泡沫に溺れる
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「資料は読んだな?」
「バッチリです!」
「おやつも持った?」
「えっと、ジェリーさんからクッキー、頂きました!」
ひとつひとつ、過保護を通り越して呆れてしまうような質問に対して丁寧に答える名無し。
そのやり取りを見守っていたリーバーは、頃合かと見計らってそろりと声を掛けた。
「おーい、そろそろ時間だぞ。神田もリナリーも、もういいだろ。名無し困ってんぞ。」
「何言ってるの、リーバー班長。名無しの初の単独任務よ?心配するのは当たり前じゃない」
「いや……………まぁ、そうか。」
リナリーの言うことはごもっともなのだが、それでも名無しはもう18歳。
未成年とはいえ、それなりにしっかりしている性格だし、何より普段ののほほんとした様子とは裏腹に任務はキッチリこなすタイプだ。
それは神田が提出している報告書に目を通すだけでも分かる周知の事実なのだが――如何せん、『うちの弟子は立派です』と太鼓判押している本人がくどくど世話を焼いているのだから訳が分からない。
(いや、丸くなるのはいいことなんだけどな)
以前の刺々しい雰囲気から、神田は随分と丸くなった。
勿論それは『天音名無し』という特定人物に対してのみなのだが、それでもリーバーは『いい傾向』だと心の底から喜んだ。
かといってリナリーと共にぶっきらぼうながらも甲斐甲斐しく弟子に対してあれこれ確認している姿は些か滑稽だ。
まぁ指摘したら途端に不機嫌になるのだろう。リーバー・ウェンハムは考えることをやめた。
「大丈夫だよ、リナリー。国内だからそんなに遠くないし……明日には帰って来れるだろうから。
神田さんも、帰ったらご報告しますね。」
にこにこと人当たりのいい笑顔でそう諭す名無し。
そう。一日前までは、そんなことを言っていたのだ。
泡沫に溺れる#02
(全然無事じゃない……)
アクマを破壊する前の、数瞬。
同行していた探索者を目掛けて投げられた、アクマの血でありオイルでもあり、毒でもある液体。
それを庇った。
いや、寄生型の特性としてアクマの毒は効かないし、自分の判断が間違っていたとは今でも思えない。
思えない、のだが。
(毒にしては何か弱いな……とは思っていたけど、)
身体が、熱い。
部屋に置いていた体温計で熱を計っても平熱より少し高いくらいだった。
それでも体の芯から火照り、意識がふわふわと覚束無いこれは、
――神田に、触れられている時の火照りによく似ていて。
いやいやまさか。
否定したい気持ち半分、確信にも似た疑問半分。
彼とそういう行為はまだなのだが、私だって一応年頃だ。詳しくはないけれどそういう知識だって爪の垢ほどはあるつもりだ。
……違ってて欲しい。
これはただの微熱。
でなければ親愛なる師匠へ顔向けなんて出来やしない。
そう、ただの発熱なら医務室に行けばいいのだ。
恐る恐るショートパンツを少し脱ぎ、下着の中へ手を入れる。
本来なら精々軽く湿り気を帯びているはずのそこは、指先に粘り気のある『それ』がぬらりと絡んだ。
「っ、う、わ……」
自分自身で触れただけなのに肩が揺れる。
……確かめなければよかった。
軽く触れただけなのに、身体の一番奥の深いところから『もっと欲しい』と熱を帯びるのが嫌でも分かったからだ。
慌てて手を引っ込め、汚いとは分かっているが反射的にシーツで指を拭った。
これではコムイのところへ報告にも行けない。
医務室にもこんな身体で行くのは憚られる。
言うまでもないが、神田のところへ『帰りました』なんて顔を見せに行くだなんて、言語道断だ。無理に決まっている。
(そうだ、ゴーレムで仮眠してから行きますって言えば、)
重たい腕を上げ、枕元に置いていたゴーレムへ手を伸ばす。
が、何とも間が絶妙なのが『神田ユウ』という師である。
――コンコン、
乾いた、ノックの音。
「名無し。戻って来てんのか?」
