short story
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「神田さんのそういうところ、大嫌いです!」
脳天を、叩き割られたかのような衝撃だった。
アレンに何度も言われた『嫌い』なんて、埃が頬を掠った程度のものだ。
リナリーに『神田のそういうところ嫌いだわ』と言われた言葉は、だからどうした、と聞き流せただろう。
それがどうだ。
目の前の弟子が怒りで顔を真っ赤にして叫んだ言葉は、イノセンスとのシンクロ実験の痛みよりも酷いものだった。
『大嫌い』
その言葉が、脳内でぐるぐると駆け巡り、思考の全てを覆い尽くしてしまうのは、一瞬の事だった。
傷と痛みと大嫌い
「神田とケンカしたですって?」
テーブルに額を擦りつけ、うつ伏せたままの名無しにリナリーが聞き返した。
可愛い妹分が酷く落ち込んでいたものだから、おせっかいかと思いつつも尋ねたら……まさかの回答ではないか。
あの名無しが。
あの神田と。
ケンカ。
「…………………………任務で、無闇矢鱈に庇ってくるんですもん」
名無しの答えにリナリーは「なるほど」と納得した。
神田の傷は、大怪我でなければすぐに治ってしまう。
少し前まで彼の命は風前の灯火だったのだが、それが今は完全に修復されている。
元々はイノセンスの同調実験で『何度死んでも大丈夫』なように調整された身体だ。
それが全快になったとすれば、今後大怪我を一ヶ月に一度したとしても彼の寿命は米寿まで安泰だろう。
一方名無しは寄生型とはいえ、身体能力は一般人よりも体力と持久力に毛が生えた程度だ。
武芸に長けたリナリーのように俊敏でなければ、はたまたラビのように機転が利く器用さも持ち合わせていない。
イノセンスの能力が突出しているだけで、彼女自体はただの少女と言っても過言ではないだろう。
勿論、身を守る術は毎日鍛錬を必死にしている為、護身は出来なくもないが……あくまでそれは対人用だ。
アクマに対して有効な手段とは、決して言えないだろう。
イノセンスの修復工房であり、有効射程距離が異様に長い砲台のようなものである。
だからこそ負傷率も高い上、アクマにとってイノセンスの特性上『真っ先に潰すことを推奨される』標的だ。
「神田が庇うのは…仕方ないことじゃないかしら?」
「でも痛みがないわけない。痛いのに慣れた、なんて嘘だよ。痛いものは痛いに決まってる」
リナリーはそれに関しては「確かにね」と同意した。
『戦いが怖くなくなった。』
『多少の痛みには慣れた。』
それはなくなったわけでも、慣れたわけでもない。脳がそういう風に『認識しにくくなった』だけだ。
怖いものは怖い。恐怖に震える足を奮い立たせることが上手くなっただけだ。
痛いものは痛い。歯を食いしばって立ち上がらなければ、生を掴み取ることが出来なかっただけだ。
それは臆病なリナリー自身が一番よく知っている。
「……でも、結局神田さんが庇うのは、私が弱いせいなんだよなぁ…」
自己嫌悪で重い重いため息をつく名無し。
内罰的な彼女らしい。自分に誰よりも厳しいのは、この師弟の数少ない共通点だろう。
「そればかりはキャリアの差、としか言いようがないわ」
「歯痒いなぁ…」
「生き残っているだけでも凄いことなのよ。もっと自分を褒めてあげなきゃ」
一昔前の戦死率を顧みれば、名無しの成長は目ざましいと言えるだろう。
全く、少しは自分を甘やかせばいいものを。
(だから神田があの手この手を尽くすんでしょうけど)
意外にも弟子――否、好いた相手には世話焼きを発揮する彼を、リナリーはぼんやり思い出す。
