mirage faker
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「変な噂、ねぇ。最近だと鏡の幽霊くらいなもんかね」
「幽霊?」
「あぁ。鏡を見た人間を鏡の世界に取り込んじまって、現実の人間とすり替わる…って。」
まぁ噂は噂。ただの子供じみた作り話だろ。
クレープの屋台にて、店員の男はそう笑いながら生地を薄く伸ばすのだった。
mirage faker-02
「結局、面白半分の噂ばっかじゃねぇか」
コムイの奴。と内心毒づきながら、テイクアウトしたコーヒーを口に含んだ。
「他にはフランス人形が夜中に動き出すとか、ミサの日にセーヌ川が赤く染って見えるとか…でしたね」
ベンチで隣に座っている名無しは、先程買ったクレープを美味そうにかぶりついていた。
砂糖とバターのシンプルな味付けらしいが…よくそんな甘いものが食べられるのだと、感心するやら呆れるやら。
「やはりイノセンスの奇怪ってよりは、アクマが人間の皮を被るために攫ってる…って考える方が妥当だろうな」
正直、そっちの方がどれだけ楽か。
奇怪に振り回されるより、刀を振り回す方が性に合っている。
こういう頭脳労働はリナリーやラビに回して欲しいものだ。
「まぁ、考えても仕方ないですし。とりあえず今は奇怪探しと並行してアクマ探し、ですね」
能天気に笑う弟子を見て、俺は小さく肩を竦めた。
***
今日も今日とて、宿は繁盛。
パリの繁華街にある立地条件も相まって、客足が途絶えることがない。
夕方。
西に傾いた日差しが差し込む部屋の中は、柔らかな茜色に染まり、薄手のカーテンは金色に輝いていた。
開け放った窓からは、パリを大きく横断するセーヌ川が見える。
眩く光を放つ水面はそれだけでも一枚の絵画のように見えた。
僅かな休憩の合間、自室のドレッサーで化粧を直す。
鏡に映った部屋の隅には、使わなくなって暫く経った旅行鞄がポツリ。
(旅行、暫く行ってないわね)
宿の女主人をし始めてからと言うものの、休む暇がない。
あれを最後に使ったのはいつだったか。
宿の主人――旦那と新婚旅行に行ったのが、最後だった気がする。
「仕事でもいいから、行ってみたいわねぇ。旅行」
思い出すのは今朝やってきた東洋人の男女。
黒いコートに身を包んだ青年と少女。
にこにこと愛想のいい女の子は可愛らしく、仏頂面の青年は驚く程に顔が整っていたのが印象的だ。
「…ま、仕事があるから旅行なんて無理かな」
独り言でそっと呟き、白粉の蓋をそっとしめる。
《なら、壊してしまえばいいじゃない》
鏡の中の『私』が、そう言って笑った。
「幽霊?」
「あぁ。鏡を見た人間を鏡の世界に取り込んじまって、現実の人間とすり替わる…って。」
まぁ噂は噂。ただの子供じみた作り話だろ。
クレープの屋台にて、店員の男はそう笑いながら生地を薄く伸ばすのだった。
mirage faker-02
「結局、面白半分の噂ばっかじゃねぇか」
コムイの奴。と内心毒づきながら、テイクアウトしたコーヒーを口に含んだ。
「他にはフランス人形が夜中に動き出すとか、ミサの日にセーヌ川が赤く染って見えるとか…でしたね」
ベンチで隣に座っている名無しは、先程買ったクレープを美味そうにかぶりついていた。
砂糖とバターのシンプルな味付けらしいが…よくそんな甘いものが食べられるのだと、感心するやら呆れるやら。
「やはりイノセンスの奇怪ってよりは、アクマが人間の皮を被るために攫ってる…って考える方が妥当だろうな」
正直、そっちの方がどれだけ楽か。
奇怪に振り回されるより、刀を振り回す方が性に合っている。
こういう頭脳労働はリナリーやラビに回して欲しいものだ。
「まぁ、考えても仕方ないですし。とりあえず今は奇怪探しと並行してアクマ探し、ですね」
能天気に笑う弟子を見て、俺は小さく肩を竦めた。
***
今日も今日とて、宿は繁盛。
パリの繁華街にある立地条件も相まって、客足が途絶えることがない。
夕方。
西に傾いた日差しが差し込む部屋の中は、柔らかな茜色に染まり、薄手のカーテンは金色に輝いていた。
開け放った窓からは、パリを大きく横断するセーヌ川が見える。
眩く光を放つ水面はそれだけでも一枚の絵画のように見えた。
僅かな休憩の合間、自室のドレッサーで化粧を直す。
鏡に映った部屋の隅には、使わなくなって暫く経った旅行鞄がポツリ。
(旅行、暫く行ってないわね)
宿の女主人をし始めてからと言うものの、休む暇がない。
あれを最後に使ったのはいつだったか。
宿の主人――旦那と新婚旅行に行ったのが、最後だった気がする。
「仕事でもいいから、行ってみたいわねぇ。旅行」
思い出すのは今朝やってきた東洋人の男女。
黒いコートに身を包んだ青年と少女。
にこにこと愛想のいい女の子は可愛らしく、仏頂面の青年は驚く程に顔が整っていたのが印象的だ。
「…ま、仕事があるから旅行なんて無理かな」
独り言でそっと呟き、白粉の蓋をそっとしめる。
《なら、壊してしまえばいいじゃない》
鏡の中の『私』が、そう言って笑った。