泡沫に溺れる
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昨日の事情を洗いざらい話さざるを得なかった名無し。
というより『何故神田は悪くないのか』という弁明をしなければ、リナリーの冷ややかな怒りが収まりそうになかったからだ。
理由が公共の場で白状できる内容ではなかったため、リナリーの自室で朝食のホットサンドを食べながら猥談をする羽目になった。
名無しがひとしきり説明したあと、漸くリナリーの怒りも収まっていた。
が。
「…………神田、不能なんじゃないの?」
「え、えぇぇぇ……酷い言われよう…」
幼馴染だからこそあけすけに言えるのだろうが……それこそ神田が聞いたら怒髪天モノだろう。
可憐を形にしたようなリナリーの口からとんでもない一言が飛び出てきて、流石の名無しもこれには苦笑した。
「だってあの神田よ?エロエロになった名無しを目の前にして我慢が出来……いや、名無しに『イヤ』って言われたら死んでも我慢しそうね…というかしたのよね……。にわかに信じ難いけど……」
リナリーの独り言に対して色々物申したいが、名無しは恥ずかしくてそれどころではなかった。エロエロってなんだ。
彼女が復唱した内容は紛れもない事実なのだが、他人の口から改めて聞くと一層恥ずかしい。穴があったら入りたい。
コメントするのも憚られて、名無しはただ黙って紅茶を一気に飲み干した。
「酷いことされなかった?」
「ごふっ」
リナリーの問いに対して、紅茶をうっかり気管へ流してしまう。
深く深く咳き込めば、やわらかい手が背中を必死に摩ってくれた。
ゼェゼェと息を整えてリナリーを見遣れば、茶化した様子は微塵もない。
――彼女は、本当に心配してくれているのだ。
それは今までの問題児・神田ユウを知っているからこそ。同じ同性だからこそ。可愛がってくれているからこそ問うている。
「……酷いこと、は、されていない…と、思う」
「歯切れが悪いわね。」
「………………あの、……ちょっと怖かった、けど、ええっと………その…すごかった……」
どう言っていいものか、言葉を慎重に選びながら。
そういった行為を表す語彙が乏しい中、必死に絞り出した弁明。
そう。リナリー曰く神田は『相当頑張った』らしい。
名無し名無しの知っている神田ユウは――意地は悪いものの面倒見がよく、ぶっきらぼうだが不器用ながらも優しい師匠であり、恋人だ。
――本音を言えば、自分の身体が自分のものじゃないような気分になってかなり怖かったが、男として最大級の我慢を強いていたのなら、それを追及する権利はないだろう。
一方、可愛い妹分から拙いながらも一生懸命、顔を真っ赤にしてぼそぼそと紡がれた『惚気』に、流石のリナリーも閉口した。
『痛かった』と名無しが告白したのならば問答無用で神田へ小言を叩きつけるところだが、そういった様子もなく。
『すごかった』なんて言われれば、もうお手上げだ。
「あの、リナリー」
「なぁに?」
「えっと……『イヤ』って言ったこと、神田さん…怒っていると思う…?」
不安そうに、心細そうに。
神田のことをよく知っているリナリーにだからこそ尋ねることが出来る質問だ。
「まぁ名無しが大事なら、初めてだし我慢して当然といえば当然よね。……怒ってはいないと思うけど、ご褒美くらいあげてもいいんじゃないかと思うわ」
「ご褒美。」
慎重に復唱する名無し。
リナリーの言葉を噛み締めるように思案しつつ、ホットサンドの最後の一口を大きく頬張った。
「……ありがとう、リナリー。えっと、神田さんを」
「怒らないし、秘密にしておくわ。大丈夫よ」
小さく肩を竦めながら答える彼女に対して、ほっと安堵の息をつきながら「ありがとう。」と二度目の礼を名無しは贈った。
泡沫に溺れる#07
(これからの惚気、楽しみね。)
