恋愛ビギナー
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我慢ならず名無しの部屋に向かったものの、残念ながら留守だった。
重い溜息をつきながら、己の部屋にトンボ帰りしていた途中。
聞き慣れた足音。
小走りで駆けてくるこの音は、振り向かなくても分かった。
「か、神田さん!あの、ちょっとよろしいですか?」
息を切らしながら走ってくる名無し。
風呂に入っていたのか、片手には石鹸一式。首からはタオルが掛けられていた。
ほわほわと香ってくるシャンプーと石鹸の匂いに、禁断症状が出始めているせいか、くらりと目眩がした。
反射的に掴んだ細腕。
数歩先が神田の自室だったのが運の尽き。
湯上りでしっとりした手を掴み、スタスタと歩き進めば、行先は勿論部屋の中。
部屋に入った途端、後ろ手で鍵をかけ、小さく息を吐き出した。
「あの、神田さ」
名無しの言葉を遮り、徐に首筋に顔を埋める。
何の変哲もない石鹸の匂いと、名無しの匂い。
その二つだけの匂いだというのに、肺いっぱいに吸い込んだら充足感が湧いてきた。
濡れたような白い肌に唇を、一度、二度落とす。
ビクリと揺れた身体を抱きすくめ、軽く歯を立て吸い上げてやれば、赤い花がポツリと咲いた。
……本人に無断で跡をつけるのはこれで二度目だ。
「かん、神田さん!ちょっと、待ってくださいってば!今日は大事なお話をしに来たんです!」
今にも目を回しそうなくらい紅潮した顔で、名無しがわあわあと声を上げる。
未だに禁断症状が治らない神田は、本当に渋々…心底残念そうに首筋から唇を離した。
「……なんだよ。」
「えぇっと、まずは謝罪から…。露骨に避けて、申し訳ございませんでした。」
神田が肩を掴んでいるせいで、ろくにお辞儀ができない。
が、首だけぺこりと下げ、名無しは律儀に頭を垂らした。
「……で、その…ご相談なんですけど、」
「早く言え。」
「う。……す、スキンシップをですね、もう少しゆっくり、段階踏んでくださると嬉しいです…」
まさかの申し出に、神田は瞬きを三度繰り返した。
「…………………あ?」
「か…っ、神田さんは悪くないんです!その、こういう関係自体がですね、人生初めてで…」
思考がこんがらがってきているのか。
言い訳がましく必死に弁解する名無しの表情には焦りが滲み出ている。
自分でもそれは分かっているらしい。
深呼吸を一度、二度、三度繰り返して、慎重に言葉を選んだ。
「…神田さんを供給過多しすぎて、本当に心拍数がどうにかなってしまいそうなんです。頭が真っ白になるんです。
その、触ってもらえるのは…う、嬉しい……ん、ですけど、もう少しゆっくり……。……少しづつ、慣れていくようにするので……」
自分でこんなことを白状するなんて、なんて羞恥プレイなんだろう。
――しかし『お願い』するというなら、理由と状況を正直に述べるのが筋というものだ。
神田の触れる指や欲求が恋仲として真っ当なのは分かっている。
自分があまりにも無知すぎて、溺れそうになっているせいなのも分かっている。
だからこれは、腹を括った『お願い』なのだ。
「…………………はぁ…」
長い沈黙の末、神田の溜息が頭上から降ってくる。
呆れただろうか。嫌われたのだろうか。
胸に去来する不安で息が詰まりそうになるが、次に零れた言葉は意外なものだった。
「……露骨に避けやがって。」
「う…。ご、ごめんなさい…」
「おかけでこっちは足りてねぇんだぞ。」
「なにがですか…?」
「お前。」
端的に言ってしまえば、つまり寂しかったと。
