short story
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「今日はここで足止めですね。」
目的地へ向かう途中。
川の氾濫で船が出せないと言われ、河岸にある町の宿に泊まった。
古めかしいながらも掃除は行き届いており、まさに田舎の宿といった雰囲気だ。
店主から出された温かいコーヒーを飲みながら、珍しい組み合わせの三人は腰を落ち着かせていた。
「…なんで私だけホットミルクなんですか。」
「ガキに見えるからだろ。」
タオルを被ったまま、名無しが少し不満そうに口先を尖らせる。
リンクが思っていても言わなかったことを、神田がズバっと端的に答えた。
しかも宿屋に入った時には、雨避けの為に名無しは団服のフードを被っていた。
やや小柄な彼女は、一見するとただの子供に見えたのだろう。
宿屋の主人なりの気遣いが分かるが故に、ほんの少しだけ複雑だった。
「神田ユウ、貴方はデリカシーという言葉を知ってますか?」
「そうですよ!神田さんだって東洋人顔してるのに、不公平ですよ!」
リンクの諌める声に便乗して、不満の声を上げる名無し。
やいのやいのと投げられる、小言と抗議を聞かないフリをする神田は、少しだけ煩わしそうに眉を寄せた。
「以前は彼、女性に間違われていたこともあるんですよ。」
「神田さんの若い時ですか?なるほど、美人ですもんね。私も初めてお会いした時女性かと…あいたたたた!」
リンクの慈悲なき暴露。
納得したように頷く名無し…の、頬を容赦なく指で摘む神田。
まるで『お前は少し黙ってろ』と言わんばかりだ。
「いいからお前は早くシャワーを借りてこい。」
名無しの荷物を無造作に押し付けて、神田がこめかみを抑える。
可愛い弟子にも『女性みたい』と言われ、ショックだったのだろうか。リンクをじとりと見遣る視線が、どことなく恨みがましそうだった。
***
「寝ましたか。」
「あぁ。」
名無しの後に神田、そしてリンクがシャワーを借りた後、部屋に戻ればこんもりと盛り上がった布団がひとつ。
中身を確認するまでもない。
この中で一番体力のない名無しは、くたびれて真っ先に眠ったようだった。
チラリとベッドを覗き見れば、年齢よりも随分幼く見える寝顔が見えた。
「…私と旅していた時より、随分穏やかに眠っているようなので安心しました。」
ぽそりと呟くように口を開けば、窓の外を眺めていた視線が、ゆっくりリンクの方へ向けられる。
切れ長の涼やかな瞳が、じっと監査官を見つめた。
「寝てるだけマシだろ。稀にファインダーと野宿なんてしてる時なんかほぼ寝てねぇぞ」
最初、野宿だから寝ないのかと思っていたが、そうではないらしい。
『ほら、私時々、変な寝言言いますし…』
しどろもどろに紡いだ言い訳。
イノセンスの修復時に視た記憶が、悪夢で蘇るらしい。
深夜に時々飛び起きる様子は、最初どうしてやればいいのか正直困っていた。
だから他人がいると中々眠れないらしい。
そういう意味ではリンクもある程度信用された人物であるのは分かるのだが――
(あぁ、気に食わない。)
些細な嫉妬心。
神田と距離を置くために黙って離れたことも、まだ許してはいない。
あまつさえ目の前の男とイノセンス修復の任務についていたとなると。
私情は挟まない主義ではあるが、この件に関しては別だ。
勿論、名無しが少しでも安心出来ていたのなら喜ぶべきなのは承知の上で……やはり、気に食わなかった。
「男性の嫉妬は見苦しいと思いますよ。」
「うるせぇ。コイツはやらねーぞ。」
お気に入りのぬいぐるみを取り上げられそうになっている、まるで子供のようだ。
独占欲を拗らせた元帥を一瞥して、リンクは「横恋慕はするつもりはありませんよ。」と肩を竦めるのであった。
鴉のゆううつ
(というか、勝ち目のない勝負はしませんから。)
あんな緩みきった寝顔を見せられたら。
勝敗なんて決まっているようなものだ。
