病熱メトロノーム
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日付が変わるか変わらないかの時間。
短針がもうすぐ12を超え、長針が少しずつ短針を追い抜こうと時計回りに追いかける。
名無しは、非常に頭を悩ませていた。
(眠れない。)
朝、あれだけスッキリと目が覚めたというのに。
いや、むしろあの快眠を味わってしまったせいかもしれない。
ベッドへ横になっても眠れない。
ほんのり残っている彼の残り香が、朝のことを思い出させて『物足りない』と感じさせてしまう。
――寂しい、と。
散々悩んだ挙句、名無しはのそりと動き出す。
枕と、毛布。
両脇にしっかり抱え、そろりと部屋を抜け出した。
病熱メトロノーム#06
(眠れねぇ。)
昨晩、あの穏やかな体温を抱えて寝たせいだろうか。
寝慣れたベッドに横になっても一向に眠気はやって来なかった。
……名無しはもう寝ただろうか。
今日は穏やかな眠りに揺蕩っているだろうか。
時間はもうすぐ0時を回る。
眠れたのか確認するには少し早い気がするし、かといって寝たのかと声を掛けるには遅い時間だ。
どうしたものかと小さく息をついた時だった。
――コンコン。
控えめな、ノック。
仕事の件ならばゴーレムを通して連絡を寄越すはずだ。
こんな夜更けにわざわざ来客だなんて。
部屋の鍵を開け、そろりとドアノブを回せば……
「あ……こ、こんばんは。神田さん…あの…明かりがついていたので…。もしかして、起こしてしまいましたか…?」
ひそひそと声を抑えてドアの隙間から声をかけるのは名無しだ。
眉を八の字に寄せ困った表情でドアの前に立っていた。
「どうした?」
「う。……あの、ですね。その……………ね、眠れ、なくて…………」
子供のような理由なのが恥ずかしいからか、耳まで真っ赤にして俯く。
枕と毛布を抱えてやって来ているということは、つまりそういう事だ。
「あの、ご迷惑だったらすぐ戻ります!いやいや本当は全然お前の寝相が悪くて眠れてないんだ〜とか、ホントそういうのだったら大丈夫なので、」
「逆だ。」
「へ。」
声を小さくしているものの、慌てて捲し立てる名無しの言葉を遮る。
こういうのを、なんと言うべきか。
……鴨が葱を背負ってくる?飛んで火に入る夏の虫?
まぁ、そんな所か。
ドアを早々に開き、名無しの腕を引く。
油断しきっていたからか細い身体は腕を引いただけで部屋の中に招き入れることが出来た。
「う、わ!か、神田さん?」
「お前、夜に男の部屋に来るってどういう意味か分かってんだろうな?」
意地悪く問うてみれば、名無しが青くなったり赤くなったり顔色を変える。
「やっぱり戻ります!」
「逃がすか。」
鍵を手早く掛け、枕と毛布を抱えたままの名無しを小脇に抱える。
そのままベッドに放り投げれば、スプリングが大きく軋んだ。
「名無し。」
名前を呼んで、額に口付けを落とす。
反射的に目を瞑る名無しを見ながら、名残惜しく唇を離した。
「……そういえば『任務が終わったら』だったな?」
「……………………………あ。」
自分の発言を思い出したのか。
暫しの沈黙を経て名無しが小さく声を上げた。
フリーズする彼女の唇にキスを落とす。
柔らかい。甘い。食べてしまいたい。
そんな衝動を抑えつつ、瞼に、頬に、鼻先にもキスの雨を降らせてやる。
「か、んだ、さん、くすぐったい、ですってば、」
目を瞑ったまま、名無しが慌てて抗議する。
僅かに口元が開いたのを見逃すはずもなく、奪うように血色のいい唇を食んだ。
「ん、むっ」
小さくくぐもった声が漏れるが、そんなことはお構い無し。
ぬるりと舌を滑り込ませ、歯列をなぞる。
突然の舌の侵入に驚いたのか小さな肩が大きく揺れた。
が、抑えるように、掻き抱くように。
力を入れれば折れてしまいそうな背中に手を回し、逃げられないように後頭部を押さえつける。
やわらかい口内を味わうように舌で犯せば、合わせた唇の隙間から小さく声が零れた。
それは砂糖菓子よりも蕩けるように甘く、脳髄を麻痺させてしまう程の声だった。
奥に引っ込め、逃げ惑う舌に痺れを切らし、神田は一度唇を離す。
名残惜しそうに伝う銀糸が、ぷつりと切れる。
真っ赤な顔でとろりと蕩けた名無しが必死に肩で呼吸を整えていた。
「名無し。舌を出せ。」
「ふ、あ……」
ぼうっとしているのか、言われるがままに真っ赤な舌を差し出す。
「いい子だ」とそっと褒め、もう一度深く深くキスをした。
反射的に逃げようとする舌を絡め、吸い上げる。
体温よりも幾分か熱いそれをやわやわと弄べば、力が入っていた名無しの四肢がダラりと脱力した。
それでも指先で縋るようにシャツを握ってくるのが愛おしい。
散々口内を堪能した後、リップ音を残して唇を離せば、長湯した後のように名無しは完全に蕩けきっていた。
「ご馳走さん。」
「う……あ……か、かんださんの、えっち…すけべ…」
「足腰立たなくなるまでするって言っただろ。」
「きいてません…………」
………言っていなかったか?
