追憶の星
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岩をくり抜いた――否、洞窟を改造したような、と言った方がしっくりくるだろう。
そこは煉獄。
白い囚人服を着た『危険分子』がいる場所。
そこに、彼はいた。
「死ね!浦原喜助!」
振り下ろされた刃は、鈍く光った。
追想の星#01
――遡ること、数時間前。
(まぁ、こうなるよね)
先の霊王護神大戦の折、瀞霊廷は完膚なきまでに破壊された。
それは勿論、護廷十三隊隊舎も例外ではない。
そして、あの場所も。
「蛆虫の巣を脱走した死神が、現世に向かった形跡があるようじゃ」
忌々しそうな砕蜂の隣に立つのは、珍しく神妙そうな顔をした夜一だ。
――蛆虫の巣。
それは、隠密機動・第三分隊『檻理隊』が管轄する『特別檻理』の場所。
護廷十三隊は高尚な組織。そこに一度合格した者から不適合者など出ては『ならない』。
だから【不適合】となりそうな【危険分子】を秘密裏に隔離・監視・管理する必要がある。
それが、蛆虫の巣。
管轄するのは隠密機動を指揮する、二番隊。
かつて二番隊隊長だった夜一も、現在隊長である砕蜂も、内情はよく知っていた。
――そしてはるか昔、二番隊・三席だった浦原喜助も、その一人だ。
むしろ彼の方が実情はよく知っているだろう。
なぜなら隠密機動・第三分隊『檻理隊』の部隊長だったのだから。
有り体に言えば、看守長…といったところか。
危険分子を閉じ込めていた地下施設が、先の大戦で破壊された。
そこから脱獄した罪人は山のようにいる。
先日、名無しの怒りを大いに買った綱彌代時灘もその一人だ。
大抵の罪人はなんとか再度収監することが出来たのだが…。
「刻志 玄隆(こくし げんりゅう)という名前の男が、未だ行方不明となっている。厳重管理していたヤツの斬魄刀も…残念ながら持ち出されている。」
砕蜂が眉を寄せながら男の写真と経歴を綴った書類を差し出す。
人相は至って普通だ。どちらかと言うと人が良さそうな顔をしている。
斬魄刀の能力も、二番隊が把握している限りのことは書かれているが――
「……過去に、遡れる?」
「完現術者の月島という男がおるじゃろう。人の過去に自分の存在を『挟み込む』ことができる能力。それに似ている……はずじゃ。」
「はず、というのは?」
「実際に能力を見たものが数人しかおらん。対象の過去に遡れる…とは言うが、遡られた対象の隊員は、残念ながら死んでおる。」
それが理由で蛆虫の巣に収監されたらしい。
…あまりにも目撃者と明確な証言が少ないため、罰に問われず――また、異端かつ希少な斬魄刀の能力のため重罪にならず、まさに『飼い殺し』にするため蛆虫の巣送りになったそうだ。
当時の四十六室は、全く何を考えているのやら。
「地獄蝶と、穿界門を管理している死神が、恐らく…奴に殺されている」
「またあやふやな表現ですね。」
「全くだ。…これを見ろ。」
砕蜂が流した映像。これは恐らく監視カメラの映像だろう。
黒い外套を羽織った男が、地獄蝶を管理している死神に近づく。
手には、脇差ほどの長さの斬魄刀を携えて。
ふらりとした足取りは、どこか酔っ払いのようにも見える。
ドン、とまるで当たり屋のように地獄蝶を管理している死神に体当たりすると――
『痛っ!……あれ?誰か、ぶつかってきたように思えたけど…』
男は――刻志玄隆は、姿を消していた。
映像には地獄蝶を管理していた青年の死神が一人だけ映っている。
「刺して、ましたね。」
「あぁ。しかし切り傷はおろか、この死神は無傷だ」
まるで通り魔のように、脇差を青年に刺していた。
にも関わらず、青年は無傷だ。
そして刻志の姿は影も形もない。
「そして数分後の映像がこれだ。」
早送りされ、5分ほど経った映像には――
ぱちん、と弾け、霊子に還る青年。
そして瞬きした瞬間、血濡れの斬魄刀を持った刻志がそこに立っていた。
青年の死体は、ない。
血痕すら残っていない。
しかし死神の青年は現に消え、消えたと思った刻志は再び現れた。
「…手品にしては、ちょっと冗談が過ぎますね」
「全くじゃ。穿界門を管理していた死神も、同じ手口で『消されて』おる」
「っていうか……この外套、浦原さん作の霊圧を完全に遮断する外套ですよね…。
ホント、滅却師が瀞霊廷むちゃくちゃにしてくれたおかげで、色んなもの流出してるじゃないですか…」
「その点は同意だな。あの男が作ったもののせいで、捕まえ損ねているというのが何とも腹立たしい…」
肩を竦めながら溜息をつく夜一。
砕蜂はブツブツと恨み節を吐いているが、取り逃がしたのは二番隊自体の責任だ。浦原に八つ当たりしたくても出来る立場ではない。
だからこそ眉間にしわを寄せ、忌々しく愚痴を零すだけに留まっているのだろう。
(…ん?というか何で私、二番隊の管轄情報を教えられてるんだろ?)
