店主と彼女の事情シリーズ
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「あんな男のどこがえぇんねん。」
久方ぶりに浦原商店に顔を出した。
近辺で仕事をしているものの、やはりここには『あの男』がいるせいで会いに行くのは少し億劫だった。
名無しには会いたい。
喜助には会いたくない。
元上司だから、とかそんな理由じゃない。
彼のことは認めてなくもない。
死神としての能力は完璧だろう。
隊長らしい人格を持ち合わせているのも知っている。
それでも、嫌いだった。
すること、成すこと。
『世界のため』と尤もらしい理由をつけて、本心を隠して、まるで『そうであらなければいけない』と取り繕う態度が、嫌いだった。
本心は、また別の所にあったとしても。
『世界のため』と言い聞かせる姿は、まるで禁忌に触れてしまった贖罪のようで。
歯痒くて、腹が立って、どうしようもなく嫌いだった。
「あの男って、浦原さんのこと?」
「他に誰がおるんねん。」
姿勢よくお茶を啜る名無しを一瞥すれば、きょとんと目を丸くしていた。
死神も、人間も嫌いだ。嫌いだった。
それでも片手で足りてしまう程の人数くらいは、嫌いじゃない者もいる。
五本の指に入る頭数の中で、名無しは嫌いじゃない『人間』の中に入っていた。
入って、いたのだ。
卑怯な嘘をつかない。
自分の想いに素直。
誰かを裏切ったり、蔑ろにすることなどない。
そんな『人間らしかぬ人間』である彼女のことが、どうしようもなく好きだった。
そんな彼女は死んでしまって。
目の前にこうして『死神』になって現世で過ごしているわけなのだが……自分としては、やはり『人間であることを捨てざるを得なかった』とはいえ、どうしてもこの結果に未だに納得できなかった。
(そういえば、)
人間として、彼女がアイツと言葉を交わした最後の時に限っては、酷く取り乱していたことをぼんやりと思い出す。
『あなた、自分が何やろうとしてるのか分かってるんっスか!?』
憔悴した声。
青ざめた顔。
大の男が今にも泣き出しそうな顔をしていたのは、鮮明に覚えている。
だから浦原に言わなかった。言えなかった。
どうして彼女を、名無しを、見殺しにしたのだ、と。
どうしようもなかった。
最善の手だった。
結果として彼女は帰ってきたものの、あの男の心情としては魂の底から冷えきって震え上がるような出来事だったろう。
それでも歯を食いしばって、立ち上がる彼女の背を押した。見送った。
そんな彼に、言えるはずも無かった。
死神と少女の、最後の『サヨナラ』に、軽率に口を挟むことなんて。
それはあの場にいた全員がそうだっただろう。
素直じゃない。
平気で嘘もつく。
犠牲だって厭わないし、それを呑み込んで、背負って、痛々しいまでに真っ直ぐ立つあの男が
浦原喜助が、どうしようもなく嫌いだった。
ばりっ、と煎餅をひと齧りすれば、それを皮切りに名無しが困ったように口を開いた。
「どこが……って言われると困るなぁ。セクハラは酷いし、不摂生だし、すぐ怪しいものを作っては子供みたいにはしゃぐし……」
「全然、ダメダメやないか。」
「うん。でも、好きだよ。」
ふにゃふにゃとあどけなく笑う名無し。
その言葉に嘘も偽りも虚勢もない。
花が咲くような表情に、文句も悪口も全部腹の奥底に落ちてしまった。
そんな顔、ズルすぎる。
「はーーー、ダメンズがええってことか。」
「そうかもね。」
店主と彼女の事情#猿柿ひよ里の場合
「あれぇ?ひよ里サン遊びに来てたンっスか?」
「げ。もう帰ってきよった……。名無し、ごっつぉさん。」
「いえいえ、お粗末さまでした。また遊びに来てね。」
外出していた浦原が、これまた態とらしく顔をひょこりと部屋へ覗かせる。
相変わらず掴み所のない表情をするあの男の顔は、やはり不愉快の一言に尽きた。
何より、名無しの『一番』であることが、何より気に食わない。
「………………やっぱりウチ、アンタのこと嫌いや。」
「え、えぇぇ……なんっスか、藪から棒に。名無しサン、ひよ里サンが反抗期っス!」
