コイビト・スイッチ!
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それは、なんでもない黒の教団の日常だった。
……日常『だった』のだ。
「わーーーッ!避けてくれー!」
ホームの廊下を歩いていると、突然リーバーの声が頭上から降ってきた。
いや。降ってきたのはリーバーの声だけではなく──
***
グラグラとする視界と、フラフラする頭。
ぱちぱちと網膜の裏で火花が散ったあとのような眩暈を感じながら、こめかみをそっと抑えた。
「いたた……一体、何が…………え。」
低い声。
大きな手。
顔を触れば、いつも自分が触れている顔の造形よりも随分と整った感触。
そして何故か着ているのは神田の団服。
いや。『何故か』というよりそれは『当然』だろう。
名無し名無しは『神田ユウ』の身体になっていたのだから。
コイビト・スイッチ!#01
「本当に悪い。」
「い、いえ、リーバーさんが謝ることじゃ…」
「いや。室長の管理不足だ。」
「室長の、管理不足。」
彼の方が部下だったはずでは。
「オイ、リーバー。任務はどうするつもりだ。」
いつもなら鈴が鳴るように軽やかで、やわらかいはずの声音だというのに、細い喉から放たれた声は酷く不機嫌だ。
それは『中の人』が怒っている他ならないのだが、さて。どうしたものか。
名無しの身体の中に入ってしまった神田が、忌々しそうに舌打ちを零した。
「まぁ…身体が元に戻るまでは無理だろうな…。その状態でイノセンスが使えるのはさっき確認したけど、どう考えても危ないだろ?お前ら最近働き詰めだから多少休んでも問題ないと思うけど…」
「既に大問題だろうが。」
「ぐうの音も出ない。」
正論すぎる神田の台詞に、リーバーが困ったように天を仰ぐ。
そう。身体が入れ替わった問題で、真っ先に心配されたのは『咎落ち』だったからだ。
***
──遡ること30分程前。
『何か』あった時の為に、リーバー、ジョニー、そして医務室から緊急呼出をされ、現状を説明され呆れ返った婦長の三名立ち会いの元、『咎落ち』がないか確認を行った。
最初に行ったのは、名無し。
神田曰く「俺の身体の方が多少無理が利く。」とのこと。
自身の身体を杜撰に扱う神田の言葉に、名無しは不満そうな表情を浮かべたものの、「まぁ寄生型よりは負担少ないかもしれませんし」と前置きを置いて、六幻を手に取る。
謎の高揚感を抑えながら「六幻、抜刀!」と声をあげれば、赤黒く鈍色の刀身がすらりと鞘から伸びる──はずだった。
「あれ、あれ?」
鯉口を切ることは出来たものの、途中で刀が鞘の中で引っかかる。
赤黒い刀身を見た限りだと、無事発動はしているものの、単純に『刀が抜けない』というトラブルに見舞われた。
それもそうだ。二十年と少しの人生の中で日本刀を触る機会もなければ、抜刀なんて初めてなのだ。
「力入れんな。棟を滑らせるようにして抜け。」
「棟…?うーん、うーん……あっ、抜けました!抜刀出来た!」
首を傾げながら六幻をあーだこーだと抜刀しようとする神田の姿は、珍獣以上の珍百景だろう。
その異様な光景に、不謹慎ながらリーバーは吹き出し、ジョニーは手に汗を握り、婦長はただ困惑した。
無理もない。戦闘狂であるはずの神田(の姿をした名無し)が、自分の獲物を抜刀して大喜びしてるのだから。
しかも、彼が上げたことないような、喜びに満ちた朗らかな声音で。『誰だお前』状態だろう。
「ん、ンンッ!……あー、じゃあ、一応。
さっき室長が逃げる際に踏んだ、ジョニーの予備の眼鏡。これ直せるか?神田」
咳払いをして気を取り直したリーバーが取り出したのは、弦があらぬ方向に曲がってしまった、ジョニーの眼鏡。
本来ならイノセンスの修復やアクマの破壊に使うイノセンスを、個人の持ち物の修理に使うのはある意味不敬なのかもしれないが……アクマが体良く教団にいるわけもなく、かといって壊れたイノセンスの修繕を本来の持ち主が行なわなかった場合のペナルティも恐ろしい。
