St. Elmo's fire.
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「ヘデラという女性について、お訊ねしたいのですが。」
初日と同じように、質のいい茶葉を使ったであろう、温かい紅茶を出された。
町長の屋敷へ、神田・リンク・名無しの三人は話を伺いに行ったのだが――
St. Elmo's fire.#06
「失踪した件以外は、知らぬ存ぜぬを通しやがったな」
「魔女と呼ばれていた件は――耳にしていてもおかしくないでしょうからね。あれは嘘でしょう」
宿に一度戻り、雨具の下でずぶ濡れになった上着を床に放り投げた。
ドチャリ、と重々しい音が二着分。
名無しはといえば町長の屋敷にいる時からずっと黙りこくっていた。
眠たいわけでもない。体調が悪いわけでもない。
何かずっと、考え込んでいるようだった。
――檣頭電光。セントエルモの火。
先日読んだ本に何か別名が書いてあった記憶がある。
ヘレナ。ギリシア古典での呼称。
カストロとポルクス。双子座の名前。ディオスクロイ。セントエルモの火が二つ灯った場合の別名。
コルポサント。『聖体』の意味を持つ、英語圏での異名。
共通するものは、導き手としての逸話。
(悪天候時に現れる現象。それは合ってる。……嵐だから、現れてる?)
逆転の発想だ。
セントエルモの火を灯す為に、嵐を起こしているのだとすれば?
(何のために?メッセージ?)
考えろ。
これは、奇怪を通した、彼女からのメッセージだとすれば――
「名無しッ!」
「……………」
「名無し!」
「え?はい?なんでしょう?」
「ここで着替えるな!」
ずっと考え事をしながら、団服を脱いだ。
下のワイシャツも気持ち悪かったから、無意識のうちにボタンに手をかけていた。
白いワイシャツから透けるのは……
「う、」
名無しの声にならない悲鳴と、『私は何も見ていません』と顔を背けるリンクと、呆れた表情を浮かべた神田が…大きく溜息をついた。
***
「本当にすみません。」
「…気を付けてください。一歩間違えれば痴女ですよ」
リンクの耳に痛い小言を聞き、名無しは真っ赤な顔で項垂れる。
先程まで考えていたあれこれはしっかり覚えていたのが不幸中の幸いか。
あまりの恥ずかしさに考えていた考察が吹き飛んでしまっては元も子もない。
「何をぼやぼや考えていた。」
神田がじとりとこちらを見遣る。
どうせまた危ない事でも企んでいるんだろう、と言わんばかりの視線だ。…もっとも、今回は違うのだが。
「えっと、この悪天候が引き起こされたのは奇怪のせいではなくて、何かメッセージを送るためだったとしたら…って考えてまして。」
「メッセージ?」
「はい。檣頭電光は、通称・セントエルモの火と言います。
そもそもこれは悪天候時に船のマストに灯る光の現象で『導き手』の逸話が多く残るものなんです。」
神田が名無しへタオルを手渡す。
それを「ありがとうございます」と礼を言いつつ受け取った。
「セントエルモの火の異称は、ヘレナ、カストロとポルクスと様々残っていますが……中でも英語圏で呼ばれる異名が、コルポサントなんです。」
「コルポサント……『聖体』を意味する言葉ですね。」
リンクが部屋に備え付けのケトルで湯を沸かしながら頷く。
神田もこの単語には聞き覚えがあったらしく、そろりと口を開いた。
「…パンの名前じゃなかったか?」
「えぇ。神の身体の一部と見立てた――」
リンクが、はたりと何かに気がつく。
コルポサントとは聖体儀式で使われるパンだが、その中でとある種類は、
「……『生贄』という意味も、ありましたね。」
「生贄、ですか?」
「えぇ。」
イースト菌を使わない種類のものは、ラテン語で『ホスチア』と呼ぶ。
その語源は『生贄』だ。
「……待ってください。確か、オベリスクの台座には火を持った天使…ウリエルがいました」
「火は生命に例えられる事はよくありますね。酸素を燃やし、二酸化炭素を排出する性質は、全ての生命の『代謝』に似ているから……という説もあります。」
探し求めていた答えに行きつこうとしているのが、分かるのだろう。
早口で捲し立てる二人はもてる知識を総動員した。
火は、生命の象徴。
必ず火とは必ずどこかで点火されたものだ。
脈々と受け継ぐ性質は生命の連鎖に例えられる。
そして、全てを燃やし尽くし、灰に帰す性質の側面もある。
つまり――
「また、同時に死の象徴でもある。」
初日と同じように、質のいい茶葉を使ったであろう、温かい紅茶を出された。
町長の屋敷へ、神田・リンク・名無しの三人は話を伺いに行ったのだが――
St. Elmo's fire.#06
「失踪した件以外は、知らぬ存ぜぬを通しやがったな」
「魔女と呼ばれていた件は――耳にしていてもおかしくないでしょうからね。あれは嘘でしょう」
宿に一度戻り、雨具の下でずぶ濡れになった上着を床に放り投げた。
ドチャリ、と重々しい音が二着分。
名無しはといえば町長の屋敷にいる時からずっと黙りこくっていた。
眠たいわけでもない。体調が悪いわけでもない。
何かずっと、考え込んでいるようだった。
――檣頭電光。セントエルモの火。
先日読んだ本に何か別名が書いてあった記憶がある。
ヘレナ。ギリシア古典での呼称。
カストロとポルクス。双子座の名前。ディオスクロイ。セントエルモの火が二つ灯った場合の別名。
コルポサント。『聖体』の意味を持つ、英語圏での異名。
共通するものは、導き手としての逸話。
(悪天候時に現れる現象。それは合ってる。……嵐だから、現れてる?)
