追憶の星
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彼女との集合場所へ急ぎ戻っている途中、響いた轟音。
間違いなく、これは虚の雄叫び。
でもどうして。霊圧は全く感知しなかったはず。
――いや、そんなことより。
曇天の下、浦原は奔る。
瞬歩を使っても彼女の元へたどり着くまで、1分は掛かるだろう。
そう、予想した時だった。
雨雲に覆われた空は、瞬きをした瞬間、綺羅星の群に早変わる。
痩せこけた大地には白い花の絨毯。
吹き上げる風が、やわらかい花弁を宙へ舞いあげた。
紺碧と、白の世界。
これは幻ではない。
(結界、)
いや。斬魄刀との対話で訪れる、内在世界の顕現だ。
人知れず、浦原は寒気がした。
こんなモノを使える人物なんて、自分が知る限りでは尸魂界に存在しない。
存在しない、はずだった。
思い出すのは異邦人の少女。
未来からやってきた死神。
追憶の星#10
「避けろ避ケろ!当たれば丸焦げダ!死神の丸焼キは、さぞかし美味いだろウなァ!?」
地形が変わるほどの落雷の雨。
眩い閃光に目が霞むが、それでも一撃も喰らうことはない。
なにせ『避ける』動作は、いの一番に叩き込まれたのだから。
「当たればの話でしょう。……あーあ、破面もどきは虚閃も出せないのか。中途半端者にはお似合いの末路ですね」
嘲るように笑う名無しに逆上すれば、欠けた仮面の口元に収束される霊圧。
「はハッ!馬鹿が、虚閃で殺したら――欠片も残らなイから、喰えなクなるダろ!」
放たれる赤黒い光。
肌を刺すような霊圧は、流石に隠蔽できるものではないのだろう。
これできっと瀞霊廷も、虚の侵入に気づいたはず。
――『彼』も、異変に気づくはず。
ならば後は、
「『呑め』、天狼」
空を薙げば大穴が口を開けて虚閃を呑み込む。
まるでゴミ箱に入れるように、禍々しい赤はあっという間に虚空へ消えた。
――バケモノだ。
知能を得てしまった虚は、瞬時に理解する。
最大出力の虚閃が、いとも簡単に消されてしまった。
相殺でも鬼道でもない。今まで見た事がない死神だ。
容易く露払いしてしまった小柄な少女と、視線が絡んだ。
――殺される。
目の前の死神は、文字通り『死神』だ。
小柄な体躯に青光りする刀身。
ひ弱そうな外見に反して、その実それは獰猛な獣だった。
間違いなく、殺される。
直感で判断した虚は、虚圏に逃れるべく黒腔をこじ開けるが――
「卍解。遠来瞬け、『蒼星天狼』。」
乾いた地面へ、足を一度踏み鳴らす。
今にも空から堕ちそうな雨雲は消え、星原が天を覆い尽くした。
痩せた大地には白花の波。
呼吸をするような風は、花弁を空へ攫っていく。
内在世界の具現化。
それは獲物を逃さぬ、星の檻。
「逃がすわけないでしょう。今から色々聞きたいことがあるんですから」
虚の四肢に突き立てられるのは、蒼い炎の斬魄刀。
それは『天狼』の刀身ではなく、斬魄刀から放たれる蒼炎より創られた炎の刃。
「魂魄を集めていた――いや、喰っていたのはお前か。尸魂界に手招きしたヤツは、誰?」
「言っタところで意味はナい!お前ガ、ここで死ぬからダ!」
超速再生される、虚の四肢。
仮面を完全に破壊しなければ死なない虚にとって、手足を取り戻すことなど造作もないことだ。
尾から放たれた電撃が花の海を穿つ。
雷鳴と、土煙。蹂躙された花の残骸が宙を舞った。
無残に空いた大穴からは、残火がジリジリと音を立てている。
「は、はハッ!死んダ、死んだ、生意気ナ死神が、死んだ!」
「勝手に殺さないでくださいよ。」
頭上から落ちてくる、声。
パンッと合掌する音と共に、流星のように降り注ぐ五本の柱。
虚の四肢と身体を地面に磔にした縛道は、並大抵の力では砕けない。
それこそ、息をするように『五柱鉄貫』を砕く者がいるとすれば、例の『彼』だけだろう。
「いやぁ、お見事っス。」
ぱちぱちと拍手をしながらのんびり歩いてくるのは、浦原だ。
心象世界の結界の有効範囲内にいたのだろう。物珍しそうに辺りを見渡しながら、悠々と歩いてきた。
「遅いですよ。」
「これだけ強固な結界張られたなら、ネズミを逃がすことはないと思いまして。
内在世界の具現化……いや、固有結界…正しくは空間そのものを創り変えてる結界っスかね?
