新月メランコリー
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「だーれだ!」
不謹慎、という言葉を知らないのだろうか。
バカウサギ……もとい、ラビが楽しそうに名無しの目元を両手で覆う。
覆わなくても見えはしないというのに。
「ラビさんです。声を出されなくてもこれは分かりますよー」
くすくすと笑いながら名無しが食べかけのナポリタンを頬張る。
……口の周りがケチャップだらけなのは、後で教えてやることにしよう。
「え、なんでさ?」
「それはですね……」
***
談話室。
任務がないのか勝手知ったる面々がわらわらと集まってきている。
一言で言えばしょうもない。
だが、はしゃぐラビを制したところで「まぁまぁ、いいじゃないですか神田さん」と呑気に名無しは笑うばかりだ。
こうなったら不本意だが、付き合うしかない。
「ほい、じゃあだーれだ。」
「リナリー。手がすべすべだし、コーヒーの匂いがするから…」
「ふふっ、当たり。」
嬉しそうにリナリーが笑い、そっと右手を離す。
「すごいさね。じゃあこれはだーれだ?」
「アレンさん。」
「え。なんで分かるんですか?」
モヤシ……アレンにも平等なように、との理由で、右手だけで誰かを当てるゲーム。
……どうやらよっぽど暇を持て余しているらしい。
昔に比べて平和という証拠なのだから、悪くはないのだが…。
「その……みたらし団子の、タレの匂いが…」
「またアレン間食したんさ…?」
「お腹が減るんだから仕方ないです。」
キッパリと言い放つアレンは、悪びれた様子を見せない。
呆れるラビが小さくため息をつくが、抑止の効果はないだろう。
「これは?」
「ミランダさん。最近いい匂いの石鹸に変えられてたから…」
「じゃあこれは?」
「クロウリーさん。植物の匂いがするので」
「全問正解さ〜!」
きゃいきゃいと楽しむ面子を遠巻きに見ながら、俺は小さく溜息をついた。
……名無しの小さな手が他の人間の手に触れるのが気に食わないなんて。ここまで心が狭かったのか、俺は。
名無しの手前舌打ちをこぼす訳にもいかず、小さく何度目かの溜息をついた。
「神田、神田。」
何かを察したリナリーが、珍しく底意地の悪い笑みを浮かべながら俺の団服を掴む。
……参加しろ、と?
全くもって下らない。
「じゃあこれは多分難問さ〜!だーれだ!」
「……………無臭?あ、でもこれ…うーん…リンクさん?」
「うわ。なんで分かるんさ。オイオイ、鴉なのに大丈夫なんさ?これ。」
「…匂いは消してるはずですが?」
不思議そうに手指の匂いを嗅ぐリンク。
隠密として、僅かに体臭があるのは大問題なのだろう。犬のようにしつこく匂いを確認していた。
「あ、匂いじゃなくて…。触った感じ、独特の手のひらの硬さだったので」
「…なるほど。」
暗器を使って、出来る手の豆のことを言っているのだろう。
腹立たしいことに、一年程ハワード・リンクと名無しは任務で常に一緒にいた身だ。
身体的特徴はよく知っている、と暗に言っているようなものだった。
――気に食わない。
つかつかと歩み寄り、無言で手を名無しの目の前に出す。
ラビが意外そうに左目を丸めるが、すぐに楽しそうに弓形に細めた。
「じゃあ名無し、これは?」
ラビに促され、俺の手を取る名無し。
匂いを確かめるまでもなく、ふにゃりと破顔し――
「神田さん。」
目の錯覚かもしれない。
自惚れかもしれない。
それでも、他の誰かの手を取った時よりも嬉しそうに笑う名無しに、目眩を覚えた。
触っただけで分かるという事実に、先程まで燻っていた苛立ちが霧散するように消え失せた。
…単純?なんとでも言え。
「……行くぞ、名無し。」
「え、あっ、はい!それじゃあ、皆さん。失礼します」
繋いだ手を離さぬまま、ソファから立ち上がらせる。
ペコペコと頭を下げる弟子の手を取り、俺はほんの少し上機嫌になった足取りで食堂に向かった。
ちゃんと主人を嗅ぎ分けられた愛らしい子犬には、ご褒美のおやつをあげなければ。
(とりあえずみたらし団子以外だな)
アレンと同じ匂いになるのだけは、避けさせよう。
新月メランコリー#04
「神田、露骨に嫉妬メラメラさせるから面白かったわね」
「あ……やっぱり神田くん、怒っていたのね…。大丈夫かしら…?」
くすくすと笑うリナリーと、眉毛を八の字に曲げて声を窄めるミランダ。
「大丈夫ですよ。バ神田は単純ですから。名無しにすーぐ当ててもらって、機嫌をコロッと良くしていましたし。」
「あ、やっぱりあれは機嫌がよくなったのであるな…。吾輩でも分かったである」
ポケットに仕込んでいた飴玉をコロコロと舐めながらアレンがミランダに声を掛け、隣にいたクロウリーもそっと胸を撫で下ろす。
「つーかいいのか?鴉なのにあっさりバレてるじゃんよ」
「彼女と付き合いはそこそこありますから。…貴方こそ、すぐにバレたのでしょう?『無臭』に気をつけているのは同じでしょう。ブックマンJr.」
嫌味には嫌味を。
リンクがじとりとラビを見遣れば、困ったように隻眼が細められた。
「あー。俺は手からインクの匂いがするから、ってバレたわ」
「…インク?」
「新聞紙の匂いだってよ。」
「……彼女の前世は犬か何かですかね?」
