追憶の星
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「やぁ、名無し君。」
人の良さそうな笑顔を浮かべ、藍染が声を掛けてくる。
お互い本性を何となく察している身としては、つい表情を露骨に歪めてしまいそうになる。
「少しいいかな?」
追憶の星#12
「…で、何です?手短にお願いします。」
「随分せっかちだね。……あぁ、すまない。餡蜜を二つ。」
個室が完備された茶処。
落ち着いた雰囲気に、品の良さそうな調度品。
ちょっとした『内緒のおはなし』には丁度いいだろう。
「私は結構ですよ。」
「つれないな。どうやって鏡花水月を破ったのか詳しく聞きたいのだけどね。」
レンズの向こうの目が、それはもう、心底愉しそうに細められる。
「企業秘密ですよ。」
「そうか。それは困ったな」
嘘つけ。
斬魄刀も持たずにこの場にいるのだ。
『斬魄刀などなくてもお前を殺すことができる』と暗に言われているようなものだ。
「――あぁ、斬魄刀かい?完全催眠が効かないのなら意味がないかと思ってね」
「随分余裕ですね。私が貴方を切り捨てると思わないんですか?」
「その心配はしてないさ。何せ、君は『過去を守るために未来から来た』死神なんだから。」
やはりおおよそ勘づかれていたらしい。
否定も肯定もせず、名無しは沈黙を守る。
「私を殺したら未来が変わる可能性がある。つまり手出しは出来ないんだろう?」
「本当は今すぐ殺してやりたいんですけどね」
けれど、それは出来ない。
全く。弱味を握られた気分だ。
よりによって、この天敵に。
「そう苛々するものではないさ。とりあえず甘い物でも食べたらどうだい?」
防音がしっかりしていそうな分厚い木製の扉が、滑るように開かれる。
上品な動きで餡蜜を持ってきた店員に「すまない、ありがとう」と完璧な笑顔を浮かべて藍染は笑った。
本性を知っている身としては、全く立派な猫かぶりだと感心してしまう。
「結構です。お一人で二人前どうぞ。」
「おや。君は食べ物を粗末にするような子だったのかい?」
「貴方の前で食事をする程、警戒心ユルユルではありませんから」
「なるほど。いい心掛けだね」
逆上するわけでもなく、むしろ感心したように笑う藍染。
名無し自身、他人の心の機敏に特別聡いわけではないが……この男は、本当に本心が読めない。
「君に悪い話をしに来た訳ではないんだよ」
餡蜜を一口頬張り、目の前の好青年に見える男は静かに笑う。
「協力しようじゃないか」
「……………………………はい?」
「君が過去に来た目的は知らないが、何かしら理由があるのだろう?手伝ってあげよう、と言っているのさ」
突然、何を言い出すのだろうか。
この男の手を借りる?
どういった風の吹き回しなのやら。
「理由は?」
「君は未来の私を知っている。恐らく『計画』の邪魔立てなどしないだろうが…まぁ不安要素は祓っておきたいタチでね。単刀直入に言うと『早く未来に帰って頂きたい』ってことさ。」
なるほど。筋は通っている。
確かに邪魔はしない。――正しくは、邪魔は出来ない。
一護から、聞いた。
ユーハバッハを倒す時、まさかの藍染に手助けをしてもらった、と。
『アイツが鏡花水月を使わなければ、多分負けてた』
少し悔しそうに語る彼の言葉に、その時どう返事をしていいのか分からなかった。
だからこそ、彼は殺せない。
全ての要素が揃って辛勝出来た勝利なら、敵も味方も誰一人欠けては――その未来は、きっと掴めない。
清濁飲み込む必要がある選択肢なのは、重々承知だ。
藍染の手を借りる事に、今回はデメリットはないだろう。
――それでも、
「お断りします。」
淀みない声で、言い放つ名無し。
迷いはない。
今回、彼の手を取ることは悪ではないのかもしれないが、何より名無し自身が許せなかった。
手出しはしない。邪魔立てもしない。
しかし彼がこれから行う所業は許し難く、一寸も受け入れることが出来ないからだ。
だから手を取らない。借りることはしない。
「おや、意外だね。潔癖性には見えなったんだけどね」
「そりゃ勝つ為なら卑怯な手だっていくらでも使いますよ。けれど、私も譲れない矜持があります。
――貴方の手は、絶対に取らない。」
それだけは譲れない。
相容れない者に、理解は示せない。
「それは残念だ。
……しかし、私のような男をみすみす見逃して野放すなんて、君は中々の悪人だね。名無し」
眼鏡の奥で、穏やかな目元が愉しそうに細められる。
対する名無しは小さく溜息をついて、口角を小さく上げた。
「元々正義になった覚えなんてありませんよ。私は、私がしたいようにしてるだけですから」
名無しがそう答えると、藍染は満足そうに眼鏡をテーブルに置いた。
ガラス板越しではない鷲色の瞳は、愉悦を浮かべて細められる。
「……ますます君に興味が湧いてきたな」
「勘弁してください。」
