waltz for the moon
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ドイツ・ミュンヘン。
歴史的建造物が多く残しつつも、ドイツで三番目に大きな都市である。
人が行き交うマリエン広場を抜け、馬車が通る。
車内には、窓の外をやたらと眺める青年と、緊張した面持ちの少女。
「元帥、着きました。」
「あぁ。」
声を掛ける御者に対して、短く、ぶっきらぼうに返事をする神田。
大きく息を吸って、ゆっくり一度吐いた。
「お手を、どうぞ。足元に気をつけて」
言い慣れない言葉。
慣れない仕草。
彼女の手を引くことは珍しくはないのだが、状況が状況だ。
嫌という程リナリーに叩き込まれたエスコートのマナーが、ちゃんと形になっているのは『さすが鬼コーチ』というべきか。
「…………………あ、ありがとう、ございましゅ」
緊張し過ぎて、舌を噛む名無し。
どうやらこちらの方が雲行きが怪しいようだった。
waltz for the moon#02
遡ること、数時間前。
屋敷があるミュンヘン近くまで、方舟で移動する手筈になっている。
なので身支度は教団ですることになっているのだが――
「やだ…さすがユウ…。黙っていればイケメン度、三割増さね。黙っていれば。」
任務から戻ってきて、ラフな格好で眺めるラビ。
「馬子にも衣装ですね。」
褒めているのか貶しているのか。辛辣な言葉を掛けるのはアレンだった。
「バカコンビ、黙ってろ。」
「ユウには馬鹿って言われたくないさ〜。リナリーに散々しごかれたくせに。」
「僕が代わってもよかったんだけどね。ね?神田。」
「良くねぇに決まってるだろ、アホモヤシ。」
質のいい黒のタキシードに、キッチリ結ばれたネクタイ。
いつもは高々と結われている髪は、今日は襟足辺りでしっかりと纏められている。
十代の頃だと女装もいけたであろうに。
残念ながら成人してしまった彼はすっかり男の顔になってしまったので、少し無理があるのだが。
「でもユウ。イノセンスは目立つだろ?どうするんさ〜」
「モヤシが出す。」「僕が方舟のゲートを通して渡すのでご安心を。」
見事にハモる神田とアレン。
ラビが内心『四次元ポケットさ…』とボヤいたのは内緒である。
「……しっかしお姫様がまださね?」
「今頃リナリーがはしゃいでるんでしょ」
可愛い妹分を、任務という大義名分で思い切り着飾れるのだ。はしゃぐのも無理はない。
「り、リナリー、やっぱり肩とか背中が出過ぎじゃない?」
「何言ってるの。イブニングドレスなんだから普通よ。こんなに可愛く仕上がったんだから、着替えるのはなしだからね。」
コツコツと慣れていなさそうなヒールの音が近づいてくる。
リナリーに手を引かれやってきたのは、
「化けるもんさね…」
「綺麗ですよ、名無し!」
あんぐり惚けるラビに、手放しで褒めるアレン。
名無しからすれば、まさか神田以外にもいるとは思わず、反射的にリナリーの後ろに隠れてしまった。
「何隠れてるのよ、名無し。」
「こ、こんなに見世物になるのは聞いてないよ!?」
「パーティーに出るなら皆見世物みたいなものよ。ほら。」
『はいどうぞ』と言わんばかりに神田の前に突き出される名無し。
ショートヘアでもきちんとしたまとめ髪にされ、フォーマルな装いになっている。
紺のイブニングドレスはホルターネックではあるものの、名無し本人が慌てていたように肩と背中が大胆に開いている。
シンプルなシルエットながらも繊細な装飾を施されたドレスは、流石リナリーが選んだだけあってセンスがいい。
ドレスに合わせた煌びやかなアクセサリーも、まさに『夜会』といった装いだった。
――端的に言おう。
ころころと普段子犬のように笑う少女が、服装ひとつで華やかな女に化けているのだから、本当に女とは恐ろしい生き物だ。
「――名無し、にあ」
「か、神田さん!早く行きましょう!時間に遅れたら大変です!」
珍しく。
そう、珍しく神田が口走ろうとした褒め言葉をかき消すように、真っ赤な顔をした名無しが方舟のゲートへズンズン歩いていった。
中途半端に空いた口が塞がらない神田と、笑いを堪えるのに必死な男二人。
