恋愛ビギナー
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「…しかしこの隔壁、いつまで閉まっているんでしょうね。」
膝枕をし始めて15分ほど経った時。
名無しがポツリと隔壁を見上げながら呟いた。
無意識なのか、触り心地がいいからなのか。
高々と結われた艶やかな神田の髪を、指先でくるくると弄んでいる。
不快感があるわけではないので、神田も神田で好きにさせている。
そんな彼は退屈そうに欠伸をひとつ大きく零した。
「大方、居住区あたりが無茶苦茶になってんじゃねぇか?」
「ええぇ……それは嫌ですね…。」
「せめて食堂は無傷でありますように」と名無しが真剣そうな顔で口篭る。
それには神田も全面同意だ。部屋は替えがきくが、食堂は唯一無二なのだから。
「そろそろお夕飯時ですよね…。神田さんは何食べたいです?」
「天ぷら蕎麦。」
「……そんな偏食でよく筋肉がつきますね…。」
『体に悪い』『好き嫌いは良くない』など言われることは多々あったが…。
まさかの愛弟子の珍コメントに、これには神田も吹き出した。
「クッ……なんだ。筋肉欲しいのか。」
「あるに越したことはないじゃないですか!」
キラキラと目を輝かしてこちらを見るものだから、大変失礼な話だが、神田は笑いを堪えるのに少し震えた。
「……ムキムキの名無し。」
「強そうじゃないですか」
「むんっ」と、おどけて力こぶを作ってみせるが、シャツ越しに見てもわかる。
ヒョロりとした腕には残念な力こぶしか出来ていないということが。
「筋肉ダルマになったら太腿が固くなるだろ。却下だ。」
「ええぇぇ……神田さんの専用膝枕のためにある足じゃないんですよ…」
「今は俺専用だろうが。」
勿論足は足としての用途があるのだが。
今は寝心地抜群の膝枕として、バッチリ運用されている。
『神田専用』という言葉を頭の中で反芻したのか、「いや、まぁ、その、間違いじゃ、ないですけど」とゴニョゴニョと名無しが言い淀む。
困ったようにこめかみを押さえているが、いつの間にか顔は真っ赤だった。
「すぐ赤くなるな。」
「……ちょっと気にしてるんですから言うのはやめましょうよ…」
「からかい甲斐があるから別にそのままでもいいぞ」
底意地の悪い返答をすれば、名無しから恨みがましそうな視線を投げられる。
中々この悩みは根深いようだった。
「……神田さんが意地悪いからいけないんですよ。」
「俺のせいだって言うのか。」
「そうです。こっちはずっと心臓バクバクいってるんですよ。寿命が縮まります。」
「心臓の鼓動の回数はみんな決まっているんですよ」なんて蘊蓄を混じえながら名無しが恨み節を吐く。
……彼女は何か勘違いしているようだ。
「名無し。」
「なんですか。」
「お前は大きな思い違いをしてるぞ。」
「…………思い違い、ですか?」
「あぁ。」
ほら。
名無しの手を取り、心臓あたりに手を置かせる。
一度、完全に機能が止まりかけた呪符越しの、心拍音。
その呪符を『修復』したのは紛れもない彼女ということを顧みれば、何だか少し感慨深い。
マーチテンポと同じくらいか。
安静な体勢の割にはかなり早い心拍数だろう。
意味が理解出来たのか、それとも不意に胸に触れたからか。
熱湯に手を浸けたかのように慌てて引っ込め、神田の頭をゴトンと床に落とし、半身引いた。
「オイ。」
「げ。す、すみません!つい、うっかり、」
謝ってはいるものの、もう一度膝に乗せる気はないらしい。
真っ赤な顔でジリジリと逃げ出そうとする弟子を、神田は追い詰めるようににじり寄った。
「分かったか?」
