コイビト・スイッチ!
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「ユーくんの笑顔をスケッチしたい。」
クロッキー帳と、デッサン用の鉛筆を持ったティエドール元帥が現れた。
事情は把握しているらしく、神田の中身が名無しだと承知の上──むしろ承知の上だからこそ、彼は懇願してきた。
「……でも、そういうのって本人じゃなきゃ意味がないのでは?」
「いや、僕もそう思ったんだけどね。ニコニコしてるユー君のスケッチとか僕が生きてる間に出来るのかな、って葛藤した結果、やっぱり今しかない!と決断したってワケ。」
言われてみればそうかもしれない。
神田は整った顔立ちを最大限利用するつもりが毛頭ないらしい。花蕾が綻ぶような彼の笑顔は恋人である名無しですら見たことがない。
勿論、微笑むような僅かな表情の変化や、目元を細めて愛おしむような表情を浮かべることもあるが、全て対名無し限定の表情パターンだ。
教団の面々が見たことある表情は精々、
・仏頂面
・忌々しそうに舌打ちをする顔
・好物の蕎麦と天麩羅を食べている時の僅かに和らいだ表情
・アレンと口喧嘩をしている時の罵倒顔
・ラビに猥談を振られた時の心底鬱陶しそうな時の表情エトセトラエトセトラ…
つまるところ大半が怒っている時の顔だ。
「ね、ね、名無し君。頼むよぅ。こう、猫の親子が日向ぼっこで気持ちよさそうに寝てるシーンを、見た時みたいな、ふわふわ〜と笑った表情してみて。」
「……………、…こう、ですか?」
出来る限り想像し、表情にアウトプットする。
ふわりとした微笑みは、切れ長の目元は柔らかく細められ、形のいい唇は美しく弧を描く。
天使や女神など目じゃない、神々しいと形容しても遜色ない笑顔がそこにあった。
現に、ティエドールは椅子から派手に転げ落ちた。大丈夫だろうか。
「まっ、眩しい…!尊い…!この表情を本家ユー君にして欲しかったけど、これ以上欲は言わない…!ヤバいよ〜傾国の美だよ〜。こんな笑顔見せられちゃあ名王だって暗君に転がり落ちちゃうよ〜」
「……楊貴妃の話でもされてます?」
大興奮する師匠の師匠を眺めながら名無しはぽそりと呟くが、それを肯定する人物も否定する人物もツッコミを入れる人物も不在だった。
神田からすれば『誰だよソイツ』という話であるし、ティエドールに至っては一心不乱にスケッチをし始めている。
周囲の団員はザワつくばかりで「神田もあんな表情出来るのか」とか「顔の筋肉死んでるのかと思った」とか「最早別人だろ」と困惑する者から、ティエドール同様卒倒する者まで現れていた。
「その表情で『お父さん』と呼ばれたら、今すぐ神のところへ行けそうかも」
「名無し、言って今すぐ引導を渡してやれ。」
「物騒ですよ、元帥殺しとか重罪じゃないですか…」
うへ、と表情を崩せば「ほら、猫ちゃん。可愛い猫ちゃん想像して〜。」とティエドールから『笑え』と野次が飛ぶ。
苦笑を浮かべた後、先程と同じような笑顔を浮かべたつもりなのだが……。
「えー、さっきより表情固いよ〜」
「文句言うな。いっそ表情筋全部殺しておけ、名無し。」
「……目の前で元帥コント見せられて、黙って微笑んでおけって無理難題なんですよ…」
困り眉で首を傾げれば、なにか秘策を思いついたのだろう。
ティエドールが古い紙束を取り出して、何枚かパラリと捲った。
「仕方ないなぁ。この秘蔵のスケッチあげるから、もう少し頑張ってくれる?」
「えっ。…わ、わ、わァ!可愛い!」
テーブルに出されたのはとある少年のスケッチ。
木にもたれかかって昼寝をしている──
「なっ、いつの間に描いてんだ!」
「可愛いでしょ〜。他にはえっと〜…あっ、これは17歳くらいかな?蕎麦を食べて、そのまま食堂で転寝してるユー君。」
「盗撮じゃねぇか!気色悪い!」
「写真じゃないから盗撮じゃありませ〜ん。僕の趣味 だよ〜」
やいのやいのと言い合いをするティエドールと名無し──ではなく、神田。
『まぁ未来では肖像権という法律が出来るんですよ』という言葉を呑み込んで、名無しは感心した様子で『報酬』として取り出された紙束をパラパラと捲った。
そこからするりと落ちた、一枚のスケッチ。
慌ててそれを掴めば、とある青年と少女が仲睦まじく話をしている、なんてことない日常のワンシーンだった。
「これ、」
「いい顔してるでしょ?ユー君。名無しちゃんと一緒にいる時はこんな感じなんだよ」
「勝手に描くなって言ってんだろうが!」
神田が取り上げようと腕を伸ばすが、いつもより鋭い動きが出来ない身体。更に言えば腕のリーチも短い。
そんな彼の動きを避けるのは余裕だったのだろう。ティエドールは荷物をひらりとかっさらい、「また後でスケッチさせてね」とウインクを贈った。
コイビト・スイッチ!#06
「このっ、暖炉に焚べてやる!」
「ダメダメ、これは僕の家宝なんだから!」
「待て!…ックソ!足が遅ェ!」
初老の男を鬼の形相で追いかける名無し(の姿をした神田)を、すれ違う団員達が何事かと二度見していた。無理もない。
「……去り際にディスられる私の脚力…」
お行儀よく座っていた名無しはため息一つ零し、ガックリ肩を落として談話室を後にした。