「ほら、早くエスコートしなさい」と神田の背中を軽く押すリナリー。
前途多難な潜入任務の、はじまりである。
歴史的建造物が多く残しつつも、ドイツで三番目に大きな都市である。
人が行き交うマリエン広場を抜け、馬車が通る。
車内には、窓の外をやたらと眺める青年と、緊張した面持ちの少女。
「元帥、着きました。」
「あぁ。」
声を掛ける御者に対して、短く、ぶっきらぼうに返事をする神田。
大きく息を吸って、ゆっくり一度吐いた。
「お手を、どうぞ。足元に気をつけて」
言い慣れない言葉。
慣れない仕草。
彼女の手を引くことは珍しくはないのだが、状況が状況だ。
嫌という程リナリーに叩き込まれたエスコートのマナーが、ちゃんと形になっているのは『さすが鬼コーチ』というべきか。
「…………………あ、ありがとう、ございましゅ」
緊張し過ぎて、舌を噛む名無し。
どうやらこちらの方が雲行きが怪しいようだった。
waltz for the moon#02
遡ること、数時間前。
屋敷があるミュンヘン近くまで、方舟で移動する手筈になっている。
なので身支度は教団ですることになっているのだが――
「やだ…さすがユウ…。黙っていればイケメン度、三割増さね。黙っていれば。」
任務から戻ってきて、ラフな格好で眺めるラビ。
「馬子にも衣装ですね。」
褒めているのか貶しているのか。辛辣な言葉を掛けるのはアレンだった。
「バカコンビ、黙ってろ。」
「ユウには馬鹿って言われたくないさ〜。リナリーに散々しごかれたくせに。」
「僕が代わってもよかったんだけどね。ね?神田。」
「良くねぇに決まってるだろ、アホモヤシ。」
質のいい黒のタキシードに、キッチリ結ばれたネクタイ。
いつもは高々と結われている髪は、今日は襟足辺りでしっかりと纏められている。
十代の頃だと女装もいけたであろうに。
残念ながら成人してしまった彼はすっかり男の顔になってしまったので、少し無理があるのだが。
「でもユウ。イノセンスは目立つだろ?どうするんさ〜」
「モヤシが出す。」「僕が方舟のゲートを通して渡すのでご安心を。」
見事にハモる神田とアレン。
ラビが内心『四次元ポケットさ…』とボヤいたのは内緒である。
「……しっかしお姫様がまださね?」
「今頃リナリーがはしゃいでるんでしょ」
可愛い妹分を、任務という大義名分で思い切り着飾れるのだ。はしゃぐのも無理はない。
「り、リナリー、やっぱり肩とか背中が出過ぎじゃない?」
「何言ってるの。イブニングドレスなんだから普通よ。こんなに可愛く仕上がったんだから、着替えるのはなしだからね。」
コツコツと慣れていなさそうなヒールの音が近づいてくる。
リナリーに手を引かれやってきたのは、
「化けるもんさね…」
「綺麗ですよ、名無し!」
あんぐり惚けるラビに、手放しで褒めるアレン。
名無しからすれば、まさか神田以外にもいるとは思わず、反射的にリナリーの後ろに隠れてしまった。
「何隠れてるのよ、名無し。」
「こ、こんなに見世物になるのは聞いてないよ!?」
「パーティーに出るなら皆見世物みたいなものよ。ほら。」
『はいどうぞ』と言わんばかりに神田の前に突き出される名無し。
ショートヘアでもきちんとしたまとめ髪にされ、フォーマルな装いになっている。
紺のイブニングドレスはホルターネックではあるものの、名無し本人が慌てていたように肩と背中が大胆に開いている。
シンプルなシルエットながらも繊細な装飾を施されたドレスは、流石リナリーが選んだだけあってセンスがいい。
ドレスに合わせた煌びやかなアクセサリーも、まさに『夜会』といった装いだった。
――端的に言おう。
ころころと普段子犬のように笑う少女が、服装ひとつで華やかな女に化けているのだから、本当に女とは恐ろしい生き物だ。
「――名無し、にあ」
「か、神田さん!早く行きましょう!時間に遅れたら大変です!」
珍しく。
そう、珍しく神田が口走ろうとした褒め言葉をかき消すように、真っ赤な顔をした名無しが方舟のゲートへズンズン歩いていった。
中途半端に空いた口が塞がらない神田と、笑いを堪えるのに必死な男二人。
「ほら、早くエスコートしなさい」と神田の背中を軽く押すリナリー。
前途多難な潜入任務の、はじまりである。