mirage faker
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「鏡に関する奇怪、となれば対象は絞り込めますね」
昼下がりに言葉を交わしたクレープ屋の男が言っていた噂が一番有力情報だったわけだ。
「ただ…鏡なんて、フランス中にありますし、どうやってここから特定するかが問題なんですけど…」
「……恐らく、ここだな」
トン、と神田が地図を指さした場所は、パリ市街からそう離れていない場所。
地図上ではPalais et parc de Versaillesと載っている建物だ。
パリよりも西に。地図にも載る、有名な建造物と言えば――
「ヴェルサイユ、宮殿。」
そう。そこにはかの有名な『鏡』があるではないか。
mirage faker-05
夜。
蒼銀に輝く満月の明かりを頼りに、広大な庭に足を踏み入れる。
人々を圧倒するような庭園は、まさに貴族の象徴ともいえる様相だ。
理路整然と立ち並んだ木々は、真夜中だと人影のように見えて『不気味』の一言に尽きる。
刈り込まれた芝生に伸びる黒い影からは、まるで魔物が飛び出て来そうだ。
「なんでヴェルサイユって分かったんですか?」
声を潜めてコソリと神田に問いかければ、一瞬。ほんの一瞬、わずかに息を呑む音。
「……奇怪に取り込まれかけたからだな」
「なるほど。」
ふむ、と納得する名無しを尻目に、小さく息をつく神田。
…真実を彼女に知られるわけにはいかない。そう思ったからだ。
「…でもなんかこう、こそこそ夜に忍び込むなんて…なんだか泥棒みたいですね?」
「いざとなればヴァチカンの名前を出して尻拭いでもさせるさ」
口角をニヤリと吊りあげる師を見上げながら「いいんですか、元帥がそんなので。」と苦笑いを零す名無し。
いくらヴァチカンの権力が偉大でも、今はこのヴェルサイユ宮殿は個人の管理下にあり、民衆に観光地として開放されている名所だ。
奇怪を放っておくわけにはいかない。
しかしフランスの顔ともいえる場所を踏み荒らすのは何だか後ろめたかった。
まぁ、この不良元帥にかかれば歴史的建造物だろうと、『任務』という大義名分で大暴れするのも辞さないのだろうけど。
中央にアポロンとラトナの像が据えられた、蛙と蜥蜴に囲まれた噴水。
その真正面にはバロック建築の代表作とも言える、豪華絢爛な建造物・ヴェルサイユ宮殿が堂々と建っていた。
月明かりに照らされた宮殿は『美しい』と思わずスタンディングオベーションしたくなる。
が、残念ながらここに奇怪が潜んでいると思うと、その華美な姿も一周まわって不気味に見えた。
敷地を気軽に跨ぐように、しかし足音を立てず。
建物の中へ進んでいく神田に名無しも追随した。
***
踏み入った場所は、磨かれた床。
アーチ状の天井から吊るされた、細かな装飾が施されたシャンデリアが月明かりに照らされて控えめに輝きを放っている。
庭を一望できるような造りになった回廊には、無数の鏡がずらりと並んでいた。
これがヴェルサイユ宮殿『鏡の間』だ。
水を打ったかのような静けさ。
聞こえても不思議ではない、虫の音すら鳴りを潜めていた。
華美な廊下を二人分の人影がゆらりと歩を進める。
僅かに鳴る靴の音が、宮殿へ僅かに反響し、とけるように消えていった。
同時に二人が足を止めたのは、一枚の鏡の前。
燦爛な庭園を、静かな水面のように映している。
だが、そこには神田と名無しの姿は、ない。
ただ整然と並ぶ木々と、夜空にぽっかり浮かぶ満月だけを銀鏡は見ていた。
指紋ひとつない鏡が、小石をひとつ投げ入れた湖のようにゆるやかに波打つ。
