追憶の星
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
転機は、突然訪れた。
それはあまりに唐突で、あまりにも呆気ないことだった。
「さてと。ボクはそろそろ上がりますね」
そう言って椅子から立ち上がる浦原。
あとは隊長である夜一に確認してもらう書類が、山のように積み上がっている。
猫のように気ままな二番隊隊長は、恐らくこの書類の束を見た途端、嫌そうに顔を歪めるのだろう。
「ご一緒します。」
片付けた書類をトントンと整え、名無しが事務机から立ち上がった。
神経質とも言えるマユリの元で仕事をしていたのだ。重要書類はともかく、一般隊士が処理してもいい事務仕事はお手の物だった。
「いやぁ、書類仕事が捗るんでありがたいっスね。ずっとここにいてくれてもいいんっスよ?」
「またまたご冗談を。」
首を鳴らしながら笑う浦原に対して、名無しは困ったように笑い返した。
追憶の星#13
二番隊の宿舎へ戻る、帰り道。
浦原はあくびを噛み殺しながら歩いていた。
「眠そうですね。」
「『遊び場』ではしゃいでいたら、中々寝る時間がなくて。」
恐らく卍解の修行や、はたまた変なものでも開発しているのだろう。
席官といえども、宿舎で大掛かりな機材を持ち込むことはできない。
だから処刑場の地下には行き場所のない機材がゴミのように積まれていたわけだが……こんなものが山本総隊長の目に止まったら、拳骨ではすまないだろうに。
「てっきり女性とハッスルしているのかと思っていました。」
「やだなぁ。ボクのことを何だと思ってるんっスか?」
「研究オタクで性欲魔人のロクデナシです。」
「…ちょっと辛辣すぎやしません?」
「事実でしょう?」
歯に衣着せぬ物言いに、浦原は笑いながら「まぁその通りなんっスけど」と笑う。
カラン、コロンと涼しげに鳴る下駄の音と、板張りの床を踏む草履の音が廊下に響く。
「で、ちょっとお願いがあるンっスけどぉ…」
「卍解の修行に付き合え、なら御遠慮しますよ。」
「え。」
「え。じゃないですよ。なんですか、あの卍解。チートじゃないですか」
範囲内の物質を『作り替える』能力。
浦原らしい斬魄刀の能力だ、と笑いたいところだが、どうも相性が悪い。
一度興味本位で手合わせしたらえらい目にあった。
(現代の浦原さんが、『人を鍛えるのに向いていない』と言ってた理由がよく分かった)
能力を理解したところで、対策が立て難い。
戦略の上では『隠し玉』として使うのが最適だろう。
だからこそ誰にも見せていなかった。恐らく、夜一にすら。
「もう少し対策考えたら手合わせお願いします。」
規格外とも言える能力。
――だが、必ず欠点はあるはず。
無闇矢鱈に挑んでも返り討ちになるのなら、頭を使わなければ。
「…へぇ」
「何ですか。」
「つまり次は勝算があるんっスか?」
「?、勝負するなら勝つつもりで挑むのが当たり前でしょう。」
負けるつもりで挑む勝負なんてない。
無いものねだりもするつもりもない。
今持てる全てを使って、最善の手を尽くすだけだ。
負ければ、死ぬ。
単純な話だ。
ならば勝つ方法を死ぬ気で考えなければいけない。
目標は遥か彼方の高みにあろうと、尽くした最善は必ず無駄にはならないのだから。
とても、とても嬉しそうに。楽しそうに。
一瞬目を丸くした浦原は、満足気に笑った。
「いやぁ、いいっすね。ボクそういうの大好きっスよ。」
「それは何よりです」
生きるための心構えは、なにせ浦原に仕込まれたのだから。
「…ってことはまだ隠し玉あるんっスよね?それは見せてくれないんです?」
名無しの顔を覗き込むように腰を屈める。
白々しい動きは一周まわって滑稽だ。
勘がいい、と褒めて差し上げたいが――
「未来の浦原さんに止められているので。」
「えー、ちょっとだけでもいいじゃないっスか。」
「ダメです。叱られるのは私ですから。」
まるで子供とのやりとりみたいだ。
「ケチ。」と拗ねながら浦原が宿舎にある、自室の扉を開いた時――
暴発する扉。
開いた途端爆発するよう鬼道でも仕掛けていたのだろう。
咄嗟に下がった浦原がよろめき――
「今度こそ、死ね!浦原喜助!」
黒い外套が爆煙から飛び出てくる。
顔を見るまでもない。
アイツだ。
刻志玄隆だ。
真っ直ぐ伸びる切先。
外套は霊圧を隠すことができても、迸る殺気は隠せない。
気がつけば、間に割って入っていた。
前に翳した左腕に突き立てられる刃。
骨と筋肉を豪快に裂く痛みに、思わず息を呑んだ。
「名無しサン!」
――あぁ、初めて名前を呼んでもらえた。
