追憶の星
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「今日も無駄骨じゃったか」
溜息をつきながら地下牢を出れば、夜一が柱に凭れ立っていた。
げっそりとした名無しを見て、労うように頭を二・三度くしゃりと撫でた。
「夜一さん。」
「おぬし、尋問とか下手そうじゃもんなぁ」
ケラケラと笑いながら夜一が目を細めるが、全くもってその通りなので反論の余地がない。
こう見えて名無しは『鳴かぬなら殺してしまえホトトギス』タイプである。
「『浦原喜助が死ねば元の時代に戻れる』『他の方法は知らない』だ、そうですよ。ホント、嫌になりますよね」
「いっそ喜助の奴に仮死薬でも作らせてみるかの?」
冗談のように聞こえるが、恐らく冗談ではないのだろう。
楽しそうに笑う夜一に対して、苦笑いを浮かべながら「遠慮しておきます」と名無しは答えたのであった。
追憶の星#15
「その様子じゃ収穫なしってトコっスか?」
「ちょっと嬉しそうに言うのやめてもらえません…?」
いや、訂正しよう。
ちょっとどころか満面の笑みだ。
隊士の詰所へ向かうと、待機していた浦原がニコニコと手を振ってくるではないか。
無視する理由もないので隣に座れば、先程の台詞である。なんとも嫌な男だ。
「隠しても仕方ないっスからぁ」
「開き直るのはやめましょう!?ぜーったい帰るんですから」
浦原が飲みかけていた茶を奪い取り、一気に呷る名無し。
すっかり冷めた粗茶は、正直美味しいとは形容しがたかった。
「他にも手段ないですかね…。大霊書回廊に忍び込むか…映像庁は…アテにするのもなぁ…」
つくづくこの時代に技術開発局があれば・と考えてしまう。
ないものねだりしても仕方ないのは分かっているのだが、一度それを知ってしまった後となると話は変わってくる。
「ボクとしてはこの時代に永住して頂きたいので、別にいいんっスけどね。」
「もう少し協力的になって下さってもいいんじゃないんですかね!?」
口元をへの字に曲げて文句を垂れる名無しに対して、浦原は楽しそうに笑うばかり。
自らの欲に忠実なのは、どうやら昔からのようだった。
「じゃ、ボクは任務の時間なのでそろそろ行ってきますね」
くしゃりと撫でられる頭。
まるで猫でも撫でるような手つきだ。
「永住なんて絶対しませんから!」
名無しはやけくそ気味に声を張り上げ、浦原の背中を少し恨めしそうに見送る。
その背中が詰所の扉を潜る前に、小さく溜息をついた。
まるで口の中で呟く独り言のように、ポツリと名前を呼ぶ。
「――天狼。」
トン、と斬魄刀の鞘で床を小突けば、飛び出るように伸びる影。
その『黒』は浦原の影に溶け、一瞬にして同じ形に馴染むのだった。
***
二番隊地下牢は、どこか蛆虫の巣を彷彿させた。
当然だ。あれは隠密機動の『檻理隊』が管轄する牢獄なのだから。
『戻る方法なんて《鍵》になったヤツを殺すしかねぇよ』
そう答えれば、険しい顔をした女は苦虫を噛み潰したような、さらに苦々しい表情へと変わった。
――過去に跳べない、ということは、そもそも『過去がない』か『この世のものではない』。
外見は五体満足の死神だとしても、中は得体の知れない…まさに、かの少女は《バケモノ》だ。
「……アイツさえ、いなければ。」
それは蛆虫の巣にいた頃も、大戦の折に脱獄した後も、何度も呟いた科白。
山本元柳斎。
四楓院夜一。
浦原喜助。
俺を危険因子だと後ろ指を指した連中。
山本元柳斎は先の戦争で戦死したらしい。
元・護廷十三隊の隊員だったとはいえ、総隊長の死に対して、哀れみも憐憫も感じなかった。
むしろ遅すぎる訃報を耳にした時は『因果応報だ』とせせら笑ったものだ。
蛆虫の巣に入る要因になったその他の烏合の衆共も、幸いなことに霊王護神大戦で殆ど死んだようだった。
辛うじて生き残っていた連中は、殺して回った。
呆気なく殺せるという事実に『あぁ、こんな格下のヤツらに俺は貶められたのか』と失望した。