そこから這い出でるように、白い靄を纏った人影の群れがこちらへ手を伸ばす。
まるで手招きするように。
まるで引きずり込むように。
無数の生白い人の腕は、奇怪というより『怨念』の類に見えた。
「名無し!」
「はい!」
神田の声と同時にイノセンスを発動すれば、霊体のような人々の腕は露のように散り散りになる。
その合間を縫うように駆け抜ける神田の黒髪が、やけに鮮やかに夜闇に映えた。
「観念しやがれ、イノセンス。散々迷惑かけやがって。」
まるで悪役のような台詞を吐き捨てながら、元帥という立派な肩書きを持った男は
握りしめていた刀の柄で、なんと鏡を叩き割った。
***
「いやもう、本当、何考えてるんですか…」
「結果オーライだろうが。」
「こっちは疲労困憊ですよ…」
鏡を叩き割った後、触媒となった物が壊れてしまったためかイノセンスの石箱が姿を現した。
それで解決すれば良かったのだが、運悪く……というか、鏡を叩き割った音で警備員に見つかって。
だだっ広い庭園を駆け抜け、汽車の通るパリまでノンストップでフルマラソンだ。
いくら普段鍛錬しているとはいえ、名無しは元・一般人だ。
しかも先行して走るのは教団一のスタミナお化けである。
遅れずについてこれただけでも賞賛に値するだろう。
汽車に飛び乗り、一息ついたコンパートメントでミネラルウォーターを一気飲みし、息も絶え絶えに名無しは神田に文句を言った。
…残念ながら『結果オーライ』の一言で片付けられてしまうのが、神田ユウという男なのだが。
ここにティエドール元帥でもいてくれたのなら説教をしてくれたのだろうけれども、残念ながら彼は不在だ。
もっとも、『イノセンス回収のためとはいえ、芸術的建造物をあんな方法で暴くなんて』という少し方向性がズレた説教になること請け合いだろうけれども。
「鍛錬が足りねぇな」
「それは、反論の余地はないですけど……一睡もしてないんですよ…体力有り余ってる神田さんと一緒にしないでください…」
勘弁してください。
全力疾走したせいで暑いのか、団服のコートの襟元を珍しく崩しながら名無しがげんなりと答えた。
ずるりと背もたれに寄りかかる姿は、今にも寝てしまいそうだ。
「…ったく。乗り継ぎの駅まで暫くある。仮眠とっておけ」
「じゃあ…お言葉に甘えます…」
ふぁ、と大きな欠伸を手で覆いながら、小さく頷く名無し。
汽車の揺れが心地いいのか、深い深い眠りにつくのは一瞬だった。
「……………」
なぜ、イノセンスの在処がヴェルサイユ宮殿だと分かったのか。
――それはあの虚像が『己の欲望を叶える願望器』だったからだ。
女主人は仕事に嫌気でも差したのだろうか。
コマネズミのように働いている姿を見れば、それも頷けるだろう。
数々の貴族の欲望が過去に渦巻いていたあの宮殿は、まさに『我欲』の象徴ともいえるだろう。
欲と因果が絡んだ『鏡』といえば……導き出される答えは簡単だった。
あのイノセンスが『欲望』の虚像を映し出すという事実を、名無しは知らないままだからこそ疑問符を浮かべながら首を捻ったのだろうけど。
神田としてはその絡繰と真実を知られるわけにはいかなかったので、意外とあっさり言いくるめられてくれた弟子には感謝しかない。
(何が上手くやってやる、だ。)
思い出したら苛立ちがふつふつと沸き上がる。
あのイノセンスが作り出した虚像に対しても勿論あるが、何より自分自身に対して。
浅ましい性欲を剥き出し、獣のように組み敷いた偽物が『本心じゃない』と否定しきれないことも。
それを力づくで実行してしまおうとすれば、出来ることも。