まぁいい。とりあえず(本当はこれ以上を無茶苦茶したいが)今日のところはこれで勘弁してやるとしよう。
「……神田さんのせいで熱がまた出そうです。」
「ならとっとと寝るぞ。」
口元を押さえて抗議する名無しの頭を撫で、ベッドに横になる。
彼女が持ってきた枕と毛布は、ソファへ放り投げるのを忘れずに。
「ちょ、ま、枕!」
「あるだろ。ここに。」
腕を軽く叩けば名無しは一瞬閉口した。
「…………立派な枕ですけど、その、腕が痺れませんか…?」
「昨日は何ともなかった。眠てぇんだ、早く寝ないと今すぐ服を剥」
「寝ます!」
物騒な神田の言葉に即答する名無し。
壁際の方で横になれば、覆い被さるように神田が添い寝をし始めた。
ゆるりと結んでいた髪紐を解けば、流れるような黒髪がシーツに放り出される。
それをじっと観察しながら名無しが恐る恐る口を開いた。
「……神田さんは他の人がいて、眠れないとかあるんですか?」
「まぁな。」
「あの、私が邪魔で眠れないとかだったら、本当に結構なので…」
自分から押しかけてきてなんだが、彼の迷惑になることだけは避けたい。
最初に聞いてしまえば良かったのだが、あれよあれよと部屋には招き入れられ、ベッドに放り投げられたので訊くタイミングを失ってしまっていた。
申し訳なさそうに問う名無しに対して、間髪入れずに神田が答える。
「逆だな。」
「逆?」
「抱き枕がいた方がよく眠れたからな」
抱き枕とは、自分のことだろうか。
明確な『いてもいい』という肯定に、ほんの少しだけ頬を綻ばせた。
湯たんぽとしてでも役に立てたのなら僥倖だ。
くしゃりと髪を撫でられ、布団を肩まで掛けられる。
神田の匂いでいっぱいのベッド。
心地よい体温と、優しく撫でる手のひら。
「おやすみ、名無し。」
「お…おやすみなさい、神田さん」
短針がもうすぐ12を超え、長針が少しずつ短針を追い抜こうと時計回りに追いかける。
名無しは、非常に頭を悩ませていた。
(眠れない。)
朝、あれだけスッキリと目が覚めたというのに。
いや、むしろあの快眠を味わってしまったせいかもしれない。
ベッドへ横になっても眠れない。
ほんのり残っている彼の残り香が、朝のことを思い出させて『物足りない』と感じさせてしまう。
――寂しい、と。
散々悩んだ挙句、名無しはのそりと動き出す。
枕と、毛布。
両脇にしっかり抱え、そろりと部屋を抜け出した。
病熱メトロノーム#06
(眠れねぇ。)
昨晩、あの穏やかな体温を抱えて寝たせいだろうか。
寝慣れたベッドに横になっても一向に眠気はやって来なかった。
……名無しはもう寝ただろうか。
今日は穏やかな眠りに揺蕩っているだろうか。
時間はもうすぐ0時を回る。
眠れたのか確認するには少し早い気がするし、かといって寝たのかと声を掛けるには遅い時間だ。
どうしたものかと小さく息をついた時だった。
――コンコン。
控えめな、ノック。
仕事の件ならばゴーレムを通して連絡を寄越すはずだ。
こんな夜更けにわざわざ来客だなんて。
部屋の鍵を開け、そろりとドアノブを回せば……
「あ……こ、こんばんは。神田さん…あの…明かりがついていたので…。もしかして、起こしてしまいましたか…?」
ひそひそと声を抑えてドアの隙間から声をかけるのは名無しだ。
眉を八の字に寄せ困った表情でドアの前に立っていた。
「どうした?」
「う。……あの、ですね。その……………ね、眠れ、なくて…………」
子供のような理由なのが恥ずかしいからか、耳まで真っ赤にして俯く。
枕と毛布を抱えてやって来ているということは、つまりそういう事だ。
「あの、ご迷惑だったらすぐ戻ります!いやいや本当は全然お前の寝相が悪くて眠れてないんだ〜とか、ホントそういうのだったら大丈夫なので、」
「逆だ。」
「へ。」
声を小さくしているものの、慌てて捲し立てる名無しの言葉を遮る。
こういうのを、なんと言うべきか。
……鴨が葱を背負ってくる?飛んで火に入る夏の虫?
