追憶の星
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「……いいんっスか?容疑者に斬魄刀なんて返して。」
「名無しが『濡れ衣を晴らす』と言っておるのじゃ。黙って受け取らんか。」
牢に入れられたままの浦原がは紅姫を受け取りながら訝しげに問う。
彼の疑問は尤もだ。もし仮に彼が『犯行人』だとすればそれは極めて危険な行為なのだから。
「よし。じゃあ浦原さん。私を斬ってみせてくださいな。」
ぱんぱん、と手を叩き、あっけらかんと名無しが笑った。
追憶の星#17
この娘は、何を考えているんだ。
その場にいた誰しもがそう思った。
「何言ってるンっスか。」
「大丈夫ですよ。避けられますから。上からズバッと袈裟斬りでお願いします。」
「……当たったら?」
「当たりませんよ。」
何を言っても無駄なのだろう。
諦めた浦原は溜息をひとつ吐いて、刀を振るった。
「……む?」
「ん?」
山本と夜一の声が上がったのは、同時だった。
違いに気づいたのか名無しはしてやったりと口元に弧を描く。
必要最低限の動きで上から落とされた刃を躱し、納得したように頷いた。
「分かりました?」
「ボクには全然分からないンっスけど。」
不満を述べる浦原を横目に、山本と夜一は「ふむ」と考え込む。
「片手、か。」
「そうです。浦原三席は袈裟斬りを利き手の右手…片手で行います。一方、映像に残っている『浦原喜助』は両手で行っています。
浦原三席に犯行映像を見せていたのならわざと違う太刀筋を使うでしょうが、見ていないのなら話は別ですから。」
もっと詳しく言えば足さばきとか、柄の握る癖とか色々あるのだが、流石にそれを言う必要はないだろう。
「しかしそれだけでは潔白を晴らすことは出来ぬ。」
「証人を呼びましょうか。生憎『人』ではありませんが」
腰に据えた斬魄刀を掴み、トンと鞘を地面へ突く。
「天狼。」
名を、呼ぶ。
すると浦原の影から這い出でる、一匹の銀狼。
これには浦原をはじめ、夜一と山本も驚愕した。
――山本に至っては、別の意味で驚いたというのもあるが。
『犯行時間のとき、コイツは下らん機械いじりに没頭していたぞ』
唸る獣の声。
低く、重厚な声音は、呆れたような色を含んでいた。
「こちらが私の斬魄刀の具現化した『本体』でございます。山本総隊長ならこの意味、分かって頂けるでしょうか。」
「…なるほど。」
以前、信用を得るために『機密』を白状した甲斐があった。
この獣の言葉を疑うとなると、過去の――現在、尸魂界の楔となっている霊王を疑うということになりかねない。
護衛の『保険』として、内緒で忍ばせていたが――まさかこんなことで役に立つとは。
まぁ、浦原喜助を毛嫌いしている彼にとっては少し……そう、ほんの少し、不満だったようだが。
「それに、殺害された刻志玄隆は、あくまで『未来の罪人』です。殺されたとて、こちらの時代にはなんら影響は起きないはずですからご安心ください。
……むしろ、ここで浦原三席を処断するとなると後の尸魂界にとって『大きな損失になる』ということだけはお伝えしておきましょうか」
彼は、優秀な『人財』ですよ。
そう一言そっと添えると、観念したように山本が深い溜息を零した。
「……四楓院隊長。」
「はっ」
「浦原三席は潔白のようじゃ。解放してやれ」
「…はっ。」
「浦原三席。この度の濡れ衣、護廷十三隊の総隊長として詫びる。」
「いえいえ、ボクも潔白を証明する術がなかったのが悪いんですし…」
歯切れの悪い返事をする浦原が、チラリと名無しを横目で見る。
名無しはその心配そうな視線に対して、一切目を合わせず沈黙を貫いた。
「……待て。名無しよ、おぬしどうやって自分のいた時代に帰るつもりじゃ?」
夜一が黄金色の双眸でこちらを見遣る。
それはきっと、誰しもが考えている『最悪の事態』。
名無しにとって気づいて欲しくなかった事実。
心配してもらうのは嬉しい半面、今はその優しさが、
酷く痛かった。
「……私のことはお気になさらず。帰る方法はなんとか見つけます。何とかならなければ、歴史に影響を及ぼす前にひっそりと姿をくらましますから」
気丈に笑って誤魔化すが、やはり目の前の三人の表情は晴れない。
根拠もない、自信もない。
それでも探すしかないのだ。
