waltz for the moon
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
――少女や少年が大人になろうとする瞬間は、何度見てもいいものだ。
少年が青年に。
少女が女性に。
曖昧な年齢だからこそ味わい深いものがある。
「……まるで東洋の宝石だなぁ。」
長髪の男の隣で、佇む少女。
あぁ、欲しい。
紺色のドレスを上品に纏い、背筋をしゃんと伸ばした、黒髪の娘。
まだあどけなさを残す顔つきとは裏腹に、身体は華奢な成人女性のそれだった。
青い果実が、赤く色づこうとする時。
蛹の皮を脱ぐ時の、蝶のような。
あの変わろうとする瞬間が、この世で一番美しく、えも言えぬ気分にさせられる。
だから、僕は思うんだ。
その瞬間が、永遠になればいいのに、と。
「あぁ、どんな声で啼くんだろうね」
waltz for the moon#04
「お会いしとうございました。」
主賓者である、ハンス・フォン・アルブレヒト。
人の良さそうな初老の男性は、善意の塊であるような印象だった。
節くれだつ手は働き者の証であり、彼が数々の患者を救ってきた何物にも代えられない勲章だ。
「アルブレヒト伯爵。ご挨拶が遅れて申し訳ない。バチカンから参りました、神田ユウと申します。…この度はご丁寧にお招き頂き、光栄の極みでございます。」
「いや、バチカンからの使者ならもっと丁重にもてなすべきでしたな。賑やかしい場で申し訳ない。
……おっと、こちらもご挨拶を。ハンス・フォン・アルブレヒトと申します。教皇様はお変わりないようで?」
「えぇ。」
相変わらずの仏頂面であるものの、聞いたことがない神田の敬語に正直面食らう。
流暢な世辞まで述べている。
いや、それ以前に敬語を話せたのか。
元帥だからそれくらい当たり前、と言いたいところだが、そこそこ四六時中いる名無しは聞いたことがなかったので……失礼な話だが、心の底から驚いた。
……ここら辺はリナリーにしばかれながら体得した言葉遣いなのだが、名無しは知る由もないだろう。
「父さん。」
「おぉ、ダニエル。……紹介しましょう。息子のダニエルです。」
「ダニエル・フォン・アルブレヒトと申します。以後、お見知り置きを。」
「息子も医者でしてね。外科の技術に関しては私よりも抜きん出ておりまして…。いやはや、私なんかあっという間に抜かされてしまいそうです」
息子を誇らしげに褒めるハンス。
明るい鷲色の髪は、確かに癖毛までそっくりだ。
きっと年齢を重ねれば父親によく似た容姿になるのだろう。
父親に似て人の良さそうな息子・ダニエルは、グリーンの瞳を柔らかく細めて名無しを見遣る。
それが何だか少しだけ居心地が悪く、名無しは小さく会釈して視線を逸らした。
「……少しお訊ねしたい。バチカンの長官がこの地域に頻発している失踪事件に関して憂慮されておりまして。何か伯爵の方でご存知でしたらご報告頂きたい」
「その件ですか…。私の方でも私兵を派遣して調べてはいるのですが、足取りがつかなくて。……被害者の中には私が診た患者もいます。まだ、歳若い子だったのに……」
「…心中お察し致します。」
かなりの数の犠牲者が出ているというのに、足取りがつかない。
探索部隊がいくら探しても手掛かりが掴めないどころか、歳若い探索部隊も被害が及びはじめていた。
『反撃する術がない探索部隊が任務にあたっても埒が明かない』ということで、今回任務が回ってきたのだ。
つまり、有り体に言えば、名無しは『囮』である。
といっても手掛かりと言えるものは、犯行現場がこの一帯の地域だということ。
そして13歳から20歳くらいの、思春期である少年少女。
だからこそ最初は『家出』だと囁かれていた。初動が遅くなった理由はここにある。
事件化した要因は――捨てられていたのだ。
被害者の、皮だけが。
まるで脱皮したあとのような、血濡れた人の皮が。
「この痛ましい事件は何としても止めねばなりません。伯爵の位にかけて、私も協力すると誓いましょう。」
「助かります。何かあれば、連絡を。」
そう言葉を交わし、ハンスとダニエルの二人と別れる。
人混みに再び紛れ、名無しが恐る恐る口を開いた。
「……神田さん…敬語ペラペラでしたね…。あんなに丁寧に喋られてるの、初めて見ました。」
「……………………場くらい弁える。」
「あ、もしかして怒ってますか?違いますよ、馬鹿にしてる訳じゃなくてですね。
ほら神田さんって『師匠』って感じはしますけど、あまり元帥っぽい一面を見たことがなかったな、と思って。」
「やっぱり神田さんは凄いです」と言いながら、クスクス笑う名無し。
馬鹿にしているわけでもなく、面白がっているわけでもない。
ただ意外だった。そして少し驚いた。
そういうことだろう。
あまりにも表裏がなさすぎて怒る気にもなれない。
「じゃ、少しは敬え」
「…………呼び方、神田元帥にしましょうか?」
冗談半分で注文をつければ、真剣に考えた末バカ丁寧に提案してくる名無し。