どうせ名無しに『大嫌い』と言われて、ベッコベコに落ち込んでいるのだろう。
リナリーも神田の命を投げ捨てるような戦い方が嫌いだったので『自業自得ね』と思う所もあるのだが……神田の気持ちも、分からなくはなかったのだ。
だから、ここはひとつ助け舟を出してやろう。
「ねぇ名無し。痛みに慣れるはずがないのなら、きっと『大嫌い』って言われて心が痛いのも、同じことだと思わない?」
やさしく、諭すように。
落ち込む名無しの髪を撫でながら声をかければ、萎びた子犬は目を大きく見開いた。
***
何もやる気が起きない。
無気力、とはまさにこのことだろう。
(手を出しすぎたのか?いや、でもあそこで庇わなければ怪我をしていたのはアイツだ。)
悶々と頭の中をループする自問自答。
答えは出るはずもなく、鉛を放り投げられたかのような一言がずっと腹の奥底で燻っていた。
靄を晴らすのは、控えめのノック。
重厚な木製の扉を叩く音は聞きなれたものだった。
「…どうした?」
誰だ、と聞くまでもない。
合図の主はドアを開き、主人にお伺い立てる子犬よろしく、とてつもなく気まずそうに顔を覗かせる名無し。
「……あの、先程はすみませんでした。言い過ぎました」
「あぁ。」
丁寧に、頭を下げる弟子に思わず、淡白な返事を返してしまう。
おずおずと頭を上げた名無しは、まるで発言許可を得るように控えめに挙手をした。
「…なんだ?」と促せば、視線を一巡し、ゆっくりと口を開く。
「あの、ひとつお願いが。やっぱり庇ってもらうのは嫌なので、なるべく手出しを控えて頂けると助かります」
「…お前が怪我をすれば、すぐには治らない。身体は普通の人間だからな。…俺は負傷してもすぐ治る。それでもか?」
神田が問えば、名無しはぐっと唇を噛み締める。
言葉を選ぶように逡巡し、彼女にしては少し低いトーンの声で話しはじめた。
「治るとしても、です。
……怪我をして痛くないわけないじゃないですか。自分の不甲斐なさで神田さんが怪我する方が、私にとってはよっぽど痛いです。」
怒っているようにも、悲しんでいるようにも見える表情。
くしゃりと歪められた顔に浮かぶのは、確かに『痛み』だった。
「なるべくお前に傷を残したくないと言ってもか?」
「私が未熟なせいで出来た傷ですから、私が背負うべきものだと思ってます。
――私の痛みは、私だけのものです。」
俺のエゴすら一蹴し、真っ直ぐこちらを見ながら言い放つ。
打てば打つほど強くなる――それはまるで、鋼の心のようだった。
ハッキリと応えた双眸は揺れることなく、射抜くようにこちらを見つめる。
数瞬の沈黙の後、溜息がこぼれたのは神田の方だった。
「……強情なヤツ。」
「師匠に似たんでしょうね。」
遠回しな同意を返せば、困ったように笑う名無し。
嘘をつけ、お前は会った時から中々強情だったぞ。
喉まで出かけた言葉を呑み込み、神田は前髪を無造作にかきあげた。
「死にそうになったら話は別だからな。」
「そうですね。死にそうになったらお手数ですがよろしくお願いします」
丁寧に頭を下げる弟子に、ほとほと呆れてしまう。
本当に、強情なヤツ。
「ところで神田さん。」
「ンだよ」
「大嫌いなんて、嘘です。ごめんなさい。
……結局全部自分が弱いのが原因なのに、神田さんに大嫌いなんて…これじゃあただの八つ当たりです。」
馬鹿丁寧なのも、内罰的なのも考えものだ。
神田は二回目の溜息をついて、黙ってベッドの横を叩いた。
まるで『隣に座れ』と言わんばかりだ。
大人しく師の隣に腰を下ろした弟子は、説教を待つように口元を真一文字に結んだ。
「そうだな、酷ぇ八つ当たりだな。」