今一番会いたいのに、物凄く会いたくない人物の声が聞こえ、私は頭を抱えた。
「バッチリです!」
「おやつも持った?」
「えっと、ジェリーさんからクッキー、頂きました!」
ひとつひとつ、過保護を通り越して呆れてしまうような質問に対して丁寧に答える名無し。
そのやり取りを見守っていたリーバーは、頃合かと見計らってそろりと声を掛けた。
「おーい、そろそろ時間だぞ。神田もリナリーも、もういいだろ。名無し困ってんぞ。」
「何言ってるの、リーバー班長。名無しの初の単独任務よ?心配するのは当たり前じゃない」
「いや……………まぁ、そうか。」
リナリーの言うことはごもっともなのだが、それでも名無しはもう18歳。
未成年とはいえ、それなりにしっかりしている性格だし、何より普段ののほほんとした様子とは裏腹に任務はキッチリこなすタイプだ。
それは神田が提出している報告書に目を通すだけでも分かる周知の事実なのだが――如何せん、『うちの弟子は立派です』と太鼓判押している本人がくどくど世話を焼いているのだから訳が分からない。
(いや、丸くなるのはいいことなんだけどな)
以前の刺々しい雰囲気から、神田は随分と丸くなった。
勿論それは『天音名無し』という特定人物に対してのみなのだが、それでもリーバーは『いい傾向』だと心の底から喜んだ。
かといってリナリーと共にぶっきらぼうながらも甲斐甲斐しく弟子に対してあれこれ確認している姿は些か滑稽だ。
まぁ指摘したら途端に不機嫌になるのだろう。リーバー・ウェンハムは考えることをやめた。
「大丈夫だよ、リナリー。国内だからそんなに遠くないし……明日には帰って来れるだろうから。
神田さんも、帰ったらご報告しますね。」
にこにこと人当たりのいい笑顔でそう諭す名無し。
そう。一日前までは、そんなことを言っていたのだ。
泡沫に溺れる#02
(全然無事じゃない……)
アクマを破壊する前の、数瞬。
同行していた探索者を目掛けて投げられた、アクマの血でありオイルでもあり、毒でもある液体。
それを庇った。
いや、寄生型の特性としてアクマの毒は効かないし、自分の判断が間違っていたとは今でも思えない。
思えない、のだが。
(毒にしては何か弱いな……とは思っていたけど、)
身体が、熱い。
部屋に置いていた体温計で熱を計っても平熱より少し高いくらいだった。
それでも体の芯から火照り、意識がふわふわと覚束無いこれは、
――神田に、触れられている時の火照りによく似ていて。
いやいやまさか。
否定したい気持ち半分、確信にも似た疑問半分。
彼とそういう行為はまだなのだが、私だって一応年頃だ。詳しくはないけれどそういう知識だって爪の垢ほどはあるつもりだ。
……違ってて欲しい。
これはただの微熱。
でなければ親愛なる師匠へ顔向けなんて出来やしない。
そう、ただの発熱なら医務室に行けばいいのだ。
恐る恐るショートパンツを少し脱ぎ、下着の中へ手を入れる。
本来なら精々軽く湿り気を帯びているはずのそこは、指先に粘り気のある『それ』がぬらりと絡んだ。
「っ、う、わ……」
自分自身で触れただけなのに肩が揺れる。
……確かめなければよかった。
軽く触れただけなのに、身体の一番奥の深いところから『もっと欲しい』と熱を帯びるのが嫌でも分かったからだ。
慌てて手を引っ込め、汚いとは分かっているが反射的にシーツで指を拭った。
これではコムイのところへ報告にも行けない。
医務室にもこんな身体で行くのは憚られる。
言うまでもないが、神田のところへ『帰りました』なんて顔を見せに行くだなんて、言語道断だ。無理に決まっている。
(そうだ、ゴーレムで仮眠してから行きますって言えば、)
重たい腕を上げ、枕元に置いていたゴーレムへ手を伸ばす。
が、何とも間が絶妙なのが『神田ユウ』という師である。
――コンコン、
乾いた、ノックの音。
「名無し。戻って来てんのか?」
今一番会いたいのに、物凄く会いたくない人物の声が聞こえ、私は頭を抱えた。