弱音と憤りを抑えるように握りしめられた手が震えていたのは……浦原だけ、見えていた。
「名無しが『濡れ衣を晴らす』と言っておるのじゃ。黙って受け取らんか。」
牢に入れられたままの浦原がは紅姫を受け取りながら訝しげに問う。
彼の疑問は尤もだ。もし仮に彼が『犯行人』だとすればそれは極めて危険な行為なのだから。
「よし。じゃあ浦原さん。私を斬ってみせてくださいな。」
ぱんぱん、と手を叩き、あっけらかんと名無しが笑った。
追憶の星#17
この娘は、何を考えているんだ。
その場にいた誰しもがそう思った。
「何言ってるンっスか。」
「大丈夫ですよ。避けられますから。上からズバッと袈裟斬りでお願いします。」
「……当たったら?」
「当たりませんよ。」
何を言っても無駄なのだろう。
諦めた浦原は溜息をひとつ吐いて、刀を振るった。
「……む?」
「ん?」
山本と夜一の声が上がったのは、同時だった。
違いに気づいたのか名無しはしてやったりと口元に弧を描く。
必要最低限の動きで上から落とされた刃を躱し、納得したように頷いた。
「分かりました?」
「ボクには全然分からないンっスけど。」
不満を述べる浦原を横目に、山本と夜一は「ふむ」と考え込む。
「片手、か。」
「そうです。浦原三席は袈裟斬りを利き手の右手…片手で行います。一方、映像に残っている『浦原喜助』は両手で行っています。
浦原三席に犯行映像を見せていたのならわざと違う太刀筋を使うでしょうが、見ていないのなら話は別ですから。」
もっと詳しく言えば足さばきとか、柄の握る癖とか色々あるのだが、流石にそれを言う必要はないだろう。
「しかしそれだけでは潔白を晴らすことは出来ぬ。」
「証人を呼びましょうか。生憎『人』ではありませんが」
腰に据えた斬魄刀を掴み、トンと鞘を地面へ突く。
「天狼。」
名を、呼ぶ。
すると浦原の影から這い出でる、一匹の銀狼。
これには浦原をはじめ、夜一と山本も驚愕した。
――山本に至っては、別の意味で驚いたというのもあるが。
『犯行時間のとき、コイツは下らん機械いじりに没頭していたぞ』
唸る獣の声。
低く、重厚な声音は、呆れたような色を含んでいた。
「こちらが私の斬魄刀の具現化した『本体』でございます。山本総隊長ならこの意味、分かって頂けるでしょうか。」
「…なるほど。」
以前、信用を得るために『機密』を白状した甲斐があった。
この獣の言葉を疑うとなると、過去の――現在、尸魂界の楔となっている霊王を疑うということになりかねない。
護衛の『保険』として、内緒で忍ばせていたが――まさかこんなことで役に立つとは。
まぁ、浦原喜助を毛嫌いしている彼にとっては少し……そう、ほんの少し、不満だったようだが。
「それに、殺害された刻志玄隆は、あくまで『未来の罪人』です。殺されたとて、こちらの時代にはなんら影響は起きないはずですからご安心ください。
……むしろ、ここで浦原三席を処断するとなると後の尸魂界にとって『大きな損失になる』ということだけはお伝えしておきましょうか」
彼は、優秀な『人財』ですよ。
そう一言そっと添えると、観念したように山本が深い溜息を零した。
「……四楓院隊長。」
「はっ」
「浦原三席は潔白のようじゃ。解放してやれ」
「…はっ。」
「浦原三席。この度の濡れ衣、護廷十三隊の総隊長として詫びる。」
「いえいえ、ボクも潔白を証明する術がなかったのが悪いんですし…」
歯切れの悪い返事をする浦原が、チラリと名無しを横目で見る。
名無しはその心配そうな視線に対して、一切目を合わせず沈黙を貫いた。
「……待て。名無しよ、おぬしどうやって自分のいた時代に帰るつもりじゃ?」
夜一が黄金色の双眸でこちらを見遣る。
それはきっと、誰しもが考えている『最悪の事態』。
名無しにとって気づいて欲しくなかった事実。
心配してもらうのは嬉しい半面、今はその優しさが、
酷く痛かった。
「……私のことはお気になさらず。帰る方法はなんとか見つけます。何とかならなければ、歴史に影響を及ぼす前にひっそりと姿をくらましますから」
気丈に笑って誤魔化すが、やはり目の前の三人の表情は晴れない。
根拠もない、自信もない。
それでも探すしかないのだ。
弱音と憤りを抑えるように握りしめられた手が震えていたのは……浦原だけ、見えていた。