まぁ、一番腹立たしいのは、彼女の白い肌に『マーキング』を残していった偽物と、それを見ていたにも関わらず止めることが出来なかった不甲斐ない己に対してだが。
名無しに視線を向ければ、汽車に揺られながら熟睡している寝顔が目に入る。
窓に頭を預け、無防備に晒された白い首筋。
団服を着崩していなければ本来は見えないであろう、いくつか散らされた赤い鬱血痕がまざまざと残っていた。
(――これは、俺のだ)
寝息を静かに立てる名無しの首筋に顔を埋めれば、石鹸とシャンプーの香りと、少しだけ汗の匂い。
食むように唇を落とせば、柔らかい薄皮はまだほんのり汗ばんでいて、僅かに塩っぽさが残っていた。
「ん、ぅ……」
もぞりと小さく身動ぎをするが、残念ながら夢の中から戻ってくる気配はない。
刻まれた痕を、丁寧にひとつずつ、ひとつずつ。
上書きしていったキスマークは、薔薇色に濃く咲き誇った。
残念ながらこれらは暫く消えることはないだろう。
アルマやリナリーが見れば何というだろう。
呆れるだろうか、怒るだろうか。いや、むしろ説教コースだろう。
アルマに至っては『うわぁ、ユウったら…ちょっと僕でもドン引き』とか言い放ちかねない。色々な意味であの親友は容赦ないのだから。
「…仕方ねぇだろ。」
ボソリと、免罪符のように呟く神田。
名残惜しむように首筋から離れようとするが、ピタリと思い立ったかのように一瞬動きを止めた。
再び首筋へ唇を落として痕を刻んだものは上書きではなく、新規で刻んだ所有痕。
一番赤く、濃く、団服をきちんと着ても見えるような所に。
「……つーか起きろよ」
気を許してもらっていると解釈すればいいのか、それとも男として見られていないのか。
どっちに転んでも、師として叱るべきなのか雄として嘆けばいいのか、悩ましいことだ。
線路を刻む車輪の音が響くコンパートメントで、神田は何とも言えない溜息を複雑そうに吐いてしまった。
昼下がりに言葉を交わしたクレープ屋の男が言っていた噂が一番有力情報だったわけだ。
「ただ…鏡なんて、フランス中にありますし、どうやってここから特定するかが問題なんですけど…」
「……恐らく、ここだな」
トン、と神田が地図を指さした場所は、パリ市街からそう離れていない場所。
地図上ではPalais et parc de Versaillesと載っている建物だ。
パリよりも西に。地図にも載る、有名な建造物と言えば――
「ヴェルサイユ、宮殿。」
そう。そこにはかの有名な『鏡』があるではないか。
mirage faker-05
夜。
蒼銀に輝く満月の明かりを頼りに、広大な庭に足を踏み入れる。
人々を圧倒するような庭園は、まさに貴族の象徴ともいえる様相だ。
理路整然と立ち並んだ木々は、真夜中だと人影のように見えて『不気味』の一言に尽きる。
刈り込まれた芝生に伸びる黒い影からは、まるで魔物が飛び出て来そうだ。
「なんでヴェルサイユって分かったんですか?」
声を潜めてコソリと神田に問いかければ、一瞬。ほんの一瞬、わずかに息を呑む音。
「……奇怪に取り込まれかけたからだな」
「なるほど。」
ふむ、と納得する名無しを尻目に、小さく息をつく神田。
…真実を彼女に知られるわけにはいかない。そう思ったからだ。
「…でもなんかこう、こそこそ夜に忍び込むなんて…なんだか泥棒みたいですね?」
「いざとなればヴァチカンの名前を出して尻拭いでもさせるさ」
口角をニヤリと吊りあげる師を見上げながら「いいんですか、元帥がそんなので。」と苦笑いを零す名無し。
いくらヴァチカンの権力が偉大でも、今はこのヴェルサイユ宮殿は個人の管理下にあり、民衆に観光地として開放されている名所だ。
