waltz for the moon
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屋敷の別棟は、アクマの巣窟だったらしい。
今までは『ブローカー』であるダニエルの指示に従っていたから大人しかったものの、その権威を失った今はただの魔窟にと化していた。
『energico!animato!』
アクマの声が響くと同時に廊下の窓ガラスが一斉に割れる。
《走るのが遅い》という理由で神田に担がれたダニエルが「ヒィ!」と情けない声を上げた。
「影に潜まれるのは厄介だな」
「しかも音による攻撃、ってことは無差別に殺せますしね。せめて姿が露になれば仕留めれるんですけど…」
踊るように出てくるレベル1のアクマを、露払いするようになぎ倒して行く神田。
名無しは小さく唸り、窓の外へ視線を向ける。
別棟と屋敷の本館の間には、あまり人の手が加わっていない森があった。
あそこなら周りの人間に被害が及ぶことがない。
――そして、闇から炙り出すには絶好の場所だ。
「……神田さん、ちょっとお尋ねするんですけど、」
こそりと耳打ちすれば「出来なくはない。」と頼もしい返事が返ってくる。
「よかった。じゃあ、こうしましょう。」
waltz for the moon#09
人の足型をした血痕が、点々と森へ続いている。
大きさからして女のものだろう。
走りにくそうな靴を投げ捨て、逃げていたのだから当然だ。
ガラスか、小石か。
何かを踏んで負傷したのは明らかだった。
『カカカ、逃げよウったって、そうハいかなイぞ』
狩り立てるように森へ入れば、ガサリと木々が揺れる音。
鬱蒼とした影が蔓延る森は、アクマにとって最高の狩場だ。
身を隠すのも、不意打ちをするのも、闇に包まれた森の中なら容易い。
しかも雑音のない静かな森だ。地下室ほどではないが音は通りやすいだろう。
『カカッ!そコだ!appassionato!』
茂みを音で切り刻めば、身を潜めていた名無しが木陰から飛び出した。
足の裏は血濡れている。どうやら血痕は彼女のもので間違いないようだ。
「狩りダ、狩りだ!エクソシスト狩りだ!」
狂喜に満ちた機械音。
アクマの甲高い笑いが、森に木霊した。
***
『…というわけです。反撃の隙を与えず、一気に倒してしまいましょう。』
『失敗したらお前の胴体が泣き別れだぞ。』
『その時はその時です。今は人命救助が優先ですから。』
チラリとダニエルを見遣った後、名無しが目の前に多い茂る森を見上げた。
『ま、守ってくれるというのかい?』
声を裏返しながら名無しを見上げるダニエル。
人の命を散々弄んだというのに、今は自分の命が惜しいらしい。
縋るような男の表情に、神田の眉間は深く刻まれた。
こんなヤツを安全地帯に置くために、名無しが危険な目に合う羽目になっているのだ。
彼の怒りは真っ当だった。
ダニエルを見下ろし、名無しが小さく溜息をつく。
大きく手を振りかぶり、
血色のいい頬を、大きく平手打ちした。
『勘違いしないでください。貴方には、きちんと罪を――公正な裁きを受けてもらうためです。楽に死ねると思ったら大間違いですからね』
冷ややかに……いや、冷徹に。
名無しが青年を見下ろし、キッパリと言い切った。
激憤の色を浮かべるでもなく、悲哀の色を浮かべるわけでもなく。
ただ淡々とした、静かな怒りだけがそこにあった。
ダニエルの顔色が悪くなると同時に、神田が小さく溜息を吐く。
彼女がここまで怒るのも珍しい。
自分がこの男に言うことは、もう何もない。
『俺が囮になる方がいいんじゃねぇのか?』
『それは絶対に駄目です。』
即答。
熟考するまでもない。名無しの中で答えは完全に決まっているのだから。
『あぁいう手合いのヤツは明らかに《弱そう》な女子供から殺しにかかってくるでしょう。なら私が適任です。……大丈夫ですよ、森の中を駆けずり回るのは得意ですから。』
――そう言って森の中に紛れたのは、15分程前だ。
「本当に、あの子一人で大丈夫なのか?」
「黙ってろ。」
