waltz for the moon
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「こういう場は初めてですか?」
「は、はい。すみません、下手くそですね…」
「いえ。何事も初めてはあるものです。あまり緊張なされないでください」
指導をしてくれたリンクに知られたら、きっと大目玉だ。
『あれだけ教えたのに貴女は』とネチネチ言われること間違いなしだ。
…仕方ないだろう。相手は先程知り合ったばかりの、初対面の人間なのだ。
足を踏まないようにするだけでも正直精一杯である。
「あの、踊る必要が?」
「こうしていれば話し声はお互いにしか聞こえないでしょう?」
ホールに響く、ワルツの軽やかな曲。周りの声などかき消してしまう程に反響していた。
腰を引き寄せられ、身体が密着する。
確かにこれなら話し声など周りに聞こえない。聞こえないが――
(あれ?さっきより、緊張しない。)
というより存外心拍数が落ち着いている。
慣れたせいか、それとも別の理由か。
…先程神田と踊った時は心臓が暴発するかと思った。
顔に出ていなかっただろうか。
心臓の音が伝わっていないだろうか。
変な顔をされなかったので、恐らく大丈夫だとは思うが。
足を踏みそうで緊張した。それは嘘ではない。
でも本当は――
waltz for the moon#07
「……最近父が夜な夜な出掛けては、深夜に帰ってくるのです。」
潜めた声で、そっと事件の概要を話し出すダニエル。
別のことを考えていた思考を切り替え、名無しは視線を目の前の青年に向けた。
――最初は仕事かと思っていた。
しかし後から尾けてみれば、……なんと恐ろしい。
少年を攫い、薬を嗅がせて眠らせ…
そして――皮を丁寧に剥ぎ、人間の剥製を作っていた。
狂気じみた光景に思わず、目眩がしたそうだ。
「屋敷の別棟の地下に、現場があるんです。……父の罪を、バチカンに洗いざらい報告したい。ついて来て頂けませんか?」
***
ダニエルに案内された場所は、薄暗い屋敷の地下だった。
ぽつりぽつりと等間隔に飾られた燭台もここにはなく、暗がりを照らすものは手元のランタンのみだ。
月明かりすら届かない、地下へと続く階段。
ほのかに香るこの匂いは――
(…薬品?)
科学班で似たような香りを嗅いだことがある。
人工的で、少し鼻につく刺激臭。
これには思わず名無しも眉を顰めた。
「――ここです。」
案内されたのは、隠し部屋だ。
何の変哲もない壁を強く押せば、まるでカラクリ屋敷のように出入口が現れた。
…薬品の匂いは、ここから漏れていたのだろう。
手術台。
メスや鋏など外科の道具。
薬品瓶の数々。
そして、ガラスケースにて丁寧に飾られた、人間。
年齢は報告書に上がっているものと一致している。
――見た目は生きているように見える人間なのだから、大した技術だ。
…褒めていいものなのか、正直分からないが。
何せ、数が尋常ではない。
これがマネキンなら圧巻の一言で済むのだが、そうも言っていられない。
剥製とは体のいい表現だ。
実際には死体であり、行為はただの殺人だ。
「……警察には?」
「言えませんでした。…父の傍らには異形のバケモノがいたんです。この世のものとは思えず、恐ろしくて恐ろしくて…」
口元を手で押え、怯えたように首を小さく振るダニエル。
――しかし、その言葉には違和感があった。
もし、もしもだ。
もし。その『異形のバケモノ』が、アクマだったとすれば。
「待ってください。貴方は、その現場を見ていたんですよね?なら、なぜ化け物に見つからなかったんですか?」
アクマが、ただの人間を見逃すはずがない。
空腹に似た強い殺人衝動に駆られる存在だ。
アクマ側の協力者である『ブローカー』なら、その牙から間逃れることが出来るだろうが――
「……まさか。あなたが?」
「――あぁ。キミは中々賢い子なんだね」
満足そうに、ダニエルが笑う。
窓もない。出入口も一つしかない。
彼が足を大きく踏み鳴らせば、超音波のような音が部屋中に響き渡った。
脳髄を揺らす『音』。
催眠効果でもあるのか目の前がぐらりと大きく揺れた。
「ああ、あぁ!手に入った!新しい、僕のコレクション!」
狂喜に満ちた声が反響する。
