コイビト・スイッチ!
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「名無し!兄さんのせいで、本当にごめんなさい!」
ラビと談話室で別れた後。
神田は『身体が鈍る』と本部の近くの森へ。
名無しはというと本部の中を特に目的なく歩いていた。
兄へ一頻り説教をした後なのだろう。
リナリーが長い髪を揺らしながら、駆け寄ってきた。
見た目が神田であるにも関わらず、『名無し』と呼んだ様子からして事態は完全に把握済みなのだろう。
「だ、大丈夫。意外と何とかなっているから…」
困ったように苦笑いを浮かべる名無し。
長年付き合いのあるリナリーですら初めて目にする神田の表情を目の当たりにし、面食らったように目を見開いて困惑を隠しきれていなかった。
「……ただ、神田さんって、その…やっぱりモテるんだな、と思って…」
──名無しが回想するのは、先程の出来事。
大荷物を運んでいた総合管理班に所属するメイドさん達が大荷物を運んでいた。
それをつい脊椎反射で『持ちますよ』と声をかけてしまったのだ。
見た目は神田。言うことなしの美形だ。
いつもは周りに棘のある態度を取っているからこそ、遠巻きに見られることが多々あるというのに。
そこで親切な名無しと中身が入れ替わってしまったのだからまぁ大変。
黄色い声は上がるわ、『やってしまった』と気づいた時には、メイドさん達からの熱視線を浴びる始末。
きっと明日には神田の評価が鰻登りに違いない。
嬉しい反面、複雑な心境になってしまうのは、他ならぬ彼が恋人だからである。
「…………それは中身が名無しだからじゃないの?」
「?、どういうこと?」
「自覚がないならいいの。」
名無しの気遣い上手は、どこかの白髪の青年紳士といい勝負なのだ。
善性と誠実を人のかたちにしたような少女は、きっと男性に生まれ落ちたなら罪深い程に人たらしとなったに違いない。
「ただ、あっちは凄い苦労してそうね。」
「…あっち?」
「神田。」
リナリーが笑いながら名前を出せば、「あー…」と困ったように名無しは声を上げた。
「『スタミナがなさすぎる』って文句言われちゃった」
「脳筋の神田に比べたらそうでしょうね」
むしろ神田と同じ持久力がある人物など、教団で何人存在するのだろうか。
いや。それを加味した上でも、名無しの体力のなさは自覚している。
それに不満を言うのはご尤もな上、根性でカバーしていた実際の体力を師に暴かれたようで、名無しとしては後ろめたい気分になっていた。
「……頑張っているつもりだったんだけど…。あぁ…服が入らないくらいムキムキの身体になって戻ってきたらどうしよう…」
「まぁ、体力作りは向き不向きあるものよ。それより疲労骨折しないか、私はそっちが心配だわ。」
まさかそんな、と笑えたらどんなに楽だっただろう。
リナリーの目が笑っておらず、予言めいた発言に名無しは小さく呟いた。
「……返ってきた身体が骨折していたら…流石に嫌だなぁ……」
コイビト・スイッチ!#05
(息が、上がる。)
いつもの走り込みをしただけで肺が潰れそうだ。
いかに自分が恵まれた体躯に造られたのか、いかに彼女が一般人の範疇で努力していたのかよく分かる。
常日頃から『よくこんな薄い身体で鍛錬についてこれるものだ』と感心していたが、なんてことはない。答えは実に簡単なものだった。
人一倍弱音を吐かない性分だったから。
負けず嫌いの性分だったから。
もしかすると『ここ以外で生きる術がないのだから』と背水の陣で鍛錬に臨んでいた可能性だってある。
自らを削るような、昔の自分と似通った生き方をしている彼女だと理解していたはずなのに。
はぁ、とため息に近い息をそっと漏らす。
せめて名無しが『体が軽い!』と感動するような筋肉をつけて肉体を返すべきなのか。
いや。そうすれば間違いなく彼女の抱き心地は固くなるのだろう。恋人としてそれは見過ごせない。
白い薄皮の下にあるやわらかさと、抱きしめればすっぽりと収まる丁度いい体躯が、神田の癒しと言っても過言ではないのだから。
(本当に、どうしたものか。)
