NOAH's Tea party
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『住んでた世界の話をしてくれ』と言われ、取り留めのない話をただひたすらに紡いだ。
といっても元いた世界の経済や政治など高尚な話は出来ないので、今の世界と違う点や、発達した文化の話、住んでいた日本についての話、学校の話、バイト先の話。
私を取り巻いていた世界について、興味深そうに耳を傾けるロードさんへ語り聞かせた。
「……あの、荒唐無稽な話だ、って思わないんですか?」
高層ビルや飛行機は、まだこの世界にない。
夢物語に近い御伽噺だと笑われるのなら可愛らしいが、ほら話だとあっさり切り捨てられるのは骨身に染みる。
なぜならそれらは、私にとって紛れもない現実だったのだから。
恐る恐る尋ねれば、目の前の少女は瞳を丸くして首を傾げた。
「でもそれキミの世界のホントの話でしょ?」
意外そうに丸めていた目元を細め、彼女は最後まで残していたサンドイッチを頬張る。
「そう、ですけど」
「信じるよ。」
懐かしむような、郷愁の色を浮かべた金眼。
「だって、ボクも憶えてる景色だもん。」
──泣きそうな顔。
なんで、そんな風に視えてしまったんだろう。
「……あの、それって、」
訊き終える前に響いた、荒々しく開かれる扉の音。
耳の鼓膜を叩くような劈く音は、話し声とカトラリーが当たる音以外響いていなかった部屋へ、けたたましく反響した。
「名無し!」
「あ、神田さ、ッわ!」
椅子が倒れ、その拍子にテーブルの上のカップが床に転がり落ち、上質な陶磁器が割れる音が鼓膜を刺す。
攫うように腕を引かれた次の瞬間には痛いくらい強く抱き抱えられており、目まぐるしい状況変化に私は呼吸すら忘れていた。
「あは、すっごい怒ってる。そんなにボクらの事が嫌い?」
「信用される要素が塵一つあると思ってんのか?」
「ないよねぇ〜。でもキミは神様 もノアも信用していないんでしょ?」
神田さんの団服に埋もれていた顔を上げれば、視界に映る珍しく汗ばんだ首筋。張り付いた前髪。
方舟の中を走って探してくれたのだろうか。今更ながら罪悪感が胸を締め付けた。
「な〜にもしてないよ。ただお茶飲んで、ガールズトークしてただけ。心配ならここで名無しを裸に剥いて、傷一つないか確かめてみる?」
ケタケタ笑いながらロードさんが可愛らしく首を傾げる。
笑えない冗談だ。ここで身体検査なんていくらなんでも神田さんでもしない……はず。
いや、前言撤回だ。この人ならしかねない。
「だ、大丈夫ですから神田さん!裾に手をかけるのやめてください!」
彼が真剣な顔で布地を掴むものだから、咄嗟に声を上げてしまった。
恥ずかしいやら慌てるやらで、心臓の音がバクバクと五月蝿い。
「なんだ、裸にひん剥かねぇの?」
「やだ。ティッキーったらサイテー。エッチ〜、スケベ〜。」
ポケットに手を入れたまま、悠々とやってきたのはティキさんだ。
隣に見慣れない赤毛の男性もいるが、それよりも聞き捨てならない一言につい目を細めてしまった。
「最低はどっちだ!ロード、お前俺を『座標』にしてゲートで招き入れただろ!……ったく、おかげでこっちは散々疑われてたまったもんじゃねぇし…」
「ティッキーの素行が悪いのがダメなんじゃない?」
「お前なぁ…」
薄々そうでないかと思っていたが、ロードさんは…そう。まるでちょっと我儘な女王様だ。
言葉をオブラートに包めば仲のいい兄妹に見えなくもないが、余計な一言は謹むに限る。
赤毛の男性が、吸っていた煙草の煙を溜息と共に吐き出しながら顔を顰めた。
「オイ、ロード。お前へのクレームは全部俺に来るんだぞ。」
「《監視役》なんだから仕事しなよ、クロス・マリアン。第一、ずぅ〜っと酒臭くてヤニ臭いオッサンと一緒なんて、ボクのモチベも下がるわけ。
たまには女の子とキャッキャとお話したいし、着せ替えして遊びたいんだよ?わかる?」
「《墓守》を選んだのはお前の選択だろうが。」
クレームの下りで、仮面に隠されていない隻眼と視線が合った。……気がした。
クロス・マリアンと呼ばれた男性。
どこかで…誰かの《記憶》で、見たことがあるような──。
彼の小言なら多少受け入れるらしい。
ロードさんは『仕方ない』と言わんばかりに肩を竦め、ティーセットを出した時のように指をパチンと鳴らせば、優雅なお茶会会場は終幕となった。
ふわりとした白いワンピースもいつもの団服へ。
ロードさんは団服を『似合わない』と愚痴っていたが、私は割と気に入っているので、そっと安堵の息を吐いた。
何せ科学班の人達が一生懸命作ってくれた服だ。大事にしないわけがない。
「……仕方ないなぁ。次のお茶会はちゃーんと招待状送るね、名無し。」
NOAH's Tea party#05
踵を鳴らして、いち、に、さん。
リズミカルなタップ音が鳴ると、足元に広がる方舟の『ゲート』。
どうやら外へ帰してくれるらしい。
無重力のような落下に備えてか、身体へ回された神田さんの腕の力が引き寄せるように強くなった。