残るは四楓院夜一と、浦原喜助。
あの飄々とした鼻っ柱を折ってやりたい。
文字通り『虫を払うように』素手で囚人達を、俺を、上から目線であしらうアイツらを殺したい。
怨嗟の念につい動かされ、『抹殺』するために動いたら……このザマだ。
あのバケモノさえいなければ、全て上手くいったはずなのに。
「アイツさえ、いなければ!」
苛立ちは独り言となり、ビクともしない殺気石の檻を、無意味と知りながらも蹴り飛ばす。
独房では虚しく反響し、鈍い音が消えるだけ。
返事なんて、来るはずもないのに。
「随分荒れてますねぇ」
カラン、コロン、と。
百年程前は、嫌という程聞いていた、下駄の音。
特別耳障りな音ではないはずなのだが、俺にとって不快指数度を上げるには十分な音色だ。
「浦原、喜助…!」
「ふむ。なるほど。貴方が刻志さんですか」
カラン、コロン。
無機質な石畳を蹴る音は、まるで文字通り『死神』の足音だ。
「過去に遡ることが出来る斬魄刀ですか。なるほど、空間転移や時間停止など…禁忌とされる鬼道によく似ている。」
スラリと抜かれる斬魄刀。
独房の必要最低限の灯りが、鋭い刃渡りを鈍く光らせる。
刃を抜けば、することはひとつ。
「……オイ、冗談だろ?俺を殺せば、あの女も元の時代に戻れなくなるんだぞ?」
「むしろそれが目的ですよ。――そう、貴方の魂魄にある『霊王の欠片』なんて、ただの副産物です。」
殺気石で出来た牢獄を、一刀両断する。
まるで木の葉を真っ二つにするように、中にいた男の胴体も――呆気なく、泣き別れにして。
断末魔さえ赦さない、慈悲なき一閃。
剣術のお手本のような袈裟斬りは、状況が状況でなければまさに流麗と言えるだろう。
「安心してください。ちゃんと貴方の『欠片』は、実験で有効に活用させていただきますから。」
斬魄刀にこびり付いた血を振り払い、彼は愉しそうに口角を釣り上げた。
「……すまないとは思ってますよ。そう、子供じみた言い訳をするなら――気が、変わったんですよ。黒崎名無しさん。」
この男の凶行は、何をもたらすのだろう。
溜息をつきながら地下牢を出れば、夜一が柱に凭れ立っていた。
げっそりとした名無しを見て、労うように頭を二・三度くしゃりと撫でた。
「夜一さん。」
「おぬし、尋問とか下手そうじゃもんなぁ」
ケラケラと笑いながら夜一が目を細めるが、全くもってその通りなので反論の余地がない。
こう見えて名無しは『鳴かぬなら殺してしまえホトトギス』タイプである。
「『浦原喜助が死ねば元の時代に戻れる』『他の方法は知らない』だ、そうですよ。ホント、嫌になりますよね」
「いっそ喜助の奴に仮死薬でも作らせてみるかの?」
冗談のように聞こえるが、恐らく冗談ではないのだろう。
楽しそうに笑う夜一に対して、苦笑いを浮かべながら「遠慮しておきます」と名無しは答えたのであった。
追憶の星#15
「その様子じゃ収穫なしってトコっスか?」
「ちょっと嬉しそうに言うのやめてもらえません…?」
いや、訂正しよう。
ちょっとどころか満面の笑みだ。
隊士の詰所へ向かうと、待機していた浦原がニコニコと手を振ってくるではないか。
無視する理由もないので隣に座れば、先程の台詞である。なんとも嫌な男だ。
「隠しても仕方ないっスからぁ」
「開き直るのはやめましょう!?ぜーったい帰るんですから」
浦原が飲みかけていた茶を奪い取り、一気に呷る名無し。
すっかり冷めた粗茶は、正直美味しいとは形容しがたかった。
「他にも手段ないですかね…。大霊書回廊に忍び込むか…映像庁は…アテにするのもなぁ…」
つくづくこの時代に技術開発局があれば・と考えてしまう。
ないものねだりしても仕方ないのは分かっているのだが、一度それを知ってしまった後となると話は変わってくる。
「ボクとしてはこの時代に永住して頂きたいので、別にいいんっスけどね。」
「もう少し協力的になって下さってもいいんじゃないんですかね!?」
口元をへの字に曲げて文句を垂れる名無しに対して、浦原は楽しそうに笑うばかり。
