泡沫に溺れる
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好きな女を抱くことなんて、もうないと思っていた。
泡沫に溺れる#11
昨晩と同じように意識を放り投げた名無し。
汗で張り付いた前髪をそっと指先で払いながら、ぐったりと眠る寝顔を覗き見る。
昨晩と違う点を挙げるなら、首筋に増えたキスマークと、足の付け根に新しく刻んだキスマーク。
だだっ広いベッドの上。
名無しに添い寝をするような近さで横になれば、皮肉にもシングルベッドで収まるようなスペースしか使わないことに気がついた。
(贅沢な広さだな)
俺は欠伸を隠すことなく零し、そっと瞼を閉じた。
微睡むような眠気が心地よく感じるようになったのは、いつからだっただろうか。
***
目が覚めて一番、視界に入ったのは立派な胸板。
梵字が刻まれたそれは何度か見たことがあるが、あったとしてもシャツの襟元から垣間見える程度のもの。
それが一糸纏わぬ状態で目の前に広がっている。
脊椎反射で身体を逸らせば、逞しい腕にガッチリ掴まれ身動きが取れない。
そして腰を中心に響く鈍痛に思わず口元を歪めてしまった。なにこれ。
疑問に思ったものの、答えは即座に出てきた。出てきてしまった。
連日の情事。
しかも昨晩は神田の――
(う、う、うわぁぁあぁぁ)
声にならない叫びを押し殺す名無し。
思い出した。全部、思い出してしまった。
愛でるような愛撫も茹だるような快楽も、閃光が爆ぜるような絶頂も。
「かん…ッ神田さん、起きてください、離してください…!」
プロレスでギブアップを訴える時のように、ぺちぺちと神田の腕を叩く名無し。
脂肪が殆ど見受けられない引き締まった腕。
普段なら『羨ましい』と指をくわえて見るところだが、今はそうじゃない。
すぅすぅと寝息を立てて眠る神田の寝顔は、カメラがあれば写真に収めて家宝にしてもいいくらいだ。
いっそこのまま寝かせてあげたい気もするが、腕が解けないのだから致し方あるまい。
(う、そ。全然起きない。)
人の気配ですぐ目を覚ますはずの師が起きないことに、驚愕と絶望がじわじわと滲み出る。
腰が痛いだとか、汗をかいたから臭くないだろうかとか、シャワーを浴びたいだとか理由は様々だが――
文字通り、今名無しは『素っ裸』だ。
もしも誰か神田の部屋に来たとしたら社会的に死んでしまう。
何より、恥ずかしい。
「ん、ぐ、なんで、こんなに、馬鹿力なんですか…っ!」
身体を捩っても腕を解こうにも、悔しいがビクともしない。
いよいよ本格的に焦り始めた頃合……
「っく、くくっ…」
堪えるような笑い声。
それは聞き慣れている声音だが、心底可笑しそうに笑う声は聞き慣れないものだった。
「うわっ、狸寝入りしてましたね!?酷い!」
「バレたか。」
「いつから起きていたんですか……」
「いつもの時間。」
五時起き。正気だろうか。
これでも『寝坊するようになった方だ』と以前言っていたが、耳を疑う話である。
「じゃあ、先に起きるか…起こしてくださってよかったのに…」
「お前の寝顔見てた。」
悪びれることもなく、照れる様子もなく。
当たり前のように答える目の前の男に、名無しはタジタジになってしまう。
「み、見なくていいです……」と抗議の声を上げるが、さて。聞き入れて貰えるかはまた別の話。
「名無し。」
「は、はい。」
「……おはよう。」
普段通りの、なんてことない挨拶。
いつもと同じはずなのに少しだけ照れくさくて、擽ったくて。
名無しははにかみ、照れくさそうに笑った。
「おはようございます、神田さん。」
泡沫に溺れる#11
昨晩と同じように意識を放り投げた名無し。
汗で張り付いた前髪をそっと指先で払いながら、ぐったりと眠る寝顔を覗き見る。
昨晩と違う点を挙げるなら、首筋に増えたキスマークと、足の付け根に新しく刻んだキスマーク。
だだっ広いベッドの上。
名無しに添い寝をするような近さで横になれば、皮肉にもシングルベッドで収まるようなスペースしか使わないことに気がついた。
(贅沢な広さだな)
俺は欠伸を隠すことなく零し、そっと瞼を閉じた。
微睡むような眠気が心地よく感じるようになったのは、いつからだっただろうか。
***
目が覚めて一番、視界に入ったのは立派な胸板。
梵字が刻まれたそれは何度か見たことがあるが、あったとしてもシャツの襟元から垣間見える程度のもの。
それが一糸纏わぬ状態で目の前に広がっている。
脊椎反射で身体を逸らせば、逞しい腕にガッチリ掴まれ身動きが取れない。
そして腰を中心に響く鈍痛に思わず口元を歪めてしまった。なにこれ。
疑問に思ったものの、答えは即座に出てきた。出てきてしまった。
連日の情事。
しかも昨晩は神田の――
(う、う、うわぁぁあぁぁ)
声にならない叫びを押し殺す名無し。
思い出した。全部、思い出してしまった。
愛でるような愛撫も茹だるような快楽も、閃光が爆ぜるような絶頂も。
「かん…ッ神田さん、起きてください、離してください…!」
プロレスでギブアップを訴える時のように、ぺちぺちと神田の腕を叩く名無し。
脂肪が殆ど見受けられない引き締まった腕。
普段なら『羨ましい』と指をくわえて見るところだが、今はそうじゃない。
すぅすぅと寝息を立てて眠る神田の寝顔は、カメラがあれば写真に収めて家宝にしてもいいくらいだ。
いっそこのまま寝かせてあげたい気もするが、腕が解けないのだから致し方あるまい。
(う、そ。全然起きない。)
人の気配ですぐ目を覚ますはずの師が起きないことに、驚愕と絶望がじわじわと滲み出る。
腰が痛いだとか、汗をかいたから臭くないだろうかとか、シャワーを浴びたいだとか理由は様々だが――
文字通り、今名無しは『素っ裸』だ。
もしも誰か神田の部屋に来たとしたら社会的に死んでしまう。
何より、恥ずかしい。
「ん、ぐ、なんで、こんなに、馬鹿力なんですか…っ!」
身体を捩っても腕を解こうにも、悔しいがビクともしない。
いよいよ本格的に焦り始めた頃合……
「っく、くくっ…」
堪えるような笑い声。
それは聞き慣れている声音だが、心底可笑しそうに笑う声は聞き慣れないものだった。
「うわっ、狸寝入りしてましたね!?酷い!」
「バレたか。」
「いつから起きていたんですか……」
「いつもの時間。」
五時起き。正気だろうか。
これでも『寝坊するようになった方だ』と以前言っていたが、耳を疑う話である。
「じゃあ、先に起きるか…起こしてくださってよかったのに…」
「お前の寝顔見てた。」
悪びれることもなく、照れる様子もなく。
当たり前のように答える目の前の男に、名無しはタジタジになってしまう。
「み、見なくていいです……」と抗議の声を上げるが、さて。聞き入れて貰えるかはまた別の話。
「名無し。」
「は、はい。」
「……おはよう。」
普段通りの、なんてことない挨拶。
いつもと同じはずなのに少しだけ照れくさくて、擽ったくて。
名無しははにかみ、照れくさそうに笑った。
「おはようございます、神田さん。」