恋愛ビギナー
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閉架に閉じ込められた日から、名無しから露骨に避けられている。
目が合えば顔を真っ赤にさせて逃げ出すし、鍛錬だってコソコソ一人で行っているようだ。
逃げ足が一人前になったせいで探すのも中々骨が折れる。
こういう関係になっても自然な距離か――もしくは親密になると思ったのだが、大誤算だ。
結果だけ言おう。
「………………足りねぇ。」
恋愛ビギナー#05
「喧嘩したの?」
教団本部。
大浴場でばったり出会ったリナリーに、唐突に問われた。
「えっと、誰と?」
「神田と。」
長い髪をタオルで巻き、リナリーがそっと首を傾ける。
今最も気まずい人物の名前が唐突に出てきて、名無しは息が一瞬詰まりそうになった。
「ち、ちが…いや、私が一方的に、避けてて…」
「あら。嫌いになったの?」
後ろめたそうにゴニョゴニョと言い訳をすれば、直球ストレートでもう一度質問を投げかけられた。
嫌いになるわけが、ない。
これは自分の身勝手な都合と、子供じみた理由が原因。
「そうじゃなくて」と前置きし、暫しの沈黙を置いて名無しは恐る恐る口を開いた。
「……笑わない?」
「善処するわ。」
そうは言うが、心根の優しいリナリーの事だ。
馬鹿にして笑うことはないと分かりきっている。
湯船になみなみと張られた温かい水面を見ながら、名無しが遠慮がちに呟いた。
「あの、男性とのお付き合いや恋愛が、人生初めてでして。」
初恋がなかったわけではない。
けれど日々を生きていくことに忙殺され、そんな余裕は微塵もなかった。
そもそも、自制心と呼ぶには生温い『ブレーキ』がかかってしまっていたので、恋愛などに発展する訳がなく。
淡い憧れは友愛に変わり、誰かの大切な人になってしまい、ただの友人になっていた。
そして、今に至る。
「だから正直、その…師匠と弟子とは違う距離感に困ってて…」
勿論、恋仲になることと師弟の関係なんて、全くと言っていい程に別物だ。そんなことはわかっている。
簡単に順応出来ていればよかったのだが……頭で分かっていても心と体は正直なのだ。
我ながら面倒くさい性格をしていると重々承知している。
だからこそ、どう接していいものかと困っていた。
「当ててあげましょうか。神田がグイグイ迫ってくるとか?」
リナリーが口元に弧を描きながら、それはもう綺麗に笑う。
表情が疑問形ではなく、確信めいた色を浮かべているあたりさすが幼馴染といったところか。
図星を突かれ、ぐうの音も出ない。
彼のプライバシーを考えれば適当に誤魔化すのがいいのは分かっているのだが、どうもその手の嘘をつくのが苦手だ。
……この際だ。
イギリス住まいのアジア人として、腹を括って意見を伺うことにしよう。
「……変なこと聞いていい?」
「どうぞ?」
「こっちで生活している人は、ええっと……気軽にその、き、きす、するものなの?」
欧州文化ではキスなんて挨拶代わりと言うが…。
神田は戸籍の上では日本人だ。
一体どういう感覚なのか、さっぱり検討がつかない。
「例えば?」
「………………………口、と、足。」
足。
流石のリナリーも一瞬閉口する。
が、他ならぬ可愛い妹分の悩みだ。真剣に答えてあげるのが愛情だろう。
「まぁ足は置いといて。」
(置いとくんだ)
コホンと咳をひとつ。
にこりと微笑んで、細い肩を小さく竦めた。
「神田の性格知ってるでしょ?気軽かどうかは知らないけど、少なくとも名無しが好きだからしたくなるのね、きっと。」
挨拶代わりにキスをしているところなんて、見たことがない。
元々ぶっきらぼうが服を着て歩いているような男だ。こんな風に弟子を溺愛する事自体、数年前では考えられなかったことなのだから。
リナリーの返事に、何だか無性に照れ臭くなって鼻先までブクブクと沈む名無し。
耳まで真っ赤なのは、のぼせたわけではない。
恋愛耐性がないのは分かっていたが、これはなるほど。中々。
貪欲な神田と、臆病な名無し。
その点に関しては相性が悪いと言わざるを得ないのだが……。
そう。そんなことは、些細な問題だ。
「まぁ私がとやかく言っても仕方ないけど」と前置きをして、リナリーが湯船から立ち上がる。