意外すぎる師匠の物言いに少しばかり面食らった。
しかし神田にそこまで言わしめる程、確かに露骨に避けていた…と、思う。
恥じらいよりも罪悪感が大きく上回り、名無しは恐る恐る口を開いた。
「……どうやったら、足りますか?」
名無しの言葉に、今度は神田が面食らった。
正直に言えば、その柔らかい唇を貪って、細い身体を思い切り抱きしめて、ベッドに押し倒して彼女にあられもない声を喘げさせたいわけなのだが。
先程の『お願い』がある手前、多少の譲歩はするべきだろう。
何せ、初めて名無しが口にした可愛らしいワガママなのだから。
「……抱きしめるのは?」
一応、確認をとる。
恥ずかしそうに視線を一瞬泳がせ、深呼吸を1回。
照れくさそうにはにかみながら、名無しが大きく手を広げた。
「はい。」
許可を得た途端、白く細い身体をすっぽり腕の中にしまい込む。
団服がないせいかより華奢に感じた。
細いのに、柔らかい。
薄い背中に手を回せばそのまま折れてしまそうだ。
「……やっぱりムキムキには程遠いな。」
「神田さんは細いのにムキムキで羨ましい限りです。」
小さな手がぽすぽすと神田の背中を擦る。
ふわふわの黒髪にそっと鼻先を埋めれば、名無しが使っているシャンプーの匂いが鼻腔を擽った。
(…慣れさせるために毎日抱きしめてキスするか)
時々もぞりと動く彼女を抱えながら、神田はぼんやりと考えるのであった。
恋愛ビギナー#06
教団備え付けの石鹸の匂い。
洗いたての団服の匂い。
頬を推し当てればトクトクと聞こえる心臓の音が、まるで子守唄のようだった。
(すごく、恥ずかしいし、ドキドキするけど、)
言葉に出来ない感情が、溢れ出しそう。
思わず頬が緩みそうになっているのは、そういうことだ。
まだ不安はあるけれど、少しづつ乗り越えていけたらいいな。
しっかりとした布地の団服に鼻先を擦りながら、名無しは泣き出しそうな顔でそっと笑った。
重い溜息をつきながら、己の部屋にトンボ帰りしていた途中。
聞き慣れた足音。
小走りで駆けてくるこの音は、振り向かなくても分かった。
「か、神田さん!あの、ちょっとよろしいですか?」
息を切らしながら走ってくる名無し。
風呂に入っていたのか、片手には石鹸一式。首からはタオルが掛けられていた。
ほわほわと香ってくるシャンプーと石鹸の匂いに、禁断症状が出始めているせいか、くらりと目眩がした。
反射的に掴んだ細腕。
数歩先が神田の自室だったのが運の尽き。
湯上りでしっとりした手を掴み、スタスタと歩き進めば、行先は勿論部屋の中。
部屋に入った途端、後ろ手で鍵をかけ、小さく息を吐き出した。
「あの、神田さ」
名無しの言葉を遮り、徐に首筋に顔を埋める。
何の変哲もない石鹸の匂いと、名無しの匂い。
その二つだけの匂いだというのに、肺いっぱいに吸い込んだら充足感が湧いてきた。
濡れたような白い肌に唇を、一度、二度落とす。
ビクリと揺れた身体を抱きすくめ、軽く歯を立て吸い上げてやれば、赤い花がポツリと咲いた。
……本人に無断で跡をつけるのはこれで二度目だ。
「かん、神田さん!ちょっと、待ってくださいってば!今日は大事なお話をしに来たんです!」
今にも目を回しそうなくらい紅潮した顔で、名無しがわあわあと声を上げる。
未だに禁断症状が治らない神田は、本当に渋々…心底残念そうに首筋から唇を離した。
「……なんだよ。」
「えぇっと、まずは謝罪から…。露骨に避けて、申し訳ございませんでした。」
神田が肩を掴んでいるせいで、ろくにお辞儀ができない。
が、首だけぺこりと下げ、名無しは律儀に頭を垂らした。
