくぱくと開けながら。
「な、なな、な、ななななんてこと、するんですか!」
「おや?そんなにヨかったっスか?」
「よくないです!耳が妊娠するかと思いました!やめてください!」
無意識なのか。浦原にとって最高の褒め言葉だ。
予想以上の楽しい反応に、浦原は満足そうにニンマリ笑う。
これが悪魔のような笑顔に見える人は、全くもって視力が正常だ。実際、本当に悪い笑顔を浮かべていたのだから。
「名無し。」
「やめましょう、ホント。心臓に悪いんで。」
「名無し、名無し名無し名無し。」
「あーあーあー聞こえない!」
部屋の中を逃げ回る名無しを追いかけるように、浦原が名前を連呼しながらつけ回す。
慣れてない上、破壊力が半端ない。核兵器か何かか。
「普通の呼び方でお願いします!」
「いやぁ、面白いんでもう暫くは。」
追憶の星#19
怒ったり、泣いたりする君だけど、あぁ、うん。やっぱり
(笑った顔が、一番可愛いっスね)
こんなに大泣きしたのは何時ぶりだろう。
思い返せば『こっちの世界』に来てから、声を上げて泣くことなんてなかったかもしれない。
刻志によって無茶苦茶にされたため、浦原の部屋は斜め向かいの空き部屋に移動していた。
まだ使い慣れていなさそうなベッドや備え付けの家具は、あまり生活感が感じられない雰囲気だ。
「落ち着きました?」
「……すみません、みっともない所をお見せしました。」
ゴミ箱へくしゃくしゃになったちり紙を入れ、まだ赤みのとれない鼻を一度啜った。
部屋の主はというと椅子の背もたれに顎を乗せ、行儀悪く反対向きに座っている。
「……大失態です。未来の浦原さんにもこんなカッコ悪いの見せたことないのに…」
「ってことはボクが初めてっスか?」
『初めて』というワードに、心做しか嬉しそうなのは――気のせいではないのだろう。
人がこんなにも草臥れているというのに、本当にこの人はマイペースそのものだ。呆れを通り越して感心してしまう。
「嬉しそうにしないでください…性格悪いですよ…」
「いやぁ、不謹慎っスけど泣き顔も可愛いな〜って思っちゃったんで。」
「全然褒められてる気がしません。性悪を通り越して鬼畜じゃないですか」
瞼が浮腫んでぽかぽかする。
『そうか、泣いたらこうなるんだった』とどこか他人事のように考えられるなら、とりあえず気持ちの上ではは大丈夫だろう。
「ところでご相談なんっスけど、」
「なんですか?」
「ボクもお名前、呼んでもいいっスか?」
また今更な相談だ。
別に呼んではいけないと言った覚えなどないのだが――
「どうされたんですか?」
「いやぁ。だってボクが『名無しサン』って呼んだら、未来のボクのことばかり思い出すかな、と思って。」
…ないとは言いきれないが、それは考えすぎだろう。
「否定はしませんが、そこまで四六時中、未来の浦原さんのこと考えてませんよ。」
「それはそれで未来のボク可哀想っスね…」
オヨヨ…と態とらしく同情するフリをしているが、口元が笑っている。
まぁ浦原喜助という男が、色んな意味で『いい性格』というのは、名無しもよく知っている。今更驚くこともない。
「別の呼び方で呼ぶのはどうっスか?」
「例えば?」
「黒崎サン。」
勝手に名字を借りてしまった、オレンジ頭の青年を思い出す。
それは率直に変な気分だ。そもそも無断で借りてしまった手前、罪悪感の方が増しそうだ。
「すいません、名字はちょっと。」
「うーん」
椅子からトン、と立ち上がり、ウロウロ歩き出す浦原。
妙な渾名で呼ばれなければ、好きに呼べばいいだろうに。何やら真剣に考えているのが、少しだけ滑稽だった。
「名無しチャン。」
「あ、すみません。寒イボたったのでやめましょう。」
「酷いっス!んーんーんー…名無し殿?」
「なんで目上扱いなんですか。」
「じゃあ名無しぴょん。」
「言ってて恥ずかしくないですか?」
うろうろ、うろうろ。
顎に手を当てウンウン唸っていた浦原だが、何かを思いついたらしい。
それはもう、底意地の悪い笑みを浮べた。
内緒話をするように、名無しの耳元に口元を近づけ――
「名無し。」
不意に呼ばれた、呼び捨ての名前。
初歩的な発想だが、今までなかった呼び方だ。
悪意のある不意打ちと、色気たっぷりの低い声で名前を呼ばれ、反射的に浦原から離れてしまった。
まるで耳を愛撫された後かのように、真っ赤に染った耳を押さえ、口をぱくぱくと開けながら。
「な、なな、な、ななななんてこと、するんですか!」
「おや?そんなにヨかったっスか?」
「よくないです!耳が妊娠するかと思いました!やめてください!」
無意識なのか。浦原にとって最高の褒め言葉だ。
予想以上の楽しい反応に、浦原は満足そうにニンマリ笑う。
これが悪魔のような笑顔に見える人は、全くもって視力が正常だ。実際、本当に悪い笑顔を浮かべていたのだから。
「名無し。」
「やめましょう、ホント。心臓に悪いんで。」
「名無し、名無し名無し名無し。」
「あーあーあー聞こえない!」
部屋の中を逃げ回る名無しを追いかけるように、浦原が名前を連呼しながらつけ回す。
慣れてない上、破壊力が半端ない。核兵器か何かか。
「普通の呼び方でお願いします!」
「いやぁ、面白いんでもう暫くは。」
追憶の星#19
怒ったり、泣いたりする君だけど、あぁ、うん。やっぱり
(笑った顔が、一番可愛いっスね)