そんな思考だけは呑気なことを巡らせながら、私は目の前の男を睨みつけた。
それはあまりに唐突で、あまりにも呆気ないことだった。
「さてと。ボクはそろそろ上がりますね」
そう言って椅子から立ち上がる浦原。
あとは隊長である夜一に確認してもらう書類が、山のように積み上がっている。
猫のように気ままな二番隊隊長は、恐らくこの書類の束を見た途端、嫌そうに顔を歪めるのだろう。
「ご一緒します。」
片付けた書類をトントンと整え、名無しが事務机から立ち上がった。
神経質とも言えるマユリの元で仕事をしていたのだ。重要書類はともかく、一般隊士が処理してもいい事務仕事はお手の物だった。
「いやぁ、書類仕事が捗るんでありがたいっスね。ずっとここにいてくれてもいいんっスよ?」
「またまたご冗談を。」
首を鳴らしながら笑う浦原に対して、名無しは困ったように笑い返した。
追憶の星#13
二番隊の宿舎へ戻る、帰り道。
浦原はあくびを噛み殺しながら歩いていた。
「眠そうですね。」
「『遊び場』ではしゃいでいたら、中々寝る時間がなくて。」
恐らく卍解の修行や、はたまた変なものでも開発しているのだろう。
席官といえども、宿舎で大掛かりな機材を持ち込むことはできない。
だから処刑場の地下には行き場所のない機材がゴミのように積まれていたわけだが……こんなものが山本総隊長の目に止まったら、拳骨ではすまないだろうに。
「てっきり女性とハッスルしているのかと思っていました。」
「やだなぁ。ボクのことを何だと思ってるんっスか?」
「研究オタクで性欲魔人のロクデナシです。」
「…ちょっと辛辣すぎやしません?」
「事実でしょう?」
歯に衣着せぬ物言いに、浦原は笑いながら「まぁその通りなんっスけど」と笑う。
カラン、コロンと涼しげに鳴る下駄の音と、板張りの床を踏む草履の音が廊下に響く。
「で、ちょっとお願いがあるンっスけどぉ…」
「卍解の修行に付き合え、なら御遠慮しますよ。」
「え。」
「え。じゃないですよ。なんですか、あの卍解。チートじゃないですか」
範囲内の物質を『作り替える』能力。
浦原らしい斬魄刀の能力だ、と笑いたいところだが、どうも相性が悪い。
一度興味本位で手合わせしたらえらい目にあった。
(現代の浦原さんが、『人を鍛えるのに向いていない』と言ってた理由がよく分かった)
能力を理解したところで、対策が立て難い。
戦略の上では『隠し玉』として使うのが最適だろう。
だからこそ誰にも見せていなかった。恐らく、夜一にすら。
「もう少し対策考えたら手合わせお願いします。」
規格外とも言える能力。
――だが、必ず欠点はあるはず。
無闇矢鱈に挑んでも返り討ちになるのなら、頭を使わなければ。
「…へぇ」
「何ですか。」
「つまり次は勝算があるんっスか?」
「?、勝負するなら勝つつもりで挑むのが当たり前でしょう。」
負けるつもりで挑む勝負なんてない。
無いものねだりもするつもりもない。
今持てる全てを使って、最善の手を尽くすだけだ。
負ければ、死ぬ。
単純な話だ。
ならば勝つ方法を死ぬ気で考えなければいけない。
目標は遥か彼方の高みにあろうと、尽くした最善は必ず無駄にはならないのだから。
とても、とても嬉しそうに。楽しそうに。
一瞬目を丸くした浦原は、満足気に笑った。
「いやぁ、いいっすね。ボクそういうの大好きっスよ。」
「それは何よりです」
生きるための心構えは、なにせ浦原に仕込まれたのだから。
「…ってことはまだ隠し玉あるんっスよね?それは見せてくれないんです?」
名無しの顔を覗き込むように腰を屈める。
白々しい動きは一周まわって滑稽だ。
勘がいい、と褒めて差し上げたいが――
「未来の浦原さんに止められているので。」
「えー、ちょっとだけでもいいじゃないっスか。」
「ダメです。叱られるのは私ですから。」
まるで子供とのやりとりみたいだ。
「ケチ。」と拗ねながら浦原が宿舎にある、自室の扉を開いた時――
暴発する扉。
開いた途端爆発するよう鬼道でも仕掛けていたのだろう。
咄嗟に下がった浦原がよろめき――
「今度こそ、死ね!浦原喜助!」
黒い外套が爆煙から飛び出てくる。
顔を見るまでもない。
アイツだ。
刻志玄隆だ。
真っ直ぐ伸びる切先。
外套は霊圧を隠すことができても、迸る殺気は隠せない。
気がつけば、間に割って入っていた。
前に翳した左腕に突き立てられる刃。
骨と筋肉を豪快に裂く痛みに、思わず息を呑んだ。
「名無しサン!」
――あぁ、初めて名前を呼んでもらえた。
そんな思考だけは呑気なことを巡らせながら、私は目の前の男を睨みつけた。