St. Elmo's fire.
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ハイネの町にやって来て、三日目。
二日目は何も収穫なし。
ただ雨に打たれて終わってしまった。
三日目。
住人に一軒一軒聞いて回っているが、中々手がかりが見つからない。
天を覆い尽くすような暗雲のせいで昼夜の感覚が狂ってしまいそうだ。
気がつけば昼が過ぎ、何軒かまわった後は夕方になっていた。
町は地図で見るよりも意外と広く、住民も多い。
これは……かなり骨が折れそうだ。
St. Elmo's fire.#03
「ただいま帰りました…」
ドアノブを捻り、名無しが宿へ戻る。
先に戻っていた神田は長い髪をタオルで乱雑に拭っていた。
ラフなシャツに着替えているところを見ると、どうやらシャワーを浴びた後らしい。
まだ拭ききっていない黒髪はしっとり濡れ、普段は高々と結われている長い髪が背中に広がっていた。
「収穫は?」
「なしですよー…。露骨な奇怪ならまだしも『天気が無茶苦茶悪い』って奇怪ですもん…」
神田と初めて任務に就いた時のモン・サン・ミッシェルや、レポートで見た過去の任務――ミランダの『巻き戻しの町』のように、あからさまな奇怪ではない。
ノーヒントと言っても過言ではなかった。
「…あれ?リンクさんは?」
「一度戻ってまた出て行ったぞ。」
彼は彼で任務があるのだろう。
ルベリエに扱き使われる従者は楽では無さそうだ。
「詮索しても絶対教えてくれませんよねぇ」
「余計な事は首を突っ込むモンじゃねぇぞ」
「そうなんですけど。何かお手伝い出来ることがあるのなら手伝うのにな、とは思いますよ」
ずぶ濡れになったゴーレムや、雨合羽を部屋に干す。
……暖炉が恋しい季節でよかった。
これが夏だったら蒸し暑さで気が狂っていただろう。
持っていた荷物を整理する名無しを後ろからじっと眺める神田。
表情が不服そうなのは――きっと気の所為ではない。
「……仲がいいんだな。」
ボソリと。
薪がパキリと乾いた音を立てる。
それで掻き消されていればいいものを、神田の呟きはバッチリ名無しの耳に届いていた。
「?、リンクさんとですか?普通だとは思いますけど。」
一年程、修復任務で共に各地を点々と渡り歩いていた時期がある。
名無しとしては出来るだけ『不干渉』を掲げていたものの、リンクの世話焼きな性格もあって何だかんだ会話はそれなりにしていた。
正直あの頃は精神的な余裕が…あると言えば嘘になる。むしろ余裕など殆どなかった。
名無しがつっけんどんに突き放した事もあったが、それでも付き合ってくれた。
任務故の義務感もあっただろうが、一番の理由は彼の心根の優しさだろう。
彼は彼女をどう思っているか知る由もないが、それでも名無しは少なくとも感謝していた。
神田としては、あの空白の一年間を許したつもりはない。
エクソシストの道に引きずり込んだ責任を感じなかったと言えば嘘になるし、かと言って追いかける程の決心もなかった。
名無しであろう『鴉』を見掛けても、あえてスルーしたこともあった。
今思えば後悔でいっぱいだ。
何より、心配を掛けまいと自分の元を離れたことも腹が立つし、『手出しをしなさそうな人物で、自分が死んだ時にイノセンスを確実に回収してくれそうな人物』にハワード・リンクが選ばれたのも腹が立つ。
前者は、的確に的を射ている。
確かに同行すれば心配しただろう。
それでも彼女が腹を括って決めたことなら止めるつもりはなかったが――そこまで『信頼』されていなかった自分に、何より怒りを覚えた。
後者は、ただ――単純に、腹が立つ。それだけだ。