「わか、わかりま、せん。」
「嘘つけ。分からねぇなら服脱いで確かめてみるか?」
「神田さん!セクハラ!セクハラですよ!」
「すぐ顔を真っ赤にしてるヤツがよく言う。エロいこと考えてるんじゃねぇのか?」
「ち、違ッ……あいたっ!」
誤解だと言わんばかりに声を荒らげる名無し。
へたり込んだまま後ろに下がるものだから、いつの間にか背後に無機質な壁が。
「ほー。だが残念だったな。」
壁に挟み、覆い被さるように追い詰めてくる神田。
背丈がある彼が膝立ちすれば、閉架のお世辞にも明るいとは言えない人口光がふわりと遮られた。
落ちる影。
掠めるように重なる唇。
あまりに一瞬の出来事で、名無しはただ目の前に広がった神田の睫毛を眺めることしか出来なかった。
「言っておくが俺はこれ以上もする気満々だからな。」
これ以上。
恋愛事情に疎い名無しでも、それくらいは分かる。
数秒間を置いて、今までにないほど頬を真紅に染め上げた。
恋愛ビギナー#04
「か…っ神田さんの、すけべ!えっち!」
「覚えとけ、男は全員スケベで変態なんだよ。」
したばた暴れ出そうとする名無しの手首を掴み、もう一度覆い被さろうとする神田。
力も体格差も圧倒的。
逃げられるわけがなかった。
嫌ではない。
嫌では、ないのだが。
心の準備が何も出来ていない。
スナック菓子感覚で口吸いされるとなると、名無しの心臓が心肺停止になりそうだった。
プシャッ
「か、神田!?ごめんよ!俺、無茶苦茶悪いタイミングで本を押し付け、ちゃっ………て………」
隔壁が開いたと同時に、懺悔の声を上げながら飛び込んでくるジョニー。
瓶底メガネの向こうの、つぶらな瞳と視線が絡む。
しかしここは察しのいい男、ジョニー・ギル。
友人の『えらい場面』に少々動揺しながら視線を右往左往させた。
「あ、ははは……俺、まずい時に来ちゃった?」
「そうだな。」
「『そうだな。』じゃないですよ!」
膝枕をし始めて15分ほど経った時。
名無しがポツリと隔壁を見上げながら呟いた。
無意識なのか、触り心地がいいからなのか。
高々と結われた艶やかな神田の髪を、指先でくるくると弄んでいる。
不快感があるわけではないので、神田も神田で好きにさせている。
そんな彼は退屈そうに欠伸をひとつ大きく零した。
「大方、居住区あたりが無茶苦茶になってんじゃねぇか?」
「ええぇ……それは嫌ですね…。」
「せめて食堂は無傷でありますように」と名無しが真剣そうな顔で口篭る。
それには神田も全面同意だ。部屋は替えがきくが、食堂は唯一無二なのだから。
「そろそろお夕飯時ですよね…。神田さんは何食べたいです?」
「天ぷら蕎麦。」
「……そんな偏食でよく筋肉がつきますね…。」
『体に悪い』『好き嫌いは良くない』など言われることは多々あったが…。
まさかの愛弟子の珍コメントに、これには神田も吹き出した。
「クッ……なんだ。筋肉欲しいのか。」
「あるに越したことはないじゃないですか!」
キラキラと目を輝かしてこちらを見るものだから、大変失礼な話だが、神田は笑いを堪えるのに少し震えた。
「……ムキムキの名無し。」
「強そうじゃないですか」
「むんっ」と、おどけて力こぶを作ってみせるが、シャツ越しに見てもわかる。
ヒョロりとした腕には残念な力こぶしか出来ていないということが。
「筋肉ダルマになったら太腿が固くなるだろ。却下だ。」
「ええぇぇ……神田さんの専用膝枕のためにある足じゃないんですよ…」
「今は俺専用だろうが。」
勿論足は足としての用途があるのだが。
今は寝心地抜群の膝枕として、バッチリ運用されている。
