病熱メトロノーム
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互いに、思う。
『どうしてコイツは思うようにならないのか』
と。
病熱メトロノーム#01
「風邪ですわね」
ピシャリと言い放つ婦長に対して『やっぱりか』という感想しか出てこない。
そうなる要素はいくつもあった。
寝不足、連日雨ざらしになりながらの調査、環境の変化、エトセトラエトセトラ…。
……しかし問題はそこではない。
「……あの、婦長。自室で大人しくするので、病室は勘弁して下さい。」
「点滴が必要なのよ?いけません。」
「終わったらちゃんと自分で抜くので…。お願いします、えぇっと…あの、眠りが浅いので、一人でゆっくり休みたいな〜…なんて…」
我ながら嘘と言い訳が下手くそ過ぎる。
口がもっと回ればよかったのだが。
「…………はぁ。すぐに体調が悪くなったらゴーレムでいいので連絡しなさい。分かりましたね?」
目じりに出来た皺を深く刻みながら、じとりとこちらを見遣る婦長。
その寛大な配慮に感謝しつつ「はい」とはっきりと返事を返したのであった。
***
「あの、大丈夫なので、今日はゆっくり部屋で休んでください」
「夕飯食ってねぇだろうが。」
「いえ、食べたので大丈夫です」
「ジェリーの奴に聞いたら粥すら作ってねぇって言ってたぞ」
(ジェリーさん…!)
正直者の性別不明な料理長を、今日ばかりは恨んだ。
「……点滴に栄養剤も混ぜてもらってるので、大丈夫なんです」
そう答えれば訝しげな視線を投げてくる神田。
栄養剤は、本当だ。
確かに栄養剤を打ったところで胃の空腹感はどうにもならないが、それでも吐瀉物の片付けを今日はなるべくしたくない。
勿論必ず毎回吐くわけではないのだが、念には念を…ということだ。
というか、これでは意味がない。
心配で来てくれたのだろうが、これでは寝るに寝れない。
色々バレているリンクならともかく(いや、それでも嫌なのだが)この人にバレては色々拗れる予感しかしない。
「あの、疲れが出てるだけなので、本当に大丈夫です…」
熱でふわふわする頭では、下手なりの言い訳すら出てこない。
正直、かなりキツい。
早く部屋から出て欲しいという念が通じたのか、神田は呆れたように溜息をついた。
「……分かった。ちゃんと寝ろよ。」
「はい。ありがとうございます。おやすみなさい。」
珍しく聞き分けがよくて助かった。
心配させまいとぎこちなく笑顔を浮かべながら、名無しはそっと胸を撫で下ろした。
***
一人で食堂に行けば、自然と溜息が零れた。
彼女が自分を看病するのは問題なかったというのに、逆はダメらしい。
不平。不満。理不尽。
苛々しても仕方ないのだが、本人がNOと言うなら――
「あ。」
「あ?」
半日程前まで任務を共にしていたリンクと、鉢合わせる。
彼の隣では相変わらず食欲大爆発させているアレンが、フードファイター以上に食べていた。
「てっきり看病しに行くかと思っていましたが」
「……追い出されたんだよ」
チッと舌打ちをしながら渋々リンクの隣に腰を下ろす。
甘いパンケーキをナイフで切りながら、彼は淡々と「でしょうね」と答えた。
驚きもしない。
むしろ予想していたと言わんばかりの反応。
まるで分かりきっていた結果だと言わんばかりのリンクの態度に、神田は目を細めた。
「どうせ『大丈夫』の一点張りで押し切られたんでしょう。」