満面の笑みで笑う藍染に対して、名無しはただただげんなりと項垂れた。
人の良さそうな笑顔を浮かべ、藍染が声を掛けてくる。
お互い本性を何となく察している身としては、つい表情を露骨に歪めてしまいそうになる。
「少しいいかな?」
追憶の星#12
「…で、何です?手短にお願いします。」
「随分せっかちだね。……あぁ、すまない。餡蜜を二つ。」
個室が完備された茶処。
落ち着いた雰囲気に、品の良さそうな調度品。
ちょっとした『内緒のおはなし』には丁度いいだろう。
「私は結構ですよ。」
「つれないな。どうやって鏡花水月を破ったのか詳しく聞きたいのだけどね。」
レンズの向こうの目が、それはもう、心底愉しそうに細められる。
「企業秘密ですよ。」
「そうか。それは困ったな」
嘘つけ。
斬魄刀も持たずにこの場にいるのだ。
『斬魄刀などなくてもお前を殺すことができる』と暗に言われているようなものだ。
「――あぁ、斬魄刀かい?完全催眠が効かないのなら意味がないかと思ってね」
「随分余裕ですね。私が貴方を切り捨てると思わないんですか?」
「その心配はしてないさ。何せ、君は『過去を守るために未来から来た』死神なんだから。」
やはりおおよそ勘づかれていたらしい。
否定も肯定もせず、名無しは沈黙を守る。
「私を殺したら未来が変わる可能性がある。つまり手出しは出来ないんだろう?」
「本当は今すぐ殺してやりたいんですけどね」
けれど、それは出来ない。
全く。弱味を握られた気分だ。
よりによって、この天敵に。
「そう苛々するものではないさ。とりあえず甘い物でも食べたらどうだい?」
防音がしっかりしていそうな分厚い木製の扉が、滑るように開かれる。
上品な動きで餡蜜を持ってきた店員に「すまない、ありがとう」と完璧な笑顔を浮かべて藍染は笑った。
本性を知っている身としては、全く立派な猫かぶりだと感心してしまう。
「結構です。お一人で二人前どうぞ。」
「おや。君は食べ物を粗末にするような子だったのかい?」
「貴方の前で食事をする程、警戒心ユルユルではありませんから」
「なるほど。いい心掛けだね」
逆上するわけでもなく、むしろ感心したように笑う藍染。
名無し自身、他人の心の機敏に特別聡いわけではないが……この男は、本当に本心が読めない。
「君に悪い話をしに来た訳ではないんだよ」
餡蜜を一口頬張り、目の前の好青年に見える男は静かに笑う。
「協力しようじゃないか」
「……………………………はい?」
「君が過去に来た目的は知らないが、何かしら理由があるのだろう?手伝ってあげよう、と言っているのさ」
突然、何を言い出すのだろうか。
この男の手を借りる?
どういった風の吹き回しなのやら。
「理由は?」
「君は未来の私を知っている。恐らく『計画』の邪魔立てなどしないだろうが…まぁ不安要素は祓っておきたいタチでね。単刀直入に言うと『早く未来に帰って頂きたい』ってことさ。」
なるほど。筋は通っている。
確かに邪魔はしない。――正しくは、邪魔は出来ない。
一護から、聞いた。
ユーハバッハを倒す時、まさかの藍染に手助けをしてもらった、と。
『アイツが鏡花水月を使わなければ、多分負けてた』
少し悔しそうに語る彼の言葉に、その時どう返事をしていいのか分からなかった。
だからこそ、彼は殺せない。
全ての要素が揃って辛勝出来た勝利なら、敵も味方も誰一人欠けては――その未来は、きっと掴めない。
清濁飲み込む必要がある選択肢なのは、重々承知だ。
藍染の手を借りる事に、今回はデメリットはないだろう。
――それでも、
「お断りします。」
淀みない声で、言い放つ名無し。
迷いはない。
今回、彼の手を取ることは悪ではないのかもしれないが、何より名無し自身が許せなかった。
手出しはしない。邪魔立てもしない。
しかし彼がこれから行う所業は許し難く、一寸も受け入れることが出来ないからだ。
だから手を取らない。借りることはしない。
「おや、意外だね。潔癖性には見えなったんだけどね」
「そりゃ勝つ為なら卑怯な手だっていくらでも使いますよ。けれど、私も譲れない矜持があります。
――貴方の手は、絶対に取らない。」
それだけは譲れない。
相容れない者に、理解は示せない。
「それは残念だ。
……しかし、私のような男をみすみす見逃して野放すなんて、君は中々の悪人だね。名無し」
眼鏡の奥で、穏やかな目元が愉しそうに細められる。
対する名無しは小さく溜息をついて、口角を小さく上げた。
「元々正義になった覚えなんてありませんよ。私は、私がしたいようにしてるだけですから」
名無しがそう答えると、藍染は満足そうに眼鏡をテーブルに置いた。
ガラス板越しではない鷲色の瞳は、愉悦を浮かべて細められる。
「……ますます君に興味が湧いてきたな」
「勘弁してください。」
満面の笑みで笑う藍染に対して、名無しはただただげんなりと項垂れた。