鳴り止まない雨音に耳を傾けて、リンクは静かにベッドに滑り込むのであった。
目的地へ向かう途中。
川の氾濫で船が出せないと言われ、河岸にある町の宿に泊まった。
古めかしいながらも掃除は行き届いており、まさに田舎の宿といった雰囲気だ。
店主から出された温かいコーヒーを飲みながら、珍しい組み合わせの三人は腰を落ち着かせていた。
「…なんで私だけホットミルクなんですか。」
「ガキに見えるからだろ。」
タオルを被ったまま、名無しが少し不満そうに口先を尖らせる。
リンクが思っていても言わなかったことを、神田がズバっと端的に答えた。
しかも宿屋に入った時には、雨避けの為に名無しは団服のフードを被っていた。
やや小柄な彼女は、一見するとただの子供に見えたのだろう。
宿屋の主人なりの気遣いが分かるが故に、ほんの少しだけ複雑だった。
「神田ユウ、貴方はデリカシーという言葉を知ってますか?」
「そうですよ!神田さんだって東洋人顔してるのに、不公平ですよ!」
リンクの諌める声に便乗して、不満の声を上げる名無し。
やいのやいのと投げられる、小言と抗議を聞かないフリをする神田は、少しだけ煩わしそうに眉を寄せた。
「以前は彼、女性に間違われていたこともあるんですよ。」
「神田さんの若い時ですか?なるほど、美人ですもんね。私も初めてお会いした時女性かと…あいたたたた!」
リンクの慈悲なき暴露。
納得したように頷く名無し…の、頬を容赦なく指で摘む神田。
まるで『お前は少し黙ってろ』と言わんばかりだ。
「いいからお前は早くシャワーを借りてこい。」
名無しの荷物を無造作に押し付けて、神田がこめかみを抑える。
可愛い弟子にも『女性みたい』と言われ、ショックだったのだろうか。リンクをじとりと見遣る視線が、どことなく恨みがましそうだった。
***
「寝ましたか。」
「あぁ。」
名無しの後に神田、そしてリンクがシャワーを借りた後、部屋に戻ればこんもりと盛り上がった布団がひとつ。
中身を確認するまでもない。
この中で一番体力のない名無しは、くたびれて真っ先に眠ったようだった。
チラリとベッドを覗き見れば、年齢よりも随分幼く見える寝顔が見えた。
「…私と旅していた時より、随分穏やかに眠っているようなので安心しました。」
ぽそりと呟くように口を開けば、窓の外を眺めていた視線が、ゆっくりリンクの方へ向けられる。
切れ長の涼やかな瞳が、じっと監査官を見つめた。
「寝てるだけマシだろ。稀にファインダーと野宿なんてしてる時なんかほぼ寝てねぇぞ」
最初、野宿だから寝ないのかと思っていたが、そうではないらしい。
『ほら、私時々、変な寝言言いますし…』
しどろもどろに紡いだ言い訳。
イノセンスの修復時に視た記憶が、悪夢で蘇るらしい。
深夜に時々飛び起きる様子は、最初どうしてやればいいのか正直困っていた。
だから他人がいると中々眠れないらしい。
そういう意味ではリンクもある程度信用された人物であるのは分かるのだが――
(あぁ、気に食わない。)
些細な嫉妬心。
神田と距離を置くために黙って離れたことも、まだ許してはいない。
あまつさえ目の前の男とイノセンス修復の任務についていたとなると。
私情は挟まない主義ではあるが、この件に関しては別だ。
勿論、名無しが少しでも安心出来ていたのなら喜ぶべきなのは承知の上で……やはり、気に食わなかった。
「男性の嫉妬は見苦しいと思いますよ。」
「うるせぇ。コイツはやらねーぞ。」
お気に入りのぬいぐるみを取り上げられそうになっている、まるで子供のようだ。
独占欲を拗らせた元帥を一瞥して、リンクは「横恋慕はするつもりはありませんよ。」と肩を竦めるのであった。
鴉のゆううつ
(というか、勝ち目のない勝負はしませんから。)
あんな緩みきった寝顔を見せられたら。
勝敗なんて決まっているようなものだ。
鳴り止まない雨音に耳を傾けて、リンクは静かにベッドに滑り込むのであった。