「…気に食わねぇな。まるで『俺の方がアイツのことをよく知ってる』って態度が」
「事実、知ってますよ。貴方と違って、ちゃんと第三者視点でよく観察していましたから」
無闇に干渉をしない。
だから見えてくるものがある。
本当は手を伸ばしたくて救いたくて仕方なかったのだが、はじめからそれは拒否されていた。
『死んだ時にイノセンスだけ回収してくれ』とルベリエに頼んだのが何よりもの証拠だろう。
「私が言えるのは、彼女の『大丈夫』は全く信用出来ないということですかね」
自分に言い聞かせるように繰り返される言葉は、まるで呪詛や洗脳のようだ。
任務の件ならともかく、彼女自身の件で『大丈夫』という言葉は、むしろ逆の意味で捉えた方が正解の場合が多い。
「そこの肉を頬張っている、愚かな青年の数年前にそっくりで腹立たしいくらいです。」
「むぐ…リンク、それ僕のこと?とばっちりなんだけど」
黙って聞いていたアレンが不服そうにリンクを見るが、当の本人は「事実です」と一刀両断する。
人付き合いを必要最低限以上に避けていたツケが、見事に回ってきている。
――知っていたはずだ。
彼女は嘘が確かに下手だが、時々異常なまでに上手い事も。
完全に箸を止めた神田をちらりと見て、アレンは大袈裟に声を上げた。
「あーあ、いっぱい果物や飲み物を持って、名無しの所にお見舞い行っちゃおうかなー」
デザートのプリンを一口で頬張り、わざとらしくゆっくり咀嚼する。
隣の隣の席。
荒っぽく席を立ち、食べかけの天ぷら蕎麦をそのままに、彼は早々と席を立った。
揺れるポニーテールが見えなくなるまでリンクは手を止め、気だるそうにひとつ。
溜息をそっと吐き出した。
「……良かったですね、ウォーカー。蕎麦が追加ですよ。」
「え、そこはリンク…君が食べるんじゃないの?」
「何が悲しくて神田ユウの食べかけを片付けなければいけないのですか」
心底嫌そうに言う彼に、アレンはニタリと口元を歪める。
「恋敵と間接キスは嫌ってこと?」
「誰が恋敵ですか。ただ単に潔癖なだけですよ」
「そういう事にしとこうかな。僕も嫌だけど、ジェリーさんが折角作ったもんね。食べてしまおっと。」
手をつけられていないエビ天を頬張り「美味しいなぁ」とアレンは舌づつみを打った。
『どうしてコイツは思うようにならないのか』
と。
病熱メトロノーム#01
「風邪ですわね」
ピシャリと言い放つ婦長に対して『やっぱりか』という感想しか出てこない。
そうなる要素はいくつもあった。
寝不足、連日雨ざらしになりながらの調査、環境の変化、エトセトラエトセトラ…。
……しかし問題はそこではない。
「……あの、婦長。自室で大人しくするので、病室は勘弁して下さい。」
「点滴が必要なのよ?いけません。」
「終わったらちゃんと自分で抜くので…。お願いします、えぇっと…あの、眠りが浅いので、一人でゆっくり休みたいな〜…なんて…」
我ながら嘘と言い訳が下手くそ過ぎる。
口がもっと回ればよかったのだが。
「…………はぁ。すぐに体調が悪くなったらゴーレムでいいので連絡しなさい。分かりましたね?」
目じりに出来た皺を深く刻みながら、じとりとこちらを見遣る婦長。
その寛大な配慮に感謝しつつ「はい」とはっきりと返事を返したのであった。
***
「あの、大丈夫なので、今日はゆっくり部屋で休んでください」
「夕飯食ってねぇだろうが。」
「いえ、食べたので大丈夫です」
「ジェリーの奴に聞いたら粥すら作ってねぇって言ってたぞ」
(ジェリーさん…!)