逆転の発想だ。
セントエルモの火を灯す為に、嵐を起こしているのだとすれば?
(何のために?メッセージ?)
考えろ。
これは、奇怪を通した、彼女からのメッセージだとすれば――
「名無しッ!」
「……………」
「名無し!」
「え?はい?なんでしょう?」
「ここで着替えるな!」
ずっと考え事をしながら、団服を脱いだ。
下のワイシャツも気持ち悪かったから、無意識のうちにボタンに手をかけていた。
白いワイシャツから透けるのは……
「う、」
名無しの声にならない悲鳴と、『私は何も見ていません』と顔を背けるリンクと、呆れた表情を浮かべた神田が…大きく溜息をついた。
***
「本当にすみません。」
「…気を付けてください。一歩間違えれば痴女ですよ」
リンクの耳に痛い小言を聞き、名無しは真っ赤な顔で項垂れる。
先程まで考えていたあれこれはしっかり覚えていたのが不幸中の幸いか。
あまりの恥ずかしさに考えていた考察が吹き飛んでしまっては元も子もない。
「何をぼやぼや考えていた。」
神田がじとりとこちらを見遣る。
どうせまた危ない事でも企んでいるんだろう、と言わんばかりの視線だ。…もっとも、今回は違うのだが。
「えっと、この悪天候が引き起こされたのは奇怪のせいではなくて、何かメッセージを送るためだったとしたら…って考えてまして。」
「メッセージ?」
「はい。檣頭電光は、通称・セントエルモの火と言います。
そもそもこれは悪天候時に船のマストに灯る光の現象で『導き手』の逸話が多く残るものなんです。」
神田が名無しへタオルを手渡す。
それを「ありがとうございます」と礼を言いつつ受け取った。
「セントエルモの火の異称は、ヘレナ、カストロとポルクスと様々残っていますが……中でも英語圏で呼ばれる異名が、コルポサントなんです。」
「コルポサント……『聖体』を意味する言葉ですね。」
リンクが部屋に備え付けのケトルで湯を沸かしながら頷く。
神田もこの単語には聞き覚えがあったらしく、そろりと口を開いた。
「…パンの名前じゃなかったか?」
「えぇ。神の身体の一部と見立てた――」
リンクが、はたりと何かに気がつく。
コルポサントとは聖体儀式で使われるパンだが、その中でとある種類は、
「……『生贄』という意味も、ありましたね。」
「生贄、ですか?」
「えぇ。」
イースト菌を使わない種類のものは、ラテン語で『ホスチア』と呼ぶ。
その語源は『生贄』だ。
「……待ってください。確か、オベリスクの台座には火を持った天使…ウリエルがいました」
「火は生命に例えられる事はよくありますね。酸素を燃やし、二酸化炭素を排出する性質は、全ての生命の『代謝』に似ているから……という説もあります。」
探し求めていた答えに行きつこうとしているのが、分かるのだろう。
早口で捲し立てる二人はもてる知識を総動員した。
火は、生命の象徴。
必ず火とは必ずどこかで点火されたものだ。
脈々と受け継ぐ性質は生命の連鎖に例えられる。
そして、全てを燃やし尽くし、灰に帰す性質の側面もある。
つまり――
「また、同時に死の象徴でもある。」