なので壊されてしまった可哀想な眼鏡は、丁度いい落とし所だろう。
さて。
問題は、彼女のイノセンス が寄生型ということ。
「……で、どうやって発動するんだ?」
「えっ?こう…気合いで、カッ!と目に力入れます。」
知能指数が下がったような、ふわふわとした説明。
リーバーは(神田の身体に入っているからか?)と真顔で推測してしまったが、それは彼の胸の内だけで留めておこう。
ジョニーの壊れた眼鏡を持ち、睨みつけるように凝視する名無しの姿をした神田。
刹那、パンッと一瞬光が瞬いた後、彼の手の中には新品同様の眼鏡が姿を現した。
しかし、それをそばにいた名無しに押し付け、目頭を片手で抑える神田。
普段名無しでは見ることが滅多にない眉間の皺が、深く深く険しい表情に刻まれていた。
「だ、大丈夫ですか?神田さん」
「…よくこんな代物使ってんな」
余程目が疲れたのか、彼はゆっくり瞬きを繰り返す。
彼自身の身体なら気遣うこともないのだろうが、本来の持ち主はオロオロと狼狽える目の前の恋人のものだ。
安心させる為か、それとも小言を言われない為の言い訳か、名無しは「最初は疲れましたけど、慣れたらどうってことないですから」と困ったように笑った。
その後、咎落ちの兆候がないか念入りに検査されたが、特に『所見なし』ということで、婦長も安心した様子で医務室へ帰って行ったのだが──。
「いくら俺の身体とはいえ、刀も使えねぇ上、鈍臭いコイツは間違いなく負傷するだろ。」
「う…否定出来ないのが悔しい……」
偉そうに座る名無しの姿。
その隣で足を揃えて縮こまる神田の姿。
悪い夢でも見てるのかとリーバーは目眩を覚えるが、残念ながら現実だ。
「あの……神田さん……」
「何だよ。」
「……えっと…大変申し訳ないのですが、足を閉じて座って頂けると…」
「…………。」
ショートパンツとはいえ、見るに見兼ねた名無しが困ったように進言する。
前途多難な入れ替わり、はてさてどうなるのやら。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
どうせなので《このネタ読んでみたい!》というリクエストがあれば受付いたします。
書ける範囲で頑張ります!
……日常『だった』のだ。
「わーーーッ!避けてくれー!」
ホームの廊下を歩いていると、突然リーバーの声が頭上から降ってきた。
いや。降ってきたのはリーバーの声だけではなく──
***
グラグラとする視界と、フラフラする頭。
ぱちぱちと網膜の裏で火花が散ったあとのような眩暈を感じながら、こめかみをそっと抑えた。
「いたた……一体、何が…………え。」
低い声。
大きな手。
顔を触れば、いつも自分が触れている顔の造形よりも随分と整った感触。
そして何故か着ているのは神田の団服。
いや。『何故か』というよりそれは『当然』だろう。
名無し名無しは『神田ユウ』の身体になっていたのだから。
コイビト・スイッチ!#01
「本当に悪い。」
「い、いえ、リーバーさんが謝ることじゃ…」
「いや。室長の管理不足だ。」
「室長の、管理不足。」
彼の方が部下だったはずでは。
「オイ、リーバー。任務はどうするつもりだ。」
いつもなら鈴が鳴るように軽やかで、やわらかいはずの声音だというのに、細い喉から放たれた声は酷く不機嫌だ。
それは『中の人』が怒っている他ならないのだが、さて。どうしたものか。
名無しの身体の中に入ってしまった神田が、忌々しそうに舌打ちを零した。
「まぁ…身体が元に戻るまでは無理だろうな…。その状態でイノセンスが使えるのはさっき確認したけど、どう考えても危ないだろ?お前ら最近働き詰めだから多少休んでも問題ないと思うけど…」
「既に大問題だろうが。」
「ぐうの音も出ない。」
正論すぎる神田の台詞に、リーバーが困ったように天を仰ぐ。
そう。身体が入れ替わった問題で、真っ先に心配されたのは『咎落ち』だったからだ。
***
──遡ること30分程前。
『何か』あった時の為に、リーバー、ジョニー、そして医務室から緊急呼出をされ、現状を説明され呆れ返った婦長の三名立ち会いの元、『咎落ち』がないか確認を行った。