奇怪を放っておくわけにはいかない。
しかしフランスの顔ともいえる場所を踏み荒らすのは何だか後ろめたかった。
まぁ、この不良元帥にかかれば歴史的建造物だろうと、『任務』という大義名分で大暴れするのも辞さないのだろうけど。
中央にアポロンとラトナの像が据えられた、蛙と蜥蜴に囲まれた噴水。
その真正面にはバロック建築の代表作とも言える、豪華絢爛な建造物・ヴェルサイユ宮殿が堂々と建っていた。
月明かりに照らされた宮殿は『美しい』と思わずスタンディングオベーションしたくなる。
が、残念ながらここに奇怪が潜んでいると思うと、その華美な姿も一周まわって不気味に見えた。
敷地を気軽に跨ぐように、しかし足音を立てず。
建物の中へ進んでいく神田に名無しも追随した。
***
踏み入った場所は、磨かれた床。
アーチ状の天井から吊るされた、細かな装飾が施されたシャンデリアが月明かりに照らされて控えめに輝きを放っている。
庭を一望できるような造りになった回廊には、無数の鏡がずらりと並んでいた。
これがヴェルサイユ宮殿『鏡の間』だ。
水を打ったかのような静けさ。
聞こえても不思議ではない、虫の音すら鳴りを潜めていた。
華美な廊下を二人分の人影がゆらりと歩を進める。
僅かに鳴る靴の音が、宮殿へ僅かに反響し、とけるように消えていった。
同時に二人が足を止めたのは、一枚の鏡の前。
燦爛な庭園を、静かな水面のように映している。
だが、そこには神田と名無しの姿は、ない。
ただ整然と並ぶ木々と、夜空にぽっかり浮かぶ満月だけを銀鏡は見ていた。
指紋ひとつない鏡が、小石をひとつ投げ入れた湖のようにゆるやかに波打つ。
そこから這い出でるように、白い靄を纏った人影の群れがこちらへ手を伸ばす。
まるで手招きするように。
まるで引きずり込むように。
無数の生白い人の腕は、奇怪というより『怨念』の類に見えた。
「名無し!」
「はい!」
神田の声と同時にイノセンスを発動すれば、霊体のような人々の腕は露のように散り散りになる。
その合間を縫うように駆け抜ける神田の黒髪が、やけに鮮やかに夜闇に映えた。
「観念しやがれ、イノセンス。散々迷惑かけやがって。」
まるで悪役のような台詞を吐き捨てながら、元帥という立派な肩書きを持った男は
握りしめていた刀の柄で、なんと鏡を叩き割った。
***
「いやもう、本当、何考えてるんですか…」
「結果オーライだろうが。」
「こっちは疲労困憊ですよ…」
鏡を叩き割った後、触媒となった物が壊れてしまったためかイノセンスの石箱が姿を現した。
それで解決すれば良かったのだが、運悪く……というか、鏡を叩き割った音で警備員に見つかって。
だだっ広い庭園を駆け抜け、汽車の通るパリまでノンストップでフルマラソンだ。
いくら普段鍛錬しているとはいえ、名無しは元・一般人だ。
しかも先行して走るのは教団一のスタミナお化けである。
遅れずについてこれただけでも賞賛に値するだろう。
汽車に飛び乗り、一息ついたコンパートメントでミネラルウォーターを一気飲みし、息も絶え絶えに名無しは神田に文句を言った。
…残念ながら『結果オーライ』の一言で片付けられてしまうのが、神田ユウという男なのだが。
ここにティエドール元帥でもいてくれたのなら説教をしてくれたのだろうけれども、残念ながら彼は不在だ。
もっとも、『イノセンス回収のためとはいえ、芸術的建造物をあんな方法で暴くなんて』という少し方向性がズレた説教になること請け合いだろうけれども。
「鍛錬が足りねぇな」
