新月メランコリー
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「全く貴女は。アクマの毒で眼を負傷するだなんて。命が無事だったから良かったものの、もっと注意力をですね…」
「久しぶりの小言は堪えるので勘弁してください、リンクさん」
話を聞きつけたハワード・リンクが、ネチネチ…いや、懇々と説教してくる。
……以前、『こういうこと』で世話になったことがある彼からの言葉は、何だか他の人よりも鋭く刺さる。…気がした。
***
「リンクさん。目を瞑っていても人とぶつからない方法ってありますか?」
私が焼いた手土産のパウンドケーキを頬張りながら、目元に包帯を巻いた少女――名無しが突然問うてきた。
『なぜそんなことを』…なんて聞くのは野暮だろう。
「まさか貴女、ひとりで出歩くつもりですか。」
「……………………だって部屋はヒマなんですもん」
バツが悪そうに口先を尖らせる名無し。
あまり物がないこの部屋では、確かに娯楽は皆無に等しいだろう。
仮に物があったとしても、現在盲目になっている彼女が楽しめる娯楽など、恐らくないだろうが。
「せめてひとりで出歩けるようになったなら、周りの人の迷惑にならないかなー…なんて思いまして」
「普段迷惑かけていないんですから、この時くらいうんと頼ればいいんじゃないですか?」
少し前まで、彼女はエクソシストとして単独で過酷な任務に着いていた。
お目付け役で自分が付いてはいたが――あくまでお目付け役だ。
あれだけの大役をこなしていたのだ。誰かに甘えても罰は当たらないだろうに。
謙虚すぎるのも考えものだ。
「そもそも体力的に一般人より毛が生えた程度の貴女では、人とぶつからないように…なんて芸当が出来るようになった頃には全快してると思いますよ」
「やっぱりそうですよね…」
諦めの悪い彼女でも、可能不可能くらいは分かるらしい。
うんうんと唸りながらもパウンドケーキを口に運ぶ少女は忙しない。
包帯で目元を隠されてはいるが、恐らくその下では形のいい眉を八の字に曲げて考え込んでいるのだろう。
「参考までにお答えすると、『氣』を感じ取る事が出来れば可能です」
「き。」
「あとは単純に気配に対して敏感になればいいんじゃないんですか?」
「気配……気配ですか……むむ…」
まぁこれも一朝一夕で身につくものではない。
頭ごなしに『不可能だ』なんて言うのは好きではないが、圧倒的に時間も経験も足りない。
下手に怪我を増やせば、それこそ婦長の雷が落ちること間違いないだろう。
(その前に神田ユウがうるさそうですが。)
あんな『他人に興味がない』という主張を凝り固めたような人間が、まさか初めての弟子をこんなにも気にかけるようになるなんて。
人は変わることができるとは言うが、正直変わりすぎだろう。
まぁ、元帥になってから多少マシになったとはいえ、基本的なスタンスとしてはやはり『他人はどうでもいい』という姿勢のようだが。
「諦めなさい。生傷を増やしたらそれこそ周りが黙っていないでしょう。
貴女は大人しく私が差し入れる菓子を、雛鳥のようにここで頬張っていればいいんですよ」
「……絶対太りますね、それは」
「安心なさい。治った暁には恐らく『鍛錬』と称して、神田ユウが容赦なくしごくでしょうから」
「わー、ソレハ楽シミデスネ」
死んだような声を上げながら、見えもしない両目で天井を仰ぐ名無し。
半分ほど顔が覆われているので断言は出来ないが、まさに『辟易』といった表情でゲンナリしていること間違いないだろう。
……何だかんだで生き生きしている彼女を見て、私はそっと口元を緩めた。
…やはり彼女は、笑った顔が良く似合う。
安堵と、少しの同情を込めて「まぁ頑張りなさい」と私は彼女の肩を軽く叩いた。
…………そして彼女は猫のように飛び上がった。
気配を察することは、やはり暫く無理そうだ。
新月メランコリー#03
「明日は何がいいですか?」
「えっ、本当に持ってきてくれるんですか?お菓子。」