こんなもの維持しながら九十番台の縛道を詠唱破棄。能ある鷹は爪を隠すとは言いますけど、ちょっとこれは度肝を抜くっスねぇ」
新しい研究対象を見つけた時のマユリのように、嬉々とした表情で空間を見渡す浦原。
やはり同じ穴の狢なのだろう。そういうところはよく似ている。
……こんなこと言ったらマユリに睨まれそうだが。
「浦原さん。それより、『コイツ』どうします?力加減苦手なので、始末するか捕縛するかどっちか決めて欲しいところなんですけど。」
ぐっと拳に力を込めれば、虚の外殻が軋む音が喚いた。
元々底なしの霊力を用いた、圧倒的火力で立ち回る方が得意な名無しだ。
こういった『生かさず殺さず』の手合は正直苦手だった。
「そうっスねぇ。霊圧を完全に消せる『虚』っスか。また厄介な個体が紛れ込んだもんですねぇ」
(そういう個体を、選んでいるんでしょうけど)
口には出さず、そっと心の中で呟く。
霊圧さえ消せる個体さえ用意すれば、あとは『完全催眠』の出番だ。
霊圧を消し、流魂街の住人にでもカモフラージュすれば、魂魄を食らうことも集めることも容易だろう。
使い捨ての手駒にはピッタリだ。
……ふと、違和感を覚える。
浦原は確かに目の前の虚を『虚』と認識した。
それは――おかしい。
「……浦原さん、目の前のコイツ。ちゃんと虚として見えるんですか?」
「えぇ。」
短く返事した声を聞いた瞬間、浦原を思い切り押し倒す名無し。
あまりに突然の行動に、流石の浦原も動転した声が漏れた。
――それと同時に聞こえてきたのは、爆発音。
魂魄を燃料とした、自爆。
正しくは『自爆させられた』と言うべきだろう。
五柱鉄貫が砕かれる、耳障りな金属音。
残骸と化した鉄の塊が、地鳴りと共に大地に突き刺さった。
――まるで、墓標だ。
「よく、分かりましたね。」
珍しく驚いた声音で口を開ける浦原。
……無理もない。まだこの時の彼は、『彼』の斬魄刀の能力も、未完成の崩玉の存在も知らないのだろうから。
「……こういう汚い手口に、慣れてるだけです。」
押し倒した浦原の上から、むくりと起き上がる。
爆発によって巻き上げられた土煙が気持ち悪い。帰って風呂に入ってしまいたいが、そうもいかないだろう。
「……そうっスか。教えることは出来ない、ってコトっスね」
「すみません。」
納得したこととはいえ、やはり歯痒い。
特に浦原に全て伝えれば、慎重かつ最速で対策を練ってしまうだろう。
完全に歴史を変えてしまえるだけの能力があるのが、なんとも複雑だった。
「…しっかし、派手な証拠隠滅っスね」
「本当に。結界の中でよかったです」
先に立ち上がった浦原が、名無しの手を取る。
「ありがとうございます」と一言こたえ、名無しはトントンと踵を二回鳴らした。
薄いガラスが爆ぜる音と同時に、霧散する景色。
そこには元の痩せた大地、焼け焦げた大木……そして、降り始めたらしい大雨が頭上からバケツをひっくり返したかのように降ってきた。
「うっ、わ…冷たい!」
「あーあ、土砂降りっスね…」
「近道しましょう。風邪でも引いたらたまったものじゃないですから」
コツン。
鞘に収めた斬魄刀で軽く地面を突けば、裂けるように開かれる虚構。
踏み入れてしまえば呑まれてしまいそうな黒に、浦原は思わす喉が鳴った。
「色々聞きたいことがあるんっスけど。」
「お答えできる範囲であれば。」
やはり浦原は浦原らしい。
興味深そうに孔を覗き込む彼の手を引いて、名無しは二番隊へ繋げた空間へ飛び込んだ。
間違いなく、これは虚の雄叫び。
でもどうして。霊圧は全く感知しなかったはず。
――いや、そんなことより。
曇天の下、浦原は奔る。
瞬歩を使っても彼女の元へたどり着くまで、1分は掛かるだろう。
そう、予想した時だった。
雨雲に覆われた空は、瞬きをした瞬間、綺羅星の群に早変わる。