ふと脳裏に過った疑問を二人に投げかけた。
「……これ、思い切り機密情報じゃないです?」
「そうだ。夜一様と私。京楽と…映像提供元の涅しか知らない」
そもそも蛆虫の巣が最高機密だ。
その施設から囚人が脱走しているとなれば、手配書を配るわけにもいかない。
ならば、なぜ一般隊士……しかも二番隊ではなく、十二番隊に所属する名無しが聞かされているのか。
「……奴が収監された当時、二番隊隊長は儂じゃった。そして当時、蛆虫の巣を檻理していたのは――」
そこは煉獄。
白い囚人服を着た『危険分子』がいる場所。
そこに、彼はいた。
「死ね!浦原喜助!」
振り下ろされた刃は、鈍く光った。
追想の星#01
――遡ること、数時間前。
(まぁ、こうなるよね)
先の霊王護神大戦の折、瀞霊廷は完膚なきまでに破壊された。
それは勿論、護廷十三隊隊舎も例外ではない。
そして、あの場所も。
「蛆虫の巣を脱走した死神が、現世に向かった形跡があるようじゃ」
忌々しそうな砕蜂の隣に立つのは、珍しく神妙そうな顔をした夜一だ。
――蛆虫の巣。
それは、隠密機動・第三分隊『檻理隊』が管轄する『特別檻理』の場所。
護廷十三隊は高尚な組織。そこに一度合格した者から不適合者など出ては『ならない』。
だから【不適合】となりそうな【危険分子】を秘密裏に隔離・監視・管理する必要がある。
それが、蛆虫の巣。
管轄するのは隠密機動を指揮する、二番隊。
かつて二番隊隊長だった夜一も、現在隊長である砕蜂も、内情はよく知っていた。
――そしてはるか昔、二番隊・三席だった浦原喜助も、その一人だ。
むしろ彼の方が実情はよく知っているだろう。
なぜなら隠密機動・第三分隊『檻理隊』の部隊長だったのだから。
有り体に言えば、看守長…といったところか。
危険分子を閉じ込めていた地下施設が、先の大戦で破壊された。
そこから脱獄した罪人は山のようにいる。
先日、名無しの怒りを大いに買った綱彌代時灘もその一人だ。
大抵の罪人はなんとか再度収監することが出来たのだが…。
「刻志 玄隆(こくし げんりゅう)という名前の男が、未だ行方不明となっている。厳重管理していたヤツの斬魄刀も…残念ながら持ち出されている。」
砕蜂が眉を寄せながら男の写真と経歴を綴った書類を差し出す。
人相は至って普通だ。どちらかと言うと人が良さそうな顔をしている。
斬魄刀の能力も、二番隊が把握している限りのことは書かれているが――
「……過去に、遡れる?」
「完現術者の月島という男がおるじゃろう。人の過去に自分の存在を『挟み込む』ことができる能力。それに似ている……はずじゃ。」
「はず、というのは?」
「実際に能力を見たものが数人しかおらん。対象の過去に遡れる…とは言うが、遡られた対象の隊員は、残念ながら死んでおる。」
それが理由で蛆虫の巣に収監されたらしい。
…あまりにも目撃者と明確な証言が少ないため、罰に問われず――また、異端かつ希少な斬魄刀の能力のため重罪にならず、まさに『飼い殺し』にするため蛆虫の巣送りになったそうだ。
当時の四十六室は、全く何を考えているのやら。
「地獄蝶と、穿界門を管理している死神が、恐らく…奴に殺されている」
「またあやふやな表現ですね。」
「全くだ。…これを見ろ。」
砕蜂が流した映像。これは恐らく監視カメラの映像だろう。
黒い外套を羽織った男が、地獄蝶を管理している死神に近づく。
手には、脇差ほどの長さの斬魄刀を携えて。
ふらりとした足取りは、どこか酔っ払いのようにも見える。
ドン、とまるで当たり屋のように地獄蝶を管理している死神に体当たりすると――
『痛っ!……あれ?誰か、ぶつかってきたように思えたけど…』
男は――刻志玄隆は、姿を消していた。
映像には地獄蝶を管理していた青年の死神が一人だけ映っている。
「刺して、ましたね。」
「あぁ。しかし切り傷はおろか、この死神は無傷だ」
まるで通り魔のように、脇差を青年に刺していた。
にも関わらず、青年は無傷だ。
そして刻志の姿は影も形もない。
「そして数分後の映像がこれだ。」
早送りされ、5分ほど経った映像には――
ぱちん、と弾け、霊子に還る青年。
そして瞬きした瞬間、血濡れの斬魄刀を持った刻志がそこに立っていた。
青年の死体は、ない。
血痕すら残っていない。
しかし死神の青年は現に消え、消えたと思った刻志は再び現れた。
「…手品にしては、ちょっと冗談が過ぎますね」
「全くじゃ。穿界門を管理していた死神も、同じ手口で『消されて』おる」
「っていうか……この外套、浦原さん作の霊圧を完全に遮断する外套ですよね…。
ホント、滅却師が瀞霊廷むちゃくちゃにしてくれたおかげで、色んなもの流出してるじゃないですか…」
「その点は同意だな。あの男が作ったもののせいで、捕まえ損ねているというのが何とも腹立たしい…」
肩を竦めながら溜息をつく夜一。
砕蜂はブツブツと恨み節を吐いているが、取り逃がしたのは二番隊自体の責任だ。浦原に八つ当たりしたくても出来る立場ではない。
だからこそ眉間にしわを寄せ、忌々しく愚痴を零すだけに留まっているのだろう。
(…ん?というか何で私、二番隊の管轄情報を教えられてるんだろ?)
ふと脳裏に過った疑問を二人に投げかけた。
「……これ、思い切り機密情報じゃないです?」
「そうだ。夜一様と私。京楽と…映像提供元の涅しか知らない」
そもそも蛆虫の巣が最高機密だ。
その施設から囚人が脱走しているとなれば、手配書を配るわけにもいかない。
ならば、なぜ一般隊士……しかも二番隊ではなく、十二番隊に所属する名無しが聞かされているのか。
「……奴が収監された当時、二番隊隊長は儂じゃった。そして当時、蛆虫の巣を檻理していたのは――」
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