リンクの呆れたような…いや、感心したような呟きに、ラビは「まぁ今も子犬みたいなもんさね」とただただ笑った。
不謹慎、という言葉を知らないのだろうか。
バカウサギ……もとい、ラビが楽しそうに名無しの目元を両手で覆う。
覆わなくても見えはしないというのに。
「ラビさんです。声を出されなくてもこれは分かりますよー」
くすくすと笑いながら名無しが食べかけのナポリタンを頬張る。
……口の周りがケチャップだらけなのは、後で教えてやることにしよう。
「え、なんでさ?」
「それはですね……」
***
談話室。
任務がないのか勝手知ったる面々がわらわらと集まってきている。
一言で言えばしょうもない。
だが、はしゃぐラビを制したところで「まぁまぁ、いいじゃないですか神田さん」と呑気に名無しは笑うばかりだ。
こうなったら不本意だが、付き合うしかない。
「ほい、じゃあだーれだ。」
「リナリー。手がすべすべだし、コーヒーの匂いがするから…」
「ふふっ、当たり。」
嬉しそうにリナリーが笑い、そっと右手を離す。
「すごいさね。じゃあこれはだーれだ?」
「アレンさん。」
「え。なんで分かるんですか?」
モヤシ……アレンにも平等なように、との理由で、右手だけで誰かを当てるゲーム。
……どうやらよっぽど暇を持て余しているらしい。
昔に比べて平和という証拠なのだから、悪くはないのだが…。
「その……みたらし団子の、タレの匂いが…」
「またアレン間食したんさ…?」
「お腹が減るんだから仕方ないです。」
キッパリと言い放つアレンは、悪びれた様子を見せない。
呆れるラビが小さくため息をつくが、抑止の効果はないだろう。
「これは?」
「ミランダさん。最近いい匂いの石鹸に変えられてたから…」
「じゃあこれは?」
「クロウリーさん。植物の匂いがするので」
「全問正解さ〜!」
きゃいきゃいと楽しむ面子を遠巻きに見ながら、俺は小さく溜息をついた。
……名無しの小さな手が他の人間の手に触れるのが気に食わないなんて。ここまで心が狭かったのか、俺は。
名無しの手前舌打ちをこぼす訳にもいかず、小さく何度目かの溜息をついた。
「神田、神田。」
何かを察したリナリーが、珍しく底意地の悪い笑みを浮かべながら俺の団服を掴む。
……参加しろ、と?
全くもって下らない。
「じゃあこれは多分難問さ〜!だーれだ!」
「……………無臭?あ、でもこれ…うーん…リンクさん?」
「うわ。なんで分かるんさ。オイオイ、鴉なのに大丈夫なんさ?これ。」
「…匂いは消してるはずですが?」
不思議そうに手指の匂いを嗅ぐリンク。
隠密として、僅かに体臭があるのは大問題なのだろう。犬のようにしつこく匂いを確認していた。
「あ、匂いじゃなくて…。触った感じ、独特の手のひらの硬さだったので」
「…なるほど。」
暗器を使って、出来る手の豆のことを言っているのだろう。
腹立たしいことに、一年程ハワード・リンクと名無しは任務で常に一緒にいた身だ。
身体的特徴はよく知っている、と暗に言っているようなものだった。
――気に食わない。
つかつかと歩み寄り、無言で手を名無しの目の前に出す。
ラビが意外そうに左目を丸めるが、すぐに楽しそうに弓形に細めた。
「じゃあ名無し、これは?」
ラビに促され、俺の手を取る名無し。
匂いを確かめるまでもなく、ふにゃりと破顔し――
「神田さん。」
目の錯覚かもしれない。
自惚れかもしれない。
それでも、他の誰かの手を取った時よりも嬉しそうに笑う名無しに、目眩を覚えた。
触っただけで分かるという事実に、先程まで燻っていた苛立ちが霧散するように消え失せた。
…単純?なんとでも言え。
「……行くぞ、名無し。」
「え、あっ、はい!それじゃあ、皆さん。失礼します」
繋いだ手を離さぬまま、ソファから立ち上がらせる。
ペコペコと頭を下げる弟子の手を取り、俺はほんの少し上機嫌になった足取りで食堂に向かった。
ちゃんと主人を嗅ぎ分けられた愛らしい子犬には、ご褒美のおやつをあげなければ。
(とりあえずみたらし団子以外だな)
アレンと同じ匂いになるのだけは、避けさせよう。
新月メランコリー#04
「神田、露骨に嫉妬メラメラさせるから面白かったわね」
「あ……やっぱり神田くん、怒っていたのね…。大丈夫かしら…?」
くすくすと笑うリナリーと、眉毛を八の字に曲げて声を窄めるミランダ。
「大丈夫ですよ。バ神田は単純ですから。名無しにすーぐ当ててもらって、機嫌をコロッと良くしていましたし。」
「あ、やっぱりあれは機嫌がよくなったのであるな…。吾輩でも分かったである」
ポケットに仕込んでいた飴玉をコロコロと舐めながらアレンがミランダに声を掛け、隣にいたクロウリーもそっと胸を撫で下ろす。
「つーかいいのか?鴉なのにあっさりバレてるじゃんよ」
「彼女と付き合いはそこそこありますから。…貴方こそ、すぐにバレたのでしょう?『無臭』に気をつけているのは同じでしょう。ブックマンJr.」
嫌味には嫌味を。
リンクがじとりとラビを見遣れば、困ったように隻眼が細められた。
「あー。俺は手からインクの匂いがするから、ってバレたわ」
「…インク?」
「新聞紙の匂いだってよ。」
「……彼女の前世は犬か何かですかね?」
リンクの呆れたような…いや、感心したような呟きに、ラビは「まぁ今も子犬みたいなもんさね」とただただ笑った。