「浦原さん、いるか？」

大学生になって、初めてだろうか。
久しぶりに浦原商店の暖簾をくぐると、奥の居間から鉄裁さんが顔を出してきた。

すっかり寒くなってきた11月の下旬。
見知った部屋の中央にはコタツが鎮座しており、そこにはいじけた様な様子でみかんを積み上げる浦原さんの姿があった。
何やってんだ、この人。

「…何やってんだよ、浦原さん。」
「なぁんだ、黒崎サンっスか」

なぁんだ、って。
曲がりなりにも師弟関係だというのに、その言い方はないだろう。
つーか、俺の顔を見て溜息をつくな、溜息を。

「コンのぬいぐるみ、知らねーか？」
「あぁ、道端に落ちていたんで、ジン太が妹さんに返しに持っていきましたけど」

じゃあ中学の放課後までは戻ってこねーな。
ポケットの中に入れた、義魂丸のままのコンに内心『ご愁傷様。』と呟いた。

「そういや、名無しのヤツどうしたんだ？買い物か？」
「聞いてくださいよぉ〜黒崎サン〜」

……あぁ、触れない方がよかったな、この話題。

「今日、尸魂界への報告日なんっスけど、ついて行こうとしたら怒られちゃったんっスよぉ」
「そりゃ浦原さんが仕事の邪魔するからじゃねーの？」
「そんなことはないっスよぉ。早く帰りましょ、って急かしはしますけど」

あぁ、立ち話をしている母親同士と、暇を持て余す子供を思い出した。

一応彼女の本業は一般人から死神になってしまったのだから、そこは邪魔するべきではない気がする。

「でもねぇ、縛道使うのは酷くないっスか？」
「ガチじゃねーか。」

どんだけ急かしてるんだよ。
しかも名無しのとこの隊長は…確か浦原さんと仲の悪い涅って、ヤツだったけな。
まぁ余計な火種が生まれるのは名無しも避けたいのだろう、心中お察し申し上げます・ってな。

「最近名無しサン、アタシのあしらい方も雑なんっスよ〜」
「そりゃそんなベタベタしてたらな」
「え、そんなにしてます？」
「かなり。」

目に余る、と言ったら言い過ぎかもしれないが、少なくとも人目をもう少し気にした方がいいデレ方をしているのは確かだ。
愛が重いというか、一方的な気がする。



「ただいま帰りましたぁ」

浦原商店の地下室、もとい勉強部屋から出てくる名無し。
どうやら穿界門は地下に作ったらしい。

「おかえりなさい名無しサン、ボク重たいンっスか！？」
「はい？むしろ筋肉ある割にスマートな体型だと思いますけど」

違う。そうじゃない。

帰ってきた名無しを堪能するように俺がいるにも関わらずぬいぐるみを抱きしめるように、腕の中にすっぽりと収める浦原さん。

何を突然言ってるんだ・と呆れ半分で苦笑いしながら、浦原さんの背中を擦る名無しの手つきは酷く優しい。
…思ったより一方通行の好意ではないようだ。案外丁度いいバランスなのかもしれない。

まぁそれでも浦原さんの愛情表現はやはり過激派だと俺は思うが。

（なんだ。お似合いじゃねーか、この二人）

意外と鈍いのは浦原さんだったりして。
俺は小さく溜息をつきながら、コタツの上に鎮座しているミカンをひとつ拝借した。



店主と少女の事情#黒崎一護の場合



「う、わぁ！？黒崎くんいたの！？」
「おー」
「酷いじゃないっスか、名無しサン！突き飛ばすなんて！まだボクは充電中っスよ！？」
「離してください、人前は恥ずかしいから嫌です！」