「それは、反論の余地はないですけど……一睡もしてないんですよ…体力有り余ってる神田さんと一緒にしないでください…」
勘弁してください。
全力疾走したせいで暑いのか、団服のコートの襟元を珍しく崩しながら名無しがげんなりと答えた。
ずるりと背もたれに寄りかかる姿は、今にも寝てしまいそうだ。
「…ったく。乗り継ぎの駅まで暫くある。仮眠とっておけ」
「じゃあ…お言葉に甘えます…」
ふぁ、と大きな欠伸を手で覆いながら、小さく頷く名無し。
汽車の揺れが心地いいのか、深い深い眠りにつくのは一瞬だった。
「……………」
なぜ、イノセンスの在処がヴェルサイユ宮殿だと分かったのか。
――それはあの虚像が『己の欲望を叶える願望器』だったからだ。
女主人は仕事に嫌気でも差したのだろうか。
コマネズミのように働いている姿を見れば、それも頷けるだろう。
数々の貴族の欲望が過去に渦巻いていたあの宮殿は、まさに『我欲』の象徴ともいえるだろう。
欲と因果が絡んだ『鏡』といえば……導き出される答えは簡単だった。
あのイノセンスが『欲望』の虚像を映し出すという事実を、名無しは知らないままだからこそ疑問符を浮かべながら首を捻ったのだろうけど。
神田としてはその絡繰と真実を知られるわけにはいかなかったので、意外とあっさり言いくるめられてくれた弟子には感謝しかない。
(何が上手くやってやる、だ。)
思い出したら苛立ちがふつふつと沸き上がる。
あのイノセンスが作り出した虚像に対しても勿論あるが、何より自分自身に対して。
浅ましい性欲を剥き出し、獣のように組み敷いた偽物が『本心じゃない』と否定しきれないことも。
それを力づくで実行してしまおうとすれば、出来ることも。
まぁ、一番腹立たしいのは、彼女の白い肌に『マーキング』を残していった偽物と、それを見ていたにも関わらず止めることが出来なかった不甲斐ない己に対してだが。
名無しに視線を向ければ、汽車に揺られながら熟睡している寝顔が目に入る。
窓に頭を預け、無防備に晒された白い首筋。
団服を着崩していなければ本来は見えないであろう、いくつか散らされた赤い鬱血痕がまざまざと残っていた。
(――これは、俺のだ)
寝息を静かに立てる名無しの首筋に顔を埋めれば、石鹸とシャンプーの香りと、少しだけ汗の匂い。
食むように唇を落とせば、柔らかい薄皮はまだほんのり汗ばんでいて、僅かに塩っぽさが残っていた。
「ん、ぅ……」
もぞりと小さく身動ぎをするが、残念ながら夢の中から戻ってくる気配はない。
刻まれた痕を、丁寧にひとつずつ、ひとつずつ。
上書きしていったキスマークは、薔薇色に濃く咲き誇った。
残念ながらこれらは暫く消えることはないだろう。
アルマやリナリーが見れば何というだろう。
呆れるだろうか、怒るだろうか。いや、むしろ説教コースだろう。
アルマに至っては『うわぁ、ユウったら…ちょっと僕でもドン引き』とか言い放ちかねない。色々な意味であの親友は容赦ないのだから。
「…仕方ねぇだろ。」
ボソリと、免罪符のように呟く神田。
名残惜しむように首筋から離れようとするが、ピタリと思い立ったかのように一瞬動きを止めた。
再び首筋へ唇を落として痕を刻んだものは上書きではなく、新規で刻んだ所有痕。
一番赤く、濃く、団服をきちんと着ても見えるような所に。
「……つーか起きろよ」
気を許してもらっていると解釈すればいいのか、それとも男として見られていないのか。
どっちに転んでも、師として叱るべきなのか雄として嘆けばいいのか、悩ましいことだ。
線路を刻む車輪の音が響くコンパートメントで、神田は何とも言えない溜息を複雑そうに吐いてしまった。