それはそれとして、スケッチは大事に取っておこう。
クロッキー帳と、デッサン用の鉛筆を持ったティエドール元帥が現れた。
事情は把握しているらしく、神田の中身が名無しだと承知の上──むしろ承知の上だからこそ、彼は懇願してきた。
「……でも、そういうのって本人じゃなきゃ意味がないのでは?」
「いや、僕もそう思ったんだけどね。ニコニコしてるユー君のスケッチとか僕が生きてる間に出来るのかな、って葛藤した結果、やっぱり今しかない!と決断したってワケ。」
言われてみればそうかもしれない。
神田は整った顔立ちを最大限利用するつもりが毛頭ないらしい。花蕾が綻ぶような彼の笑顔は恋人である名無しですら見たことがない。
勿論、微笑むような僅かな表情の変化や、目元を細めて愛おしむような表情を浮かべることもあるが、全て対名無し限定の表情パターンだ。
教団の面々が見たことある表情は精々、
・仏頂面
・忌々しそうに舌打ちをする顔
・好物の蕎麦と天麩羅を食べている時の僅かに和らいだ表情
・アレンと口喧嘩をしている時の罵倒顔
・ラビに猥談を振られた時の心底鬱陶しそうな時の表情エトセトラエトセトラ…
つまるところ大半が怒っている時の顔だ。
「ね、ね、名無し君。頼むよぅ。こう、猫の親子が日向ぼっこで気持ちよさそうに寝てるシーンを、見た時みたいな、ふわふわ〜と笑った表情してみて。」
「……………、…こう、ですか?」
出来る限り想像し、表情にアウトプットする。
ふわりとした微笑みは、切れ長の目元は柔らかく細められ、形のいい唇は美しく弧を描く。
天使や女神など目じゃない、神々しいと形容しても遜色ない笑顔がそこにあった。
現に、ティエドールは椅子から派手に転げ落ちた。大丈夫だろうか。
「まっ、眩しい…!尊い…!この表情を本家ユー君にして欲しかったけど、これ以上欲は言わない…!ヤバいよ〜傾国の美だよ〜。こんな笑顔見せられちゃあ名王だって暗君に転がり落ちちゃうよ〜」
「……楊貴妃の話でもされてます?」
大興奮する師匠の師匠を眺めながら名無しはぽそりと呟くが、それを肯定する人物も否定する人物もツッコミを入れる人物も不在だった。
神田からすれば『誰だよソイツ』という話であるし、ティエドールに至っては一心不乱にスケッチをし始めている。
周囲の団員はザワつくばかりで「神田もあんな表情出来るのか」とか「顔の筋肉死んでるのかと思った」とか「最早別人だろ」と困惑する者から、ティエドール同様卒倒する者まで現れていた。
「その表情で『お父さん』と呼ばれたら、今すぐ神のところへ行けそうかも」
「名無し、言って今すぐ引導を渡してやれ。」
「物騒ですよ、元帥殺しとか重罪じゃないですか…」
うへ、と表情を崩せば「ほら、猫ちゃん。可愛い猫ちゃん想像して〜。」とティエドールから『笑え』と野次が飛ぶ。
苦笑を浮かべた後、先程と同じような笑顔を浮かべたつもりなのだが……。
「えー、さっきより表情固いよ〜」
「文句言うな。いっそ表情筋全部殺しておけ、名無し。」
「……目の前で元帥コント見せられて、黙って微笑んでおけって無理難題なんですよ…」
困り眉で首を傾げれば、なにか秘策を思いついたのだろう。
ティエドールが古い紙束を取り出して、何枚かパラリと捲った。
「仕方ないなぁ。この秘蔵のスケッチあげるから、もう少し頑張ってくれる?」
「えっ。…わ、わ、わァ!可愛い!」
テーブルに出されたのはとある少年のスケッチ。
木にもたれかかって昼寝をしている──
「なっ、いつの間に描いてんだ!」
「可愛いでしょ〜。他にはえっと〜…あっ、これは17歳くらいかな?蕎麦を食べて、そのまま食堂で転寝してるユー君。」
「盗撮じゃねぇか!気色悪い!」
「写真じゃないから盗撮じゃありませ〜ん。僕の
やいのやいのと言い合いをするティエドールと名無し──ではなく、神田。
『まぁ未来では肖像権という法律が出来るんですよ』という言葉を呑み込んで、名無しは感心した様子で『報酬』として取り出された紙束をパラパラと捲った。
そこからするりと落ちた、一枚のスケッチ。
慌ててそれを掴めば、とある青年と少女が仲睦まじく話をしている、なんてことない日常のワンシーンだった。
「これ、」
「いい顔してるでしょ?ユー君。名無しちゃんと一緒にいる時はこんな感じなんだよ」
「勝手に描くなって言ってんだろうが!」
神田が取り上げようと腕を伸ばすが、いつもより鋭い動きが出来ない身体。更に言えば腕のリーチも短い。
そんな彼の動きを避けるのは余裕だったのだろう。ティエドールは荷物をひらりとかっさらい、「また後でスケッチさせてね」とウインクを贈った。
コイビト・スイッチ!#06
「このっ、暖炉に焚べてやる!」
「ダメダメ、これは僕の家宝なんだから!」
「待て!…ックソ!足が遅ェ!」
初老の男を鬼の形相で追いかける名無し(の姿をした神田)を、すれ違う団員達が何事かと二度見していた。無理もない。
「……去り際にディスられる私の脚力…」
お行儀よく座っていた名無しはため息一つ零し、ガックリ肩を落として談話室を後にした。
それはそれとして、スケッチは大事に取っておこう。
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