正直者の性別不明な料理長を、今日ばかりは恨んだ。
「……点滴に栄養剤も混ぜてもらってるので、大丈夫なんです」
そう答えれば訝しげな視線を投げてくる神田。
栄養剤は、本当だ。
確かに栄養剤を打ったところで胃の空腹感はどうにもならないが、それでも吐瀉物の片付けを今日はなるべくしたくない。
勿論必ず毎回吐くわけではないのだが、念には念を…ということだ。
というか、これでは意味がない。
心配で来てくれたのだろうが、これでは寝るに寝れない。
色々バレているリンクならともかく(いや、それでも嫌なのだが)この人にバレては色々拗れる予感しかしない。
「あの、疲れが出てるだけなので、本当に大丈夫です…」
熱でふわふわする頭では、下手なりの言い訳すら出てこない。
正直、かなりキツい。
早く部屋から出て欲しいという念が通じたのか、神田は呆れたように溜息をついた。
「……分かった。ちゃんと寝ろよ。」
「はい。ありがとうございます。おやすみなさい。」
珍しく聞き分けがよくて助かった。
心配させまいとぎこちなく笑顔を浮かべながら、名無しはそっと胸を撫で下ろした。
***
一人で食堂に行けば、自然と溜息が零れた。
彼女が自分を看病するのは問題なかったというのに、逆はダメらしい。
不平。不満。理不尽。
苛々しても仕方ないのだが、本人がNOと言うなら――
「あ。」
「あ?」
半日程前まで任務を共にしていたリンクと、鉢合わせる。
彼の隣では相変わらず食欲大爆発させているアレンが、フードファイター以上に食べていた。
「てっきり看病しに行くかと思っていましたが」
「……追い出されたんだよ」
チッと舌打ちをしながら渋々リンクの隣に腰を下ろす。
甘いパンケーキをナイフで切りながら、彼は淡々と「でしょうね」と答えた。
驚きもしない。
むしろ予想していたと言わんばかりの反応。
まるで分かりきっていた結果だと言わんばかりのリンクの態度に、神田は目を細めた。
「どうせ『大丈夫』の一点張りで押し切られたんでしょう。」
「…気に食わねぇな。まるで『俺の方がアイツのことをよく知ってる』って態度が」
「事実、知ってますよ。貴方と違って、ちゃんと第三者視点でよく観察していましたから」
無闇に干渉をしない。
だから見えてくるものがある。
本当は手を伸ばしたくて救いたくて仕方なかったのだが、はじめからそれは拒否されていた。
『死んだ時にイノセンスだけ回収してくれ』とルベリエに頼んだのが何よりもの証拠だろう。
「私が言えるのは、彼女の『大丈夫』は全く信用出来ないということですかね」
自分に言い聞かせるように繰り返される言葉は、まるで呪詛や洗脳のようだ。
任務の件ならともかく、彼女自身の件で『大丈夫』という言葉は、むしろ逆の意味で捉えた方が正解の場合が多い。
「そこの肉を頬張っている、愚かな青年の数年前にそっくりで腹立たしいくらいです。」
「むぐ…リンク、それ僕のこと?とばっちりなんだけど」
黙って聞いていたアレンが不服そうにリンクを見るが、当の本人は「事実です」と一刀両断する。
人付き合いを必要最低限以上に避けていたツケが、見事に回ってきている。
――知っていたはずだ。
彼女は嘘が確かに下手だが、時々異常なまでに上手い事も。
完全に箸を止めた神田をちらりと見て、アレンは大袈裟に声を上げた。
「あーあ、いっぱい果物や飲み物を持って、名無しの所にお見舞い行っちゃおうかなー」
デザートのプリンを一口で頬張り、わざとらしくゆっくり咀嚼する。
隣の隣の席。
荒っぽく席を立ち、食べかけの天ぷら蕎麦をそのままに、彼は早々と席を立った。
揺れるポニーテールが見えなくなるまでリンクは手を止め、気だるそうにひとつ。
溜息をそっと吐き出した。
「……良かったですね、ウォーカー。蕎麦が追加ですよ。」
「え、そこはリンク…君が食べるんじゃないの?」
「何が悲しくて神田ユウの食べかけを片付けなければいけないのですか」
心底嫌そうに言う彼に、アレンはニタリと口元を歪める。
「恋敵と間接キスは嫌ってこと?」
「誰が恋敵ですか。ただ単に潔癖なだけですよ」
「そういう事にしとこうかな。僕も嫌だけど、ジェリーさんが折角作ったもんね。食べてしまおっと。」
手をつけられていないエビ天を頬張り「美味しいなぁ」とアレンは舌づつみを打った。