本人は至って大真面目なのだが、神田は溜息をひとつついて「いや、やっぱりいい。今ので十分だ」と答えるのであった。
少年が青年に。
少女が女性に。
曖昧な年齢だからこそ味わい深いものがある。
「……まるで東洋の宝石だなぁ。」
長髪の男の隣で、佇む少女。
あぁ、欲しい。
紺色のドレスを上品に纏い、背筋をしゃんと伸ばした、黒髪の娘。
まだあどけなさを残す顔つきとは裏腹に、身体は華奢な成人女性のそれだった。
青い果実が、赤く色づこうとする時。
蛹の皮を脱ぐ時の、蝶のような。
あの変わろうとする瞬間が、この世で一番美しく、えも言えぬ気分にさせられる。
だから、僕は思うんだ。
その瞬間が、永遠になればいいのに、と。
「あぁ、どんな声で啼くんだろうね」
waltz for the moon#04
「お会いしとうございました。」
主賓者である、ハンス・フォン・アルブレヒト。
人の良さそうな初老の男性は、善意の塊であるような印象だった。
節くれだつ手は働き者の証であり、彼が数々の患者を救ってきた何物にも代えられない勲章だ。
「アルブレヒト伯爵。ご挨拶が遅れて申し訳ない。バチカンから参りました、神田ユウと申します。…この度はご丁寧にお招き頂き、光栄の極みでございます。」
「いや、バチカンからの使者ならもっと丁重にもてなすべきでしたな。賑やかしい場で申し訳ない。
……おっと、こちらもご挨拶を。ハンス・フォン・アルブレヒトと申します。教皇様はお変わりないようで?」
「えぇ。」
相変わらずの仏頂面であるものの、聞いたことがない神田の敬語に正直面食らう。
流暢な世辞まで述べている。
いや、それ以前に敬語を話せたのか。
元帥だからそれくらい当たり前、と言いたいところだが、そこそこ四六時中いる名無しは聞いたことがなかったので……失礼な話だが、心の底から驚いた。
……ここら辺はリナリーにしばかれながら体得した言葉遣いなのだが、名無しは知る由もないだろう。
「父さん。」
「おぉ、ダニエル。……紹介しましょう。息子のダニエルです。」
「ダニエル・フォン・アルブレヒトと申します。以後、お見知り置きを。」
「息子も医者でしてね。外科の技術に関しては私よりも抜きん出ておりまして…。いやはや、私なんかあっという間に抜かされてしまいそうです」
息子を誇らしげに褒めるハンス。
明るい鷲色の髪は、確かに癖毛までそっくりだ。
きっと年齢を重ねれば父親によく似た容姿になるのだろう。
父親に似て人の良さそうな息子・ダニエルは、グリーンの瞳を柔らかく細めて名無しを見遣る。
それが何だか少しだけ居心地が悪く、名無しは小さく会釈して視線を逸らした。
「……少しお訊ねしたい。バチカンの長官がこの地域に頻発している失踪事件に関して憂慮されておりまして。何か伯爵の方でご存知でしたらご報告頂きたい」
「その件ですか…。私の方でも私兵を派遣して調べてはいるのですが、足取りがつかなくて。……被害者の中には私が診た患者もいます。まだ、歳若い子だったのに……」
「…心中お察し致します。」
かなりの数の犠牲者が出ているというのに、足取りがつかない。
探索部隊がいくら探しても手掛かりが掴めないどころか、歳若い探索部隊も被害が及びはじめていた。
『反撃する術がない探索部隊が任務にあたっても埒が明かない』ということで、今回任務が回ってきたのだ。
つまり、有り体に言えば、名無しは『囮』である。
といっても手掛かりと言えるものは、犯行現場がこの一帯の地域だということ。
そして13歳から20歳くらいの、思春期である少年少女。
だからこそ最初は『家出』だと囁かれていた。初動が遅くなった理由はここにある。
事件化した要因は――捨てられていたのだ。
被害者の、皮だけが。
まるで脱皮したあとのような、血濡れた人の皮が。
「この痛ましい事件は何としても止めねばなりません。伯爵の位にかけて、私も協力すると誓いましょう。」
「助かります。何かあれば、連絡を。」
そう言葉を交わし、ハンスとダニエルの二人と別れる。
人混みに再び紛れ、名無しが恐る恐る口を開いた。
「……神田さん…敬語ペラペラでしたね…。あんなに丁寧に喋られてるの、初めて見ました。」
「……………………場くらい弁える。」
「あ、もしかして怒ってますか?違いますよ、馬鹿にしてる訳じゃなくてですね。
ほら神田さんって『師匠』って感じはしますけど、あまり元帥っぽい一面を見たことがなかったな、と思って。」
「やっぱり神田さんは凄いです」と言いながら、クスクス笑う名無し。
馬鹿にしているわけでもなく、面白がっているわけでもない。
ただ意外だった。そして少し驚いた。
そういうことだろう。
あまりにも表裏がなさすぎて怒る気にもなれない。
「じゃ、少しは敬え」
「…………呼び方、神田元帥にしましょうか?」
冗談半分で注文をつければ、真剣に考えた末バカ丁寧に提案してくる名無し。
本人は至って大真面目なのだが、神田は溜息をひとつついて「いや、やっぱりいい。今ので十分だ」と答えるのであった。