「……その件に関しては返す言葉もありません…」
「大嫌いなんて言われて傷ついた。」
「ぐっ……ご、ごめんなさい…」
「倍にして返すなら許してやる。」
「はい……って、倍…ですか?」
傷ついたのは事実だ。
なら、少しくらい自分が得になるよう、詫びをしてもらっても構わないだろう。
「俺が満足するまで『大好き』って言ったなら許してやる。」
「……はい!?」
「ほら言え。」
催促するようなものでもないのは分かっている。
が、いつもふわふわとした子犬のような弟子兼恋人の彼女は、ふとした時に『好き』と伝えてくれるものの、正面堂々と口にすることは稀だった。
思わず声が裏返る名無しを、神田は口元を手で隠しながら眺めた。
「…………だ、大好きです。」
「もっと。」
「大好き、ですよ。」
「まだ足りねぇ。」
「うぐ…だ、大好きですよ!そんなの知っているでしょう!?」
顔を真っ赤にさせながら、神田の身体側面にしがみつく名無し。
まるで『もうこれで勘弁してくれ』と懇願しているように、見えなくもない。
「知らねぇな。」
「う………大好きで、んぐっ」
言葉と共に塞ぐ唇。
柔らかい髪に指を入れ、頭を引き寄せる。
逃げ惑う柔らかい舌を絡ませて深く深く口付けすれば、声も呼吸も、全て呑み込めるような気がした。
堪能して漸く離せば、目の前数センチ先に呼吸を乱す名無しの顔。
頬に朱を散らして不満げに見上げてくる視線に、神田は思わず、口元を満足そうに歪めた。
「まだ足りねぇな。」
くたくたになった小さい身体をベッドに押し倒して、濡れた唇を舌なめずりする。
それはまるで貪欲な狼そのものだった。
「……神田さんのそういうところ、意地悪だと思います。」
「ほー。嫌いじゃないのか?」
「そういうところです!分かってるくせに!」
「分からねぇな。続きは身体に聞いてみることにするか。」
団服のボタンをひとつ、ふたつ外し、神田は満足そうに笑うのだった。
脳天を、叩き割られたかのような衝撃だった。
アレンに何度も言われた『嫌い』なんて、埃が頬を掠った程度のものだ。
リナリーに『神田のそういうところ嫌いだわ』と言われた言葉は、だからどうした、と聞き流せただろう。
それがどうだ。
目の前の弟子が怒りで顔を真っ赤にして叫んだ言葉は、イノセンスとのシンクロ実験の痛みよりも酷いものだった。
『大嫌い』
その言葉が、脳内でぐるぐると駆け巡り、思考の全てを覆い尽くしてしまうのは、一瞬の事だった。
傷と痛みと大嫌い
「神田とケンカしたですって?」
テーブルに額を擦りつけ、うつ伏せたままの名無しにリナリーが聞き返した。
可愛い妹分が酷く落ち込んでいたものだから、おせっかいかと思いつつも尋ねたら……まさかの回答ではないか。
あの名無しが。
あの神田と。
ケンカ。
「…………………………任務で、無闇矢鱈に庇ってくるんですもん」
名無しの答えにリナリーは「なるほど」と納得した。
神田の傷は、大怪我でなければすぐに治ってしまう。
少し前まで彼の命は風前の灯火だったのだが、それが今は完全に修復されている。
元々はイノセンスの同調実験で『何度死んでも大丈夫』なように調整された身体だ。
それが全快になったとすれば、今後大怪我を一ヶ月に一度したとしても彼の寿命は米寿まで安泰だろう。
一方名無しは寄生型とはいえ、身体能力は一般人よりも体力と持久力に毛が生えた程度だ。
武芸に長けたリナリーのように俊敏でなければ、はたまたラビのように機転が利く器用さも持ち合わせていない。
イノセンスの能力が突出しているだけで、彼女自体はただの少女と言っても過言ではないだろう。
