waltz for the moon
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煌びやかなシャンデリア。
驚く程に高い天井。
バルコニーからホールへ伸びる階段には、足音を吸い込んでしまいそうなくらい、毛足の長い絨毯が敷かれていた。
シャンパン片手に談笑をする貴族達が集まっている様は、まさに名無しからすれば異世界そのものだった。
「……行くぞ。」
「は、はい」
小声で、ヒソヒソと。
出された腕にそっと手を添え、名無しは大きく息を吸い込んだ。
(恋人の、役。そう、フリをするだけ。大丈夫。)
平常心。平常心だ。
そう、これは任務なのだから。
waltz for the moon#03
ハンス・フォン・アルブレヒト。
彼は、優秀な医者だった。
ドイツにて流行った疫病の治療に貢献し、沢山の生命を救った彼は爵位を賜ることとなった。
人徳者。
医者の鑑。
医療の救世主。
パーティー会場で聞き耳を立てていれば、嫌でも主賓者の話題が届く。
時々やっかみのような話は聞こえてくるものの、殆どが素晴らしい評価をする内容だった。
「……ルベリエのヤツ。予想が大ハズレなんじゃねぇか?」
「でもこの人の領地だけで失踪事件が起きているなら、明らかに怪しいはずなんですけどね…」
もしかしたら犯人の目星自体がフェイクの可能性がある。
まだ奇怪と関わりがあると断定するには、要素が少なすぎた。
人でごった返した会場は、気をつけなければ人と肩がぶつかってしまいそうだ。
が、周りに注意を払っていても、やはり当たってしまう時は当たってしまう。
「あっ、す、すみません」
「こちらこそ、失れ………」
名無しと肩が当たってしまった男が、ぽやりと惚ける。
ペコペコと申し訳なさそうに頭を下げる彼女には見えていないのだろうが。
が、その一部始終を見ていた神田。
眉間のシワが三割増だ。
蛇すら睨み殺せそうな眼光に男はすくみ上がり、隣にいた女性には腕を抓られていた。可哀想に。
(……目立ってるじゃねぇか。やり過ぎだろ、リナ。)
会場の絶対数の中で、確かに東洋人自体珍しい。
だからと言って普通は目を引くくらいで釘付けにはならない。
それは一重にリナリーの頑張りと、発掘されてしまった原石のせいだろう。
「もっとくっついとけ。」
「す、すみません。」
腕を組んではいるものの、他の連れ合いに比べると些か離れている。
肩を抱き寄せ名無しと密着すれば、普段つけない淡い香水の匂いと、いつものシャンプーの匂いがした。
……これ俺の理性が保つのか?
***
近い。
距離が、近い。
周りの男女のカップルや連れ合いは、どうしてあぁも平然と寄り添えるのか。
顔が赤くなっていないだろうか。
耳がやけに熱い気がする。
ちらりと視線を上げれば、普段では見ることが叶わない神田の正装が目に入る。
控えめに言ってかっこいい。
それは自覚したくない感情を抜きにしても、断言出来る。
顔がいいとは常日頃から思っていたが、こういう場の正装は非常に目を引く。
会場にいる女性や、男性ですら見惚れる程の容姿なのだ。無理もないだろう。
(……釣り合わないなぁ)
正直、少し居た堪れない。
それは周りの視線も理由に含まれるのだが、一番は名無し自身の問題だ。
認めたくない感情と任務の建前を、上手にコントロールするにはまだ若い。
しかも慣れない場であるなら、尚更。
――いや、でもこれは仕事だ。
人が失踪しているのだ。
落ち込んでいる暇も、浮つく暇もないのだから。
大きく一度、息を吸い込み、真っ直ぐと視線を前へ上げる。
気をしっかり持たねば。
奇怪が原因とは、まだ決まっていないのだから。
驚く程に高い天井。
バルコニーからホールへ伸びる階段には、足音を吸い込んでしまいそうなくらい、毛足の長い絨毯が敷かれていた。
シャンパン片手に談笑をする貴族達が集まっている様は、まさに名無しからすれば異世界そのものだった。
「……行くぞ。」
「は、はい」
小声で、ヒソヒソと。
出された腕にそっと手を添え、名無しは大きく息を吸い込んだ。
(恋人の、役。そう、フリをするだけ。大丈夫。)
平常心。平常心だ。
そう、これは任務なのだから。
waltz for the moon#03
ハンス・フォン・アルブレヒト。
彼は、優秀な医者だった。
ドイツにて流行った疫病の治療に貢献し、沢山の生命を救った彼は爵位を賜ることとなった。
人徳者。
医者の鑑。
医療の救世主。
パーティー会場で聞き耳を立てていれば、嫌でも主賓者の話題が届く。
時々やっかみのような話は聞こえてくるものの、殆どが素晴らしい評価をする内容だった。
「……ルベリエのヤツ。予想が大ハズレなんじゃねぇか?」
「でもこの人の領地だけで失踪事件が起きているなら、明らかに怪しいはずなんですけどね…」
もしかしたら犯人の目星自体がフェイクの可能性がある。
まだ奇怪と関わりがあると断定するには、要素が少なすぎた。
人でごった返した会場は、気をつけなければ人と肩がぶつかってしまいそうだ。
が、周りに注意を払っていても、やはり当たってしまう時は当たってしまう。
「あっ、す、すみません」
「こちらこそ、失れ………」
名無しと肩が当たってしまった男が、ぽやりと惚ける。
ペコペコと申し訳なさそうに頭を下げる彼女には見えていないのだろうが。
が、その一部始終を見ていた神田。
眉間のシワが三割増だ。
蛇すら睨み殺せそうな眼光に男はすくみ上がり、隣にいた女性には腕を抓られていた。可哀想に。
(……目立ってるじゃねぇか。やり過ぎだろ、リナ。)
会場の絶対数の中で、確かに東洋人自体珍しい。
だからと言って普通は目を引くくらいで釘付けにはならない。
それは一重にリナリーの頑張りと、発掘されてしまった原石のせいだろう。
「もっとくっついとけ。」
「す、すみません。」
腕を組んではいるものの、他の連れ合いに比べると些か離れている。
肩を抱き寄せ名無しと密着すれば、普段つけない淡い香水の匂いと、いつものシャンプーの匂いがした。
……これ俺の理性が保つのか?
***
近い。
距離が、近い。
周りの男女のカップルや連れ合いは、どうしてあぁも平然と寄り添えるのか。
顔が赤くなっていないだろうか。
耳がやけに熱い気がする。
ちらりと視線を上げれば、普段では見ることが叶わない神田の正装が目に入る。
控えめに言ってかっこいい。
それは自覚したくない感情を抜きにしても、断言出来る。
顔がいいとは常日頃から思っていたが、こういう場の正装は非常に目を引く。
会場にいる女性や、男性ですら見惚れる程の容姿なのだ。無理もないだろう。
(……釣り合わないなぁ)
正直、少し居た堪れない。
それは周りの視線も理由に含まれるのだが、一番は名無し自身の問題だ。
認めたくない感情と任務の建前を、上手にコントロールするにはまだ若い。
しかも慣れない場であるなら、尚更。
――いや、でもこれは仕事だ。
人が失踪しているのだ。
落ち込んでいる暇も、浮つく暇もないのだから。
大きく一度、息を吸い込み、真っ直ぐと視線を前へ上げる。
気をしっかり持たねば。
奇怪が原因とは、まだ決まっていないのだから。