『神田専用』という言葉を頭の中で反芻したのか、「いや、まぁ、その、間違いじゃ、ないですけど」とゴニョゴニョと名無しが言い淀む。
困ったようにこめかみを押さえているが、いつの間にか顔は真っ赤だった。
「すぐ赤くなるな。」
「……ちょっと気にしてるんですから言うのはやめましょうよ…」
「からかい甲斐があるから別にそのままでもいいぞ」
底意地の悪い返答をすれば、名無しから恨みがましそうな視線を投げられる。
中々この悩みは根深いようだった。
「……神田さんが意地悪いからいけないんですよ。」
「俺のせいだって言うのか。」
「そうです。こっちはずっと心臓バクバクいってるんですよ。寿命が縮まります。」
「心臓の鼓動の回数はみんな決まっているんですよ」なんて蘊蓄を混じえながら名無しが恨み節を吐く。
……彼女は何か勘違いしているようだ。
「名無し。」
「なんですか。」
「お前は大きな思い違いをしてるぞ。」
「…………思い違い、ですか?」
「あぁ。」
ほら。
名無しの手を取り、心臓あたりに手を置かせる。
一度、完全に機能が止まりかけた呪符越しの、心拍音。
その呪符を『修復』したのは紛れもない彼女ということを顧みれば、何だか少し感慨深い。
マーチテンポと同じくらいか。
安静な体勢の割にはかなり早い心拍数だろう。
意味が理解出来たのか、それとも不意に胸に触れたからか。
熱湯に手を浸けたかのように慌てて引っ込め、神田の頭をゴトンと床に落とし、半身引いた。
「オイ。」
「げ。す、すみません!つい、うっかり、」
謝ってはいるものの、もう一度膝に乗せる気はないらしい。
真っ赤な顔でジリジリと逃げ出そうとする弟子を、神田は追い詰めるようににじり寄った。
「分かったか?」
「わか、わかりま、せん。」
「嘘つけ。分からねぇなら服脱いで確かめてみるか?」
「神田さん!セクハラ!セクハラですよ!」
「すぐ顔を真っ赤にしてるヤツがよく言う。エロいこと考えてるんじゃねぇのか?」
「ち、違ッ……あいたっ!」
誤解だと言わんばかりに声を荒らげる名無し。
へたり込んだまま後ろに下がるものだから、いつの間にか背後に無機質な壁が。
「ほー。だが残念だったな。」
壁に挟み、覆い被さるように追い詰めてくる神田。
背丈がある彼が膝立ちすれば、閉架のお世辞にも明るいとは言えない人口光がふわりと遮られた。
落ちる影。
掠めるように重なる唇。
あまりに一瞬の出来事で、名無しはただ目の前に広がった神田の睫毛を眺めることしか出来なかった。
「言っておくが俺はこれ以上もする気満々だからな。」
これ以上。
恋愛事情に疎い名無しでも、それくらいは分かる。
数秒間を置いて、今までにないほど頬を真紅に染め上げた。
恋愛ビギナー#04
「か…っ神田さんの、すけべ!えっち!」
「覚えとけ、男は全員スケベで変態なんだよ。」
したばた暴れ出そうとする名無しの手首を掴み、もう一度覆い被さろうとする神田。
力も体格差も圧倒的。
逃げられるわけがなかった。
嫌ではない。
嫌では、ないのだが。
心の準備が何も出来ていない。
スナック菓子感覚で口吸いされるとなると、名無しの心臓が心肺停止になりそうだった。
プシャッ
「か、神田!?ごめんよ!俺、無茶苦茶悪いタイミングで本を押し付け、ちゃっ………て………」
隔壁が開いたと同時に、懺悔の声を上げながら飛び込んでくるジョニー。
瓶底メガネの向こうの、つぶらな瞳と視線が絡む。
しかしここは察しのいい男、ジョニー・ギル。
友人の『えらい場面』に少々動揺しながら視線を右往左往させた。
「あ、ははは……俺、まずい時に来ちゃった?」
「そうだな。」
「『そうだな。』じゃないですよ!」