最初に行ったのは、名無し。
神田曰く「俺の身体の方が多少無理が利く。」とのこと。
自身の身体を杜撰に扱う神田の言葉に、名無しは不満そうな表情を浮かべたものの、「まぁ寄生型よりは負担少ないかもしれませんし」と前置きを置いて、六幻を手に取る。
謎の高揚感を抑えながら「六幻、抜刀!」と声をあげれば、赤黒く鈍色の刀身がすらりと鞘から伸びる──はずだった。
「あれ、あれ?」
鯉口を切ることは出来たものの、途中で刀が鞘の中で引っかかる。
赤黒い刀身を見た限りだと、無事発動はしているものの、単純に『刀が抜けない』というトラブルに見舞われた。
それもそうだ。二十年と少しの人生の中で日本刀を触る機会もなければ、抜刀なんて初めてなのだ。
「力入れんな。棟を滑らせるようにして抜け。」
「棟…?うーん、うーん……あっ、抜けました!抜刀出来た!」
首を傾げながら六幻をあーだこーだと抜刀しようとする神田の姿は、珍獣以上の珍百景だろう。
その異様な光景に、不謹慎ながらリーバーは吹き出し、ジョニーは手に汗を握り、婦長はただ困惑した。
無理もない。戦闘狂であるはずの神田(の姿をした名無し)が、自分の獲物を抜刀して大喜びしてるのだから。
しかも、彼が上げたことないような、喜びに満ちた朗らかな声音で。『誰だお前』状態だろう。
「ん、ンンッ!……あー、じゃあ、一応。
さっき室長が逃げる際に踏んだ、ジョニーの予備の眼鏡。これ直せるか?神田」
咳払いをして気を取り直したリーバーが取り出したのは、弦があらぬ方向に曲がってしまった、ジョニーの眼鏡。
本来ならイノセンスの修復やアクマの破壊に使うイノセンスを、個人の持ち物の修理に使うのはある意味不敬なのかもしれないが……アクマが体良く教団にいるわけもなく、かといって壊れたイノセンスの修繕を本来の持ち主が行なわなかった場合のペナルティも恐ろしい。
なので壊されてしまった可哀想な眼鏡は、丁度いい落とし所だろう。
さて。
問題は、彼女の
「……で、どうやって発動するんだ?」
「えっ?こう…気合いで、カッ!と目に力入れます。」
知能指数が下がったような、ふわふわとした説明。
リーバーは(神田の身体に入っているからか?)と真顔で推測してしまったが、それは彼の胸の内だけで留めておこう。
ジョニーの壊れた眼鏡を持ち、睨みつけるように凝視する名無しの姿をした神田。
刹那、パンッと一瞬光が瞬いた後、彼の手の中には新品同様の眼鏡が姿を現した。
しかし、それをそばにいた名無しに押し付け、目頭を片手で抑える神田。
普段名無しでは見ることが滅多にない眉間の皺が、深く深く険しい表情に刻まれていた。
「だ、大丈夫ですか?神田さん」
「…よくこんな代物使ってんな」
余程目が疲れたのか、彼はゆっくり瞬きを繰り返す。
彼自身の身体なら気遣うこともないのだろうが、本来の持ち主はオロオロと狼狽える目の前の恋人のものだ。
安心させる為か、それとも小言を言われない為の言い訳か、名無しは「最初は疲れましたけど、慣れたらどうってことないですから」と困ったように笑った。
その後、咎落ちの兆候がないか念入りに検査されたが、特に『所見なし』ということで、婦長も安心した様子で医務室へ帰って行ったのだが──。
「いくら俺の身体とはいえ、刀も使えねぇ上、鈍臭いコイツは間違いなく負傷するだろ。」
「う…否定出来ないのが悔しい……」
偉そうに座る名無しの姿。
その隣で足を揃えて縮こまる神田の姿。
悪い夢でも見てるのかとリーバーは目眩を覚えるが、残念ながら現実だ。
「あの……神田さん……」
「何だよ。」
「……えっと…大変申し訳ないのですが、足を閉じて座って頂けると…」
「…………。」
ショートパンツとはいえ、見るに見兼ねた名無しが困ったように進言する。
前途多難な入れ替わり、はてさてどうなるのやら。
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書ける範囲で頑張ります!