まぁ、そんな所か。
ドアを早々に開き、名無しの腕を引く。
油断しきっていたからか細い身体は腕を引いただけで部屋の中に招き入れることが出来た。
「う、わ!か、神田さん?」
「お前、夜に男の部屋に来るってどういう意味か分かってんだろうな?」
意地悪く問うてみれば、名無しが青くなったり赤くなったり顔色を変える。
「やっぱり戻ります!」
「逃がすか。」
鍵を手早く掛け、枕と毛布を抱えたままの名無しを小脇に抱える。
そのままベッドに放り投げれば、スプリングが大きく軋んだ。
「名無し。」
名前を呼んで、額に口付けを落とす。
反射的に目を瞑る名無しを見ながら、名残惜しく唇を離した。
「……そういえば『任務が終わったら』だったな?」
「……………………………あ。」
自分の発言を思い出したのか。
暫しの沈黙を経て名無しが小さく声を上げた。
フリーズする彼女の唇にキスを落とす。
柔らかい。甘い。食べてしまいたい。
そんな衝動を抑えつつ、瞼に、頬に、鼻先にもキスの雨を降らせてやる。
「か、んだ、さん、くすぐったい、ですってば、」
目を瞑ったまま、名無しが慌てて抗議する。
僅かに口元が開いたのを見逃すはずもなく、奪うように血色のいい唇を食んだ。
「ん、むっ」
小さくくぐもった声が漏れるが、そんなことはお構い無し。
ぬるりと舌を滑り込ませ、歯列をなぞる。
突然の舌の侵入に驚いたのか小さな肩が大きく揺れた。
が、抑えるように、掻き抱くように。
力を入れれば折れてしまいそうな背中に手を回し、逃げられないように後頭部を押さえつける。
やわらかい口内を味わうように舌で犯せば、合わせた唇の隙間から小さく声が零れた。
それは砂糖菓子よりも蕩けるように甘く、脳髄を麻痺させてしまう程の声だった。
奥に引っ込め、逃げ惑う舌に痺れを切らし、神田は一度唇を離す。
名残惜しそうに伝う銀糸が、ぷつりと切れる。
真っ赤な顔でとろりと蕩けた名無しが必死に肩で呼吸を整えていた。
「名無し。舌を出せ。」
「ふ、あ……」
ぼうっとしているのか、言われるがままに真っ赤な舌を差し出す。
「いい子だ」とそっと褒め、もう一度深く深くキスをした。
反射的に逃げようとする舌を絡め、吸い上げる。
体温よりも幾分か熱いそれをやわやわと弄べば、力が入っていた名無しの四肢がダラりと脱力した。
それでも指先で縋るようにシャツを握ってくるのが愛おしい。
散々口内を堪能した後、リップ音を残して唇を離せば、長湯した後のように名無しは完全に蕩けきっていた。
「ご馳走さん。」
「う……あ……か、かんださんの、えっち…すけべ…」
「足腰立たなくなるまでするって言っただろ。」
「きいてません…………」
………言っていなかったか?
まぁいい。とりあえず(本当はこれ以上を無茶苦茶したいが)今日のところはこれで勘弁してやるとしよう。
「……神田さんのせいで熱がまた出そうです。」
「ならとっとと寝るぞ。」
口元を押さえて抗議する名無しの頭を撫で、ベッドに横になる。
彼女が持ってきた枕と毛布は、ソファへ放り投げるのを忘れずに。
「ちょ、ま、枕!」
「あるだろ。ここに。」
腕を軽く叩けば名無しは一瞬閉口した。
「…………立派な枕ですけど、その、腕が痺れませんか…?」
「昨日は何ともなかった。眠てぇんだ、早く寝ないと今すぐ服を剥」
「寝ます!」
物騒な神田の言葉に即答する名無し。
壁際の方で横になれば、覆い被さるように神田が添い寝をし始めた。
ゆるりと結んでいた髪紐を解けば、流れるような黒髪がシーツに放り出される。
それをじっと観察しながら名無しが恐る恐る口を開いた。
「……神田さんは他の人がいて、眠れないとかあるんですか?」
「まぁな。」
「あの、私が邪魔で眠れないとかだったら、本当に結構なので…」
自分から押しかけてきてなんだが、彼の迷惑になることだけは避けたい。
最初に聞いてしまえば良かったのだが、あれよあれよと部屋には招き入れられ、ベッドに放り投げられたので訊くタイミングを失ってしまっていた。
申し訳なさそうに問う名無しに対して、間髪入れずに神田が答える。
「逆だな。」
「逆?」
「抱き枕がいた方がよく眠れたからな」
抱き枕とは、自分のことだろうか。
明確な『いてもいい』という肯定に、ほんの少しだけ頬を綻ばせた。
湯たんぽとしてでも役に立てたのなら僥倖だ。
くしゃりと髪を撫でられ、布団を肩まで掛けられる。
神田の匂いでいっぱいのベッド。
心地よい体温と、優しく撫でる手のひら。
「おやすみ、名無し。」
「お…おやすみなさい、神田さん」