薄れていく意識の中、名無しは肩から滑り落ちたジャケットを小さく握りしめた。
「は、はい。すみません、下手くそですね…」
「いえ。何事も初めてはあるものです。あまり緊張なされないでください」
指導をしてくれたリンクに知られたら、きっと大目玉だ。
『あれだけ教えたのに貴女は』とネチネチ言われること間違いなしだ。
…仕方ないだろう。相手は先程知り合ったばかりの、初対面の人間なのだ。
足を踏まないようにするだけでも正直精一杯である。
「あの、踊る必要が?」
「こうしていれば話し声はお互いにしか聞こえないでしょう?」
ホールに響く、ワルツの軽やかな曲。周りの声などかき消してしまう程に反響していた。
腰を引き寄せられ、身体が密着する。
確かにこれなら話し声など周りに聞こえない。聞こえないが――
(あれ?さっきより、緊張しない。)
というより存外心拍数が落ち着いている。
慣れたせいか、それとも別の理由か。
…先程神田と踊った時は心臓が暴発するかと思った。
顔に出ていなかっただろうか。
心臓の音が伝わっていないだろうか。
変な顔をされなかったので、恐らく大丈夫だとは思うが。
足を踏みそうで緊張した。それは嘘ではない。
でも本当は――
waltz for the moon#07
「……最近父が夜な夜な出掛けては、深夜に帰ってくるのです。」
潜めた声で、そっと事件の概要を話し出すダニエル。
別のことを考えていた思考を切り替え、名無しは視線を目の前の青年に向けた。
――最初は仕事かと思っていた。
しかし後から尾けてみれば、……なんと恐ろしい。
少年を攫い、薬を嗅がせて眠らせ…
そして――皮を丁寧に剥ぎ、人間の剥製を作っていた。
狂気じみた光景に思わず、目眩がしたそうだ。
「屋敷の別棟の地下に、現場があるんです。……父の罪を、バチカンに洗いざらい報告したい。ついて来て頂けませんか?」
***
ダニエルに案内された場所は、薄暗い屋敷の地下だった。
ぽつりぽつりと等間隔に飾られた燭台もここにはなく、暗がりを照らすものは手元のランタンのみだ。
月明かりすら届かない、地下へと続く階段。
ほのかに香るこの匂いは――
(…薬品?)
科学班で似たような香りを嗅いだことがある。
人工的で、少し鼻につく刺激臭。
これには思わず名無しも眉を顰めた。
「――ここです。」
案内されたのは、隠し部屋だ。
何の変哲もない壁を強く押せば、まるでカラクリ屋敷のように出入口が現れた。
…薬品の匂いは、ここから漏れていたのだろう。
手術台。
メスや鋏など外科の道具。
薬品瓶の数々。
そして、ガラスケースにて丁寧に飾られた、人間。
年齢は報告書に上がっているものと一致している。
――見た目は生きているように見える人間なのだから、大した技術だ。
…褒めていいものなのか、正直分からないが。
何せ、数が尋常ではない。
これがマネキンなら圧巻の一言で済むのだが、そうも言っていられない。
剥製とは体のいい表現だ。
実際には死体であり、行為はただの殺人だ。
「……警察には?」
「言えませんでした。…父の傍らには異形のバケモノがいたんです。この世のものとは思えず、恐ろしくて恐ろしくて…」
口元を手で押え、怯えたように首を小さく振るダニエル。
――しかし、その言葉には違和感があった。
もし、もしもだ。
もし。その『異形のバケモノ』が、アクマだったとすれば。
「待ってください。貴方は、その現場を見ていたんですよね?なら、なぜ化け物に見つからなかったんですか?」
アクマが、ただの人間を見逃すはずがない。
空腹に似た強い殺人衝動に駆られる存在だ。
アクマ側の協力者である『ブローカー』なら、その牙から間逃れることが出来るだろうが――
「……まさか。あなたが?」
「――あぁ。キミは中々賢い子なんだね」
満足そうに、ダニエルが笑う。
窓もない。出入口も一つしかない。
彼が足を大きく踏み鳴らせば、超音波のような音が部屋中に響き渡った。
脳髄を揺らす『音』。
催眠効果でもあるのか目の前がぐらりと大きく揺れた。
「ああ、あぁ!手に入った!新しい、僕のコレクション!」
狂喜に満ちた声が反響する。
薄れていく意識の中、名無しは肩から滑り落ちたジャケットを小さく握りしめた。