「名無しからお願いしてみたら?」
「……お願い?」
「そう。お願い。」
目が合えば顔を真っ赤にさせて逃げ出すし、鍛錬だってコソコソ一人で行っているようだ。
逃げ足が一人前になったせいで探すのも中々骨が折れる。
こういう関係になっても自然な距離か――もしくは親密になると思ったのだが、大誤算だ。
結果だけ言おう。
「………………足りねぇ。」
恋愛ビギナー#05
「喧嘩したの?」
教団本部。
大浴場でばったり出会ったリナリーに、唐突に問われた。
「えっと、誰と?」
「神田と。」
長い髪をタオルで巻き、リナリーがそっと首を傾ける。
今最も気まずい人物の名前が唐突に出てきて、名無しは息が一瞬詰まりそうになった。
「ち、ちが…いや、私が一方的に、避けてて…」
「あら。嫌いになったの?」
後ろめたそうにゴニョゴニョと言い訳をすれば、直球ストレートでもう一度質問を投げかけられた。
嫌いになるわけが、ない。
これは自分の身勝手な都合と、子供じみた理由が原因。
「そうじゃなくて」と前置きし、暫しの沈黙を置いて名無しは恐る恐る口を開いた。
「……笑わない?」
「善処するわ。」
そうは言うが、心根の優しいリナリーの事だ。
馬鹿にして笑うことはないと分かりきっている。
湯船になみなみと張られた温かい水面を見ながら、名無しが遠慮がちに呟いた。
「あの、男性とのお付き合いや恋愛が、人生初めてでして。」
初恋がなかったわけではない。
けれど日々を生きていくことに忙殺され、そんな余裕は微塵もなかった。
そもそも、自制心と呼ぶには生温い『ブレーキ』がかかってしまっていたので、恋愛などに発展する訳がなく。
淡い憧れは友愛に変わり、誰かの大切な人になってしまい、ただの友人になっていた。
そして、今に至る。
「だから正直、その…師匠と弟子とは違う距離感に困ってて…」
勿論、恋仲になることと師弟の関係なんて、全くと言っていい程に別物だ。そんなことはわかっている。
簡単に順応出来ていればよかったのだが……頭で分かっていても心と体は正直なのだ。
我ながら面倒くさい性格をしていると重々承知している。
だからこそ、どう接していいものかと困っていた。
「当ててあげましょうか。神田がグイグイ迫ってくるとか?」
リナリーが口元に弧を描きながら、それはもう綺麗に笑う。
表情が疑問形ではなく、確信めいた色を浮かべているあたりさすが幼馴染といったところか。
図星を突かれ、ぐうの音も出ない。
彼のプライバシーを考えれば適当に誤魔化すのがいいのは分かっているのだが、どうもその手の嘘をつくのが苦手だ。
……この際だ。
イギリス住まいのアジア人として、腹を括って意見を伺うことにしよう。
「……変なこと聞いていい?」
「どうぞ?」
「こっちで生活している人は、ええっと……気軽にその、き、きす、するものなの?」
欧州文化ではキスなんて挨拶代わりと言うが…。
神田は戸籍の上では日本人だ。
一体どういう感覚なのか、さっぱり検討がつかない。
「例えば?」
「………………………口、と、足。」
足。
流石のリナリーも一瞬閉口する。
が、他ならぬ可愛い妹分の悩みだ。真剣に答えてあげるのが愛情だろう。
「まぁ足は置いといて。」
(置いとくんだ)
コホンと咳をひとつ。
にこりと微笑んで、細い肩を小さく竦めた。
「神田の性格知ってるでしょ?気軽かどうかは知らないけど、少なくとも名無しが好きだからしたくなるのね、きっと。」
挨拶代わりにキスをしているところなんて、見たことがない。
元々ぶっきらぼうが服を着て歩いているような男だ。こんな風に弟子を溺愛する事自体、数年前では考えられなかったことなのだから。
リナリーの返事に、何だか無性に照れ臭くなって鼻先までブクブクと沈む名無し。
耳まで真っ赤なのは、のぼせたわけではない。
恋愛耐性がないのは分かっていたが、これはなるほど。中々。
貪欲な神田と、臆病な名無し。
その点に関しては相性が悪いと言わざるを得ないのだが……。
そう。そんなことは、些細な問題だ。
「まぁ私がとやかく言っても仕方ないけど」と前置きをして、リナリーが湯船から立ち上がる。
「名無しからお願いしてみたら?」
「……お願い?」
「そう。お願い。」