痩せこけた大地には白い花の絨毯。
吹き上げる風が、やわらかい花弁を宙へ舞いあげた。
紺碧と、白の世界。
これは幻ではない。
(結界、)
いや。斬魄刀との対話で訪れる、内在世界の顕現だ。
人知れず、浦原は寒気がした。
こんなモノを使える人物なんて、自分が知る限りでは尸魂界に存在しない。
存在しない、はずだった。
思い出すのは異邦人の少女。
未来からやってきた死神。
追憶の星#10
「避けろ避ケろ!当たれば丸焦げダ!死神の丸焼キは、さぞかし美味いだろウなァ!?」
地形が変わるほどの落雷の雨。
眩い閃光に目が霞むが、それでも一撃も喰らうことはない。
なにせ『避ける』動作は、いの一番に叩き込まれたのだから。
「当たればの話でしょう。……あーあ、破面もどきは虚閃も出せないのか。中途半端者にはお似合いの末路ですね」
嘲るように笑う名無しに逆上すれば、欠けた仮面の口元に収束される霊圧。
「はハッ!馬鹿が、虚閃で殺したら――欠片も残らなイから、喰えなクなるダろ!」
放たれる赤黒い光。
肌を刺すような霊圧は、流石に隠蔽できるものではないのだろう。
これできっと瀞霊廷も、虚の侵入に気づいたはず。
――『彼』も、異変に気づくはず。
ならば後は、
「『呑め』、天狼」
空を薙げば大穴が口を開けて虚閃を呑み込む。
まるでゴミ箱に入れるように、禍々しい赤はあっという間に虚空へ消えた。
――バケモノだ。
知能を得てしまった虚は、瞬時に理解する。
最大出力の虚閃が、いとも簡単に消されてしまった。
相殺でも鬼道でもない。今まで見た事がない死神だ。
容易く露払いしてしまった小柄な少女と、視線が絡んだ。
――殺される。
目の前の死神は、文字通り『死神』だ。
小柄な体躯に青光りする刀身。
ひ弱そうな外見に反して、その実それは獰猛な獣だった。
間違いなく、殺される。
直感で判断した虚は、虚圏に逃れるべく黒腔をこじ開けるが――
「卍解。遠来瞬け、『蒼星天狼』。」
乾いた地面へ、足を一度踏み鳴らす。
今にも空から堕ちそうな雨雲は消え、星原が天を覆い尽くした。
痩せた大地には白花の波。
呼吸をするような風は、花弁を空へ攫っていく。
内在世界の具現化。
それは獲物を逃さぬ、星の檻。
「逃がすわけないでしょう。今から色々聞きたいことがあるんですから」
虚の四肢に突き立てられるのは、蒼い炎の斬魄刀。
それは『天狼』の刀身ではなく、斬魄刀から放たれる蒼炎より創られた炎の刃。
「魂魄を集めていた――いや、喰っていたのはお前か。尸魂界に手招きしたヤツは、誰?」
「言っタところで意味はナい!お前ガ、ここで死ぬからダ!」
超速再生される、虚の四肢。
仮面を完全に破壊しなければ死なない虚にとって、手足を取り戻すことなど造作もないことだ。
尾から放たれた電撃が花の海を穿つ。
雷鳴と、土煙。蹂躙された花の残骸が宙を舞った。
無残に空いた大穴からは、残火がジリジリと音を立てている。
「は、はハッ!死んダ、死んだ、生意気ナ死神が、死んだ!」
「勝手に殺さないでくださいよ。」
頭上から落ちてくる、声。
パンッと合掌する音と共に、流星のように降り注ぐ五本の柱。
虚の四肢と身体を地面に磔にした縛道は、並大抵の力では砕けない。
それこそ、息をするように『五柱鉄貫』を砕く者がいるとすれば、例の『彼』だけだろう。
「いやぁ、お見事っス。」
ぱちぱちと拍手をしながらのんびり歩いてくるのは、浦原だ。
心象世界の結界の有効範囲内にいたのだろう。物珍しそうに辺りを見渡しながら、悠々と歩いてきた。
「遅いですよ。」
「これだけ強固な結界張られたなら、ネズミを逃がすことはないと思いまして。
内在世界の具現化……いや、固有結界…正しくは空間そのものを創り変えてる結界っスかね?