「…むしろ反抗期じゃない時なんてありましたっけ?」
久方ぶりに浦原商店に顔を出した。
近辺で仕事をしているものの、やはりここには『あの男』がいるせいで会いに行くのは少し億劫だった。
名無しには会いたい。
喜助には会いたくない。
元上司だから、とかそんな理由じゃない。
彼のことは認めてなくもない。
死神としての能力は完璧だろう。
隊長らしい人格を持ち合わせているのも知っている。
それでも、嫌いだった。
すること、成すこと。
『世界のため』と尤もらしい理由をつけて、本心を隠して、まるで『そうであらなければいけない』と取り繕う態度が、嫌いだった。
本心は、また別の所にあったとしても。
『世界のため』と言い聞かせる姿は、まるで禁忌に触れてしまった贖罪のようで。
歯痒くて、腹が立って、どうしようもなく嫌いだった。
「あの男って、浦原さんのこと?」
「他に誰がおるんねん。」
姿勢よくお茶を啜る名無しを一瞥すれば、きょとんと目を丸くしていた。
死神も、人間も嫌いだ。嫌いだった。
それでも片手で足りてしまう程の人数くらいは、嫌いじゃない者もいる。
五本の指に入る頭数の中で、名無しは嫌いじゃない『人間』の中に入っていた。
入って、いたのだ。
卑怯な嘘をつかない。
自分の想いに素直。
誰かを裏切ったり、蔑ろにすることなどない。
そんな『人間らしかぬ人間』である彼女のことが、どうしようもなく好きだった。
そんな彼女は死んでしまって。
目の前にこうして『死神』になって現世で過ごしているわけなのだが……自分としては、やはり『人間であることを捨てざるを得なかった』とはいえ、どうしてもこの結果に未だに納得できなかった。
(そういえば、)
人間として、彼女がアイツと言葉を交わした最後の時に限っては、酷く取り乱していたことをぼんやりと思い出す。
『あなた、自分が何やろうとしてるのか分かってるんっスか!?』
憔悴した声。
青ざめた顔。
大の男が今にも泣き出しそうな顔をしていたのは、鮮明に覚えている。
だから浦原に言わなかった。言えなかった。
どうして彼女を、名無しを、見殺しにしたのだ、と。
どうしようもなかった。
最善の手だった。
結果として彼女は帰ってきたものの、あの男の心情としては魂の底から冷えきって震え上がるような出来事だったろう。
それでも歯を食いしばって、立ち上がる彼女の背を押した。見送った。
そんな彼に、言えるはずも無かった。
死神と少女の、最後の『サヨナラ』に、軽率に口を挟むことなんて。
それはあの場にいた全員がそうだっただろう。
素直じゃない。
平気で嘘もつく。
犠牲だって厭わないし、それを呑み込んで、背負って、痛々しいまでに真っ直ぐ立つあの男が
浦原喜助が、どうしようもなく嫌いだった。
ばりっ、と煎餅をひと齧りすれば、それを皮切りに名無しが困ったように口を開いた。
「どこが……って言われると困るなぁ。セクハラは酷いし、不摂生だし、すぐ怪しいものを作っては子供みたいにはしゃぐし……」
「全然、ダメダメやないか。」
「うん。でも、好きだよ。」
ふにゃふにゃとあどけなく笑う名無し。
その言葉に嘘も偽りも虚勢もない。
花が咲くような表情に、文句も悪口も全部腹の奥底に落ちてしまった。
そんな顔、ズルすぎる。
「はーーー、ダメンズがええってことか。」
「そうかもね。」
店主と彼女の事情#猿柿ひよ里の場合
「あれぇ?ひよ里サン遊びに来てたンっスか?」
「げ。もう帰ってきよった……。名無し、ごっつぉさん。」
「いえいえ、お粗末さまでした。また遊びに来てね。」
外出していた浦原が、これまた態とらしく顔をひょこりと部屋へ覗かせる。
相変わらず掴み所のない表情をするあの男の顔は、やはり不愉快の一言に尽きた。
何より、名無しの『一番』であることが、何より気に食わない。
「………………やっぱりウチ、アンタのこと嫌いや。」
「え、えぇぇ……なんっスか、藪から棒に。名無しサン、ひよ里サンが反抗期っス!」
「…むしろ反抗期じゃない時なんてありましたっけ?」
10/10ページ