人目がないせいか、険しい顔を躊躇うことなく浮かべ、本日二度目の溜息を深く深く吐き出す神田であった。
ラビと談話室で別れた後。
神田は『身体が鈍る』と本部の近くの森へ。
名無しはというと本部の中を特に目的なく歩いていた。
兄へ一頻り説教をした後なのだろう。
リナリーが長い髪を揺らしながら、駆け寄ってきた。
見た目が神田であるにも関わらず、『名無し』と呼んだ様子からして事態は完全に把握済みなのだろう。
「だ、大丈夫。意外と何とかなっているから…」
困ったように苦笑いを浮かべる名無し。
長年付き合いのあるリナリーですら初めて目にする神田の表情を目の当たりにし、面食らったように目を見開いて困惑を隠しきれていなかった。
「……ただ、神田さんって、その…やっぱりモテるんだな、と思って…」
──名無しが回想するのは、先程の出来事。
大荷物を運んでいた総合管理班に所属するメイドさん達が大荷物を運んでいた。
それをつい脊椎反射で『持ちますよ』と声をかけてしまったのだ。
見た目は神田。言うことなしの美形だ。
いつもは周りに棘のある態度を取っているからこそ、遠巻きに見られることが多々あるというのに。
そこで親切な名無しと中身が入れ替わってしまったのだからまぁ大変。
黄色い声は上がるわ、『やってしまった』と気づいた時には、メイドさん達からの熱視線を浴びる始末。
きっと明日には神田の評価が鰻登りに違いない。
嬉しい反面、複雑な心境になってしまうのは、他ならぬ彼が恋人だからである。
「…………それは中身が名無しだからじゃないの?」
「?、どういうこと?」
「自覚がないならいいの。」
名無しの気遣い上手は、どこかの白髪の青年紳士といい勝負なのだ。
善性と誠実を人のかたちにしたような少女は、きっと男性に生まれ落ちたなら罪深い程に人たらしとなったに違いない。
「ただ、あっちは凄い苦労してそうね。」
「…あっち?」
「神田。」
リナリーが笑いながら名前を出せば、「あー…」と困ったように名無しは声を上げた。
「『スタミナがなさすぎる』って文句言われちゃった」
「脳筋の神田に比べたらそうでしょうね」
むしろ神田と同じ持久力がある人物など、教団で何人存在するのだろうか。
いや。それを加味した上でも、名無しの体力のなさは自覚している。
それに不満を言うのはご尤もな上、根性でカバーしていた実際の体力を師に暴かれたようで、名無しとしては後ろめたい気分になっていた。
「……頑張っているつもりだったんだけど…。あぁ…服が入らないくらいムキムキの身体になって戻ってきたらどうしよう…」
「まぁ、体力作りは向き不向きあるものよ。それより疲労骨折しないか、私はそっちが心配だわ。」
まさかそんな、と笑えたらどんなに楽だっただろう。
リナリーの目が笑っておらず、予言めいた発言に名無しは小さく呟いた。
「……返ってきた身体が骨折していたら…流石に嫌だなぁ……」
コイビト・スイッチ!#05
(息が、上がる。)
いつもの走り込みをしただけで肺が潰れそうだ。
いかに自分が恵まれた体躯に造られたのか、いかに彼女が一般人の範疇で努力していたのかよく分かる。
常日頃から『よくこんな薄い身体で鍛錬についてこれるものだ』と感心していたが、なんてことはない。答えは実に簡単なものだった。
人一倍弱音を吐かない性分だったから。
負けず嫌いの性分だったから。
もしかすると『ここ以外で生きる術がないのだから』と背水の陣で鍛錬に臨んでいた可能性だってある。
自らを削るような、昔の自分と似通った生き方をしている彼女だと理解していたはずなのに。
はぁ、とため息に近い息をそっと漏らす。
せめて名無しが『体が軽い!』と感動するような筋肉をつけて肉体を返すべきなのか。
いや。そうすれば間違いなく彼女の抱き心地は固くなるのだろう。恋人としてそれは見過ごせない。
白い薄皮の下にあるやわらかさと、抱きしめればすっぽりと収まる丁度いい体躯が、神田の癒しと言っても過言ではないのだから。
(本当に、どうしたものか。)
人目がないせいか、険しい顔を躊躇うことなく浮かべ、本日二度目の溜息を深く深く吐き出す神田であった。