こんなもの維持しながら九十番台の縛道を詠唱破棄。能ある鷹は爪を隠すとは言いますけど、ちょっとこれは度肝を抜くっスねぇ」
新しい研究対象を見つけた時のマユリのように、嬉々とした表情で空間を見渡す浦原。
やはり同じ穴の狢なのだろう。そういうところはよく似ている。
……こんなこと言ったらマユリに睨まれそうだが。
「浦原さん。それより、『コイツ』どうします?力加減苦手なので、始末するか捕縛するかどっちか決めて欲しいところなんですけど。」
ぐっと拳に力を込めれば、虚の外殻が軋む音が喚いた。
元々底なしの霊力を用いた、圧倒的火力で立ち回る方が得意な名無しだ。
こういった『生かさず殺さず』の手合は正直苦手だった。
「そうっスねぇ。霊圧を完全に消せる『虚』っスか。また厄介な個体が紛れ込んだもんですねぇ」
(そういう個体を、選んでいるんでしょうけど)
口には出さず、そっと心の中で呟く。
霊圧さえ消せる個体さえ用意すれば、あとは『完全催眠』の出番だ。
霊圧を消し、流魂街の住人にでもカモフラージュすれば、魂魄を食らうことも集めることも容易だろう。
使い捨ての手駒にはピッタリだ。
……ふと、違和感を覚える。
浦原は確かに目の前の虚を『虚』と認識した。
それは――おかしい。
「……浦原さん、目の前のコイツ。ちゃんと虚として見えるんですか?」
「えぇ。」
短く返事した声を聞いた瞬間、浦原を思い切り押し倒す名無し。
あまりに突然の行動に、流石の浦原も動転した声が漏れた。
――それと同時に聞こえてきたのは、爆発音。
魂魄を燃料とした、自爆。
正しくは『自爆させられた』と言うべきだろう。
五柱鉄貫が砕かれる、耳障りな金属音。
残骸と化した鉄の塊が、地鳴りと共に大地に突き刺さった。
――まるで、墓標だ。
「よく、分かりましたね。」
珍しく驚いた声音で口を開ける浦原。
……無理もない。まだこの時の彼は、『彼』の斬魄刀の能力も、未完成の崩玉の存在も知らないのだろうから。
「……こういう汚い手口に、慣れてるだけです。」
押し倒した浦原の上から、むくりと起き上がる。
爆発によって巻き上げられた土煙が気持ち悪い。帰って風呂に入ってしまいたいが、そうもいかないだろう。
「……そうっスか。教えることは出来ない、ってコトっスね」
「すみません。」
納得したこととはいえ、やはり歯痒い。
特に浦原に全て伝えれば、慎重かつ最速で対策を練ってしまうだろう。
完全に歴史を変えてしまえるだけの能力があるのが、なんとも複雑だった。
「…しっかし、派手な証拠隠滅っスね」
「本当に。結界の中でよかったです」
先に立ち上がった浦原が、名無しの手を取る。
「ありがとうございます」と一言こたえ、名無しはトントンと踵を二回鳴らした。
薄いガラスが爆ぜる音と同時に、霧散する景色。
そこには元の痩せた大地、焼け焦げた大木……そして、降り始めたらしい大雨が頭上からバケツをひっくり返したかのように降ってきた。
「うっ、わ…冷たい!」
「あーあ、土砂降りっスね…」
「近道しましょう。風邪でも引いたらたまったものじゃないですから」
コツン。
鞘に収めた斬魄刀で軽く地面を突けば、裂けるように開かれる虚構。
踏み入れてしまえば呑まれてしまいそうな黒に、浦原は思わす喉が鳴った。
「色々聞きたいことがあるんっスけど。」
「お答えできる範囲であれば。」
やはり浦原は浦原らしい。
興味深そうに孔を覗き込む彼の手を引いて、名無しは二番隊へ繋げた空間へ飛び込んだ。