作戦開始まで、あと5分。
ポケットの中に入れていた懐中時計を見ながら、神田はそっと息をついた。
今までは『ブローカー』であるダニエルの指示に従っていたから大人しかったものの、その権威を失った今はただの魔窟にと化していた。
『energico!animato!』
アクマの声が響くと同時に廊下の窓ガラスが一斉に割れる。
《走るのが遅い》という理由で神田に担がれたダニエルが「ヒィ!」と情けない声を上げた。
「影に潜まれるのは厄介だな」
「しかも音による攻撃、ってことは無差別に殺せますしね。せめて姿が露になれば仕留めれるんですけど…」
踊るように出てくるレベル1のアクマを、露払いするようになぎ倒して行く神田。
名無しは小さく唸り、窓の外へ視線を向ける。
別棟と屋敷の本館の間には、あまり人の手が加わっていない森があった。
あそこなら周りの人間に被害が及ぶことがない。
――そして、闇から炙り出すには絶好の場所だ。
「……神田さん、ちょっとお尋ねするんですけど、」
こそりと耳打ちすれば「出来なくはない。」と頼もしい返事が返ってくる。
「よかった。じゃあ、こうしましょう。」
waltz for the moon#09
人の足型をした血痕が、点々と森へ続いている。
大きさからして女のものだろう。
走りにくそうな靴を投げ捨て、逃げていたのだから当然だ。
ガラスか、小石か。
何かを踏んで負傷したのは明らかだった。
『カカカ、逃げよウったって、そうハいかなイぞ』
狩り立てるように森へ入れば、ガサリと木々が揺れる音。
鬱蒼とした影が蔓延る森は、アクマにとって最高の狩場だ。
身を隠すのも、不意打ちをするのも、闇に包まれた森の中なら容易い。
しかも雑音のない静かな森だ。地下室ほどではないが音は通りやすいだろう。
『カカッ!そコだ!appassionato!』
茂みを音で切り刻めば、身を潜めていた名無しが木陰から飛び出した。
足の裏は血濡れている。どうやら血痕は彼女のもので間違いないようだ。
「狩りダ、狩りだ!エクソシスト狩りだ!」
狂喜に満ちた機械音。
アクマの甲高い笑いが、森に木霊した。
***
『…というわけです。反撃の隙を与えず、一気に倒してしまいましょう。』
『失敗したらお前の胴体が泣き別れだぞ。』
『その時はその時です。今は人命救助が優先ですから。』
チラリとダニエルを見遣った後、名無しが目の前に多い茂る森を見上げた。
『ま、守ってくれるというのかい?』
声を裏返しながら名無しを見上げるダニエル。
人の命を散々弄んだというのに、今は自分の命が惜しいらしい。
縋るような男の表情に、神田の眉間は深く刻まれた。
こんなヤツを安全地帯に置くために、名無しが危険な目に合う羽目になっているのだ。
彼の怒りは真っ当だった。
ダニエルを見下ろし、名無しが小さく溜息をつく。
大きく手を振りかぶり、
血色のいい頬を、大きく平手打ちした。
『勘違いしないでください。貴方には、きちんと罪を――公正な裁きを受けてもらうためです。楽に死ねると思ったら大間違いですからね』
冷ややかに……いや、冷徹に。
名無しが青年を見下ろし、キッパリと言い切った。
激憤の色を浮かべるでもなく、悲哀の色を浮かべるわけでもなく。
ただ淡々とした、静かな怒りだけがそこにあった。
ダニエルの顔色が悪くなると同時に、神田が小さく溜息を吐く。
彼女がここまで怒るのも珍しい。
自分がこの男に言うことは、もう何もない。
『俺が囮になる方がいいんじゃねぇのか?』
『それは絶対に駄目です。』
即答。
熟考するまでもない。名無しの中で答えは完全に決まっているのだから。
『あぁいう手合いのヤツは明らかに《弱そう》な女子供から殺しにかかってくるでしょう。なら私が適任です。……大丈夫ですよ、森の中を駆けずり回るのは得意ですから。』
――そう言って森の中に紛れたのは、15分程前だ。
「本当に、あの子一人で大丈夫なのか?」
「黙ってろ。」
作戦開始まで、あと5分。
ポケットの中に入れていた懐中時計を見ながら、神田はそっと息をついた。