勿論、身を守る術は毎日鍛錬を必死にしている為、護身は出来なくもないが……あくまでそれは対人用だ。
アクマに対して有効な手段とは、決して言えないだろう。
イノセンスの修復工房であり、有効射程距離が異様に長い砲台のようなものである。
だからこそ負傷率も高い上、アクマにとってイノセンスの特性上『真っ先に潰すことを推奨される』標的だ。
「神田が庇うのは…仕方ないことじゃないかしら?」
「でも痛みがないわけない。痛いのに慣れた、なんて嘘だよ。痛いものは痛いに決まってる」
リナリーはそれに関しては「確かにね」と同意した。
『戦いが怖くなくなった。』
『多少の痛みには慣れた。』
それはなくなったわけでも、慣れたわけでもない。脳がそういう風に『認識しにくくなった』だけだ。
怖いものは怖い。恐怖に震える足を奮い立たせることが上手くなっただけだ。
痛いものは痛い。歯を食いしばって立ち上がらなければ、生を掴み取ることが出来なかっただけだ。
それは臆病なリナリー自身が一番よく知っている。
「……でも、結局神田さんが庇うのは、私が弱いせいなんだよなぁ…」
自己嫌悪で重い重いため息をつく名無し。
内罰的な彼女らしい。自分に誰よりも厳しいのは、この師弟の数少ない共通点だろう。
「そればかりはキャリアの差、としか言いようがないわ」
「歯痒いなぁ…」
「生き残っているだけでも凄いことなのよ。もっと自分を褒めてあげなきゃ」
一昔前の戦死率を顧みれば、名無しの成長は目ざましいと言えるだろう。
全く、少しは自分を甘やかせばいいものを。
(だから神田があの手この手を尽くすんでしょうけど)
意外にも弟子――否、好いた相手には世話焼きを発揮する彼を、リナリーはぼんやり思い出す。
どうせ名無しに『大嫌い』と言われて、ベッコベコに落ち込んでいるのだろう。
リナリーも神田の命を投げ捨てるような戦い方が嫌いだったので『自業自得ね』と思う所もあるのだが……神田の気持ちも、分からなくはなかったのだ。
だから、ここはひとつ助け舟を出してやろう。
「ねぇ名無し。痛みに慣れるはずがないのなら、きっと『大嫌い』って言われて心が痛いのも、同じことだと思わない?」
やさしく、諭すように。
落ち込む名無しの髪を撫でながら声をかければ、萎びた子犬は目を大きく見開いた。
***
何もやる気が起きない。
無気力、とはまさにこのことだろう。
(手を出しすぎたのか?いや、でもあそこで庇わなければ怪我をしていたのはアイツだ。)
悶々と頭の中をループする自問自答。
答えは出るはずもなく、鉛を放り投げられたかのような一言がずっと腹の奥底で燻っていた。
靄を晴らすのは、控えめのノック。
重厚な木製の扉を叩く音は聞きなれたものだった。
「…どうした?」
誰だ、と聞くまでもない。
合図の主はドアを開き、主人にお伺い立てる子犬よろしく、とてつもなく気まずそうに顔を覗かせる名無し。
「……あの、先程はすみませんでした。言い過ぎました」
「あぁ。」
丁寧に、頭を下げる弟子に思わず、淡白な返事を返してしまう。
おずおずと頭を上げた名無しは、まるで発言許可を得るように控えめに挙手をした。
「…なんだ?」と促せば、視線を一巡し、ゆっくりと口を開く。
「あの、ひとつお願いが。やっぱり庇ってもらうのは嫌なので、なるべく手出しを控えて頂けると助かります」
「…お前が怪我をすれば、すぐには治らない。身体は普通の人間だからな。…俺は負傷してもすぐ治る。それでもか?」
神田が問えば、名無しはぐっと唇を噛み締める。
言葉を選ぶように逡巡し、彼女にしては少し低いトーンの声で話しはじめた。
「治るとしても、です。