(最近嫉妬してばっかだな)
いや、訂正しよう。
思えば昔から嫉妬はしていたかもしれない。
こんなに露骨にし始めたのは最近というだけだ。
「神田さん、早く髪の毛拭かないと湯冷めしますよ?」
「お前が言うか。」
「今お風呂沸かして貰っているのを待ってるんですー」
持ってきていたタオルを取り出し、神田の髪を丁寧に拭き上げ始める名無し。
ポンポンと水気を丁寧に取り、地肌もしっかり拭いていく。
タオル越しの手が心地よくて思わず目を細めるが――。
……数々の『慣らし』を経て、やっとこの距離でも平気になった。
まだキスをすれば彼女は火がついたように赤くなるし、勿論それ以上はまだ進めていない。
今はリンクが不在。
先程出ていったのだからもう暫くは帰ってこないだろう。
「名無し。」
名前を呼び、タオルの隙間からそっと見上げれば、黒々とした丸い瞳と視線が絡む。
なにが楽しいのか理解に苦しむが、合法的に髪を触れるのが嬉しいらしい。
上機嫌な様子の彼女が垣間見れた。
首を上げればキスできる距離。
名無しの首後ろに手を回し、唇を奪おうとすれば――
もふっ。
遮ったのは、湿ったタオル。
それは先程まで神田の髪を拭いていた、名無しのものだった。
「に、任務中ですよ。」
茹で上がるほどではないものの顔を赤く染めて、手のひらとタオルで神田の唇を阻止する名無し。
真面目すぎる彼女に小さく溜息を吐き出し、神田は不機嫌そうに眉間へ皺を寄せた。
そんな神田を考慮してか、否か。
名無しがゴニョゴニョと口篭った。
「………………帰ったら、に、しましょう…」
紅潮していく頬。
小声で振り絞られるお誘い文句。
――では早く任務を終わらせなければ。
やる気がなかったわけではないが、俄然意欲が湧いてきた。
(……帰ったら足腰立たなくなるまでキスしてやる。)
そんな物騒なことを神田が考えているなんて、名無しは知る由もない。
二日目は何も収穫なし。
ただ雨に打たれて終わってしまった。
三日目。
住人に一軒一軒聞いて回っているが、中々手がかりが見つからない。
天を覆い尽くすような暗雲のせいで昼夜の感覚が狂ってしまいそうだ。
気がつけば昼が過ぎ、何軒かまわった後は夕方になっていた。
町は地図で見るよりも意外と広く、住民も多い。
これは……かなり骨が折れそうだ。
St. Elmo's fire.#03
「ただいま帰りました…」
ドアノブを捻り、名無しが宿へ戻る。
先に戻っていた神田は長い髪をタオルで乱雑に拭っていた。
ラフなシャツに着替えているところを見ると、どうやらシャワーを浴びた後らしい。
まだ拭ききっていない黒髪はしっとり濡れ、普段は高々と結われている長い髪が背中に広がっていた。
「収穫は?」
「なしですよー…。露骨な奇怪ならまだしも『天気が無茶苦茶悪い』って奇怪ですもん…」
神田と初めて任務に就いた時のモン・サン・ミッシェルや、レポートで見た過去の任務――ミランダの『巻き戻しの町』のように、あからさまな奇怪ではない。
ノーヒントと言っても過言ではなかった。
「…あれ?リンクさんは?」
「一度戻ってまた出て行ったぞ。」
彼は彼で任務があるのだろう。
ルベリエに扱き使われる従者は楽では無さそうだ。
「詮索しても絶対教えてくれませんよねぇ」
「余計な事は首を突っ込むモンじゃねぇぞ」
「そうなんですけど。何かお手伝い出来ることがあるのなら手伝うのにな、とは思いますよ」
ずぶ濡れになったゴーレムや、雨合羽を部屋に干す。
……暖炉が恋しい季節でよかった。
これが夏だったら蒸し暑さで気が狂っていただろう。
持っていた荷物を整理する名無しを後ろからじっと眺める神田。