自らの欲に忠実なのは、どうやら昔からのようだった。
「じゃ、ボクは任務の時間なのでそろそろ行ってきますね」
くしゃりと撫でられる頭。
まるで猫でも撫でるような手つきだ。
「永住なんて絶対しませんから!」
名無しはやけくそ気味に声を張り上げ、浦原の背中を少し恨めしそうに見送る。
その背中が詰所の扉を潜る前に、小さく溜息をついた。
まるで口の中で呟く独り言のように、ポツリと名前を呼ぶ。
「――天狼。」
トン、と斬魄刀の鞘で床を小突けば、飛び出るように伸びる影。
その『黒』は浦原の影に溶け、一瞬にして同じ形に馴染むのだった。
***
二番隊地下牢は、どこか蛆虫の巣を彷彿させた。
当然だ。あれは隠密機動の『檻理隊』が管轄する牢獄なのだから。
『戻る方法なんて《鍵》になったヤツを殺すしかねぇよ』
そう答えれば、険しい顔をした女は苦虫を噛み潰したような、さらに苦々しい表情へと変わった。
――過去に跳べない、ということは、そもそも『過去がない』か『この世のものではない』。
外見は五体満足の死神だとしても、中は得体の知れない…まさに、かの少女は《バケモノ》だ。
「……アイツさえ、いなければ。」
それは蛆虫の巣にいた頃も、大戦の折に脱獄した後も、何度も呟いた科白。
山本元柳斎。
四楓院夜一。
浦原喜助。
俺を危険因子だと後ろ指を指した連中。
山本元柳斎は先の戦争で戦死したらしい。
元・護廷十三隊の隊員だったとはいえ、総隊長の死に対して、哀れみも憐憫も感じなかった。
むしろ遅すぎる訃報を耳にした時は『因果応報だ』とせせら笑ったものだ。
蛆虫の巣に入る要因になったその他の烏合の衆共も、幸いなことに霊王護神大戦で殆ど死んだようだった。
辛うじて生き残っていた連中は、殺して回った。
呆気なく殺せるという事実に『あぁ、こんな格下のヤツらに俺は貶められたのか』と失望した。
残るは四楓院夜一と、浦原喜助。
あの飄々とした鼻っ柱を折ってやりたい。
文字通り『虫を払うように』素手で囚人達を、俺を、上から目線であしらうアイツらを殺したい。
怨嗟の念につい動かされ、『抹殺』するために動いたら……このザマだ。
あのバケモノさえいなければ、全て上手くいったはずなのに。
「アイツさえ、いなければ!」
苛立ちは独り言となり、ビクともしない殺気石の檻を、無意味と知りながらも蹴り飛ばす。
独房では虚しく反響し、鈍い音が消えるだけ。
返事なんて、来るはずもないのに。
「随分荒れてますねぇ」
カラン、コロン、と。
百年程前は、嫌という程聞いていた、下駄の音。
特別耳障りな音ではないはずなのだが、俺にとって不快指数度を上げるには十分な音色だ。
「浦原、喜助…!」
「ふむ。なるほど。貴方が刻志さんですか」
カラン、コロン。
無機質な石畳を蹴る音は、まるで文字通り『死神』の足音だ。
「過去に遡ることが出来る斬魄刀ですか。なるほど、空間転移や時間停止など…禁忌とされる鬼道によく似ている。」
スラリと抜かれる斬魄刀。
独房の必要最低限の灯りが、鋭い刃渡りを鈍く光らせる。
刃を抜けば、することはひとつ。
「……オイ、冗談だろ?俺を殺せば、あの女も元の時代に戻れなくなるんだぞ?」
「むしろそれが目的ですよ。――そう、貴方の魂魄にある『霊王の欠片』なんて、ただの副産物です。」
殺気石で出来た牢獄を、一刀両断する。
まるで木の葉を真っ二つにするように、中にいた男の胴体も――呆気なく、泣き別れにして。
断末魔さえ赦さない、慈悲なき一閃。
剣術のお手本のような袈裟斬りは、状況が状況でなければまさに流麗と言えるだろう。
「安心してください。ちゃんと貴方の『欠片』は、実験で有効に活用させていただきますから。」
斬魄刀にこびり付いた血を振り払い、彼は愉しそうに口角を釣り上げた。
「……すまないとは思ってますよ。そう、子供じみた言い訳をするなら――気が、変わったんですよ。黒崎名無しさん。」
この男の凶行は、何をもたらすのだろう。