ゲートの光に呑まれる瞬間、白んだ景色の向こうでロードさんは花のように微笑む。
「またね。愛おしい、ボク達の世界の落とし子。またキミのお話聞かせてね」
といっても元いた世界の経済や政治など高尚な話は出来ないので、今の世界と違う点や、発達した文化の話、住んでいた日本についての話、学校の話、バイト先の話。
私を取り巻いていた世界について、興味深そうに耳を傾けるロードさんへ語り聞かせた。
「……あの、荒唐無稽な話だ、って思わないんですか?」
高層ビルや飛行機は、まだこの世界にない。
夢物語に近い御伽噺だと笑われるのなら可愛らしいが、ほら話だとあっさり切り捨てられるのは骨身に染みる。
なぜならそれらは、私にとって紛れもない現実だったのだから。
恐る恐る尋ねれば、目の前の少女は瞳を丸くして首を傾げた。
「でもそれキミの世界のホントの話でしょ?」
意外そうに丸めていた目元を細め、彼女は最後まで残していたサンドイッチを頬張る。
「そう、ですけど」
「信じるよ。」
懐かしむような、郷愁の色を浮かべた金眼。
「だって、ボクも憶えてる景色だもん。」
──泣きそうな顔。
なんで、そんな風に視えてしまったんだろう。
「……あの、それって、」
訊き終える前に響いた、荒々しく開かれる扉の音。
耳の鼓膜を叩くような劈く音は、話し声とカトラリーが当たる音以外響いていなかった部屋へ、けたたましく反響した。
「名無し!」
「あ、神田さ、ッわ!」
椅子が倒れ、その拍子にテーブルの上のカップが床に転がり落ち、上質な陶磁器が割れる音が鼓膜を刺す。
攫うように腕を引かれた次の瞬間には痛いくらい強く抱き抱えられており、目まぐるしい状況変化に私は呼吸すら忘れていた。
「あは、すっごい怒ってる。そんなにボクらの事が嫌い?」
「信用される要素が塵一つあると思ってんのか?」
「ないよねぇ〜。でもキミは
神田さんの団服に埋もれていた顔を上げれば、視界に映る珍しく汗ばんだ首筋。張り付いた前髪。
方舟の中を走って探してくれたのだろうか。今更ながら罪悪感が胸を締め付けた。
「な〜にもしてないよ。ただお茶飲んで、ガールズトークしてただけ。心配ならここで名無しを裸に剥いて、傷一つないか確かめてみる?」
ケタケタ笑いながらロードさんが可愛らしく首を傾げる。
笑えない冗談だ。ここで身体検査なんていくらなんでも神田さんでもしない……はず。
いや、前言撤回だ。この人ならしかねない。
「だ、大丈夫ですから神田さん!裾に手をかけるのやめてください!」
彼が真剣な顔で布地を掴むものだから、咄嗟に声を上げてしまった。
恥ずかしいやら慌てるやらで、心臓の音がバクバクと五月蝿い。
「なんだ、裸にひん剥かねぇの?」
「やだ。ティッキーったらサイテー。エッチ〜、スケベ〜。」
ポケットに手を入れたまま、悠々とやってきたのはティキさんだ。
隣に見慣れない赤毛の男性もいるが、それよりも聞き捨てならない一言につい目を細めてしまった。
「最低はどっちだ!ロード、お前俺を『座標』にしてゲートで招き入れただろ!……ったく、おかげでこっちは散々疑われてたまったもんじゃねぇし…」
「ティッキーの素行が悪いのがダメなんじゃない?」
「お前なぁ…」
薄々そうでないかと思っていたが、ロードさんは…そう。まるでちょっと我儘な女王様だ。
言葉をオブラートに包めば仲のいい兄妹に見えなくもないが、余計な一言は謹むに限る。
赤毛の男性が、吸っていた煙草の煙を溜息と共に吐き出しながら顔を顰めた。
「オイ、ロード。お前へのクレームは全部俺に来るんだぞ。」
「《監視役》なんだから仕事しなよ、クロス・マリアン。第一、ずぅ〜っと酒臭くてヤニ臭いオッサンと一緒なんて、ボクのモチベも下がるわけ。
たまには女の子とキャッキャとお話したいし、着せ替えして遊びたいんだよ?わかる?」
「《墓守》を選んだのはお前の選択だろうが。」
クレームの下りで、仮面に隠されていない隻眼と視線が合った。……気がした。
クロス・マリアンと呼ばれた男性。
どこかで…誰かの《記憶》で、見たことがあるような──。
彼の小言なら多少受け入れるらしい。
ロードさんは『仕方ない』と言わんばかりに肩を竦め、ティーセットを出した時のように指をパチンと鳴らせば、優雅なお茶会会場は終幕となった。
ふわりとした白いワンピースもいつもの団服へ。
ロードさんは団服を『似合わない』と愚痴っていたが、私は割と気に入っているので、そっと安堵の息を吐いた。
何せ科学班の人達が一生懸命作ってくれた服だ。大事にしないわけがない。
「……仕方ないなぁ。次のお茶会はちゃーんと招待状送るね、名無し。」
NOAH's Tea party#05
踵を鳴らして、いち、に、さん。
リズミカルなタップ音が鳴ると、足元に広がる方舟の『ゲート』。
どうやら外へ帰してくれるらしい。
無重力のような落下に備えてか、身体へ回された神田さんの腕の力が引き寄せるように強くなった。
ゲートの光に呑まれる瞬間、白んだ景色の向こうでロードさんは花のように微笑む。
「またね。愛おしい、ボク達の世界の落とし子。またキミのお話聞かせてね」