NOAH's Tea party
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
浮ついた俺の心を叩き落としたのは、見覚えのある面だった。
やたらと整った顔立ちは深く印象に残っている。
記憶の中よりも僅かに大人びているが、見間違えるはずもなかった。
NOAH's Tea party#02
「すみません、神田さん。」
「遅せぇぞ、」
『名無し』。
そう続けられるはずだったであろう言葉は呑み込まれ、彼女の手を掴み、忌々しいくらい見慣れてしまった黒い団服の後ろへ隠されてしまった。
長い黒髪、切れ長の目。黒い太刀に、刺さるような殺気。
第二使徒。セカンドエクソシスト。
「なんでテメェがここにいる。」
「勘弁してくれよ、こっちは前科者とはいえもう生身の人間だぞ?」
喉元に突きつけられた刃の鋒。
生唾を飲み、喉仏を上下させるだけでも薄皮を切り裂いてきそうな久方ぶりの殺気に、『懐かしい』と感じる俺はある意味異常者なのかもしれない。
どうやら俺の顔を名無しは知らなかったらしい。
神田ユウの後ろで驚いたように目を丸くする彼女の表情を見て、とうの昔に捨て置いたと思っていた良心がチクリと痛んだ。……気がした。
「日雇いの仕事と、アンタらのとこの『赤毛』に定時連絡する用があるだけでこの街に来たのはたまたまだよ」
まさかとは思うが 『あの神父、この邂逅を予想していたんじゃ』と疑ってしまう。
いや、あの鬼畜ならやりかねない。確信犯の可能性が高い。
「マジで名無しとはそこで知り合った、というかスリから助けてやっただけだよ。……ってことは、アンタの連れ合いってことは名無し、エクソシストか?」
ほぼ揺るがない確定事項を、一縷の望みをかけて問う。
彼女の小さな頭は縦に振られ、『やっぱりな』と思うと同時に『残念』と感じる自分がいたことに、ほんの少しだけ驚いた。
俺に敵意がないことを察したのか、神田ユウのイノセンスが流麗な動きで鞘へ収まる。
俺だって折角拾った命だ。
喉元の空気を殺すような刃先が仕舞われると同時に、肺の中で凝り固まっていた息を深く深く吐き出した。
「──改めて。俺はティキ。ティキ・ミック。『快楽』を記憶 を持ってた、元・ノアの一族だよ。」
「よろしくな。」と、手を差し出す。
名無しはというと、もう灰褐色になることはない俺の薄汚れた手と、剣呑な色を隠すことない神田ユウの顔を「えっ、……と、」と躊躇いながら見比べていた。
(まぁ、そりゃそうか。)
あの戦争にいなかったエクソシストとはいえ、ノアの一族の所業は聞き及んでいるだろう。
ありのままか、オブラートに包んでるのか、それとも残虐に脚色された話かどうかは知らないが。
(関係ないか。)
住む世界が違いすぎる。
俺は日陰者。彼女は日向者。
その事実が寂しく、腹の奥底がギュッと苦しくなるのは、俺がまだ『ノア』に対して僅かに未練があるからだろうか。
待ち合わせ場所に送り届けたならもう用はない。
早くあの赤毛の神父を見つけて──
『みぃつけた。』
少女の、声。
長年聞いていたその声の主は、聞き違えるはずがない。
墓守の少女。夢の王女。ノアの一族の長子。
「何この、こっ、え、ッうわぁ!」
「名無し!」
方舟の、主。
突如開かれたゲート。
消える足場。
目が眩むような扉は、瞬きをするより早く俺らを『墓場』へ誘った。
やたらと整った顔立ちは深く印象に残っている。
記憶の中よりも僅かに大人びているが、見間違えるはずもなかった。
NOAH's Tea party#02
「すみません、神田さん。」
「遅せぇぞ、」
『名無し』。
そう続けられるはずだったであろう言葉は呑み込まれ、彼女の手を掴み、忌々しいくらい見慣れてしまった黒い団服の後ろへ隠されてしまった。
長い黒髪、切れ長の目。黒い太刀に、刺さるような殺気。
第二使徒。セカンドエクソシスト。
「なんでテメェがここにいる。」
「勘弁してくれよ、こっちは前科者とはいえもう生身の人間だぞ?」
喉元に突きつけられた刃の鋒。
生唾を飲み、喉仏を上下させるだけでも薄皮を切り裂いてきそうな久方ぶりの殺気に、『懐かしい』と感じる俺はある意味異常者なのかもしれない。
どうやら俺の顔を名無しは知らなかったらしい。
神田ユウの後ろで驚いたように目を丸くする彼女の表情を見て、とうの昔に捨て置いたと思っていた良心がチクリと痛んだ。……気がした。
「日雇いの仕事と、アンタらのとこの『赤毛』に定時連絡する用があるだけでこの街に来たのはたまたまだよ」
まさかとは思うが 『あの神父、この邂逅を予想していたんじゃ』と疑ってしまう。
いや、あの鬼畜ならやりかねない。確信犯の可能性が高い。
「マジで名無しとはそこで知り合った、というかスリから助けてやっただけだよ。……ってことは、アンタの連れ合いってことは名無し、エクソシストか?」
ほぼ揺るがない確定事項を、一縷の望みをかけて問う。
彼女の小さな頭は縦に振られ、『やっぱりな』と思うと同時に『残念』と感じる自分がいたことに、ほんの少しだけ驚いた。
俺に敵意がないことを察したのか、神田ユウのイノセンスが流麗な動きで鞘へ収まる。
俺だって折角拾った命だ。
喉元の空気を殺すような刃先が仕舞われると同時に、肺の中で凝り固まっていた息を深く深く吐き出した。
「──改めて。俺はティキ。ティキ・ミック。『快楽』を
「よろしくな。」と、手を差し出す。
名無しはというと、もう灰褐色になることはない俺の薄汚れた手と、剣呑な色を隠すことない神田ユウの顔を「えっ、……と、」と躊躇いながら見比べていた。
(まぁ、そりゃそうか。)
あの戦争にいなかったエクソシストとはいえ、ノアの一族の所業は聞き及んでいるだろう。
ありのままか、オブラートに包んでるのか、それとも残虐に脚色された話かどうかは知らないが。
(関係ないか。)
住む世界が違いすぎる。
俺は日陰者。彼女は日向者。
その事実が寂しく、腹の奥底がギュッと苦しくなるのは、俺がまだ『ノア』に対して僅かに未練があるからだろうか。
待ち合わせ場所に送り届けたならもう用はない。
早くあの赤毛の神父を見つけて──
『みぃつけた。』
少女の、声。
長年聞いていたその声の主は、聞き違えるはずがない。
墓守の少女。夢の王女。ノアの一族の長子。
「何この、こっ、え、ッうわぁ!」
「名無し!」
方舟の、主。
突如開かれたゲート。
消える足場。
目が眩むような扉は、瞬きをするより早く俺らを『墓場』へ誘った。