表情が不服そうなのは――きっと気の所為ではない。
「……仲がいいんだな。」
ボソリと。
薪がパキリと乾いた音を立てる。
それで掻き消されていればいいものを、神田の呟きはバッチリ名無しの耳に届いていた。
「?、リンクさんとですか?普通だとは思いますけど。」
一年程、修復任務で共に各地を点々と渡り歩いていた時期がある。
名無しとしては出来るだけ『不干渉』を掲げていたものの、リンクの世話焼きな性格もあって何だかんだ会話はそれなりにしていた。
正直あの頃は精神的な余裕が…あると言えば嘘になる。むしろ余裕など殆どなかった。
名無しがつっけんどんに突き放した事もあったが、それでも付き合ってくれた。
任務故の義務感もあっただろうが、一番の理由は彼の心根の優しさだろう。
彼は彼女をどう思っているか知る由もないが、それでも名無しは少なくとも感謝していた。
神田としては、あの空白の一年間を許したつもりはない。
エクソシストの道に引きずり込んだ責任を感じなかったと言えば嘘になるし、かと言って追いかける程の決心もなかった。
名無しであろう『鴉』を見掛けても、あえてスルーしたこともあった。
今思えば後悔でいっぱいだ。
何より、心配を掛けまいと自分の元を離れたことも腹が立つし、『手出しをしなさそうな人物で、自分が死んだ時にイノセンスを確実に回収してくれそうな人物』にハワード・リンクが選ばれたのも腹が立つ。
前者は、的確に的を射ている。
確かに同行すれば心配しただろう。
それでも彼女が腹を括って決めたことなら止めるつもりはなかったが――そこまで『信頼』されていなかった自分に、何より怒りを覚えた。
後者は、ただ――単純に、腹が立つ。それだけだ。
(最近嫉妬してばっかだな)
いや、訂正しよう。
思えば昔から嫉妬はしていたかもしれない。
こんなに露骨にし始めたのは最近というだけだ。
「神田さん、早く髪の毛拭かないと湯冷めしますよ?」
「お前が言うか。」
「今お風呂沸かして貰っているのを待ってるんですー」
持ってきていたタオルを取り出し、神田の髪を丁寧に拭き上げ始める名無し。
ポンポンと水気を丁寧に取り、地肌もしっかり拭いていく。
タオル越しの手が心地よくて思わず目を細めるが――。
……数々の『慣らし』を経て、やっとこの距離でも平気になった。
まだキスをすれば彼女は火がついたように赤くなるし、勿論それ以上はまだ進めていない。
今はリンクが不在。
先程出ていったのだからもう暫くは帰ってこないだろう。
「名無し。」
名前を呼び、タオルの隙間からそっと見上げれば、黒々とした丸い瞳と視線が絡む。
なにが楽しいのか理解に苦しむが、合法的に髪を触れるのが嬉しいらしい。
上機嫌な様子の彼女が垣間見れた。
首を上げればキスできる距離。
名無しの首後ろに手を回し、唇を奪おうとすれば――
もふっ。
遮ったのは、湿ったタオル。
それは先程まで神田の髪を拭いていた、名無しのものだった。
「に、任務中ですよ。」
茹で上がるほどではないものの顔を赤く染めて、手のひらとタオルで神田の唇を阻止する名無し。
真面目すぎる彼女に小さく溜息を吐き出し、神田は不機嫌そうに眉間へ皺を寄せた。
そんな神田を考慮してか、否か。
名無しがゴニョゴニョと口篭った。
「………………帰ったら、に、しましょう…」
紅潮していく頬。
小声で振り絞られるお誘い文句。
――では早く任務を終わらせなければ。
やる気がなかったわけではないが、俄然意欲が湧いてきた。
(……帰ったら足腰立たなくなるまでキスしてやる。)
そんな物騒なことを神田が考えているなんて、名無しは知る由もない。