……怪我をして痛くないわけないじゃないですか。自分の不甲斐なさで神田さんが怪我する方が、私にとってはよっぽど痛いです。」
怒っているようにも、悲しんでいるようにも見える表情。
くしゃりと歪められた顔に浮かぶのは、確かに『痛み』だった。
「なるべくお前に傷を残したくないと言ってもか?」
「私が未熟なせいで出来た傷ですから、私が背負うべきものだと思ってます。
――私の痛みは、私だけのものです。」
俺のエゴすら一蹴し、真っ直ぐこちらを見ながら言い放つ。
打てば打つほど強くなる――それはまるで、鋼の心のようだった。
ハッキリと応えた双眸は揺れることなく、射抜くようにこちらを見つめる。
数瞬の沈黙の後、溜息がこぼれたのは神田の方だった。
「……強情なヤツ。」
「師匠に似たんでしょうね。」
遠回しな同意を返せば、困ったように笑う名無し。
嘘をつけ、お前は会った時から中々強情だったぞ。
喉まで出かけた言葉を呑み込み、神田は前髪を無造作にかきあげた。
「死にそうになったら話は別だからな。」
「そうですね。死にそうになったらお手数ですがよろしくお願いします」
丁寧に頭を下げる弟子に、ほとほと呆れてしまう。
本当に、強情なヤツ。
「ところで神田さん。」
「ンだよ」
「大嫌いなんて、嘘です。ごめんなさい。
……結局全部自分が弱いのが原因なのに、神田さんに大嫌いなんて…これじゃあただの八つ当たりです。」
馬鹿丁寧なのも、内罰的なのも考えものだ。
神田は二回目の溜息をついて、黙ってベッドの横を叩いた。
まるで『隣に座れ』と言わんばかりだ。
大人しく師の隣に腰を下ろした弟子は、説教を待つように口元を真一文字に結んだ。
「そうだな、酷ぇ八つ当たりだな。」
「……その件に関しては返す言葉もありません…」
「大嫌いなんて言われて傷ついた。」
「ぐっ……ご、ごめんなさい…」
「倍にして返すなら許してやる。」
「はい……って、倍…ですか?」
傷ついたのは事実だ。
なら、少しくらい自分が得になるよう、詫びをしてもらっても構わないだろう。
「俺が満足するまで『大好き』って言ったなら許してやる。」
「……はい!?」
「ほら言え。」
催促するようなものでもないのは分かっている。
が、いつもふわふわとした子犬のような弟子兼恋人の彼女は、ふとした時に『好き』と伝えてくれるものの、正面堂々と口にすることは稀だった。
思わず声が裏返る名無しを、神田は口元を手で隠しながら眺めた。
「…………だ、大好きです。」
「もっと。」
「大好き、ですよ。」
「まだ足りねぇ。」
「うぐ…だ、大好きですよ!そんなの知っているでしょう!?」
顔を真っ赤にさせながら、神田の身体側面にしがみつく名無し。
まるで『もうこれで勘弁してくれ』と懇願しているように、見えなくもない。
「知らねぇな。」
「う………大好きで、んぐっ」
言葉と共に塞ぐ唇。
柔らかい髪に指を入れ、頭を引き寄せる。
逃げ惑う柔らかい舌を絡ませて深く深く口付けすれば、声も呼吸も、全て呑み込めるような気がした。
堪能して漸く離せば、目の前数センチ先に呼吸を乱す名無しの顔。
頬に朱を散らして不満げに見上げてくる視線に、神田は思わず、口元を満足そうに歪めた。
「まだ足りねぇな。」
くたくたになった小さい身体をベッドに押し倒して、濡れた唇を舌なめずりする。
それはまるで貪欲な狼そのものだった。
「……神田さんのそういうところ、意地悪だと思います。」
「ほー。嫌いじゃないのか?」
「そういうところです!分かってるくせに!」
「分からねぇな。続きは身体に聞いてみることにするか。」
団服のボタンをひとつ、ふたつ外し、神田は満足そうに笑うのだった。