「治るまでの間です。一応、一年ほど寝食を共にしたよしみですから」
「じゃあアレンさんも呼びますね!」
「それは作る量が倍になるのでやめなさい。」
「久しぶりの小言は堪えるので勘弁してください、リンクさん」
話を聞きつけたハワード・リンクが、ネチネチ…いや、懇々と説教してくる。
……以前、『こういうこと』で世話になったことがある彼からの言葉は、何だか他の人よりも鋭く刺さる。…気がした。
***
「リンクさん。目を瞑っていても人とぶつからない方法ってありますか?」
私が焼いた手土産のパウンドケーキを頬張りながら、目元に包帯を巻いた少女――名無しが突然問うてきた。
『なぜそんなことを』…なんて聞くのは野暮だろう。
「まさか貴女、ひとりで出歩くつもりですか。」
「……………………だって部屋はヒマなんですもん」
バツが悪そうに口先を尖らせる名無し。
あまり物がないこの部屋では、確かに娯楽は皆無に等しいだろう。
仮に物があったとしても、現在盲目になっている彼女が楽しめる娯楽など、恐らくないだろうが。
「せめてひとりで出歩けるようになったなら、周りの人の迷惑にならないかなー…なんて思いまして」
「普段迷惑かけていないんですから、この時くらいうんと頼ればいいんじゃないですか?」
少し前まで、彼女はエクソシストとして単独で過酷な任務に着いていた。
お目付け役で自分が付いてはいたが――あくまでお目付け役だ。
あれだけの大役をこなしていたのだ。誰かに甘えても罰は当たらないだろうに。
謙虚すぎるのも考えものだ。
「そもそも体力的に一般人より毛が生えた程度の貴女では、人とぶつからないように…なんて芸当が出来るようになった頃には全快してると思いますよ」
「やっぱりそうですよね…」
諦めの悪い彼女でも、可能不可能くらいは分かるらしい。
うんうんと唸りながらもパウンドケーキを口に運ぶ少女は忙しない。
包帯で目元を隠されてはいるが、恐らくその下では形のいい眉を八の字に曲げて考え込んでいるのだろう。
「参考までにお答えすると、『氣』を感じ取る事が出来れば可能です」
「き。」
「あとは単純に気配に対して敏感になればいいんじゃないんですか?」
「気配……気配ですか……むむ…」
まぁこれも一朝一夕で身につくものではない。
頭ごなしに『不可能だ』なんて言うのは好きではないが、圧倒的に時間も経験も足りない。
下手に怪我を増やせば、それこそ婦長の雷が落ちること間違いないだろう。
(その前に神田ユウがうるさそうですが。)
あんな『他人に興味がない』という主張を凝り固めたような人間が、まさか初めての弟子をこんなにも気にかけるようになるなんて。
人は変わることができるとは言うが、正直変わりすぎだろう。
まぁ、元帥になってから多少マシになったとはいえ、基本的なスタンスとしてはやはり『他人はどうでもいい』という姿勢のようだが。
「諦めなさい。生傷を増やしたらそれこそ周りが黙っていないでしょう。
貴女は大人しく私が差し入れる菓子を、雛鳥のようにここで頬張っていればいいんですよ」
「……絶対太りますね、それは」
「安心なさい。治った暁には恐らく『鍛錬』と称して、神田ユウが容赦なくしごくでしょうから」
「わー、ソレハ楽シミデスネ」
死んだような声を上げながら、見えもしない両目で天井を仰ぐ名無し。
半分ほど顔が覆われているので断言は出来ないが、まさに『辟易』といった表情でゲンナリしていること間違いないだろう。
……何だかんだで生き生きしている彼女を見て、私はそっと口元を緩めた。
…やはり彼女は、笑った顔が良く似合う。
安堵と、少しの同情を込めて「まぁ頑張りなさい」と私は彼女の肩を軽く叩いた。
…………そして彼女は猫のように飛び上がった。
気配を察することは、やはり暫く無理そうだ。
新月メランコリー#03
「明日は何がいいですか?」
「えっ、本当に持ってきてくれるんですか?お菓子。」
「治るまでの間です。一応、一年ほど寝食を共にしたよしみですから」
「じゃあアレンさんも呼びますね!」
「それは作る量が倍になるのでやめなさい。」