「……で、その…ご相談なんですけど、」
「早く言え。」
「う。……す、スキンシップをですね、もう少しゆっくり、段階踏んでくださると嬉しいです…」
まさかの申し出に、神田は瞬きを三度繰り返した。
「…………………あ?」
「か…っ、神田さんは悪くないんです!その、こういう関係自体がですね、人生初めてで…」
思考がこんがらがってきているのか。
言い訳がましく必死に弁解する名無しの表情には焦りが滲み出ている。
自分でもそれは分かっているらしい。
深呼吸を一度、二度、三度繰り返して、慎重に言葉を選んだ。
「…神田さんを供給過多しすぎて、本当に心拍数がどうにかなってしまいそうなんです。頭が真っ白になるんです。
その、触ってもらえるのは…う、嬉しい……ん、ですけど、もう少しゆっくり……。……少しづつ、慣れていくようにするので……」
自分でこんなことを白状するなんて、なんて羞恥プレイなんだろう。
――しかし『お願い』するというなら、理由と状況を正直に述べるのが筋というものだ。
神田の触れる指や欲求が恋仲として真っ当なのは分かっている。
自分があまりにも無知すぎて、溺れそうになっているせいなのも分かっている。
だからこれは、腹を括った『お願い』なのだ。
「…………………はぁ…」
長い沈黙の末、神田の溜息が頭上から降ってくる。
呆れただろうか。嫌われたのだろうか。
胸に去来する不安で息が詰まりそうになるが、次に零れた言葉は意外なものだった。
「……露骨に避けやがって。」
「う…。ご、ごめんなさい…」
「おかけでこっちは足りてねぇんだぞ。」
「なにがですか…?」
「お前。」
端的に言ってしまえば、つまり寂しかったと。
意外すぎる師匠の物言いに少しばかり面食らった。
しかし神田にそこまで言わしめる程、確かに露骨に避けていた…と、思う。
恥じらいよりも罪悪感が大きく上回り、名無しは恐る恐る口を開いた。
「……どうやったら、足りますか?」
名無しの言葉に、今度は神田が面食らった。
正直に言えば、その柔らかい唇を貪って、細い身体を思い切り抱きしめて、ベッドに押し倒して彼女にあられもない声を喘げさせたいわけなのだが。
先程の『お願い』がある手前、多少の譲歩はするべきだろう。
何せ、初めて名無しが口にした可愛らしいワガママなのだから。
「……抱きしめるのは?」
一応、確認をとる。
恥ずかしそうに視線を一瞬泳がせ、深呼吸を1回。
照れくさそうにはにかみながら、名無しが大きく手を広げた。
「はい。」
許可を得た途端、白く細い身体をすっぽり腕の中にしまい込む。
団服がないせいかより華奢に感じた。
細いのに、柔らかい。
薄い背中に手を回せばそのまま折れてしまそうだ。
「……やっぱりムキムキには程遠いな。」
「神田さんは細いのにムキムキで羨ましい限りです。」
小さな手がぽすぽすと神田の背中を擦る。
ふわふわの黒髪にそっと鼻先を埋めれば、名無しが使っているシャンプーの匂いが鼻腔を擽った。
(…慣れさせるために毎日抱きしめてキスするか)
時々もぞりと動く彼女を抱えながら、神田はぼんやりと考えるのであった。
恋愛ビギナー#06
教団備え付けの石鹸の匂い。
洗いたての団服の匂い。
頬を推し当てればトクトクと聞こえる心臓の音が、まるで子守唄のようだった。
(すごく、恥ずかしいし、ドキドキするけど、)
言葉に出来ない感情が、溢れ出しそう。
思わず頬が緩みそうになっているのは、そういうことだ。
まだ不安はあるけれど、少しづつ乗り越えていけたらいいな。
しっかりとした布地の団服に鼻先を擦りながら、名無しは泣き出しそうな顔でそっと笑った。