ティーカップに残ったダージリンティーを飲み干しながら、リナリーはそっと目元を細めた。
というより『何故神田は悪くないのか』という弁明をしなければ、リナリーの冷ややかな怒りが収まりそうになかったからだ。
理由が公共の場で白状できる内容ではなかったため、リナリーの自室で朝食のホットサンドを食べながら猥談をする羽目になった。
名無しがひとしきり説明したあと、漸くリナリーの怒りも収まっていた。
が。
「…………神田、不能なんじゃないの?」
「え、えぇぇぇ……酷い言われよう…」
幼馴染だからこそあけすけに言えるのだろうが……それこそ神田が聞いたら怒髪天モノだろう。
可憐を形にしたようなリナリーの口からとんでもない一言が飛び出てきて、流石の名無しもこれには苦笑した。
「だってあの神田よ?エロエロになった名無しを目の前にして我慢が出来……いや、名無しに『イヤ』って言われたら死んでも我慢しそうね…というかしたのよね……。にわかに信じ難いけど……」
リナリーの独り言に対して色々物申したいが、名無しは恥ずかしくてそれどころではなかった。エロエロってなんだ。
彼女が復唱した内容は紛れもない事実なのだが、他人の口から改めて聞くと一層恥ずかしい。穴があったら入りたい。
コメントするのも憚られて、名無しはただ黙って紅茶を一気に飲み干した。
「酷いことされなかった?」
「ごふっ」
リナリーの問いに対して、紅茶をうっかり気管へ流してしまう。
深く深く咳き込めば、やわらかい手が背中を必死に摩ってくれた。
ゼェゼェと息を整えてリナリーを見遣れば、茶化した様子は微塵もない。
――彼女は、本当に心配してくれているのだ。
それは今までの問題児・神田ユウを知っているからこそ。同じ同性だからこそ。可愛がってくれているからこそ問うている。
「……酷いこと、は、されていない…と、思う」
「歯切れが悪いわね。」
「………………あの、……ちょっと怖かった、けど、ええっと………その…すごかった……」
どう言っていいものか、言葉を慎重に選びながら。
そういった行為を表す語彙が乏しい中、必死に絞り出した弁明。
そう。リナリー曰く神田は『相当頑張った』らしい。
名無し名無しの知っている神田ユウは――意地は悪いものの面倒見がよく、ぶっきらぼうだが不器用ながらも優しい師匠であり、恋人だ。
――本音を言えば、自分の身体が自分のものじゃないような気分になってかなり怖かったが、男として最大級の我慢を強いていたのなら、それを追及する権利はないだろう。
一方、可愛い妹分から拙いながらも一生懸命、顔を真っ赤にしてぼそぼそと紡がれた『惚気』に、流石のリナリーも閉口した。
『痛かった』と名無しが告白したのならば問答無用で神田へ小言を叩きつけるところだが、そういった様子もなく。
『すごかった』なんて言われれば、もうお手上げだ。
「あの、リナリー」
「なぁに?」
「えっと……『イヤ』って言ったこと、神田さん…怒っていると思う…?」
不安そうに、心細そうに。
神田のことをよく知っているリナリーにだからこそ尋ねることが出来る質問だ。
「まぁ名無しが大事なら、初めてだし我慢して当然といえば当然よね。……怒ってはいないと思うけど、ご褒美くらいあげてもいいんじゃないかと思うわ」
「ご褒美。」
慎重に復唱する名無し。
リナリーの言葉を噛み締めるように思案しつつ、ホットサンドの最後の一口を大きく頬張った。
「……ありがとう、リナリー。えっと、神田さんを」
「怒らないし、秘密にしておくわ。大丈夫よ」
小さく肩を竦めながら答える彼女に対して、ほっと安堵の息をつきながら「ありがとう。」と二度目の礼を名無しは贈った。
泡沫に溺れる#07
(これからの惚気、楽しみね。)
ティーカップに残ったダージリンティーを飲み干しながら、リナリーはそっと目元を細めた。